ほんとうは怖い電力自由化 その1 新自由主義政党が潰してしまった電事法改正案
参院の0増5減法案とやらにからんで、安倍首相が問責決議を食らってしまったようです。
二院のうちの半分から不信任をもらったわけですから、ただちに首相は総辞職して衆参同時選挙で民意を問うべきでしょう。
理屈の上ではそうなると思うんですが、そんなことをやられたらいちばん困るのは民主党さんでしょうがね。(苦笑)
どのみち政局にすらならないのを見越しての卒業記念写真の一枚でしたが、この問責決議によって吹っ飛んだ重要法案のひとつに、あの電力自由化に向けてまっっしぐらの電事法改正案かあったことはまことに祝着でした。
私は福島事故直後には電力自由化はするべきだと思った時期がありましたが、その後に実際にそれをやってしまったドイツの脱原発の失敗の軌跡をみると、むしろやるべきではないと思うようになりました。
その意味で、民主党さん、みんなの党さん、維新の会さん、ありがとう!特に新自由主義政党のおふたつが共同で電力自由化法案を潰すなんて、まさにグッドジョブ!
さてドイツの脱原発政策の肝はふたつありました。ひとつは再生可能エネルギーと、もうひとつは電力自由化です。
ドイツでは戦前の地域ごとに別れて多数あった電力会社が、ナチス政権による1939年の「エネルギー経済法」によって地域独占に統合されました。
そしてこれは日本も似たようなものですが、第2次大戦前夜に総力戦に備えて軍需工業をフル生産させるために電力会社の統合が行われました。
この統合体制が、平和になった戦後もそのまま巨大電力会社10社による地域独占体制が続いてしまったことです。
西ドイツは1957年に電力会社の地域独占とカルテルを守るために「競争制限禁止法」という法律を作って、以後39年間も護持し続けてきました。
我が国の電気事業法のようなものです。性格もよく似ています。
このドイツの地域独占が壊れたのが、1996年12月のヨーロッパ連合(EU)からのEU指令96/92号「電力単一市場に関する共通規則」でした。
このEU指令でドイツはそれまでの巨大電力会社10社による地域独占体制を廃止せざるをえなくなりました。
これは価格カルテルや電力会社の地域独占を排除するという電力自由化政策で、ヨーロッパの場合、我が国と違って国境を越えて乗り合うところまで進みます。
さて、2年後の1998年には、ライプチヒで電力自由市場が生まれています。これにより電力取引は自由化されるはず・・・、でしたが、そうは問屋が卸しませんでした。
というのは、大手電力会社9社は、それまでの地域独占を取り消されたことを逆手に取って買収と合併に走ったからです。最大の理由は、外国からの安い電力の流入です。
ドイツは電力市場解禁をしたとたん、外国の電気会社との競争にさらされることになり、バッテンフォール・ヨーロッパのように北欧の電力大国スウェーデンの電力会社に買収されるドイツの電力会社まで現れたりして、電力戦国時代の様相を呈してしまい、10電力会社体制が4社体制に整理統合されてしまいました。
整理統合、はっきり言えばEUの趣旨とは違って電力独占体が強化されてしまったのですから、なんのこっちゃです。
結局、2011年段階で国内発電量の83%がこの4社の寡占というていたらくで、これでは電力自由化だか電力の独占強化だか分からないということになってしまいました。
EU委員会からは名指しで批判されていますが、電力自由化が統合強化を招くこともありえるのだというのがドイツの教訓です。
我が国の場合も電力自由化をした場合、小売り市場は乱立するでしょう。ドイツでは一時小売りだけで数百社できたことすらあったほどです。
小売りはそれぞれ安さとか、脱原発エネルギーや、生協関連の電力の共同購入なども盛んになるでしょう。
電力小売りは設備投資が少なくて済む上に、撤退も簡単ですからね。問題は発電と送電部門がどうなるかです。
日本で考えられるのは、ドイツ型の寡占強化が進んで9社体制がより整理された上で、群小の再生可能エネルギー発電所と並立することです。
現状での主力である火力発電所は作るのに10年間程度かかる大型設備投資なので、新規の発電者が参入することはまず考えられません。
