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世界食糧戦争その2 米国農業の秘密兵器・輸出補助金

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米国農産物の安さの理由にはワケがあります。輸出補助金を十重二十重につけていることです。

建前では、農作物に特有の天候異変で市場価格が上がったり下がったりすることで農業収益が低下することを防ぐということを掲げていますが、本音は安定して安値で輸出攻勢をかけることです。

これには5種類の補助金枠があります。

直接支払制度(Direct Payments)・・・土地の価値を評価に対して農業者に直接支払らわれるタイプの補助金。年間約50億ドル。

CCP(Counter Cyclical Payments) ・・・うまい訳語が見当たりませんが、市場価格の低下による差損を補填するタイプの支払い。差損を補填することで、安価な農産物を輸出し続けることができるために、WTOで禁止されている輸出補助金に相当するとして国外からの強い批判を浴び続けている。

マーケティング・ローンの提供・・・農産物の販売のための農業ローンを提供しLDP(ローン不足払い)になった場合に差額を政府が補てんする仕組み。

ACRE(Average Crop Revenue  Election Program)  ・・・08年に登場した補助金枠で、価格、低収量収入の最低保証をする補助金。トウモロコシ、大豆生産者の全部が加盟していると言われる。

作物保険 作物保険加入にあたっての政府補助金 ・・・農業共済加入に対して与えられる補助金枠。

至れり尽くせりですな。補助金漬けと揶揄されている日本の農業補助金など可愛らしいものです。

おそらくTPP交渉では間違いなく日本が言わずともオーストラリアやNZあたりからの猛攻撃に合っており、表面上は修正をかけています。 (※米国輸出補助金の修正とその隠蔽については後日ふれます)

特に②のCCPはひどい。もしこれが日本のコメならば、天候不順で収量が低下したり、品質が悪いために市場価格が下がったら、その差損を政府が埋めてくれるということになります。

日本のコメは有名な700%超の高関税があってバッシングの対象になりやすいのに対して、さすがは自由貿易の旗手、やることがまことに卑怯というか、シブイ。

実は米国の穀物は、熱波や洪水で年がら年中作柄が変化しています。こうまでよくやられるのを見ていると、オガララ帯水層の危険レベルの水位低下などに現れるように米国農地や灌水システムは相当にダメになっているなぁ、というのが私の感想です。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-cccb.html

化学肥料と農薬一本で突っ走ってきた世界の穀倉は、間違いなく疲弊しきっているように見えます。これによる作柄変動に税金をぶっ込んでやっとのことで安定した輸出を続けているというのが米国農業の実態ではないでしょうか。

ですから今や、外すに外せない竹馬と化してしまっているのが輸出補助金制度なのです。

しかも受給者が大規模アグリビジネスに偏っていることが、米国内部でも問題となっています。

たとえば受給者第3位のDnrc Trust Land Managemenだけで、09年に政府から受け取った補助金がな~んと290万ドル(約2億3千万円)。おそらく日本の農家でこれだけ一年でもらってしまっては国会喚問ものです。もはやギネス級といえましょう。

輸出補助金第2位の綿花の場合、1999年から2005年の6年間に投入された補助金が実に180億ドル(1.4兆円!)と、綿花だけでわが国の農家戸別補償の総枠丸ごとが注ぎ込まれているわけです。

ここまで巨額な補助金はもはや農家支援という次元ではなく、市場価格の86%までもが補助金だという凄まじさです。

私たち日本人は、米国の納税者の金を食卓に乗せていたわけですね(苦笑)。新自由主義者に煽動されて、わが国農業が補助金漬けだという人が絶えませんが、米国を見てから言っておくれ、と言いたいですね。

