TPP 見えてきた米国の医療・保険分野の侵略戦略
豪雨被害を受けられた山口、島根両県の皆様に、お見舞い申し上げます。まだ全国各地でゲリラ豪雨が続くと思われます。十分にお気をつけ下さい。
日本が関税をかけている輸入品は工業製品も含め全体で9018品目に枝分かれし、うち「聖域」とした農産物は5分野は6%強に相当します。
そしてさらにコメ、乳製品などのひとつひとつの品目は、関税表の中で枝分かれしてコメだけで58品目、5分野(いわゆる5品目)で586品目となります。
TPP交渉は「コメ」としての一括交渉ではなく、これら細分化されした一品目ずつのつぶし合いになっていきます。
ですからたとえば、コメ輸入本体で日本が勝っても、コメ加工品のパックご飯で譲歩するという可能性もありえるということです。
今までの実績としてはペルーなどとの自由貿易協定では、交渉後の関税残存率は約4%です。
賛成、反対といった立場をぬきにしてみれば、この今までの交渉実績である4~5%の350~450品目ていどが目安となります。
念のため繰り返しますが、この「品目」は細分化した関税品目ですのでご注意下さい。一般に言われる「重要5品目」ではありません。
一方、工業関税で大物である自動車関税を日本は米国が長期で温存することに同意しており、カナダ、オーストラリアも自動車関税を残したい意向のようです。
このように各国の関税に関しての利害は強烈、かつ手前勝手で、関税ゼロということはたんなる建て前に過ぎず、まだなにも決まっていないようです。
たとえば、砂糖関税は米国の関税の出発点ですから死守するでしょう。この点で我が国と米国は共通の主張を展開できます。
(図 農業情報研究所より)
また乳製品自由化はどうせ大畜産国のNZが強硬に主張しているでしょうが、乳畜産品のそんなどしゃぶり的安値輸出をされたら米国、カナダはかなわないので、ブロックしているはずです。というわけで、NZには乳畜産品でこの米加両国と共闘可能です。
このように 関税問題は見えやすく、分かりやすいのです。分かりにくい問題は、むしろ農業外の「制度的事項」なのです。
この交渉で関税問題では米国と共闘の余地がありますが、問題はこの「制度的事項」などの医療、・保険、政府調達などです。ここで日米は正面から衝突することになります。
これは、オレの国の商品を売りたいからお前の国内の諸制度を変えろという内政干渉まがい、いや内政干渉そのものを協議することです。米国が好きな言い方で言えば「関税外障壁」のことです。
たとえば我が国が、医療保険制度の保険補償をいくらにしていくのかという政策決定に医薬品会社を入れてこなかったのを認めろと米国は言ってきています。
これは一見分かりにくいですが、要は米国ファイザーのような米国医薬品会社に審議会で発言権を認めろということです。
これは既に米韓FTAをしている韓国でやって、医療保険制度が米国に牛耳られる状況に立ち至っています。
小型自動車の税金保護政策をやめろとかいうような、なんでそんなことを外国にいわれなきゃならないんだ、ということまでも議題に昇ります。
といっても上げて来るのは常に米国で、彼らは自分で売れる小型車や軽自動車を作ればいいだけなのに、なにが「日本の自動車市場は中世だ」(USTR)、馬鹿か。
また知的財産権も大きなネックになるはずです。これは単に映画や音楽ソフトの特許期間の問題だと思って、ならば知的ソフト先進国の我が国は東南アジア諸国に対して米国と共闘できるはずと思ったら間違いです。
というのは、「知的財産」分野では、医薬品、医療技術、医療機器の特許強化、果ては手術の術式までもが対象となるからです。
新たな手術方式までも、知的所有権で囲い込むえげつなさ!これが米国流です。こんなものは公開して、すべての人類共通の財産にすべきではないですか。
あるいは、医薬品の特許を長くすることが既に日米交渉で登場していますので、それと同様なことがTPPでも議題に登場しているはずです。
この米国の要求を呑んでしまうと、医薬品の特許期間が延長され、事実上ジェネリック薬品は市場から姿を消し、薬価が跳ね上がります。