また、かつて飯田哲也氏が過剰に期待していた工場の余剰電力に頼るPPS(新電力)は伸び白かあまりありません。PPSの内実を見てみましょう。
・既存電力会社保有の発電設備・・・水力3610万kW
・ ・・・火力1億2830万kW
・ ・・・原子力4350万kW
・ ・・・その他46万kW
・合計 ・・・2億850万kW
これに対し
・PPS・37社の新電力の発電設備・・・212万kW
このように残念ながら、PPSは既存電力会社設備の1%程度が実態です。「いや、こんなもんじゃない自家発電設備は全体で5620万kWもあるゾ」、という人もいますが、それは「売り物」ではないのです。
いずれにせよ、東西の電力融通は強化せねばならないわけですし、北海道、沖縄、東電を除く整理統合は進むでしょう。
皮肉な話ですが、電力自由化によって、電力会社は統合強化されてしまう可能性が高いのです。
昨年末の衆院選の時に飯田哲也氏は、「原発完全ゼロへの現実的なカリキュラム」というプランを発表しました。
このプランは、10年以内に原発ゼロとするための初めの3年間を、「原発と電力システムの大混乱期」として大改革を断行する時期としています。
私も電力自由化をしたならば、現状の原子力が止まって、原油高値が続く限り、飯田氏とは別の意味で、「電力大混乱期」が到来すると予測します。
そしてこれは望ましい未来に向けた胎動ではなく、復興の足を引っ張り国民生活と経済に計り知れないダメージを与える性格のものなのです。
長くなりましたので、次回に続けます。
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■電事法廃案:電力改革秋に持ち越し 発送電分離後退懸念も
毎日新聞 2013年06月26日 21時40分(最終更新 06月26日
電力システム改革のための電気事業法改正案が26日、参院選を控えた与野党の国会駆け引きのあおりで廃案となった。電力改革を成長戦略の柱の一つとする安倍政権は秋の臨時国会に改正案を再提出する方針。しかし、改正案の成立先送りで、電力業界や与党の改革慎重派には巻き返しの余地が生まれた。参院選後の政治動向次第で、電力会社から送配電部門を分離する「発送電分離」など目玉の改革策が後退する懸念も指摘される。
「国会で審議を尽くし与野党で成立に合意しながら、最終盤で廃案になったのは極めて残念。秋の臨時国会で必ず成立させる」。茂木敏充経済産業相は26日、改正案成立に改めて意欲を示した。
改正案は大手電力会社による地域独占体制を崩す戦後最大の電力改革の入り口に当たる法案。改革方針はもともと2011年の東京電力福島第1原発事故などを受けて民主党政権が検討。昨年末の自民党への政権交代後、安倍政権が改革方針を引き継ぎ、電事法改正案を仕上げて、4月に国会に提出した。
改正案は15年をめどに全国規模で電力を融通する「広域系統運用機関」の創設が柱だが、付則には16年の電力小売りの全面自由化や、20年までの発送電分離の実現など改革全体の工程表が盛り込まれている。家庭向けも含む電力小売りの全面自由化は電力会社間の競争を促すことでサービスの選択肢を広げ、電力料金抑制につなげる狙いがある。また、発送電分離は大手電力の地域独占体制を崩すための“本丸”の改革策で、経産省は今国会で改正案を成立させ、改革の道筋を付けたい考えだった。
安倍政権は省エネビジネスなど新規産業創出も期待できる電力改革をアベノミクスの成長戦略の柱に位置づけており、参院選後の秋の臨時国会で改正案を成立させる方針だ。経産省は「今秋に成立すれば、15年の系統機関設立も可能で、電力改革のスケジュールに致命的な遅れは出ない」(幹部)としている。
ただ「発送電分離」については、電力業界が反対姿勢を崩していない。さらに、自民党内でも「電力安定供給には発電と送配電を一体的に行う方が望ましい」(ベテラン議員)との慎重論が根強い。参院選後の改正案の国会再提出をめぐっては、改革を骨抜きにしようとする動きが出てくることも予想される。
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