USTR 「オレは全部ノーだが、お前は全部イエスと言え」
ひさしぶりにTPPの報告です。わがブログの主要テーマのひとつだったのに、なぜこんなに間があいたのかといえば、それはゼンゼン進んでいないからです。
今シンガポール閣僚会合をしていますが、予想どおりピクリとも前進しません。 (欄外参照)
原因としては、米通商代表部(USTR)の通商代表がマイケル・フロマン氏に変わったことで、なんだTPPってこんなもんだったのかと各国にバレてしまったことが大きいですね。
なんせあの人、身体がレスラーばりのデカマッチョ。デカイのは身体ばかりじゃなくて、態度もデカイ。
米国民主党政権は、クリントン、オバマと二代続けて大統領からして弁護士。ファーストレディも弁護士。閣僚も弁護士だらけと、うっとおしいまでの弁護士政権です。
このフロマン氏は、シティグループの幹部からTPP交渉もかじった経験があるようです。
しかし、オバマ氏に選ばれた最大の理由は、なんと言っても ハーバード大学の同期て同業の弁護士だったことでしょう。
そんなバカな、米国は能力主義なのになんてナイーブに思われる方も多いでしょうが、オバマ氏の外交人選は情実と論功報償だらけで、米国議会から批判を浴びているのです。
キャロライン・ケネディ駐日大使も、外交はおろか政治の経験もなく、ただ大統領選時の強力なサポーターだったというだけの理由で日本に来ました。
もちろん彼女は、わが国の歴史も伝統もなにも知りません。沿岸イルカ漁の歴史も勉強せずに、こともあろうに環境テロリストのシーシェパードからの情報を鵜呑みにする人物のようてす。
そんな彼女に、ケネディ・ブランドの好きな日本人の多く「失望」しました。ちなみに、彼女も弁護士です。
あるいは、オバマ氏の大統領選に130万ドルかき集めたジョージ・ツニス氏は見事ノルウェイ大使になったのはいいのですが、就任早々言った台詞が「ノルウェイ大統領閣下」。
あの~すいません、ノルウェイには「大統領」はいないのですが。大統領とは元首のことで、ノルウェイの元首は国王です。
おいおい、そんなことも知らないで任地に来たのかいと内外からの爆笑に包まれています。
ハンガリー大使には、テレビでメロドラマを作っていたコリーン・ベル氏が任命されました。
この選任理由も多額の寄附をしたからだけというのですから、オバマ氏が外交をどう考えているのか察しがつくというものです。
今、東欧ではウクライナのように、ロシアとEUとの綱引きでたいへんに緊張した情勢なのですが、1月の上院外交委員会公聴会に出席したベル氏の、「米国にとってのハンガリーの戦略的な重要性はなんだと思うか」という質問に対しての答えがふるっています。
「ビジネスの機会を広げ、貿易を増すことが重要だ」。チャンチャン。
東欧が新たな火薬庫になろうとしている時に、火薬庫にビジネスチャンスを求めに行くとは、武器でも売りこむんでしょうか(苦笑)。
このUSTRのフロスマン通商代表も似たようなレベルのようです。彼にとって、オバマ氏が安倍氏と交わした「お互いに重要品目は尊重する」という首脳間の約束事はもう完全に忘却の彼方のようです。
このフロスマン新通商代表になって、彼が言い出したのは、「米国の関税は全部据え置く。日本は全部ゼロにしろ」です。
これでは交渉にすらなりません。日米とも関税撤廃には「聖域」があり、お互いにどこを譲るか、どのように交渉点を絞っていくか、お互いに国内への影響を減らせるのかがミソなはずで、初めから「お前は100%、オレは0%」では話にもなりません。バッカじゃないか、この人。
しかも、今TPPは完全に暗礁に乗り上げています。オージー・NZvs米国、米国vsASEAN、米国vs日本、日米vsその他全部といったバトルロイヤル状態になっており 妥結のめどはまったく読めなくなっています。
そんな時に、よりにもよって能が足りないデカマッチョを情実がらみで送り込んで、オバマ氏はTPPをどうする気なんでしょう。
さぞかし甘利TPP担当大臣は頭を抱えたと思われます。舌癌にもなるわけです。お気の毒に。
もちろんフロマン流「オレゼロ、お前100%」では交渉になりませんから、わが国交渉団は親切にも、「米国が日本車に課している2・5%の撤廃時期を示せば、農産品5項目の一部で代案を出す用意がある」と誘い水を向けたようです。
この日本側の譲歩とは、重要5品目の中であっても、例えば牛肉で一定枠の限定量の範囲内で関税引き下げに応じるという妥協策です。
本来は突っ放しておけばいいのに余計なことをと思いますが、日本は妥協の名人ですからね。
前にWTOでやったコメのMA米のようなやり方ですね。その代わり米国も少し自動車で譲って欲しいということです。
たとえば、自動車関税で、SUV車になんと未だ25%という法外な関税をかけています。
SUV車というのはスポーツ多目的車のことで、ジープ・グランドチェロキー、フォード・エクスペディションといった米車が日本で競争力を持つ数少ない分野です。
