オバマ中東戦略の蹉跌その1 実はオバマの面子作戦?
英国からすら見放され、ドイツには明確な拒否、フランスもぐらついており、このままでは米国議会からすら拒否を食う可能性が出てきました。
(※米上院外交委員会は4日、シリアへの軍事行動を認める決議案を10対7で可決した。)
現在、ケリー国務長官とへーゲル国防長官がそろって、議会で協力を呼びかけており、行方は見えません。
米国議会の議員はアメリカが攻撃される危険のない限り大統領が攻撃命令を下すことは違憲であると批判しており、議会を説得できるか非常に危ういところです。
オバマはシリア政府軍が化学兵器を使ったこと(※未確認情報では1400人以上の死者と400名の未成年者の犠牲者)で逆上し、いっそう状況悪化の選択をしようとしています。
化学兵器の使用はもちろん許されないものですが、だからといって全能の神の如く「懲罰」を与える権利が米国に与えられたわけではありません。
キリスト教白人国家が、アラブ世界に対していかなる理由であれ攻撃することの意味をオバマは理解していないようです。(下マンガ ニューズウィーク 9.10))
今、オバマとケリーを駆り立てているのは、愚かな話ですが単なる「面子」です。
オバマは、いままで彼が思い描いてきた中東戦略が完全に破綻し、しかもシリアでは独裁政権が生き残る可能性がたかまったことに怒り狂っています。
相棒のケリーは、数代前の白人系ユダヤ移民(アシュケナージュ)であり、国務長官就任当初からイスラエルとその準同盟国であるエジプトに大いに肩入れしてきました。
その半面アジア情勢には疎く、オバマと並んで露骨な親中路線をとってきた経緯があります。しかし、その構想は全面的に破局に瀕し、今や収拾不能な事態に陥っています。
オバマが望むようにシリア攻撃がなされた場合、彼の言う「限定的攻撃」により米国がアサド政権を転覆する意志がないことかむしろ明らかになります。
この限定的攻撃は、いかにもリベラルを気取るオバマらしい嫌らしさで、手は汚したくないが威信はキープしたいという中途半端なものです。
別に肯定するわけてはありませんが(というか私は反対ですが)、地上軍の投入なき介入は軍事的に無意味です。そんなことはいちばん米国がわかっているでしょうに。
仮に転覆したとしても、その結果できる新政府は、反米イスラム教原理主義の諸グループです。その中には米国の不倶戴天の敵であるはずのアル・カイーダすら加わっています。
それが故に、この米国の攻撃は、オバマのカンシャク玉の炸裂でしかないことは、中東世界で既に見抜かれているようです。
ここまで舐められた米国大統領は始めてではないでしょうか。
仮に名付けるとすれば「砂漠のメンツ作戦」とでも呼ぶべきこの軍事行動は、何の効果も期待できないし、内戦が続けばよりいっそう国民は悲惨な状況から這い出すことすら不可能になります。
この失敗は、ブッシュ以降の、いやそれ以前も含めて米国型の中東政策がいまや完全に破綻しつつあることを教えています。
さて、ウォールストリート・ジャーナルは米国のクォリティペーパーのひとつですが、日本の朝日新聞などと違って、イデオロギーによる裁断ではなく、冷徹に米国の外交戦略の失敗を分析しているのはさすがです。
ウォルター・ミードのこの外交評論は、明確に米国オバマ政権の中東戦略の失敗が、いまにはじまったわけではないことを分析しています。
長くなりましたので続きは明日に。
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[WSJ記事の要約]
(1)中東情勢は全面的な秩序崩壊と深い混沌状況にある
・イラクの崩壊
・シリアの内戦激化
・エジプトの内乱の危機
(2)米国の外交の大戦略の破綻
・オバマは、中東の穏健派であるエジプトムスリム同砲団やトルコの公正発展党といったイスラム原理主義穏健派と組むことを考えていた。
(3)その意図、
・イスラム世界の中間層=穏健派と組む
・イスラム過激派を孤立させる
・中東・イスラム世界を米国型民主主義に導く
米国民主党の外交戦略の成功モデルとする
(4)失敗原因
