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ドイツの脱原発は隣の家の青い芝(1) ドイツは低品位石炭火力大国だった

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ドイツの脱原発に対する「美しい誤解」があります。

それは我が国が福島第1原発事故を起こしながら、脱原発に踏み切れなかったのに対して、ドイツは倫理委員会を開いて原発ゼロを決めたからスゴイというものです。

そこまでは間違いではないのですが、そこからいきなり原発がゼロになったと飛躍して理解しまう人が絶えません。

現在ドイツで稼働している原発は8基
ブロクドルフ、エムスラント、クローンデ、グラーフェンラインフェルト、フィリップスブルク第 2、 イザール第 2、グルントレミンゲン B、グルントレミンゲンCの各原発です。

よく勘違いされているように脱原発政策で、原発をゼロにしたわけではなく、停止中の再稼働を認めなかったのです。そのあたりは我が国と同じです。

むしろドイツ電力需要の全体の6分の1(約17%)程度はいまだ原子力で、その比率は3.11前の日本の32%(10年12月)の半分ていどに止まっています。(マティアス・クルト前ドイツ連邦ネットワーク庁長官による)

似ていると言えば、エネルギー比率も似ていなくもありません。2012年時のドイツの電源比率は化石燃料に70%依存しています。

あながち皮肉というわけはありませんが、ドイツはイメージ作りがうまい国だなと妙な感心をしてしまいます。

ドイツは石炭火力が主力の国だ。原発も16%残っているぞ」と正直に言うとなんだということになりますが、「原発ゼロを目指して、再生可能エネルギーに邁進するエコ大国だ」と言い直せば、実にカッコイイ。別にウソは言っていませんからね(苦笑)。

というわけで、その火力のうち石炭が42%を占めています。しかも石炭の火力の内訳は、質の悪い硫黄分が多い国産褐炭火力(発電出力22.4GW)で、石炭火力(同29.0GW)と同じくらいの比率です。

ちなみに日本の石炭依存度は16.8%(01年)で、空気汚染対策は世界最高峰の水準にあります。

この辺のことをアピールしないで、「いまだ再生可能エネルギー1.6%にすぎないエコ後進国」、という妙に卑下した自己認識を持っているのがわが国です。

私に言わせれば、再生可能エネルギーが多いからといって別に環境大国ではないんですがね。

中国なんか硫黄分の多い低品質石炭と排ガスで金星のようなスモッグの底に沈んでいますが、世界有数の太陽光発電の国であるのは確かですから、ドイツ流に「再生可能エネルギー大国の中国はエコ大国だ」と宣伝して下さい(爆笑)。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-6a5b.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-819f.html

それはさておき、こんなに石炭に強依存してしまうのは、ドイツが国内の雇用政策として長年に渡って国内炭鉱を維持してきたためで、強みでもあり弱みでもあります。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-5189.html

さて、2011年6月9日のメルケル首相演説は、「2022年までに全ての原子力を停止する」とした脱原発部分だけが抜き出して日本では報道されてしまいましたが、火力発電所の増設送電網増強も述べています。

メルケル演説の骨子はこんなかんじです。
(「ドイツ電力事情」国際環境経済研究所主任研究員 竹内純子氏による)

①供給不安をなくすために2020年までに少なくとも1000万kWの火力発電所を建設(できれば2000万)すること。

②再生可能エネルギーを2020年までに35%にまで増加させること。但し、その負担額は3.5セント/kWh以下に抑えること(*しかしこれが2013年には約5セントに上がることが発表され国民の不満が増大している)

③太陽光や風力発電などの変動電力増加に伴う不安防止のため、約800キロの送電網建設すること。

④2020年までに電力消費を10%削減して注目の再生可能エネルギーは、設備容量ベースで20%前後(※統計年によって違う)にする。

このようにメルケル首相は、火力発電の増設と送電網の増設、節電などをワンセットで述べています。

ただし、ご注意いただきたいのは「2020年までに再生可能エネルギーを35%にする」という中身です。

これはあくまで設備容量ベースなのです。これが他のエネルギー源と違う点です。

この「設備容量ベース」カウントは、再生可能エネルギーに対しての「美しい誤解」、悪く言えばトリックを呼ぶ原因になっているからです。

このブログとおつきあいいただいた方には、もうお分かりだと思いますが、この設備容量ベースというのは、「条件さえよければ、これだけ発電できますよ」という理論的可能性の数字です。

再生可能エネルギー以外だと、故障とか定期点検で停止しているとかの特殊事情がなければ、設備容量ベース=発電量ですが、再生可能エネルギーではまったく違うのです。

風が吹かねばプロペラは回らず、曇りや雨だと太陽光発電はただの箱だからです。

ですから、再生可能エネルギーでは設備容量に稼働率をかけたものが実発電量となります。ややっこしいですね。

ドイツの再生可能エネルギーの稼働率の実数値は
・太陽光発電平均稼働率・・・10.4%
・風力発電         ・・・23.4%

だいたい平均して、再生可能エネルギーの稼働率は10~20%前後程度だと推測されます。ですからよくメガソーラー発電所などと言っても、実は10分の1メガソーラーなのです。

