ドイツの脱原発は隣の家の青い芝(8) 初期投資者以外、皆不幸になるFIT制度
すごい地震でした。お見舞いありがとうございます。どうやら被害はないようです。
さすが3.11とその後の余震群で馴れていた私も、一瞬またあの悪夢が再来したかという悪寒が走りました。
今回は私の住む地域周辺でしたが、どうも陸にも海にも地震エネルギーが溜まっているようです。
フィリピンの台風30号被害はすさまじいことになっているようです。心痛みます。3・11の時の温かい支援を忘れてはいけません。早急に支援をせねばなりません。
さて、私は太陽光発電の初期導入者ですので、なんやかやでもうかれこれ16年近くも再エネにつきあってきましたが、正直に言ってあまり出来のいい電源には思えません。
「電気を愛おしい」と思う節電スピリットは叩き込まれましたが、実のところ、さてこの15年で元がとれたのかどうなのかはなはだ怪しいと思っています。
いいのは春だけ、梅雨はもちろんだめ、暑すぎる夏もだめ、秋雨もアウト、冬の曇天は息も絶え絶え。 太陽光に向いているのは砂漠でしょうな。
これは私の個人的な感想ではないとみえて、ドイツのメルケル政権のレットゲン環境相は2012年2月に公式文書の中でこう述べています。
「太陽光発電の助成コストに歯止めをかけるシステムはうまく機能している。太陽光発電の買い取り価格は2008年に較べてほぼ半分になった。」
この環境相の「うまくいった」発言は、決して太陽光発電が「うまくいった」のではなく、「助成金コストに歯止めをかけること」、つまり逃げ出すことが「うまくいった」のです。誤解なきように。(欄外資料1参照)
ドイツはFIT(ドイツ名EEG)の買い取り額を20~30%切り下げ、太陽光発電に見切りをつけました。このレットゲン発言には続きがあります。
「今後、われわれは、コストが比較的安い再生可能エネルギーの電源を集中的に拡大していかねばならない。それは陸上風力と洋上風力である。」
このレットゲン環境相は、与党CDU(キリスト教民主同盟)の中で「隠れ緑の党」と呼ばれてきたゴリゴリの環境派です。その彼をして、はっきりと太陽光発電には未来はない、と宣告されてしまったことになります。
レットゲンも認めているのは、いままで太陽光に最も高い買い取り価格を与え、それに20年間固定といったボーナスをつけてきたFIT(固定・全量買い取り制度)は過ちだったという「敗北宣言」でした。
※関連過去記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-e850.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-ceb6.html
しかしドイツの消費者からしてみれば、いままでさんざん高い電気を買わされ、太陽光助成のために税金を払わされてきた挙げ句、それはないでしょうという心境でしょう。
いままで、再生可能エネルギーは、EU域内は税金による助成を自由競争の建前で禁じ手きたために「賦課金」という形で消費者の電気料金に上乗せされてきました。実質は名が変わっただけてす。(下図参照)
(「脱原発を決めたドイツの挑戦」 熊谷徹)
実に36.3%もの賦課金、つまり税金が課せられています。(※EUでは再エネに補助金を出せないので、「賦課金」という形をとっています。)
ドイツは電気料金の半額弱までが再生可能エネルギーの賦課金負担という異常な構造なのです。
電力の自由化を脱原発政策と一体に同時実行したドイツでは、国民は情報開示と電源選択の自由というささやかなプラスを得て、それと引き換えに年々増え続ける賦課金負担と電力料金の値上げという重い荷を背負い込むはめになりました。
2011年ドイツでは年間で7.5ギガワットの太陽光発電が設置され、その補助金総額は20年間累積で合計180億ユーロ(当時のレートで1兆8500億円)でした。
ドイツでは、初期は我が国と同じくらいの3000億円前後でしたからあまり負担は見えなかったのですが、積もり積もって13年現在では、年間200億ユーロ(2兆4000億円)にも達するようになってしまいました。
するとさすが国民の負担も人口8000万人のドイツだと、一人当たり3万円という途方もない額になり、電力貧困層という電気代が払えない貧困層まで誕生するようになってしまいました。
これは税負担と電気料金上乗せの二重の形で消費者・国民が背負います。
しかもこのFITで儲かるのは、太陽光発電装置を付けられる富裕階層だけという金持ちにだけ優しい制度です。
