福島県 土壌放射線量と玄米放射線濃度とは相関なし
福島県が、福島事故以後の放射能問題に対する試験結果を公表しています。
※「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~ (概要)」
資料はまさに労作で、広範な範囲の試験がなされたことがわかります。
まずは今年の福島県産の全袋検査です。全量全袋検査は既に1000万検体以上に達していますが、その中で基準値(100Bq/kg)超えはわずか71袋、0.0007%でした。(下図、上記福島県試験より・以下同じ)
この結果を見れば、先日のコメントにあったような、「あなた方が汚染地域にとどまり生産活動を続ける限り、消費されるそれらは全国に送られて放射性物質は拡散し続けます」などという愚かな暴論は吐けないはずです。
このような喜ばしい結果は、福島県のカリウム施肥指導とそれをたいへんな思いで実施した農家の努力の賜物です。
これらの検査によって改めて、土中の交換性カリウム濃度が放射性物質との相関で大事だということが分かりました。
実験の結果、カリウム肥料が豊富に蓄えられている土壌で育った玄米中の放射性セシウム濃度は低く、カリウム肥料が与えられず土壌中の交換性カリ含量が低いと、放射性セシウム濃度が高くなってしまうことが証明されています。
下図は、土壌中の放射性セシウム濃度と玄米の放射性セシウム濃度を表にしたものです。
これを見ると、もし、土壌中の放射性セシウム濃度と玄米の放射性セシウム濃度が比例するならば原点から右肩上がりのトレンド・ラインが引けるはずです。
しかし、ご覧のようにまったく関係なくプロットされています。つまり土壌放射線農とイネのセシウム濃度は相関がないということです。
下図はカリと玄米中のセシウム濃度の相関関係を調べたものですが、「土壌中の交換性カリウム濃度がK2Oにして25 mg
K2O/100g以上であれば玄米中にはセシウムはほとんど検出されず、10mg/100g土壌以下であれば基準値超えのセシウムも多く検出される」(同報告書)ということがわかりました。
次に、土壌の種類による放射性セシウムの吸着力の違いがあります。
セシウムを固定する粘土鉱物が多く含まれる土壌では、セシウムは吸着固定され、玄米への移行割合は低くなります。(上図参照)
こうした粘土鉱物が少ない砂質土は注意が必要です。
さらに、やはり出たかと思ったのは、籾摺り機にセシウムが付着していたために、後から摺った米に移行汚染したことです。
屋外に置いた籾摺り機に付着した例もあり、それが汚染度を左右するので事故時の農業機械の場所も確認せねばならないのは教訓として残りました。
実は、福島事故の以前は、セシウムの水田での移行のデータは皆無に等しかったのです。
こればかりは、実際に事故が起きないと実測しようがなく、米作地帯での被曝例は今回が世界最初だったからです。
唯一指標としてあったのは、研究所の畑での移行係数情報だけてした。そこから割り出したのが当時農水省が出した過去の移行係数に安全倍率をかけた0.1という数値でした。
11年当時の暫定基準値500Bq/kgから逆算して移行係数0.1をかけて500Bq/kgにするというのが指導方針でした。
当時の福島県内の土壌放射性量は、警戒区域と計画的避難区域、緊急時避難準備区域以外で5000Bq/kgを超えている場所がなかったために、それ以外の地域では作付けを認めましたが、この後に思わぬことが起きます。
それは、知事が安全宣言を出した後に500Bq/kgを超えるセシウムが検出された土地がいくつか出たことです。
その後もしばらくこの事態は続き、安全宣言の信頼性が疑われることになりました。そこで、今まで世界中どこもやったことのない全袋検査という難事業に福島県は挑戦しました。
その結果がこの報告書に詰まっています。
さて、私達がよく言う「土作り」と呼ぶ営為がいかにこのような非常事態においても有効だとわかる結果となりました。
カリウムとセシウムは化学的な性質がよく似ているために競合関係にあり、作物はあらかじめカリウムが植物内にあると侵入しにくくなります。
カリは今回の指導では重点的に沢山入れていますが、通常の堆肥にもたくさん含有されている肥料成分です。
ですから、堆肥を充分に施肥していなかったりした田んぼは、カリウムが吸収されやすい条件を自分で作っていることになります。
降った放射線量自体の量が絶対的な条件ではなく、むしろ受け皿である農地の豊穣さが重要だということが科学的にも立証されたことになります。
この報告書に携わられた多くの人々、そして困難な全袋検査に挑まれたJA福島、そしてなによりすべての福島農民の皆様に心からの敬意権を捧げます。
福島県農業者の皆様が、来年こそよい年を迎えられますことを心から祈念いたします。
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早い時期から言われてはおりましたが、余程の高濃度汚染区域でないかぎり、土から稲(米)にセシウム移行させなければいいわけで、実際堆肥・カリウム・ベントナイトといったものが有力視されていたのが証明されたわけですね。
初の出来事なので不手際もあったようですが(あと、谷津田の水系も気になりますね)、概ねのデータが出たと考えて良いでしょう。
やはり「耕す」ことの大切さが分かりますね。
脱穀→籾擦り→精米といった流れでの管理が大切だという、大きな知見も得ることができました。
いずれにせよ、JA福島さんの労力には頭の下がる思います!
投稿: 山形 | 2013年12月23日 (月) 06時39分
今後、こういった事故が起きないことが前提ではありますが、このデータの有用性は、実に高いですね。
世界初ですから。
1プロット(点)を得るのにどれほどの労力を要したことか。想像を絶すると思います。
本当に、頭が下がります。
投稿: Cowboy@ebino | 2013年12月23日 (月) 10時12分
結局、原発事故が起こっても大した問題では無いということですよ。セシウム、セシウムって騒いでる気違い共に是非とも読んで欲しい内容ですよ。
電気代が下がるんであれば、早く原発稼働させて欲しいもんですよね!
避難指示解除になったら、早く帰って元の生活に戻って欲しいものです。
投稿: 請け丼 | 2013年12月27日 (金) 18時27分