日米関係最悪シナリオ G2体制の悪夢
米国外交はゆっくりと、「もっとも重要な2カ国関係」(バイデン)、すなわちG2体制に向けて舵を切りつつあります。
このまま米国がG2に走った場合の最悪シナリオを考えてみることにします。
このG2にはいくつもの段階がありますが、おそらくその最終的な形態は、在日米軍は沖縄はおろか日本全土から撤収し、グアムの線まで後退します。
このラインを中国は「第2列島線」と呼び、伊豆諸島を起点として小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアへ至る線まで中国海軍を進出させることを目標にしています。
(図 右側の赤い線が第2列島線、左赤線が第1列島線 Wikipediaより)
同盟関係とは、ひとつの国とひとつの国(超大国)の外交路線の利害が一致した時のみ結ばれます。
日本にとって日米同盟は、米国という強大な後ろ楯を背景にして、基地を提供する代わりに他国を攻撃する能力のない軽武装(専守防衛)で独立を保つことが可能でした。
一方、米国にとっては、米国のプレゼンス(※1)の象徴である原子力空母を修理するドックは世界で4カ所しかありませんが、そのうち2カ所は米国内、そしてあとの2カ所は日本にのみに存在しています。
これは横須賀第6ドックと佐世保第4ドックですが、大和級巨大戦艦を建造したドックですので、米国外では日本にしか存在しません。
佐世保の艦船修理能力と電子関係のメンテナンス能力は、米国を凌ぐと言われ、米海軍は定期検査の時期になるとわざわざ第7艦隊に配転するほどです。
また、第7艦隊の補給を受け持つ弾薬貯蔵施設(秋月、広、川上、嘉手納)の貯蔵能力は実に12万トンを越えます。
あるいは、米国防総省が自ら「ペンタゴン最大のオイルターミナル」と呼んだのは、在日米軍燃料タンク施設(鶴見、佐世保、八戸)です。
鶴見は国防総省管内のうち米本土まで含めて第2位の備蓄量、第3位は佐世保で、八戸(航空燃料)と合わせると1107万バレルを備蓄しています。
これは米海軍最強の第7艦隊全体の10回分の満タン量に優に相当します。
米軍の唯一の国外に駐留する緊急展開部隊(第3海兵遠征軍)は沖縄にあります。
このようにわが国は米軍、なかでも米海軍の補給-修理の海外軍事インフラを一手に引き受けているのです。
このような存在を米国は日本以外に持ちません。つまり米国は日本なくしては世界戦略が遂行できないのです。
米国が日本を、「世界でもっと重要な同盟国」(米議会調査局)と呼ぶのはあながちお世辞ではありません。
よく米国人には往々「日本を守ってやってやる」という者がいますし、日本側にも「守ってもらっている」と卑下する者が多いのですが、それはこの日米の利害関係がイーブンなことを知らないからです。
しかし、あくまでもこのような関係は同盟関係があればこその話にすぎません。これがG2(米中2国支配体制)となれば安保条約は自動的に解消されることになります。
わが国にとって中国と蜜月になった米国に基地を提供する利害はありませんし、米国もまた覇権国家てあることを止めて孤立主義に回帰しているはずです。
第7艦隊は原潜部隊を除いてハワイまで撤収し、替わって南シナ海、インド洋、東シナ海、日本海、そして太平洋はグアムの線まで中国艦隊が進出します。
かくしてわが国のシーレーンは中国によって完全に押えられ、日本は「中国の海」に浮かぶ孤島となります。
わが国民は中華帝国の冊封国になる気持ちはないはずですから、自由主義国として生き残りたいのであれば、単独で自主防衛の飛躍的増強に迫られることになります。
もっともそのとき日本政府が、不幸にして鳩山・管政権のような存在であったなら、わが国は主権のすべてを喜んで差し出し、すんなりと冊封国として中国に編入されるでしょうが。
日本は今までの日米安保を軸にした軽武装と専守防衛ドクトリン(※2)を捨てざるをえません。
国際社会で類例を探すと、かつての「フランス型」になると思われます。
フランスは「米国はパリが核攻撃を受けても、ワシントンが核攻撃いを受ける危険がある以上、報復はしないだろう」という考えから、NATOを脱退して独自路線を取っています。(※2003年サルコジ政権時に再加盟しました)
具体的には、他国攻撃能力の獲得、それに伴う戦力投射手段(空母、戦略原潜など)の保持、そしてもちろん国軍化とワッセットになった憲法改正がなされるはずです。
そして最終的には米国の核の傘がない以上、独自核武装も視野に入れざるをえなくなります。
フランスの軍事予算は対GDP比率で2.3%ですから、今の日本は現在の0.9%をその水準まで倍加させることになります。※http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/list_of_countries_by_military_expenditures.html
このシナリオは戦前の昭和10年代に酷似しています。私はこの道に日本が踏み込まないことを心底願います。
わが国が国際社会の健全な一員として集団的自衛権を持ち、憲法改正に臨むというのならば、議論を深めた上でという条件つきで賛成です。
しかし、国際社会、端的にいえば米中との緊張関係を伴う条件下でのそれは、まさにかつての悪夢の再来以外何者でもありません。
しかしオバマがG2政策の選択をしてしまい、東シナ海のみならず、太平洋の半分を中国に分割支配させるなどという政策変更をした場合、その可能性は否定できなくなるでしょう。
いきなりそのようなことになることはまずありえないと思いますが、常に米政権内の伏流としてG2という思想は存在していて、オバマもその考え方の持ち主だということを忘れず注意しておかねばなりません。
現実のオバマは、このオバマ-習会談時でそれをいったん拒否したものの、その後の日米関係の冷却に伴い、再び中国のG2論に乗るそぶりを見せているといったグレイゾーンの段階です。
オバマは中国膨張政策を抑止する伝統的抑止政策で進み「もっとも重要な同盟国」である日本を取るのか、あるいは米国の世界秩序維持のパートナーとして「もっとも重要な二国間関係」である中国と組んだほうが得策なのか決めかねて、その間を微妙に揺れ動いているのです。
オバマが強いリーダーシップを持つ大統領ならば、私たち日本人はなんの心配もいりませんが、彼が史上まれにみる意志薄弱、有言不実行の大統領だということを忘れてはなりません。
それにしても、あの大統領就任時の世界の期待が1世紀ほど前のセピア色に見えます。これほど世界と、米国民の期待を裏切った罪な男も珍しいのではないでしょうかね。
待てよ、なんか似た人物が日本にもいましたね。そうそうL・ハトヤマといったような。
もう一回続けます。
※1プレゼンス 存在。存在感。特に、軍隊・国家などがある 地域へ駐留・進出して軍事的、経済的に影響力をもつ存在であること。(goo辞書)
※2ドクトリン、政治や外交あるいは軍事等における基本原則(Wikipedia)
■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-8200.html
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※第2列島線(Wikipedia)
第二列島線は、伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインである。近年に至るまで、中華人民共和国の海洋調査は、第一列島線付近までに留まっていたが、このところは第二列島線付近でも調査を行っている。海洋調査は、他国の排他的経済水域内では行えないため、第二列島線付近にある沖ノ鳥島問題が持ち上がっている。
この第二列島線は、台湾有事の際に、中国海軍がアメリカ海軍の増援を阻止・妨害する海域と推定されている。中国海軍は、従来、沿岸海軍であったが、第二列島線まで進出することは即ち、外洋海軍への変革を目指していると考えられ、その動向が注目されている。
中国海軍は、第二列島線を2020年までに完成させ、2040-2050年までに西太平洋、インド洋で米海軍に対抗できる海軍を建設するとしている。
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