バイエタの炭酸ガス削減は机上の空論 ヒデミさんのコメントにお答えして
なるほど。「化石燃料からバイエタに乗り換えた分だけ、化石燃料の消費で増加する温暖化ガスが増加しなかった」ということですね。
私は何年か前に、バイエタを研究している農業総研の研究者と話したことがあるのですが、バイエタでも排気ガスには、通常の化石燃料と同じように二酸化炭素は含まれているのです。
ただ、バイエタ燃料を作る原料のトウモロコシやナタネ、サトウキビの生育過程で炭酸ガスを吸って育ちますから、それとオフセット(相殺)されるのではないかという考えです。
これをカーボン・ニュートラルと呼んでいます。
どうも環境業界にはオフセットとか、カーボン・ニュートラルとか横文字が多いようで、実は私、この手のCO2マイレージとか、バーチャルウォーターとかいう輸入流行思想には、あらかじめ眉に唾をつけてみることにしています。
さて、これはなんか変だと農業現場の住人の私は思いました。
この計算では、穀物の生育にかかる機械の排気、あるいは収穫・運搬のための排気などの付帯する副次的要因は捨象されているのです。トラクターやトラックは馬が引いているのかよ、というところです。
たとえば今ヨーロッパは、ナタネをバイエタ原料として大量にカナダから輸入していますが、それは石油を使った船舶でエンヤコラと太西洋を渡ってくるわけです。
これらをバイエタではいっさい「ないもの」として扱っています。おいおい、と思いませんか?
純粋にトウモロコシやナタネの生育時に吸う炭酸ガスしかカウントしていません。こういう発想を世の中では机上の空論と言います。
ちょうど原発が炭酸ガスゼロという場合、実はウランの採掘、運搬、燃料化,原発の建設や運営、そして廃炉作業にかかる排気ガスを考慮に入れていないのと一緒です。
原子力といえば、原発が廃炉や使用済み燃料の処理といったバックエンドに膨大なコストがかかります。
発電コストばかりみているとわからなかった問題ですね。バイエタにもこのバックエンド問題があるんですよ。
バイエタ原料の炭酸ガスを見たいのなら 、このいわばバックエンドにあたるライフサイクル全体でどれだけの炭酸ガスを出しているのかを考えねばなりません。
ですから、種子を蒔くところから始まって生育、収穫、運搬、燃料化、車両走行まで一貫してその「生涯」のスパンで見ないとダメなのです。
カーボンニュートラルという思いつきは、この一部の「生育」という炭酸ガスを吸収する都合のいい部分のみを取り出しているからおかしくなります。
それはどこかの頭のいい人が考えたレトリック、いやトリックだと思います。第一、バイエタ車も二酸化炭素を出して走っているのですから、現実はなにも変わっちゃいません。
穀物の国際市場価格はなにが変動原因かちょっと考えてみましょう。世界の穀倉の米国やウクライナの収量?それとも中国のバカ食い?
たしかにそれもあるのですが、実態は原油価格です。穀物相場は原油価格が上昇すると、ガソリンの価格が上昇し、そしてバイエタが上昇します。 (下図参照)
(グラフ 九州大学大学院農学研究院伊東正一教授による)
上のグラフを見ると、原油価格と穀物価格がパラレルに上昇しているのがわかります。
それはヘッジファンド(投機資金)のハゲタカ共が、それを見越してバイエタの源材料となるトウモロコシにまでホットマネーを注ぎ込んだ結果、トウモロコシ価格が上昇していったからです。
そしてトウモロコシが上昇すると、 他の穀物相場の大豆、小麦、コメなどにまで波及して穀物相場全体が原油高騰と並行して上昇していきます。
これが世界の食料事情に悪い影響を与えます。
トウモロコシを餌とする先進国の畜産価格、小麦などの高騰、そしてもっともしわ寄せを喰うのは貧困国における穀物価格の上昇です。
チュニジア、エジプトのジャスミン革命の背景には、この穀物相場の上昇がありました。風が吹くと桶屋がもうかるではありませんが、世界的飢餓の大きな原因がバイエタにあるのは確かです。
まったくとんでもない「地球にやさしい」もあったもんです。
*関連過去ログhttp://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-e331.html
ブラジルではバイエタ生産のためにアマゾンの熱帯雨林を伐採したり、米国ではオガララ帯水層を強制灌漑したために水位が低下してしまいました。これについては後の回で詳しく書きます。
このようなバイエタ栽培のための開発は、それから生じる炭酸ガスだけではなく、熱帯雨林というかけがいのない「地球の酸素の心臓」を痛めつけています。
しかし、私は矛盾して聞こえるかもしれませんが、バイエタは今後もっと研究していかねばならない大事な技術だと思っています。
というのは、地球が温暖化するにせよ、寒冷化するにせよ、石油などの化石燃料は大事に細く長く使わねばならないからです。
これは地球が寒冷化すると仮定した場合(私はそれに一票入れますが)、温暖化以上に人類の死活問題です。
仮に寒冷期が来たら、あらゆるエネルギー源を総動員せねばならなくなります。同時に節減の技術も極めて重要になります。それは温暖化の比ではありません。
ですから、石油の使用削減というポリシーそのものは間違っていないのです。ただし、方法論が間違っています。
バイエタは、要するにエタノール発酵抽出発技術です。 なにも人間や家畜が喰えるものから作る必要などまったくないのです。
バイエタは人間の食と競合するものから作るべきではなく、廃棄物から取り出すべきです。
なぜなら、食と競合しないのはもちろんですが、廃棄物は無尽蔵だからです。廃棄物をただ燃やしてオシマイなのはあまりに能がなさ過ぎます。
本来のバイエタは、人間が食べない木材チップや、都市ゴミ、食糧残滓から抽出されるべきです。
そうなった場合、バイエタ技術は21世紀の人類の友になるでしょう。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-8157.html
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