TPP 1%の1%による1%のための協定
グローバリズムがこれだけ世界にはびこっているのは、おそらくそれが「夢」を見させてくれるからです。
わが農業ならば、「TPPさえあれば、外国におらげの農産物さ高く売れるっぺ」とか。(なぜか茨城弁)
消費者には、「TPPをやれば、バカ高い国産農産物も関税がない外国製品と競争するようになるさかいに半額で買えるようになりまっせ」とか。(なぜか大阪弁)
経営者には、「TPP域内でジャパニーズ・ビジネスマンが自由に活動できるんですよ。アジア諸国の関税だってスッキリとゼロ。発展途上国の違法コピーや規制もなくなる。いいことずくめです。アジアの活力を取り込まなきゃ負け犬だ」とか。(なぜか竹中平蔵調)
さぁ、そううまくいきますかね。追々細かく検討していきますが、そもそも農産物にはコメ、コンニャク、砂糖ていどしか高関税がかけられていません。
農産物の主力である野菜なんか3%ていど。ユニクロの中国製衣料のほうがズっと高関税です。
コメが盛んにやり玉に挙げられていますが、関税がなくなって安い外国産コメに置き換われば、日本市場という巨大なマーケットの買い込むコメだけで海外コメ市場価格は大きくハネ上がります。
よくTPP推進論者は、「穀物市場がTPPで活発になれば、流通量が増えて価格は下落する」といいますが、それは人口がせいぜい数千万人規模の場合です。
人口1億3千万人のわが国の巨大市場がポッカリと国際市場に出現した場合、今の国際穀物相場が維持できると考えるほうがナンセンスです。
現在でもギリギリの経営をしている大多数のコメ農家は、関税撤廃されてた場合3年と持たず壊滅するでしょう。
同時に、参入してくる外国資本も含めた異業種企業は、農地のいいトコ取りをするはずです。
既に整備された土地改良区などに進出して、借り受けた農地でTPPで解禁された外国人労働者を使役していくことでしょう。作る品種は、これまた全面解禁されたGM種。
こうして日本農業は乗っ取られます。日本農業が壊滅してペンペン草の野原に代わったとき、アグリビジネスのグローバル企業が安い価格で売ってくれるなんて、なんて甘いんでしょう。
国内産農産物というバーゲニングハワー(※)を喪失した民族には、アグリビジネスの意のままにされる未来があるだけです。
一部の日本の農業企業の連中がよく言う農産物輸出ですが、農産物輸出は別にTPPがなくても出来ます。国が輸出補助金なり、支援制度を充実させれば済むことです。
日本農業に米国同等の輸出補助金を与えよ。さらば、わが国農業は世界に冠たるものならん、です。
TPPがなくてもジャパニーズ・ビジネスマンは不利益を被りません。気分で疎外されたと感じるのは勝手ですが、具体的になにが問題なんでしょう。
日本以上に国内産業を育成しなければならないはずの発展途上国が、簡単に関税ゼロや無規制に賛成するとでも思ってました?
マレーシアの元首相のマハティール氏などは、「TPPは米国従属になる。大反対だ」と叫んでいるのですよ。
第一、違法コピーのメッカは中国ですが、中国はTPPに入ってませんぜ。中国は国有企業が多すぎて、TPPみたいなものに参加できるはずがないんです。
そもそもグローバリズムがその触れ込みどおりに機能するには、一種の実験室のような真空地帯を作らねばなりません。
そこには欲のない善人ばかりが住むという美しいグローバリズムの楽園じゃなければならないのです。
もちろん、現実は違います。自国の利害、つまりは自国のエゴをコテコテに押しつけるのがほんとうの自由主義貿易なのです。ちょうど米国のように。
米国といっても、そのごく一部の600社ていどの多国籍企業にすぎません。彼らは米国のたった1%なのです。
この600社というのは、米国でTPP関連情報にアクセスできる弁護士、関係者などの数です。上院議員ですら閲覧できないので、米国ですら問題になっています。
この米国の600社のグローバル企業が、国境を超えて自由な経済活動をする、そのために他国の法律や制度を自分に都合いいように変えていく、これがグローバリズムの本質です。
グローバリズム論者が好きな言葉に「競争条件の平準化」(レベリング・ザ・プレイング・フィールズ)という概念があります。
なにかといえば、多国籍企業は国境を越えて活動しているので、その国ごとの「特殊な障壁」があるとそれがジャマになります。
ある国では、国民皆保険などというけしからん制度があって、国が面倒みて国民の医療費を共済制度にしているので、民間保険企業が新規参入できないので迷惑をしている。
その上に、その国は特許権(知的財産権)が甘く、ジェネリック薬品が大規模に使われているので国際医薬品メーカーが損している。
またある国では軽自動車などというチンケなクルマが優遇税制ではびこっているために、ビッグスリーの車が売れない「中世のような遅れた制度」でけしからん。
米国のドラエモンのシャイアン的性格の凄まじさは、自分のところの軽自動車が売れないのならば、その国で生産をしている軽自動車の制度がけしからんと逆ギレする所です。
フツーは、貧弱極まりないディラー網を見直すとか、だいたい売れないんだから日本人がうなるような車を作ればよさそうなのに、売れないのはお前らの「制度」が遅れている」と居丈高に決めつけるわけです。
そしてしつこく自分の軽自動車が売れるまで、何度も増税や優遇措置撤廃を求めてくることになります。(欄外参照)
ある国では、厳しい食品安全基準があって、アグリビジネスの敵だ。その上に遺伝子組み替え種子を制限していたり、表示を義務づけている。これは近代科学への挑戦だ。
第一、この国は野蛮にも地元の農産物を地元で食べる運動などを学校給食で進めている。安い外国産を買うべきだ。
まだまだあるゾ。政府や公共事業で英文仕様書がないのは、外国資本を締め出すインボーに違いない。全部英語で書け。(もはや爆笑)
ならば、こちらも米国の州政府調達は日本語で書けとねじ込まねばなりませぬ。
なんだ「ある国」の民にとっていいことばかりじゃないかって、そのとおりです!