その時に意味を持つのが、先の「制度的事項」で、そのために薬価審議会などに米国勢を扶植しておこうという深慮遠望なのです。
たぶん米国は、我が国の経済競争力会議の新自由主義者を使って、「規制緩和特区」、つまりは「TPP特区」を作ろうと言い出してくるでしょう。
一定の地域をモデル地域にして、混合診療の全面解禁などを「一度試してみようよ」ともちかけてきます。
この方法は米韓FTAでもなされており、韓国では「FTA特区」が作られ、社会的混乱をもたらしています。ぜったいにこんな「TPP租界」を作らせてはなりません。
他にも、「金融サービス」分野で、混合診療の全面解禁が議題となります。
これはすでに経済成長力会議という新自由主義者どもの巣窟が提案しているもので、高額な高度医療を中心とする保険外診療を全面的に解禁ようというものです。
※混合診療についてはhttp://www.med.or.jp/nichikara/kongouqa/
これは、韓国で既に「医療サービスの企業の参入」として実現しており、「病院株式会社」を誕生させ、患者や地域住民ではなく「株主」のための医療サービスに変えていきます。
つまり、特許権強化でジェネリック薬品を潰し、混合診療の全面解禁で跳ね上がった医療費は、どうぞアフラックにという仕組みを、制度的事項の変更まで踏み込んでやってしまおうという二重三重の攻撃なのです。
なんのことはない、こんな医療・保険の仕組みは米国そのままじゃないですか。もうやっていることなんですよ。自国流こそグローバルスタンダードだと言い募っているだけです。
むしろオバマ大統領などの米国民主党は長年この医療・保険制度の変革を訴えてきたはずでしょうに、外国には、その遅れた自国の制度を押しつけてこようというのですから太い根性です。日本の医療達成度は世界一、米国は29位です。29位が1位にまねをしろというんですから片腹痛い。
なぜこんなハゲタカ資本主義流をマネせにゃならんのか。もう一回言ってやりましょうバッカじゃないか。
このようにTPPは営々と築きあげてきた我が国の良さは破壊しようとするものです。
政府はいかなる方法を使ってでも、交渉内容を公開していただきたい。
「さぁ、これだけ我が国は悪くなりますが、国会で批准してください」なんて韓国のような愚行は絶対にイヤです。
韓国はギリギリげでこんな国会批准をせねばならなくなり、大変な騒乱になりましたが、結局は押し切られていまやグローバル資本の植民地と化しています。
思えば、我が国の今までのEPA交渉や日米経済交渉もそうでした。豪州とのEPA交渉では、2008年2月に交渉の「リクエスト&オファー」を既に交換していても、国会における質問に対しても、外務省審議官の答弁はこのようなものでした。
「外交案件であり、両国の約束で公表しないことになっている」チャンチャン♪という実に紋切り型の取りつくシマがないものでした。
安倍首相がTPP交渉参加を表明した際に、「「交渉でありますから、相手国との関係で公表できることとできないことがありますが、交渉に参加すれば、今よりも大分情報が入手しやすくなると考えています。公開できることは、進捗の状況に応じて、しっかりと国民の皆様に提供していきたい」と公約しています。
しかし今の現状では、数千ぺージに及ぶ英文21分野の和訳と整理・分析に時間がかかる上に、守秘義務に守られて、国民にまったく一片の情報すら漏れてこない状況です。
政府はなにか勘違いしているのではないでしょうか。
後発参入国にとって、こんな守秘義務に義理立てすることが大事なのか、国益に反することは国民的議論に付したほうがいいのか、自分の心に聞いてみていただきたいのです。
我が国が今の時点でできることは、案件ごとの入り組んだ同盟関係を結ぶことと、国民世論のバックを取り付けて大応援団を作ることていどしかありません。
交渉団は、といっても密室に入れるのはわずか2名ですが、その外には国民の「冗談じゃないや」、「交渉団、腹を切れぇ」などという声が満ち溢れているので、残念ながら妥協できないんですと言えばよろしい。
