再燃した中国トリインフルその3 中国の患者数が信用されないほんとうの理由
中国で再び新型インフルエンザが、爆発的流行の兆しをみせています。しかし実態は厚い情報統制の中にあって、真になにが起きているのかわかっていません。
■中国当局の公式患者数は誰も信じない
多くの日本の医療・防疫関係者が、去年からの中国新型トリインフルの感染者数や死亡者数が、当局発表の10倍以上だと秘かに考えるのには理由があります。
それは中国の悲惨極まる医療制度のためです。
中国に病院がないわけではありません。むしろ、富裕階級用や共産党、人民解放軍のための専用病院などは先進国並の先端医療施設を持っています。
しかしこの高級病院は、一般人は使えず、利用できる人間たちはほんの一握りです。
■民工の賃金は月収1万円以下
農村から上海などの大都市に出稼ぎに来て底辺労働に従事している民工(農民工)は、国家人口計画生育委員会の「中国流動人口発展報告2012」によれば2011年末に中国全国の流動人口が史上最高の2億3千万人に達しており、その8割は農村戸籍を持つ者で、平均年齢は28歳です。
実にわが国の人口を優に上回る人口が、職を求めて全国をさまよっていることになります。
一般に中国の農村は都市部と収入で3倍以上の大きな格差があります。
たとえば上海や蘇州の3Kの底辺労働を担う人たちは、湖南や四川など農村部出身者が大半を占めています。
これら農村部から来る外部労働者数は、蘇州市などでは地元の人口をはるかに越えているそうですからその規模がわかります。ざっと計算すると、蘇州市区は人口約538万人ですから、600万人から700万人もの大量の民工が流入していることになります。
20歳くらいの民工の平均月収は、日本円で1万円にも届きません。約600元(約8000円)ていどです。(※ただし、賃金は職種、技能によって10倍ていどの差があります)
彼らが帰郷するための費用は3000元から4000元(4万円から5万円)なので、2年に1回くらい帰れたらいいという所のようです。
帰郷シーズンは年に2回で、2月の春節と、5月初めの労働節です。
この時期にSARSは爆発的に感染拡大しました。まさに今ですが、今年もそうなるのではないかと心配です。
■民工の医療は闇診療所だけ
この膨大な統計に出てこない闇労働者たちには、国家による医療が与えられていません。民工は、農村籍しかないので出身の農村で医療を受けるしかありませんが、そもそも農村部は医療が大幅に都市より遅れている上に、帰るキップ゚代が半年分の収入なので、もぐりの医院に診てもらうしかないのです。
ロイター(2013年3月27日)はこう書いています。
「中国政府が医療制度の改革を掲げる中、闇診療所は相変わらず繁盛している。
北京の街の片隅、裸電球一つの粗末な「部屋」は出稼ぎ労働者である張雪方(ジャン・シュエファン)さんからすれば「一番いい病院」である。環球時報(電子版)が伝えた。
北京市民ではない張さんは市内の公立病院でもっと安い治療も受けることができず、遠く離れた故郷の医療補助金を受け取ることもかなわない。
病気になった時には、北京に暮らす数百万人の出稼ぎ労働者同様、不衛生で無秩序な「闇診療所」に頼るしかないのだ。 」
■原因は差別的な農村戸籍制度
中国には、江戸時代のような農村戸籍と都市戸籍があります。農村戸籍が10億人、都市戸籍が3億人、特権階級の共産党員戸籍が7000万人といったところのようです。
農村籍は農村に住んでる人達を、一生農村にしか住めなくする隔離政策の為にあります。
農村では一人っ子政策の適用外で子供を沢山作れますが、働ける所が制限されているために、都市で働くには闇の民工になるしかありません。
あまりの前近代的制度のために批判が多く、政府も改革を約束していますが、具体的には変化はみられません。
また、今、感染の危険性が一番高いのは養鶏や畜産に従事する農民ですが、農村にはまともな病院が少ないためにしっかりとした治療を受けることは不可能に等しいと言われています。
この農村部に住む農民と、都市に出稼ぎに出ている民工階層が最大の感染の闇の部分、つまり温床です。
■感染の火薬庫となっている農民と民工階層を見ないで、中国の新型インフルエンザを語るべきではない
「北京の首都経済貿易大学の教授は「闇診療所は中国の医療制度の暗部である。
出稼ぎ労働者が闇診療所の常連客となるのは、医療制度に欠陥があるからだ」と指摘する。
北京市政府の公式データによると、2010年以降、約1000カ所に上る闇診療所を閉鎖してきたが、多くは閉鎖から数日後には営業を再開しているという」(ロイター同)
この2億3千万人の医療を受けられない底辺労働者層こそが、新型トリインフルの火薬庫なのです。
この階層を調査することなく、病院に入ることができる裕福な特権階層だけを調べて「ヒト・ヒト感染が確認できない」と言っているのが、今の中国当局とWHOです。
真に恐ろしいのは、この地下に潜っている悲惨な農民と民工階層なのです。この当局が公表しない彼らを切り捨てて、中国新型インフルエンザを語るべきではありません。
※参考文献 小室友香「民工の師弟教育について」
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コメント
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韓国南部の鴨でも出ちゃいましたねH5N1。
近い上に怖いですねぇ。全くシャレになりませんな。
政治的には色々とありますが、何も起こらないことを祈るのみです。
まあ、あの半島国家は…どうせ他国のせいにするのでしょうけどねえ。
投稿: 山形 | 2014年1月24日 (金) 14時14分