ドイツのように長年に渡って莫大な国家財政を注ぎこんで再生可能エネルギーを育成しても、天候という現実の壁があるということは知っておいたほうがいいでしょう。

ところがこの「現実の壁」は、単に天候だけではありませんでした。

現実に大々的に国家レベルで再生可能エネルギーを導入するとなるとバックアップの火力発電所が悲鳴を上げ、工場は瞬間停電に日々備えなくてはならなくなりました。

「なんだたかが瞬間」なのかと甘く見てはダメです。今のコンピータ制御の工場システムは、ミリ何秒単位の瞬間停電で製造工程がストップして、ひどい時はオシャカの山を築いてしまいます。

その原因は、再生可能エネルギーが、昨日の発電量グラフの4番目のように慌ただしく変化する場合、バックアップ電源とのリレーがうまくいかずミリ秒(千分の1秒)単位の停電を引き起こしてしまうからです。

ドイツの「シュピーゲル」誌はこう述べています。
ドイツ産業エネルギー企業 (VIK) の調査では、過去3年間にドイツの電力網の短い中断の回数は 29 %です」。

そのためにドイツから逃げ出す製造業がじりじりと増え始めました。工場が外国に移転するというのは雇用がなくなるということですから大問題です。

ドイツ商工会議所のアンケートでは、60%の企業が瞬間停電や電圧変動などを恐れていると回答し、電力供給の不安定さからドイツ国外へ工場移転した企業がすでに9%、さらに移転計画中が6%ほどあるということです。

BMWの新工場もメキシコか東欧に作る予定のようですが、販路戦略との関わりも大きいといえども、このドイツ国内の頻繁に起きる瞬間停電に嫌気が差したのかもしれません。

こんな犠牲を払いながらドイツは脱原発=再生可能エネルギーという「理想」のために、火力発電所と送電網の大増設を始めたわけです。

これを本来する必要のなかった努力になるのか、あるいは人類史的実験になるのかの結論はまだ出ていません。


※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-4e06.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/jaxa-a7dd.html

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原発を真面目に終りにする方法」カテゴリの記事

コメント

ドイツは、いつでも、フランスから、原子力発電電気を、購入できるセーフティネットがあるし、未だに、膨大な露天掘り石炭鉱山がありますし、大気汚染が少なく、CO2排出量も少ない、日本が最近使っているような、石炭ガスタービン発電なども、使える訳ですので、特に、廃炉費用が、膨大にかかり、最終処分場も、作らないといけない原子力発電に、それほど、積極的になる必要が、ないのではと、思ってます。

もちろん、ロシアからの天然ガスパイプラインも、使える訳ですから、大陸国家は、エネルギー政策に、選択枝が日本のような島国より、多いですよね。

再生可能エネルギーというイメージの良い食わせ物の名称は、どうかと思いますが、自分が、大臣なら、地熱発電や、深層海水温度差発電とか、島国であり、プレートが、4枚もあって、火山地震国である日本独特の自然条件に、合うような発電方法の開発を、国家プロジェクトとして、行いたいと、思ってます。

イギリスやフランスに、頼んで、MOX燃料を調達したり、もんじゅやふげんに、頼らない新たな発電方法の開発や開拓を、推進すべきだと思いますし、原子力の技術開発も、いずれ今の、50基の原発を廃炉しなければならない日は、今後、どんなに、再稼動を推進しても、鉄でできた原子炉は、あと、20年から30年で、耐久性の限界が来るはずなので、そっちの方の研究開発は、続けてほしいのですがねえ。

どうも、マスコミは、太陽光と風車風力が、再生可能エネルギーの肝のように、PRしますが、
管理人さんの以前からの記事で、わかるように、これらの電源は、電力供給のメインには、なりえません。

なんとか、メインになりえる、新たなエネルギー源を、島国、日本の地形を生かして、開発できると、よいのですがねえ。

駿河湾のような、すぐ近くに、深海が存在する日本なので、そういう自然地形を利用した、メインの電源開発に、力を入れてほしいと、個人的には、思ってます。

実験レベルでは、太陽光発電より、可能性がありそうな実験プラントは、すでに、存在しますので、単純に、太陽光発電用のプレートを屋根や耕作放棄地に、設置するだけの事業に、投資するだけでは、未来が、見えてこないと、思ってしまいます。

名古屋駅近郊は、すでに、いくつかの高層ビルが、共同して、自前で、冷暖房や給電するシステムを、持ってますので、電力会社には、頼っていない新しいビルが、増えました。
トヨタのビルも、そうなんですけどね。

投稿: りぼん。 | 2013年10月25日 (金) 11時48分

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