もちろん競争相手は多く、トヨタ・ランドクルーザー、英国ランドローバー・レンジローバー、独ベンツGLクラスなどの強力なライバルかひしめき合っています。
これらライバルに25%かけているのですから、米国っていつから発展途上国になったのでしょうね。
日本は自動車関税ゼロです。米国は輸送費を除けば、米国内と同額で日本で販売できるのです
それにもかかわらず米国車が売れないのは、単に米車が魅力ないだけではなく、日本で真面目に販売店網を作らず、したがって壊れてもアフターケアが貧弱であり、中古車市場にも無関心なために乗り換えもできない、といったナイナイ尽くしの理由があるからです。
だいたい右ハンドル車も生産停止にしておいて、なに言ってんのですか。
ところが、米国は自分の怠慢を棚に上げて、「日本の自動車市場は中世だ。貿易外障壁だ」とイチャモンをつけて、日本がこの「貿易外障壁」を撤廃しない限り、米国は自動車関税をびた一文譲らないというのが基本態度です。
米国は自動車関税を、「オートモービル」(automobile)と「ライト・トラック」(light truck)に分けていて、前者は2.5%、後者はいきなりのケタがひとつ多い25%です。
いかにライトトラックを保護したいのかわかります。
このライト・トラックの高関税は、50年前にヨーロッパの貿易戦争の結果だったようで、米国は、フランスと西ドイツが米国産チキンに高関税をかけたのに腹を立てて、報復関税としてライト・トラックに25%の関税をかけました。
チキン関税に自動車の関税報復という構図は今の日米関係と一緒で、米国がいかに農産物の輸出が重要なのか分かります。
これがそのまま残って、自動車業界と、米国民主党の支持基盤である全米自動車労組(UAW)の既得権益になったというわけです。
ですから、米国はこの25%のライトトラックの関税を撤廃することは100%ありません。
このような戦略なき強硬戦術という人物を大学の同窓のよしみで送り込んでくるというオバマ氏のセンスかわかりません。
勘ぐるとオバマ氏のことですから、「もうTPPなどお終いだ。悪いのは全部日本のせいにして名誉ある撤退だ」くらいに考えているのかもしれません。
もう少し続けます。
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■TPP閣僚会合 甘利氏「日米差埋まらず」 交渉長期化に危機感
産経新聞 2月23日(日)
【シンガポール=会田聡】22日にシンガポールで開幕した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合では、政治判断が必要な難航分野の論点を解決できるかが焦点になる。ただ、日米が対立する関税撤廃に加え、知的財産の保護、国有企業改革などの分野は米国と新興国の溝が依然埋まっていない。膠着(こうちゃく)状態を打開できなければ、妥結のメドが立たないまま交渉が長期化する“漂流”の恐れも出てくる。
12カ国はこの日の全体会合で、2国間協議を中心に議論を進めることで一致した。甘利明TPP担当相は同日夕、現地で米通商代表部(USTR)のフロマン代表と会談。米国が関税撤廃を求める日本の農産品の重要5分野の扱いなどを協議したが、「双方の立場の差は埋まっていない」と述べ、25日までの会合で再度会談する方針を示した。
12カ国が今回の会合で目指すのは、閣僚でしか解決できないような難航分野の「落としどころ」を見つけ出し、交渉官に詰めの作業の方向性を示すことだ。
そのために甘利氏は「各国とも柔軟に対応し、大きな方向性を見いだす」と述べた。この日は米国のほかマレーシア、ベトナムなどの担当閣僚と相次いで会談。他国の閣僚も同様に2国間の会談で歩み寄りの方策を探った。
ただ、各国の立場は依然として大きく開いている。関税と並ぶ難関の知財では、大手製薬企業を抱える米国が知財収入を増やすため、新薬の特許期間を延長するよう提案。これに対し、マレーシアが特許切れの安価なジェネリック医薬品(後発薬)への影響を懸念して反発している。
国有企業をめぐっては、米国や日本が民間企業の海外進出を妨げているとして、新興国に民営化や優遇措置撤廃などの改革を求める。だが、主要企業の約4割を政府系企業が占めるとされるマレーシアや、ベトナムが雇用などへの影響を理由に首を縦に振らない。
ほかにも公共事業の入札を扱う「政府調達」で日本が要求する市場開放に各国が難色を示すなど、「多くの未解決な懸案が残っている」(マレーシアのムスタパ貿易産業相)。
12カ国は今会合を「最後の閣僚会合」と位置付けるが、昨年12月の前回会合に続いて物別れに終われば「(妥結が)かなり先に行ってしまう」(甘利氏)と危機感を募らせている。
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TPP崩壊を待ってます
オバマ・アメリカの韓国化ですね
投稿: | 2014年3月13日 (木) 11時23分