米国のシリア軍事介入は、「平和と安定」を阻害する
ブッシュ・ジュニアの大失敗の尻拭いをするという触れ込みで大統領の地位を得たオバマ大統領の置かれた立場は、10年前に酷似しているように見えます。
「現在のシリア危機と2003年当時のイラク戦争に向けた流れとの類似点は怖いくらいだ。お馴染みの要素がすべて揃っているように見える。
大量破壊兵器、国連の武器査察官、諜報機関とその調査資料(怪しいものかどうかは別にして)、国連決議を巡る苦悩、残虐なバース党の独裁者、そして米国が軍事介入の余波をきちんと計画していないのではないかという不安――。人々が神経質になるのも無理はない。」(フィナンシャル・タイムズ8月30日)
2003年のイラク戦争前夜、米国のブッシュ・ジュニアと英国のトニー・ブレアは、対イラク戦争にゴーサインを与える情報のみを取捨選択して聞いていたことが批判されています。
この米英首脳の「聞きたい情報」の圧力の前に、両国の情報機関は客観的証拠なき憶測情報を与えてしまいました。
これがイラク戦争とアフガンの泥沼、そしてそれによる権威失墜、中国の台頭の流れにつながっていきます。
一方、ブッシュ・ジュニアのイラク戦争を批判してきたオバマは大統領となった今、シリアへの軍事介入を回避したいと思っていたはずです。
シリア政府は、2011年の「アラブの春」に影響された抗議デモに対して、苛烈きわまる弾圧を加えてきました。
この強力な軍事力と、それを躊躇なく自国民に振う冷酷さが、このアサド独裁政権が世界の予想を裏切って実に2年間も延命し得た理由でした。
大統領の近親者によって固められた正規軍(大統領の実弟マーヒル・アサドは精鋭第四機甲師団長)、大統領直轄の共和国防衛隊は、しょせん政府軍からの逃亡将兵と訓練されていない市民兵の烏合の衆にすぎない反政府軍を各地で蹴散らしていきました。
地方の戦略要衝の拠点だったクサィルがこの6月に政府軍に奪還され、一時はダマスカスまで侵攻した反政府軍側は、今や内部の海外組と国内組、サラフィ主義者、そしてクルド族まで絡んだ内部分裂の様相を呈しています。
その上に政府側に対しては「アラブの大義」を掲げてレバノンのヒズブッラー(ヒズボラ)も加担しており、はっきり言って欧米各国がなにかできる時期はとうに過ぎ去ってしまっています。
この2年間に、オバマ大統領はたぶん複数回にわたって政府側が化学兵器を小規模に使ったという報告を受けたはずですが、それは介入のきっかけには到りませんでした。
この2年間もの躊躇は、内政だけで手一杯というオバマ個人の問題もあって、このまま非介入で一貫するかと思われていました。
私は、アラブの春の惨めな結末であるエジプト内戦を見ると、今の中東に必要なものは、欧米型民主主義ではなく、「安定」であり、「平和」であると思っていますので、オバマらしい「決断しない決断」を秘かに支持していました。
化学兵器が使用されたことが真実であったとしても、双方が使用した可能性も否定できません。
国連調査団報告書も後日出るようですが、内容的には化学兵器の使用は裏付けられたというだけのものになるでしょう。
国連は事務総長以下徹底的に無能無力無気力で、なんの存在価値もないようです。
このような国連の報告書は、「誰が」という問題に答えるものではなく、いっそうダメさをさらけ出すでしょう。
それはさておき、米国の攻撃は、シリア軍の中東屈指の防空網が健在である以上、空爆ではなく、巡行ミサイルによる攻撃となると考えられています。
(図 BBC 8月27日 ttp://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-23847839)
その攻撃対象は化学兵器工場・貯蔵施設と、シリア空軍基地や指揮・統制施設などの50カ所程度と見られています。
しかし、このていどではかえって米国がアサド政権打倒をめざしていないというシグナルを出してしまっているようなもので、かえってシリア内戦を活発にし、アサド政権側は反政府軍の最終的掃討に向うことでしょう 。
内戦勃発から2年を経過して、軍事介入も、国連決議も不可能な状況で、主要国ができることはもはや人道的支援しかないと思われます。
今また空爆に脅えて急増する100万人を越える難民問題を解決するのが先であり、そのためにはいかなる形であれ「平和と安定」が必須なのです。
繰り返しますが、ここまで悪化してしまったシリア内戦は、もはや中途半端な外部からの軍事介入でどうなる段階を過ぎています。
10年前のブシュ政権は、それでも国連決議を無視して「有志連合」をでっちあげるだけのパワーがありました。
今のオバマ・ケリーコンビは初めっから泣きっ面の暗いインテリ少年のようで、これで状況がよくなるはずがありません。
安倍さん、悪いことは言わないから彼らに巻き込まれないように。
■写真 ティランジア・キアネカ(パイナップルの親戚) 筑波植物園にて
※参考文献 末近浩太、シリア「内戦」の見取り図
« 週末写真館 鉾田夏祭 | トップページ | 世界食糧戦争その2 米国農業の秘密兵器・輸出補助金 »
アメリカは赤狩りの時代から見えない敵を作り上げ、気に入らないか、自国に都合の悪い政権の転覆を節操なく繰り返してきました。
しかし、イスラム圏ではそう思うように行かなかったってことです。
イスラム法に則った政治が正しいとは私も思いませんが、戦争やるよりはマシでしょう。
日本には「郷に入ったら郷に従え」という格言があるように、その国の事情がありますね。
西洋式の民主化が正しいという前提条件がおかしいわけです。今日のテーマはここがキモですね。
イスラエル絡みなのが、話を面倒にしているのだとは思いますが、すっかりアメリカの権威も地に堕ちたものです。
投稿: 山形 | 2013年9月 2日 (月) 07時28分