核燃料サイクル計画は放棄するしかない?
小泉さんにいわれるまでもなく、わが国の原子力政策の最大の弱点は、(かく言う小泉政権も含めてですが)今までの歴代政権が結論をなし崩しにしてきたために、核廃棄物の最終処分についての明確なグランドデザインが存在しないことです。
このグランドデザインができて、それに基づいての最終処分方法と場所が明確になるまで再稼働は認めるべきではありません。
この最終処分問題の決断を避けて、規制委員会の安全審査にすべての判断を委ねるような政府の考え方は大いに問題です。
最終処分の前提として、核(燃料)サイクル施設の計画をこのまま続けるのか、放棄するのかが問われています。
このまま続ければ、六ヶ所村の再処理工場は早晩パンクします。
というのは、再処理工場の処理能力は年間800トン程度であり、現在全国各地の使用済み燃料プールに保管されていたり、既に六ヶ所村の中間貯蔵施設にある核廃棄物は約2万8千トにも登るからです。(※1万7千トンという数字もあります)
では、この時点で、原発をすべて止めてこれ以上増えないようにしたとしても処理に35年かかる計算です。
原発を稼働させるとなるともっとやっかいです。原発から発生する使用済み燃料は年間1000トン超と見られているために、再処理量は保管分はおろか1年間の排出量にも及ばないことになります。
これを今の政府方針である「全量再処理」するとなると年間排出分だけで最低でもあとひとつ、保管分まで含めればその数倍の再処理工場が必要となるわけです。
このようなバックエンド処理費用だけで、電気事業連合会は総額18兆8千億円かかると試算しています。(2003年12月現在)
つまりハッキリ言って、再処理は操業開始以前から完全なデッドエンドになっており、これ以上従来の「全量再処理」路線を進むのは不可能だと言っていいでしょう。まったくなにを考えているのか。
また、これにかかったコストはすべて総括原価方式で電力消費者に転化される仕組みです。
これについて、政府は4ツのシナリオを検討しました。
「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」によるシナリオがそれです。(2005年)
・シナリオ1 全量再処理(現行路線)・・・使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理を行う。処理能力を超えた分は中間貯蔵を経た上で同じように再処理を行う。→現行路線
・シナリオ2 部分再処理・・・使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理を行う。処理能力を超えた分は中間貯蔵を経た上でそのまま埋設して直接処分する。
・シナリオ3 全量直接処分(ワンススルー)・・・使用済み核燃料はすべて中間貯蔵を経た上でそのまま埋設して直接処分する。アメリカ、ドイツ等で採用。→再処理の否定
・シナリオ4 当面貯蔵・・・使用済み核燃料はすべて当面の間中間貯蔵する。
シナリオ1は現行の原子力政策大綱(2005年10月)どおりのものですが、シナリオ3は再処理自体を否定するものですが、政府は判断を先送りしたままになっています。
これ以上展望のない全量再処分などに固執することは愚かだと思います。
おそらく政府は、今までこの計画につぎ込んだ約10兆円の税金を考えると、いまさら中止はできないという気になっているのだと思います。
今話題となっている諫早干拓事業などと一緒で、巨大国策事業がいったん開始されると、もはや過程での見直しが効かず、いったん執行された予算を使い切るまでつき進むという官僚の悪癖です。
この結果、諫早のように現地農民と漁民の対立という事態まで引き起し、さらに解決を複雑にさせるということになります。
全量再処理は、もんじゅが絶望的な以上(※)、今の数倍の規模の再処理工場が必要となり、処理した後も不透明です。もう20年間実証炉が止まったままでは説得力ないですね。(※もんじゅの評価については異論が存在します。)
核燃料サイクル(出所:資源エネルギー庁)
費用が天文学的になるだけで、処理済み核廃棄物が徒に積み上がっていくだけです。
となると、もはやシナリオ3、すなわち全量直接処分(ワンスルー)方式に切り換え、暫定処分によって地層処分するほうが傷が浅いと思われます。
暫定処分ならば百数十年の期間となり、その間の研究による長寿命核種の大幅短縮化を図ります。
このていどの期間ならば安定した地層は全国各地に存在しますので、政府がいまのようなあいまいな姿勢ではなく、本腰を入れた地層処分の候補地を探さねばなりません。
まぁ、安倍さん、せっかくあなたの「政治の師匠」がああまで最終処分問題を叫んでいるのですから、安定した今の政権期に地層処分の決定をすべきですね。ただしあくまでも暫定保管で、ですが。
次回、別な角度からこの問題を考えてみます。
※参考資料 中国新聞2004年6月11日
http://www.chugoku-np.co.jp/kikaku/nuclearpower/japan/040530_01.html
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■もんじゅ再稼働めどたたず
日経新聞 13年5月29日
原子力機構の点検漏れで規制委 高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)で約1万点の機器の点検漏れが見つかった問題で、原子力規制委員会は29日、日本原子力研究開発機構に対し安全管理体制を見直すよう命令することを最終決定した。規制委は15日の処分決定後、原子力機構に対し弁明を求めていたが不服申し立てが無かったため、処分が正式に決まった。安全管理体制が整うまでもんじゅは運転再開に向けた準備作業ができなくなる。
■資料 日本における核燃料サイクル施設
濃縮施設 国内での処理能力は1890トンU/年で国内需要の約三分の一である。
