なぜGE Mark Iは引退(廃炉)せねばならないのか
ものには順番があります。事の軽重を計らずに、枝葉末節で騒ぎ立てても脱原発なんかできるはずがありません。
その判断基準は、「これだけいいことかある」というポジティブ評価だけではなく、「これだけリスクか少ない」というネガティブ評価のほうが大事なのです。
マイナス評価が少ないほど良好なわけで、重大事故の危険がないか、あっても少ないこと が大事です。
何度もくりかえしていますが、再稼働を決定するのは、一義的に科学的知見に基づく原子力規制委員会の仕事です。
この規制委員会の安全審査を飛び越えて再稼働したり、廃炉にしたりすることは政治の優越を認めることになって危険です。
では現況はどうなのでしょうか。日本の原発は2基を除いてすべて稼働していませんし(現在停止中)、福島第1原発は5号炉、6号炉の廃炉も決定しました。
事故を起こしていない5号、6号炉を廃炉にすることにしたのは、それが再稼働することは国民世論が許さないだろうということと、事故を起こした1、2、3、4号炉と同型の旧型BWR(沸騰水型炉)であったと思われます。
(下図http://blogs.yahoo.co.jp/bone_marrow_bank/8982228.htmlクリックすると大きくなります)
GE Mark Iの根本的な問題は、格納容器が小さいことです。
これはこのMarkⅠ自体が、当時の技術者が事故が起きた場合、水素ガスが大量発生することを知らなかったためです。
もし60年代の設計者がこれを知っていたら、こんな窮屈な格納容器を作らなかったでしょう。
30年から40年古いということは、単なる施設の老朽化だけの問題ではなく、設計思想が古いということなのです。
さて、この福島事故のような事故が発生した場合、冷却装置が機能しなくなったため、核燃料棒が非常な高温になりました。
制御棒はスクラム(緊急停止)には成功していますが、 挿入と引き抜きの2系統駆動系が必要なので、その駆動系が弱点だとする説もあります。(欄外参照)
水と反応した時、水素ガスが発生放射性物質を帯びた水素ガスを大量に発生させ、この小さな格納容器に溢れることになります。
米国の脱原発運動家でもある原子力技術者のアーニー・ガンダーセンは、「 フェアウィンズ」(2012年2月6日)の中でこう推測しています。
「格納容器のてっぺんにある多くのボルトで止められた蓋(※トップフランジ)が膨張した空気によって持ち上げられて伸びてはずれ、そこからガスが建屋内に漏洩した。」
そしてこのことにより、原子炉建屋内に溢れだした水素ガスに引火して水素爆発を起こしたとしています。
つまり彼の説によれば、ベントとは関係なく、圧力容器は破損して既に建屋内部に水素ガスが溢れだしていたということになります。
GE Mark1型原子炉の日本での原発は、福島第1・1、2、3、4、5号、敦賀1号、女川1号、島根1号、伊方1、2、3号の11基です。(図 同 クリックすると大きくなります)
ただし、BWR自体は、いわばヤカンを火にかけて蒸気を発生させているようなものなので構造が単純で、全交流電源停止という事態さえなければ災害に強いとはいえます。
この格納容器が小さいという欠点は、メーカーもよく分かっており、東電が稼働を申請している柏崎刈羽などの改良型BWR(ABWR)では容積が1.6倍に大きくなっています。
また、再循環ポンプを圧力容器に入れて保護を厳重にしたり、配管が多数あった弱点を単純化したりという改良を加えています。
今の日本の原発の主流はこの形式です。浜岡、滋賀、大間、島根などがABWRです。
(ABWRについては東芝原子力事業部HP参照)
http://www.toshiba.co.jp/nuclearenergy/jigyounaiyou/abwr.htm
一方、PWR(加圧水型原子炉)の構造的欠陥は、熱交換機などに細管が集中しているために、構造が複雑で災害に対して脆いという点です。
PWRでもBWRと同じように、水循環系を2ツにして冗長性を増した改良型PWR(APWR)が実用化されています。
(※APWRについては三菱原子力事業部HPhttp://www.mhi.co.jp/atom/hq/apwr/参照)
というわけで、BにもPにもそれぞれ欠陥はあり、それぞれ福島事故やスリーマイル事故(TMI事故はPWR)を起こしていますし、その改良型も存在しています。
だからこそ是々非々の対応が必要で、ある意味同じ型式であっても同一条件なものはふたつとないのです。ここに規制委員会の役割があります。
ただひとつ、大づかみに言えば、もはや水素爆発を想定していない1960年代に設計されたMarkⅠは、老朽化うんぬんではなく設計思想の古さ故に引退(廃炉)しかないと思われます。
他に規制委員会の基準にも明記されていますが、敦賀、東通、大間、志賀、美浜などの活断層上の原発にも再稼働には疑問符が付けられます。
また、それ以外の原発も、現時点で安全基準に100%合格する原発などは存在しませんから、一定期間かけた再稼働のための補強工事が必要なわけです。
しかし、ただの耐震強化や津波対策ならともかく、原子炉容器自体を拡張することは不可能なのですから、やはりGEMark1型原子炉には引導が渡されると思われます。
つまり、GEMark1型11基+活断層上の原発には未来がなく、残りの原発も多額の補強資金をかけてまで再稼働させるかどうなのか瀬戸際だというのが現状です。
ただし、これだけの原発を一定期間に廃炉になるとすると、廃炉技術を早急に確立しなければなりませんか。なにせいままで廃炉にした経験があるのは実験炉だけですから。
ですから、段階的削減するとしても、廃炉で発生する厖大な核廃棄物の処分地も確定する必要があるでしょう。.
