ほんとうは怖い電力改革 その7 各国の電力構造を比較してみる
「電力改革」を考える前提として我が国の電力構造を国際比較見てみましょう。迂遠なようですが、原発事故に便乗してムード的に「電力自由化」を叫ぶ人が多すぎます。
我が国だけの電力問題を、諸外国のそれと比較することで、本当に「電力自由化」を必ずやらねばならないものなのかどうか、わかることが沢山あるはずです。
各国の電力事情の性格をみた経済産業省の資料をみると、なるほど各国いろいろあるのだとわかります。
※「資料 電気料金の内外比較に関する定量分析 -」 経済産業省 (欄外にURL)
各国の複数の諸指標には、火力燃料費、電気料金、CO2排出原単位、停電率などがありますが、これを総合的にビジュアル化したのが「包絡分析法(DEA)です。
これは公共機関や民間企業の効率や、性格の特性を判断するときの材料に使われる手法だそうです。
このスパイダーグラフの線が外周に近づくほどスコアが高くなり、逆に内側に行くほど良くないということになりますので、この面積が大きいほど安定している優れた電源構造を持っているということになります。
なお、我が国は赤線で記してありますので比較してください。(クリックすると大きくなって見やすくなります)
●フランス
①原子力中心の発電により、近年の火力燃料費高騰の影響を受けず、安価な電気料金を実現
②CO2排出が世界で最も顕著に低い
・DEA総合評価・世界最高水準
※世界に冠たる原発大国
※電力自由化は株式公開と小売りの一部を除きしていない
●ドイツ
①電気料金が高い
②CO2排出は平均的
③停電率は日本と同程度
・DEA評価・日本と同程度の中位グループ
※脱原発政策・電力改革実施 した結果、合併・買収によりかかって寡占化が進行
●イタリア
①電気料金が高い
②CO2排出量は日本と同程度
③停電率が高い
・DEA評価・先進国としては下位
※脱原発政策 ・発送電分離
●韓国
①電気料金が政府の財閥企業優先政策により低く抑えられている
②CO2、停電などは我が国と同程度
・DEA評価・中位
※電力自由化はIMF改革により株式公開し自由化するも失敗に終わり、現在は市場型公開企業になる
●米国
①電気料金が突出して安価
②停電率が高い
③CO2排出量が高い
・DEA評価・中位
※電力改革で世界の先陣を切ったが大停電に見舞われる
●英国
①電気料金は我が国と同じ
②停電率が高い
③CO2排出量は我が国と同程度
・DEA評価・先進国としては下位
※電力改革済み
この欧米のDEA評価を見ると、世界の電力自由化が決してうまくいっていないのがわかります。
電力自由化先進国の米国では図のように電気料金は確かに安くなった代わりに、停電時間数が激増してしまいました。
発送電分離のために、発電と送電がうまくマッチしなかったり、送電網インフラの老朽化がひどく、民間企業となった送電会社はそのメンテにあまり熱心ではなかったからです。
ドイツなどは、電力を輸出していた優秀国から脱原発と電力自由化の相乗作用で悪い方に滑り落ちてしまいました。
再生エネルギーの FIT(全量固定買入制度)と、脱原発、電力自由化の3点セットを同時にやれば破綻してあたりまえです。
ドイツ経済はEUで最も多く恩恵を受けて好調だったにもかかわらず、エネルギー構造が宿痾になってしまいました。
いうまでもなく我が国が、民主党政権時にとろうとしたのがこのドイツ型電力政策です。
イタリアなどは、外国から大量に電力を輸入する構造が完全に定着してしまい、貿易赤字に拍車がかかって財政を圧迫しています。今やすっかり下位に定着です。
英国も結局のところ停電率の増加のために電力自由化失敗国といってよいでしょう。(ただし、英国の電力卸市場制度などはなかなかよくできていますが。)
一方同じヨーロッパでもEU委員会の命令で自由化が進められたにもかかわらず、スウェーデンやノルウェイのような水力発電といったしっかりとした基盤電源を国内に持っている国だけはうまくいきました。
国際的に見るなら、「電力自由化」は決して成功とはいえず、ユニバーサル・サービスを自由化することによるリスクのほうが目だつ結果になりました。
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■速報
吉田昌郎前所長が亡くなられました。享年58歳でした。
あなたから私たちは「責任」と「献身」、そして「自己犠牲」を教えて頂きました。
あなたの死は、原子力との戦いのさなかにおける「戦死」だと思います。
あなたが封じ込めようとした原子力との戦いは、私たちが継続します。
心からご冥福をお祈り申し上げます。
安らかにお眠りください。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-ff14.html
<福島第1原発>吉田元所長が死去 事故時に現場対応
毎日新聞 7月9日
東京電力福島第1原発の吉田昌郎(よしだ・まさお)元所長(58)が9日午前、死去したことが分かった。東電関係者が取材に明らかにした。
在任中の2011年3月に東日本大震災と原発事故が起こり、現場対応に当たった。同年12月に退任。12年7月に脳出血で緊急手術を行った。
※「資料 電気料金の内外比較に関する定量分析 -」 経済産業省
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denkijigyou/seido_kankyou/004_04_00.pdf#search='%E8%B3%87%E6%96%99+%E9%9B%BB%E6%B0%97%E6%96%99%E9%87%91%E3%81%AE%E5%86%85%E5%A4%96%E6%AF%94%E8%BC%83%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%AE%9A%E9%87%8F%E5%88%86%E6%9E%90+%E3%80%8D+%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%9C%81'
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