小泉元首相の勘違い脱原発論その2 暫定保管という知恵
小泉さんの脱原発論は、核の最終処分という原発政策の最大の弱点を突いている点は、さすが稀代の勝負師だと思いました。
小泉さんは、原発の再稼働をしないというだけが処方箋だと考えているようですが、果たしてそうでしょうか。
原発は現時点で止めても、数万トンに及ぶ核廃棄物は残ったままです。確かにこれ以上増やさないということはできますが、抜本的解決にはつながりません。
結局、この最終処分問題を避けて通れないのです。
では、いままで小泉内閣も含めて政府がどうしていたのかと言えば、一言で言えば、「処分地を探すふりをしていた」のです。
認可法人「原子力環境整備機構」(NUMO)という組織が、最終処分地に適した場所を探すというふれこみで、なにか「やっているふり」をしていたのです。
最終処分地はおろか調査候補地すらないことはわかりきった話で、ある財政難の小さな自治体が村長の独断で応募したところ、発覚して村を上げての大騒ぎになりました。
ですから、このナンジャラ機構とやらは、なにも仕事がないのです。しかし、このようなナンジャラ機構があるというだけで、経済産業省は、国会での言い訳が出来たというバカバカしい一席しです。
原子力村にはこの手のなにもしないが、あるだけで言い訳の材料となるという組織がゴマンとあります。いずれも役人どもの天下り先です。
地層処分する技術はいちおう「確立」されています。下図のような4重もの天然、自然バリアーで封印します。(図Wikipedia クリックすると大きくなります)
実験施設としては幌延深地層研究センター、瑞浪超深地層研究所があり、地層処分や深部地下環境に関わる研究が実施されています。
ただし、いずれも実験施設であって、現実の処分施設の候補は現れていないのが現実です。というのは問題か「時間」だからです。
核廃棄物処分はこのようなプロセスで考えられています。
・[第1段階]中間貯蔵施設・・・高レベル放射性廃棄物は、深地層埋設処分される前に、30年から50年間の中間貯蔵される。
・[第2段階]深地層埋設処分・・・埋設地選定・施設建設から数10年から100年間の操業(廃棄物の搬入)された後に、施設はコンクリートで封印されて作業は終了する。
・[第3段階]埋設地周辺の管理・・・埋設地域は長期にわたり継続看視される。
とまぁ、書けば簡単なのですが、放射性物質は無害化するまで数万年以上の時間がかかります。
第2段階ていどまではとりえず100年(それでもスゴイですが)ですから、情報の受け渡しは可能でしょう。
しかし、施設を封印した後の数千年、数万年の保障をできる者などひとりもいません。
仮に1000年としても、わが国など平安時代まで遡り、米国など国自体が存在していませんでした。
これだけの超長期間、こんなブッソウなものを埋めて果たして大丈夫かということです。これが決定打がないままに徒に時間だけすぎた最大の理由です。
このような停滞状況を初めて真摯に突破したのが日本学術会議の提言(高レベル放射性廃棄物の処分について(回答) - 日本学術会議)でした。
おおよその骨子は以下です。
① 高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
② 科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
③ 暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
④ 負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
⑤ 討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
⑥ 問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識
日本学術会議は、いままでの政府が固執してきた地層埋却処分を、到底受け入れられないものをにしがみついて時間を無駄にしたと批判しました。
その上で、我が国で万年単位で安定した地層を探すのは困難であり、当面は最終処分という迷妄、いや正確に言うなら「言い訳」にしがみついているのではなく、現実を直視して数十年から数百年ていどの「暫定保管」というモラトリアム処分に切り換えることを提案しました。
日本学術会議の「回答は」こう述べています。
「暫定保管という管理方式は、いきなり最終処分に向かうのではなく、問題の適切な対処方策確立のために、数十年から数百年程度のモラトリアム期間を確保することにその特徴がある。」
「保管終了後の扱いをあらかじめ確定せずに数十年から数百年にわたる保管を念頭に置く。」
「暫定保管は、回収可能性を備え、他への搬出可能性があるため、そうした可能性が開かれていない最終処分と比較すれば、施設立地にあたって、より説得力ある政策決定手続きをもたらす可能性がある。」
このように日本学術会議は、このモラトリアム期間に新たな技術進歩があったり、社会的なコンセンサスが取れた場合、いつでもそれを取り出すことができる方式としました。
そしてもう一点きわめて重要な提言もしています。
それは際限なく核のゴミが出続けるのではなく、この暫定保管できる許容量に合わせた核のゴミの排出量を定め、それに合わせて原発発電量を決めるべきであるとしたのです。
いわばフィンランド方式とでもいうのか、入口=発電需要からだけから考えるのではなく、出口=暫定保管量から発電量を決めていくという総量規制の考え方は説得力があります。
安倍首相は、19日の本会議で地層処分について、「20年以上の調査の結果技術的に実現可能と評価されている」と指摘し、「それにもかかわらず処分制度を創設して10年以上を経た現在も処分場選定調査に着手できない現状を真摯に受け止めなければならない。国として処分場選定に向けた取り組みの強化を責任もって進めてゆく」と答弁しました。
いままで曖昧にされ続けてきた地層処理を改めて明解に宣言したものです。