おまけに、 これらの金はどこに行ったのかと言えば、太陽光発電に投資できたリッチな投資家と中国製パネルメーカーの懐に転がり込んだのです。(欄外資料2参照)
中国は中国とて、この国らしく生産調整に失敗し、数億枚のパネルの不良在庫を抱えて次々に倒産している有り様です(苦笑)。
この無計画な中国の太陽光発電施設の過剰生産によって、現在の世界の太陽光発電の需要は、セルベースで25ギガワットですが、供給能力はその2倍の50ギガワット以上あると言われるようになってしまいました。
馬鹿か!簡単なものだとはいえ、そんなに作ってどないすんの。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-37e2.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-2.html
ドイツではかつて世界一を誇ったQセルズが再建申請をし、外国からの投機資金が大量に流入しました。儲かったのは初期の投資家だけでした。
にもかかわらず、2011年1月には、700社の電気会社が6~7%の値上げをしました。
このレットゲン環境相の「太陽光撤退発言」には緑の党などが反対したのですが、結局この方向でドイツは舵を切り直しましました。あまりにも財政支出が大きすぎて、バランスを欠いているのは明白だったからです。
同じメルケル政権のレスラー経済大臣は、太陽光発電に与えてきた助成金を「甘い毒」とまで呼んで厳しく批判しています。
これはお金をもらう業者は一時的に潤っても、それにやがて頼る麻薬中毒患者のようになってしまうからです。
2012年4月1日から、ドイツ政府は太陽光発電の買い取り価格を20~26%に一挙に下げるだけでなく、毎月0.15ユーロセント下げていく決断をしました。
これは、たとえば10キロワット未満の屋上設置型太陽光発電の場合、2016年までにほぼ半分にまで買い取り価格が下がることを意味しています。(下図参照)
といっても、FITは約束した20年間は固定価格買い取り制度なので、初期参入者はぬくぬくと高価格で買い取ってもらえることには変わりありません。
このようにドイツは、スペインに継いで太陽光発電からの事実上の離脱を表明し、もう少し現実味のある再生可能エネルギーであるオフショア(洋上)風力発電へシフトを開始しました。
ただし先日からなんどか書いてきているように、風力発電のメッカである北部海岸地帯から900㎞もの送電網を建設するという代償を払ってですが。
ドイツがこの太陽光からの決別を開始した1年後に、日本は野心満々の大富豪某と超無能首相がハーメルンの笛に導かれるようにして、ドイツの後を追ってしまいました。
ヨーロッパ型FITは理論上は素晴らしいものでした。全量固定買い切りで初期投資を呼び込み、一挙に再生可能エネルギーを普及させて原子力の代替エネルギーに育てていくという構想でした。
しかし破綻の淵に差しかかっているEUと同様に、FITも理論と現実の間に隠れていたクレパスに転落しようとしています。
福島事故から既に2年以上たとうとしています。 私たち日本人も、「脱原発=再生可能エネルギー=正義」という 一元的な価値観から自由になって、冷静にエネルギー全体を眺めたいものです。
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資料1
「ドイツ連邦議会(下院)は29日、太陽光発電の買い取り価格を大幅に引き下げることを柱とした「再生可能エネルギー法」改正案を賛成多数で可決した。4月1日以降に導入した太陽光発電は原則として、規模に応じて価格を約20~30%引き下げる。
ドイツは再生エネルギーの普及を図るため、送電事業者に買い取りを義務づける「固定価格買い取り制度」を採用。これにより太陽光発電は急速に拡大し、設備容量で世界一になった。しかし価格は電気料金に上乗せされるため消費者負担が膨らんでおり、太陽光発電の普及を事実上抑制する形に方針転換する。
法案によると、屋根に取り付けるなどの小規模発電は1キロワット時当たり24.43セント(約27円)から19.50セントに引き下げられる。規模が大きくなると引き下げ幅も拡大、5月以降も毎月価格を下げる。
太陽光発電は風力などに比べ、価格が高く設定されている。価格の見直しは定期的に行われていたが、これまでは10%前後の下げ幅だった。」(日経新聞3月30日)
資料2
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