・オバマが支持するイスラム主義集団の政治的成熟度と能力を見誤った
・米国にとって最も重要な2つの中東の同盟国(イスラエルとサウジアラビア)との関係に戦略が与える影響を見誤ったこと
・シリアに介入しないコストを過少評価
(5)米国の読みの破綻
・オバマがもっとも信頼したトルコ首相エルドアンは、トルコのイスラム原理主義穏健派は穏健で現実的政権運営をするかに見えたが、現在は混迷し、強権的、反イスラエルにシフトした
・エジプトのイスラム同砲団政権のモルシは、政権運営能力が欠如しており、エジプト軍にクーデターを起されて、内乱に陥ろうとしている。
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■失敗に終わった米国の中東大戦略 (上) ウォルター ミード
ウォール・ストリート・ジャーナル8月26日
ヘブライ語聖書によると、この世の始まりは「tohu wabohu(トーフー・ワボーフー)」、つまり混沌(こんとん)と混乱だったという。
中東は今月、その原始の状態に逆戻りしているようだ。イラクの崩壊は止まらず、シリアでは内戦が続く。暴力はレバノンに広がり、先週はシリアで化学兵器が使用されたとの疑惑が生じた。
エジプトは内戦の危機にひんしている。将軍たちはムスリム同胞団を弾圧し、街頭の暴徒は教会に放火した。かつてオバマ大統領の中東地域の最良の友として称賛されたトルコの首相はエジプトの暴力をユダヤ人のせいにしている。しかし、その他の誰もが責任は米国にあると非難する。
オバマ政権は中東についてのグランドストラテジー(大戦略)を策定していた。それは意図が明確で、慎重に練られ、一貫して遂行された。
残念ながら、その大戦略は失敗に終わった。
計画はシンプルではあったが、洗練されていた。米国はトルコの公正発展党(AKP)やエジプトのムスリム同胞団といった穏健派のイスラム主義集団と手を組み、中東の民主化を進めたいと考えていた。
そうすれば一石三鳥が狙える。まず、オバマ政権はこれらの政党と連携することでイスラム世界の中の「穏健な中間層」と米国との隔たりを縮める。
その次に、平和的で穏健な政党であれば有益な成果を手に入れることができるということをイスラム世界に示すことで、テロリストや過激派を孤立させ、イスラム世界の中でテロリストらの非主流化を進める。
そして、最後に、米国に支持された集団がさらに多くの中東諸国に民主主義をもたらすかもしれず、そうなれば経済・社会情勢が改善され、人々を狂信的で暴力主義的な集団に追いやった苦しみや不満は徐々に取り除かれる。
オバマ大統領(私は2008年の大統領選でオバマ氏に投票した)と政権幹部は、この新たな大戦略が成功すれば民主党リベラル派が米国の外交政策の有能な担い手であることをはっきりと証明することになると期待していた。
リンドン・ジョンソン大統領とジミー・カーター大統領の任期中の嫌な記憶をやっと忘れることができる。国民はジョージ・W・ブッシュの外交政策の混乱を今でも不満に思っているから、民主党は波乱の時代に国のかじ取り役を務めるべく有権者から最も信頼された政党として長期的に優位に立てるだろう。
オバマ政権の外交政策に歴史がどのような審判を下すかを予想するのはあまりにも早すぎる。大統領の任期はまだ41カ月残っている。中東情勢が再び激変するのに十分すぎる時間だ。にもかかわらず、大統領はさらによい結果を手にするためには、アプローチを変更しなければならない。
ここ数年の米国の中東政策は、中東の比較的穏健なイスラム主義の政治運動には賢明かつ巧みに政権を運営するだけの政治的成熟度と管理能力があるという見方に依存していた。
トルコのAKPの場合はそれが半分だけ正しかったことがわかった。つい最近まで、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相はどんな過ちを犯したとしても、適度に効果的かつ適度に民主的な方法でトルコを統治しているように見えた。
しかし、時間とともに、そうした見方は受け入れられなくなった。エルドアン政権は記者を逮捕し、政敵に対する怪しげな起訴を支持した。敵対的なメディアを脅したり、露骨にデモを取り締まったりしている。