- 日本原子力研究開発機構・人形峠環境技術センター (岡山県鏡野町) 1988年より、2001年に役務生産運転終了、処理能力200トン-U/年。
- 日本原燃・ウラン濃縮工場(青森県六ケ所村) 1992年より稼働中、処理能力1,890トン-U/年。
転換・加工施設 成形加工能力1,823トン-U/年、転換加工能力475トン-U/年
- グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン (神奈川県横須賀市) 成形加工、1970年より稼働中、処理能力750トン-U/年。
- 三菱原子燃料 (茨城県東海村) 成形加工、1972年より稼働中、処理能力440トン-U/年。
- 原子燃料工業・熊取事業所 (大阪府熊取町) 成形加工、1972年より稼働中、処理能力383トン-U/年。
- 原子燃料工業・東海事業所 (茨城県東海村) 成形加工、1980年より稼働中、処理能力250トン-U/年。
- 三菱原子燃料 (茨城県東海村) 転換加工、1972年より稼働中、処理能力475トン-U/年。
再処理施設 2002年末までに5600トンUの処理がイギリス・フランスに委託された。
- 日本原子力研究開発機構・東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所 (茨城県東海村) 稼働1981~2007年 累計処理量1,140トン-U。
- 日本原燃・再処理事業所 (青森県六ケ所村) 2011年10月アクティブ試験中、2012年10月しゅん工予定であるが、使用済み核燃料の受入は2000年より始まっており当施設では3,165トンを保管している。
廃棄物管理施設
- 日本原燃・六ヶ所高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター (青森県六ケ所村) 高レベル放射性廃棄物のガラス固化体の保管 1995年より稼働中、保管量1,338本(保管容量1,440本[11])
- 日本原子力研究開発機構・廃棄物管理施設 (茨城県大洗町) 高レベル以外の放射性廃棄物の保管 1996年より稼働中、保管量28,836本(200リットルドラム缶換算、保管容量42,795本)。
廃棄物埋設施設
- 日本原燃・濃縮・埋設事業所 (青森県六ケ所村) 低レベル放射性廃棄物の埋設 1992年より稼働中。累計搬入量218,707(200リットルドラム缶換算、保管容量412,160本)
- 日本原子力研究開発機構・廃棄物埋設施設 (茨城県東海村) 極低レベル放射性廃棄物の埋設 1995年より稼働中。1995年より稼働、1,670トンを埋設し1997年10月には埋設地の保全段階へ移行。
- 高レベル放射性廃棄物の地層処分施設は場所を公募・検討中。2033~2037年頃に施設の建設を開始する予定である。
この他、放射性物質等を陸揚げするむつ小川原港へは、専用道路が通っている。(Wikipediaによる)
原子力機構が23日に起こした加速器実験施設「J―PARC」(茨城県東海村)の放射性物質漏れ事故についても、安全意識の向上を求めた。
もんじゅについて規制委は、原子炉等規制法に基づく保安措置命令として、機器の点検状況を管理するシステムの構築を要請。保安規定も変更し、安全を最優先とする活動方針を定め、組織内の責任を明確にするように求めた。
規制委は15日に原子力機構に体制見直しを求める方針を決め、不服があれば弁明するよう伝えた。しかし鈴木篤之前理事長は17日に引責辞任し、弁明もしなかった。今回の決定で、年度内を目指してきたもんじゅの再稼働のメドは立たなくなった。
規制委はもんじゅの敷地内の断層を調査する有識者会合を設置することも決定した。6月13日に事前会合を開き、6月中下旬に現地調査する。
J―PARCの放射性物質漏れ事故について規制委の田中俊一委員長は「放射線を扱う心構えが欠如していた」と批判した。原子力機構に再発防止策の提出を求めるとともに、全国の主な加速器施設の安全性も調査する。
同施設では23日、警報が鳴った後にも排気ファンを回し、放射性物質を外部に放出してから実験を続けた。放射性物質漏れの公表も1日半遅れた。この事故で33人の被曝(ひばく)が確認され、最大被曝線量は1.7ミリシーベルトだった。規制委は国際的な事故評価尺度(INES)で9段階の下から3番目に当たるレベル1と暫定評価した。
これまでトラブルを繰り返してきた原子力機構は東京電力福島第1原発事故後も安全軽視の姿勢が改まらず、組織的な問題が指摘されている。下村博文文部科学相は28日、原子力機構の運営体制を抜本的に見直す改革本部を設置した。
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炭酸ガスは地球環境に非常に悪い影響を与えるのでそれを処理する方法が見つかるまで化石燃料は燃やしちゃいけません。
と言うロジックですね。これは成立しないでしょう。最初の前提からおかしいと思います。
核廃棄物は極めて量が少なく、100万kWh/年あたり20トン。石油だと150万トンになります。いかに少ないか分かりますね。年間20トンのゴミはとりあえず溜めておけば済む話です。
投稿: sudoku.smith | 2013年11月18日 (月) 12時30分
sudoku.smith さん。どこ読めばそういう解釈になるのですかね?
ちなみに私は地球温暖化懐疑派です。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-be47.html
投稿: 管理人 | 2013年11月18日 (月) 13時54分
六ケ所村の再処理工場が審査に合格したそうです。私としては動かして欲しいという気持ちなのですが万が一動かせなかった場合直接処分という形になりますが最終処分場は何処が望ましいと管理人さんは考えているのでしょうか?個人的に受益者負担が良いと思うのですが日本に望ましい最終処分場などあるのでしょうか。
投稿: de | 2020年8月 9日 (日) 15時02分