このような9割までもが補助金での市場価格支持政策となると、他の輸出国も黙っているはずがなく、ブラジルが綿花でWTOに提訴し勝訴しています。

また、この受給者は先に述べたように上位1割に偏っており、この上位だけで補助金の74%を独占しています。

家族経営者の8割の平均受給額は、たったの579ドル(4万6千円)というのですからよその国のことながら、バカにするのもいいかげんにせぇよ、と言いたくなります。

まさに富んだ者は更に富み、貧しい者はいっそう貧しくなるという格差社会。ウォールストリートを占拠したくなる気持ちが大いに分かります。

この上位受給者は、農家というよりアグリビシネスであり、オーナー一族は土に触ったことなどない億万長者であるわけですが、それに対してのみに集中した農業補助金という仕組みのあり方は、国際競争力を強化する反面、建国以来の伝統的な家族経営層を切り捨てていっているようです。

このように見てくると、米国の農業界は輸出補助金という竹馬を外されれば、即座に世界最大の食料輸出国から転落しかねない危うい構造を持っています。

仮にTPP体制となった場合日本は、例のISD条項を使って米国の輸出補助金を徹底的に禁止させるべきでしょう。

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コメント

農家では、ありませんから、頓珍漢な質問かと、思われますが、日本は、日本国としての、農産物の輸出入戦略を聞いたことがありません。
中国でも、米国でも、輸出入については、国が、全面に出て、自国の農産物について、遺伝子問題、種子問題、など、すべて情報を有利に、一元化していて、外交貿易上、優位に立てるように、情報操作しています。

わが日本国は、未だ、都道府県単位での、貿易が、メインで、県同士、足を引っ張っている感じを受けます。

米国、オーストラリアなど、日本向け、輸出食品は、国として、一元化した情報を、相手国に提供して、国内で、輸出入での、競争、ダンピングなど、表向き、まったくないようなきちんとした、自国の都合の良い情報のみ、提供しているように、思います。

日本は、貿易相手国向けに、県レベルで、数億の資金投入して、相手国の非関税障壁をクリアーするような戦法しか、みかけません。

日本の農産物は、県主体であり、国内でだけ、県ごとの競争をすれば良いのに、対外国輸出入問題は、僕としては、県同士で、足を引っ張らないように、事前協議して、無駄な国内競争や、対県戦略を、採る必要は、ないように思えるのですが、地域JAや、ジャイカの情報でも、国際貿易的には、無駄が、多いと思ってます。

変な都道府県ブランド競争が、行き過ぎではないかと思ってます。工業製品ですら、家電をはじめとして、外交的には、出来るだけ、日本国内メーカー同士、無駄な競争をしないで、済ませるような、同種の産業界で、調整しているようになってきて居ます。

農産物も、輸出入農産物と、国内流通農産物と、分けて、うまく住み分けできれば、もう少し、良い貿易環境にならないものかと、思ってます。

国内向けは、日本の多様な気候を使って、絶えず「旬」な農産物が、絶えず、市場に、仕入れられるのは、ありがたいのですが、輸出入食材については、もう少し、お互い、調整できないものかと、思っているのですが、その辺は、うまく協議して、海外向けの情報一元化は、出来ているのでしょうか

すでに、国内では、高い日本の農業技術を、継承する若者が居ないため、東南アジアでは、日本の現役老人が、ボランティアで、農業技術を、供与しているのが、実態ですが、日本国全体としての外交戦略は、私には、全く見えてこないので、これでは、低品質、低価格と言う国際農業には、勝てないでしょうね。
高品質、高付加価値の日本の農業のノウハウは、結局、日本人自身が、無計画で、海外で、垂れ流しているようにしか、思えないのです。
戦略的互恵関係とか、確信的利益構造とかには、無縁としか、思えません。

中国、米国の、海外戦略とは、かなり違うように、素人には、思えます。

投稿: りぼん。 | 2013年9月 3日 (火) 04時42分

りぼん様。いいご指摘です。そのうち書こうと思っていますが、わが国は政府レベルの農産物輸出戦略がありません。

ただ、農家所得上昇とか補填とかいう後ろ向きの政策かあるだけで、これが農業企業の人たちを怒らせています。かれらはおしなべてTPPがこの突破口になると錯覚しています。

少なくとも、今JA全農と各県が個々にやっているような輸出を政府の構想に統合すべきでしょう。
これは大きなテーマですからまたゆっくり書きます。

投稿: 管理人 | 2013年9月 3日 (火) 05時30分

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