党幹部の主なメンバーは、トルコが問題を抱えているのはユダヤ人や念力など神秘的な力のせいだなどと主張し、ますます動揺しているようだ。
事態は困ったことになってきている。つまり、オバマ大統領がかつて世界の首脳の中で最良の友5人のうちの1人として名前を挙げ、「さまざまな問題に関して極めて優れたパートナーであり極めて優れた友人である」とたたえた人物は今、米国政府から非難されている。非難の理由は、その人物がエジプトのモハメド・モルシ前大統領失脚の黒幕はイスラエルだという「攻撃的な」反ユダヤの主張を展開しているためだ。
しかし、モルシ氏と比べて、エルドアン氏は効率的な統治と賢明な政策を行う宰相ビスマルクのような存在だ。
モルシ氏とムスリム同胞団はただ単に、政権を預かる準備ができていなかっただけだ。彼らは与えられた権限の範囲を理解せず、崩壊しつつある経済を何もできないままいじくり回した。何千万人ものエジプト国民が流血のクーデターに声援を送るほど、彼らの統治は不適切で不安定だった。
米国の大戦略の基盤が弱いのは陰謀論者や無能で不器用な人々のせいである。米国はほぼどのような事情があってもトルコやエジプトの指導者と実施すべきことは実施していただろう。しかし、こうした運動と手を結んだことは結局、賢明ではなかった。
ホワイトハウスは米国の外交政策に関わるその他の大半の関係者とともに、中東に関してもう一つ重要な過ちを犯した。それはエジプトの政治的混乱の本質を根本的に見誤ったことである。トーマス・ジェファーソンがフランス革命をアメリカ独立革命のような自由民主主義的な運動と誤解したのと全く同じように、米国政府はエジプトで起きている出来事を「民主主義への移行」だと考えた。そのようなことは全くあり得なかった。
エジプトで何が起きたかと言えば、高齢になったホスニ・ムバラク元大統領が息子に跡を継がせてエジプトを軍事的な共和国から王国に変更するように画策していると軍が考えるようになったということだ。
将軍たちは反撃した。混乱が広がると、軍は身を引いて、ムバラク政権を崩壊させた。しゃべり続ける自由主義者や失敗ばかりしている同胞団とは比べ物にならないくらい強大な力を持つ軍はこの期に及んで、エジプトが1950年代以降維持してきた体制を復活させようと行動を起こしたところだ。
自由主義者のほとんどは自分たちをイスラム主義者から守れるのは軍だけだということを理解しているようだ。イスラム主義者たちは軍が今でも仕切り役であることを学んでいる。こうした出来事が起きている間に、米国と欧州は存在しない民主主義への移行を推進しようといつまでも忙しく動き回り、夢中になっていた。
次の問題はオバマ政権が自らが選んだ戦略がイスラエルやサウジアラビアとの関係に与える影響を見誤っていたことだ。そして、この2つの国が腹を立てれば、中東で米国をどれほど悲惨な立場に追い込むことができるかを過小評価していたということである。
(続く)
※改行と太字表示は、引用者がいたしました。また分割表示の上中下も引用者によるもので、原文にはありません。
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ブッシュ&ブッシュJr.とネオコンくらいの鉄面皮だったら(もちろん皮肉)、議会も国連も知ったもんかぁ!と突撃したかもしれませんけど、オバマはあくまでリベラル気取りのチキンで軍産複合体の利権とも遠そうですからね。
イラクからアフガンへのシフト計画も上手く進まず、「いつでも一緒」だった英国にまで梯子外されてしまって、すっかり裸の王様です。
もう1つ読み間違えたのは、ヨーロッパ経済の長い低迷ですかね(素人でもわかりそうな話ですが)。あれも元々アメリカ発ですが。
今更限定的攻撃とか言ってトマホークやJDAMなんかブチ込んだところで、もっとも被害を受けるのはシリアの国民でしょう。
未だにベトナム後遺症やテヘラン大使館事件の悪夢から逃れられない『勝ち続けなければならない大国』ってのも、哀れなもんです。
投稿: 山形 | 2013年9月 5日 (木) 06時42分