あくまでグローバル企業にとっての「障壁」であって、「障壁」は国家が国民を保護する「障壁」なのです。
これを彼らグローバリスト用語では「下方への調和」、あるいは「国際基準調和」と呼んでいるんですから。もう笑うきゃありません。悪いほうに合わせろと公然と言うのがグローバリズムなのです。
国民皆保険すらなく健康達成度29位の米国が、一位の日本に「下方に合わせろ」という倒錯したことを平然と言ってのけるのですからたいしたものです。(図 日本医師会作成)
もはやイチャモンつけ、ヤクザのいいがりですが、このグローバル・ヤクザが怖いのは、ISD条項という刃物をもっていることです。
気に食わなければ、投資紛争解決国際センターという米国の息のかかった所に持ちこんで締め上げる事が出来ます。
ここは世界銀行という歴代米国が総裁になることが決まっている組織の傘下だからです。
米国はこの刃物をNAFTA(北米自由貿易協定)を振り回した輝ける実績があります
ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授はそれをこのように評しています。
「1%の1%による1%のための協定」。まさにそのとおりです。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-9ece.html
※バーゲニングパワー 国際間の交渉・折衝などにおける 対抗力。交渉能力のこと。
■写真 隣町鉾田の夏祭です。山車を引く若い衆が出陣前の準備をしています。
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■日本農協新聞
8月26日
先月の日米合意文書をみると、自動車について日本は、合意文書の言葉どおり正確にいえば、「最大限」の譲歩をしてしまった(資料は本文の下)。つまり、日本は自動車に対するアメリカの関税撤廃を「最大限後ろ倒し」することに合意した。
これで当初、推進派が主張していたTPP加盟による国益は、大部分が当面なくなった。その上、交渉の大事な切り札を早々と使ったので、なくなってしまった。
それだけでアメリカは満足しなかった。TPPと並行して、新しく日米間で交渉の場をつくり、自動車貿易の協議を始めることになった。協議の結果はTPP協定の付属文書にするという。
この協議の重要な議題の1つが、軽自動車である。
アメリカは、以前から日本が行なっている軽自動車の優遇政策に強い不満をもっていた。日本にこの政策があるから、アメリカ車が日本で売れないというのである。だから、この政策をやめよ、と執拗に要求してきた。
アメリカでも軽自動車を作って、日本に輸出すればいい、と誰しも考えるが、傲慢なアメリカは、そうは考えない。日本は脅せば何でも言うとおりにする、と考えているのだろう。日本も弱腰というしかない。
たとい、日本の政府がこの要求を受け入れなくても、アメリカの自動車会社はTPPのISD条項を使って、訴訟をおこし、その結果、日本政府は賠償金を支払うことになるだろう。
もしも日本がアメリカの要求を受け入れたらどうなるか。日本から軽自動車は消えるしかない。そして、ガソリンをふり撒いて走るような車に乗るしかない。
農村では、公共輸送手段の乗合バスが次々に廃止されるなかで、それに代わる軽自動車は、いまや生活必需品である。それがアメリカの餌食になろうとしている。
代わりの車は税金が高いし、ガソリン代が高いし、高齢者などは外出しにくくなる。その上、地球環境を悪化させる。いいことは何もない。
TPPは、このように、日本中のいたるところに悪い影響をおよぼす。軽自動車は、その一例にすぎない。
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