ただし、もし首相がほんとうに「真摯に受け止めて」いるなら、今までのやり方を根本的に改めねばなりません。
つまり暫定モラトリアム保管への移行と、いまや実現が限りなく不可能となった核リサイクル施設の見直しをせねばなりません。
おそらくは、国有地に暫定保管し、数十年の時間を稼ぎながら、その間核変換技術(※)などの消滅処理技術によって半減期を圧縮するなどの方法がとられると思われます。
この核変換技術はわが国での研究は進んでおり、実現可能な技術だと考えられています。これが完成すれば、大幅に保管期間を圧縮できます。
問題はむしろ保管場所でしょうが、この「回答」にもあるように長い時間かけてステークホルダー(利害関係者)との話し合いをする以外方法はないでしょう。
ただ、保管期間が数十年に圧縮された場合は大きく可能性がでるのでは、と思います。
もし、小泉さんがフィンランドから学んでくるなら、この新たな処分方法が完成するまでのモラトリアム期間確保のための保管と、それに合わせた総量規制という2本柱を持ち帰るべきでした。
※核変換 人工的に核種変換を起こす技術の事を核変換技術と言う。特に高エネルギーかつ長寿命の放射性核種を含む高レベル放射性廃棄物を、比較的短い時間で低レベルの放射性物質にすることを目指す研究が行われ、消滅処理とも呼ばれていた。
■写真 広島城です。バランスのとれた美しい天守閣でした。原爆で破壊されて再建したものです。
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■日経新聞12年8月23日
原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分方法について、日本学術会議が抜本的な見直しを求める提言をまとめたことが23日明らかになった。地中深くに埋設するのではなく、地上や地下に一定期間保管した上で技術開発を進めて、最終処分法を新たに決めるべきだとしている。今後の原子力政策の議論にも影響を与えそうだ。
学術会議は24日に報告書を正式決定し、来週にも内閣府の原子力委員会に提出する。原子力委は提言を受け、見直し方法の議論を始める方針。
使用済み核燃料を再処理・再利用する核燃料サイクル政策を日本はこれまで推進してきた。それでも処理後に高レベル放射性廃棄物が出るため、数万年にわたって地中深くに埋めて最終処分する計画だった。ただ候補地が決まらず、計画は停滞している。
学術会議は廃棄物を「暫定保管」している間に、高レベル廃棄物の毒性を下げる研究などを優先して進めるほうがよいと判断した。
原子力委は2010年9月、国民の理解が進まない最終処分法をどう説明すべきかについて、科学者の集まりである学術会議に提言を依頼。ただ、昨年に福島原発事故が起き、学術会議は「現在の枠組みに無理がある」と判断。依頼内容を超えて最終処分のあり方にまで踏み込むことにした。
政府は将来の原発依存度などのエネルギー戦略の見直しを進めている。仮に原発依存度をゼロにしても、既に出た高レベル廃棄物の最終処分は不可欠。「核のごみ」問題で事実上行き詰まっていた現行政策を見直すかどうかも今後大きな焦点となる。
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コメント
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私も核廃棄物や使用済み核燃料の処理や処分の方法は、管理人さんの意見や日本学術会議の提言しか、現実的な方法はないと思います。
日本列島で最終処分地は絶対に確保できません。現在の方式は記事に書かれているように封印したら最後、後は知りませんです。キャスクが腐蝕して放射能が漏れ出すことを前提にして地中深く埋めるのです。
そのような処分方法に適した地質もありませんし、受入れる自治体などある訳ありません。
一方で、学術会議の提言は悪く言えば、先送りの感はありますが、科学技術で永久に管理しようというものです。
受入れる所があるかどうかですが、現在の原発内での貯蔵プールに貯まりまくっている状態よりは、この処理施設の「安全」はよほどましです。原発内に使用済み核燃料が貯まっているだけでも状況は最悪です。比べる対象がナンセンスと指摘されれば反論できませんが、最悪な状態で放置され対策すらないのが現状です。
ドライキャスクでの貯蔵なら、プールよりも自然災害に強いのも自明です。もちろん、現在の技術では、一定期間のプールでの冷却が必要ですが、キャスクごと空冷する研究も進められています。
またさらに専門の研究所や教育施設も併設する必要があります。処分方法の技術開発だけではなく、人材育成も必要です。
万が一のときにキャスクを移動避難できるように、学術会議は日本の東西に1つずつ設置が必要といっています。
ただし当然、処理施設の保管量は限られ、その量が不明瞭ですから、提言案に従ったとしても原発の稼働を後押しするものでは一切ないと思います。
整理が不十分で羅列しただけのコメントでしたがお許しください。
投稿: 南の島 | 2013年10月22日 (火) 12時47分
南の島さんの考えは、基本的に間違ってはいないとおもいますが…そこで政府(民主~自民ですよね)の無能と切り捨てて言うのはフェアではないと思います。
最新の大規模高効率LNG発電所新設には共感しますが、日本中の老朽石炭火力は廃止しなければならないでしょう。
コスト何兆円になるやら。
地熱・風力・バイオマス・太陽光等々ありますが、地域レベルの小さな物ばかりで、国家の基幹エネルギーにはなりえません。
じゃあどうすれば?って話ですね。
貴方がおっしゃるように、原発再稼働は極力避けたいところですが、送電システムもふくめ他に代替案はあるんでしょうか?
それが示せなければ、ただの空論になりますよ。
話は変わりますが、季節外れの台風、被害が無いことを心より祈ってます!
投稿: 山形 | 2013年10月23日 (水) 11時05分