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※BWRの欠陥の詳細については以下を参照ください。
http://www.asahi-net.or.jp/~pu4i-aok/cooldata3/nuclear/bwr.htm
※資料 原発:弱点は? 沸騰水型、相次ぐ制御棒脱落事故 複雑な構造、操作ミス誘発
毎日新聞 2007年4月4日
北陸電力志賀原発(石川県)や東京電力福島第1原発などで、原子炉の出力を調整する制御棒が操作ミスで抜け、核分裂反応が連続して起こる「臨界」になる事故が相次いでいたことが発覚した。
国内の原発は沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の2種類に大きく分かれるが、制御棒脱落はBWRだけで
起きた。
両者の仕組みや、利点・欠点をまとめた。
◇ 「欠陥」否定も改造検討へ
■ 仕組みは2タイプ
原子力発電は、ウラン235の核分裂反応によって生じる熱を利用して水から水蒸気を作り、タービンを回して
発電する。
火力発電との違いは、熱の発生に重油などを燃やすか、核分裂反応を用いるか、という点だ。
BWRとPWRは、水蒸気の作り方に違いがある。
BWRは核分裂反応を起こして高熱になる炉心の熱で冷却水を直接、沸騰させる。
PWRは炉心の1次冷却水をBWRの2倍程度に加圧して高温高圧状態で蒸気発生器に導き、2次冷却水を間接的に沸騰させる。
PWRは米海軍の原子力潜水艦の動力用として開発され、1950年代に実用化された。
一方、BWRは50年代に、米ゼネラル・エレクトリック(GE)社が開発した。
国内では、日本原子力発電敦賀原発1号機(BWR)が70年3月に運転を開始。
続いて、関西電力美浜原発1号機(PWR)が同年11月に営業運転を始めた。
現在運転中の商業用原発55基のうち、BWRは東北、東京、中部、北陸、中国などの各電力会社に計32基、
PWRは北海道、関西、四国、九州などの各電力会社に23基ある。
東京電力は「原電敦賀1号機での先行実績があることや、それ以前からのGE社との関係を踏まえ、BWRの導入を決めた」と話す。
日本原子力産業協会によると、世界的には3対1程度の割合でPWRの方が多い。
■ 駆動部が“泣き所”
いずれの型も燃料集合体の間の制御棒を出し入れして原子炉の出力を調整する。
制御棒には、核分裂反応に必要な中性子を吸収するハフニウムやホウ素などが含まれ、挿入すると出力を下げることができる。
原子炉内の冷却水が沸騰するBWRは原理がシンプルだが、放射性物質を含んだ水や蒸気がタービン周辺を汚染する欠点がある。
また、発生する泡による影響を避けるため、制御棒を炉心の下から挿入する構造だ。
出力を下げる際や緊急時には、重力に逆らって制御棒を押し上げる必要があり、制御棒駆動部はBWRの“泣き所”とされる。
元原子炉設計技術者の科学ライター、田中三彦さんは「1本の制御棒につき、挿入用と引き抜き用の2系統の駆動系が必要。BWRの複雑な構造が、操作ミスの背景にある」と指摘する。
これに対し、東京電力原子力技術・品質安全部の宮田浩一課長は「下から挿入することをデメリットとは思わない。強い水圧で強制的に制御棒を入れる点にはよい面もある」と反論する。
駆動機構を改造し制御棒を抜けにくくした改良型BWR(ABWR)も4基稼働中だ。
通常時はネジのようにらせん状の溝を切った棒をモーターで回転させて制御棒を上下させる。
緊急時には水圧で一気に制御棒を挿入できる。
しかし、3月30日に東京電力が公表した過去のトラブルの中には、96年6月にABWRの柏崎刈羽原発6号機で、205本の制御棒のうち4本が脱落したケースが含まれていた。
操作ミスが原因で、東電は「欠陥ではない」としながらも、BWRを使う電力会社やメーカーで作る協議会で、ハード面の改造も視野に検討を始めるという。
■ 加圧水型は細管
一方のPWRは2次冷却水に放射性物質を含まない利点があるが、蒸気発生器がアキレスけんだ。
2次冷却水に効率的に熱を移すため、高温高圧の1次冷却水を直径約2センチの細管数千本に通す。
過去には細管に穴が開くなどのトラブルが相次いだ。
91年2月には関西電力美浜原発2号機で細管1本が破断。
国内の原発として初めて緊急炉心冷却装置が作動する重大事故が起きている。
田中さんは「BWRにもPWRにも潜在的な不安個所はほかにもある。将来起こりうる事故やトラブルについて、国や電力会社はもっと情報を公開すべきだ」と話す。
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コメント
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黄色いトップフランジのボルトが抜けたか破断したかで浮き上がっている写真は、事故後早いうちに公開されてましたね。
また元GEの技術者も「あれは圧力容器容量の設計ミスだった。開発生産当時に上司に何度も訴えたけど無視され続けて辞めた」と、涙ながらに証言してました。
今回の事例を裏付けるものですね。
つまり、新しい知見があれば慎重な検討を加えてアップデートしていかなければならないという典型でし。まして、扱っているのは原子力ですから。
配管等のステンレスに関しても、当時は最適だと思われていたSUS-304が耐久性に問題があって交換ということもありましたし、福島第2では圧力容器内部のライナー張り替えという、世界に例の無いことまでやっています。
よく、東電の怠慢・慢心などと批判ばかり言われてきましたが、現場の技術力はもっと評価されて良いとおもいますね。
投稿: 山形 | 2013年11月27日 (水) 07時24分