ともかく密室のブラックボックスに密封されたら、圧倒的に我が国が不利だと自覚するべきです。
そのために、いかなるチャンネルでもいいですから情報をリークし、交渉団大応援団を作ることです。
ただし、この応援団はやや口が悪く、「交渉団なにやってんだ、このタコ!」くらいは言いますがね(笑)。
■写真 森の中に雨に濡れてポツンと自生している紫陽花に、クロアゲハ(たぶんモンキアゲハ?)がそっと舞って、、またどこかに飛んでいってしまいました。一瞬の出来事です。
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コメント
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日本の医療システムは、総合的評価で、世界一であることは、間違いないでしょう。
ただし、TPP問題に、つけいる部分を、現状、与えてしまっていることを、日本国民は、知るべきで、その改善方法を、TPPに関係なく、早く改善しないと、国内で、医療全体が、自然崩壊しかねない状況です。
医者、特に、地域医療での勤務医は、農家同様、精神的に24時間勤務状態であり、夜勤明けに、高度な手術をこなすなど、連続32時間勤務など、あたり前です。
つい10年前までは、親の開業医を引き継ぐなど、体力的にも、限界になる40台に、博士論文を、通過させ、地元の総合医としての安定した勤務も出来たのですが、現状は、地域第3次病院勤務を受けたら、後輩が、くるまでは、連続32時間勤務を続けざるを得ないほど、深刻な状態です。
2日も寝ていないのに、目の前の大手術を、こなさなくてはいけないと言う現状は、かなり精神的にも、肉体的にも限界です。
能力のある世界的に有名な油の載った時期の手術が、保健適用でしか、支払われないのは、実は、気の毒な話なんです。エキスパートであればあるほど、手術時間は短くて、適正な手術が多いのですが、その評価が、米国で行う手術費の20分の1程度ですから、後継者が育つかどうかですね。
うちの親父のころは、心つけとして、係わり合いのある担当医や手術医、婦長など、いけないことですが、現金を渡していました。
いけないことですが、正直、それくらいの報酬があっても良い内容だったので、親父の年金だし、好きなようにやらせてました。
現在は、完全に、そんな裏金世界は、存在しませんから、責めて、普通に、8時間労働に、医者も、なるべきだと思います。3日、寝ないで、手術して、命は助かったが、縫合跡が残ったから、医者を訴えるなんてことが、弁護士が、有り余っている現在、起こっている現状は、国民として、何とか、良い解決方法を、TPP以前に、見つけてほしいものです。
ジェネリック薬にするだけで、数兆円の保険組合の支出減になりますし、現状、1割負担の70台の人も、2割負担(所得制限有り)にするだけでも、国や健康保険組合の支出は、楽になるはずで、そうなれば、外資系の生保など、入る余地が、自然と無くなるのに。。
そこら辺も、気がついてほしいものですが。。
ジェネリックだけでの、個人的判断は、最初の1ヶ月から3ヶ月は、先発薬で、状況をみて、問題なければ、ジェネリックに変えるのは、有りだとおもうのですが。。
ジェネリックは、主成分が同じだけで、実際の効果が、先発品と同じかどうかは、実は、不明なんです、
よって、先発品で、問題点を、ある程度、観察したあと、ジェネリックを試すことは、自分では、有りだと思っているし、それで駄目なら、先発品に戻ってもOKだとおもうのですがね。。
個人的には、TPPに、参加しながら、2国間FTAやEPAを、先行妥協して、最後は、TPP批准失敗しても、良いのではと、思ってます。
批准しなければ、良いわけですから、慌てることはないはずです。米国は、安保をちらつかせて、2国間FTAを嫌うでしょうが、最終的には、他国の2国間FTAを、表向きは、阻止できないはずです。自由の国、USAが、正面きってできる運動ではありませんからね。
投稿: りぼん。 | 2013年8月 1日 (木) 07時44分