プーチンをなぜ国際社会は止められないのか?
ウクライナ問題は米国にとって、後に米国盟主時代の終わりの始まり、あるいはグローバリズムからの逆流と記録されるでしょう。
かつての米国ならば、まちがいなく黒海が射程に入る海域に空母打撃群を急派したでしょう。いま地中海にようやく展開していまが、遅すぎます。
クリミアにロシア軍(ロシアは自警団といっていますが、もちんウソ)が入った時点で抜く手も見せず、空母打撃群の急派をせねば政治的に無意味です。
紛争当初オバマがしたのは、イージス艦を一隻だけを申し訳のように送っただけでした。
このような時期にこそ米国のプレゼンス(存在感)を見せつけるために、11ある空母打撃群を莫大な費用をかけて訓練し維持してきたわけで、政治・軍事的カードを遅れて出してはマヌケです。
これはオバマの弱さはいうまでもないことですが、もうひとつの要因は冷戦期にはなかった経済のグローバル化が陰を落しているからです。
今世界には、冷戦期のようにスッキリと対立する政治・経済ブロックに分かれていた時には存在しなかった、経済的な相互依存関係が強固に張りめぐらされています。
冷戦期のような軍事的パワー替わって、もうひとつの切り札として経済制裁というカードが重大な役割を持つようになっています。
たとえばイランへの経済制裁は、軍事力でなし遂げられなかった核開発を断念させつつあります。
それはイランが石油以外のカードを持たなかったために、経済的疲弊が極点に達したからです。
しかし、イランへの経済制裁はもうひとつの副次的効果を与えました。
皮肉にもイランの制裁による天然ガスの供給の穴は既にロシアが埋めており、ロシアはそのことで欧州市場に強い経済関係を築くことに成功しました。
ロシアは欧州に対して、かつて実際にやったようにパイプラインを締めるぞという恫喝をかけられる立場になると同時に、自らも重要な販路を失うという経済的返り血を浴びる立場にもなったわけです。
一方、欧米も経済制裁のカードをちらつかせながらも、EUの中軸であるドイツは自らのエネルギー源の3割という圧倒的シェアを握るロシアに対して軍事制裁はいうに及ばず、経済制裁すらもできない立場になりました。
かつての1956年のハンガリー動乱でも、米国はヨーロッパに介入できませんでした。それは第3次世界大戦を恐れたからです。
ましていまは単独でヨーロッパの紛争に軍事力を行使することなどは不可能です。
あえてあるとすれば、セルビアに対して実施したようなNATOとの共同作戦ですが、それすらもできない以上、米空母はペーパータイガーだということをプーチンに見破られたことになります。
つまり、プーチンはそのような経済の相互関係が支配する今の国際情勢で勝てるという判断の下に、危ないウクライナ・チキンゲームに出たことになります。
しかし、プーチンはこの「勝利」が危うい均衡に立つことを知っているはずです。
もし、現実にロシアがウクライナ領に軍事侵攻すれば、NATOも動かざるをえないかもしれません。(微妙ですが)
プーチンは、ウクライナ現政権に対して経済的、政治的締めつけはしても、クリミア自治政府の独立をもって落し所とするはずです。
ロシアに編入まですることは、この危うい均衡を破ることになるので、構えだけ見せて実際はしないのではないでしょうか。
ロシアは、親欧米派のウクライナ暫定政権発足を受けて、昨年末に約束した150億ドルの対ウクライナ金融支援を30億ドル実行済みの段階で凍結しています。
また、ロシア産天然ガスのウクライナへの供給価格の割引を停止し、天然ガス代金15億ドルを滞納していることを理由に、ウクライナ向け天然ガス供給を停止する構えも見せています。
今後、ウクライナに対してはロシア系住民が多く住む東部の状況をにらみながら、この2枚のカードを繰り出してくると考えられます。
ただし、ウクライナへの天然ガス供給を止めると、その先の欧州各国への供給も止まるために、そこまでやるかどうかは不透明です。
欧米諸国の資本流出や制裁措置によってロシア経済は既に為替の暴落などの悪影響が出ていることからみても、そこまではやらないと思われます。
さて最大の敗者は言うまでもなく、米国です。今回のオバマの弱腰によって米国は、経済制裁はできない、かといって軍事制裁などは話の外という徹底した弱体ぶりを世界中に印象づけたはずです。
これほどまでに米国がひ弱く見えたのは、戦後始めてではなかっのでしょうか。これを見て、米国が結ぶ多くの同盟関係は一斉に揺れ動くことでしょう。
さて、これを興味深々で見ていたのが中国です。中国は、この顛末を見るなり、いままでのあいまいな立場から、プーチン支持に回りました。
しっかりオバマは、プーチンだけではなく中国にも足元を読まれてしまったことになります。
中国は、経済的依存性によって米国ができることが少ないことを見てとったはずです。
長くなりましたので、もう一回続けます。
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■プーチン露大統領は来週決断
ブルームバーグ2014.03.15
ケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相は14日、ロンドンで6時間にわたり会談したが、ウクライナをめぐる対立の打開には至らなかった。ウクライナ南部のクリミア半島はロシアへの帰属替えの是非を問う住民投票を16日に予定している。
ケリー長官が会談後の記者会見で述べたところによると、プーチン露大統領は「日曜の住民投票が終了するまではウクライナについて何も決断を下さない」。ラブロフ外相は別の記者会見で、ロシアは住民投票で示される「クリミア住民の意思を尊重する」と言明した。危機解決について「共通のビジョンがない」とも述べた。
米国と欧州連合(EU)は制裁をちらつかせ、クリミア併合を思いとどまるようロシアに迫っている。ウクライナ政府によればロシアは南部クリミアを掌握し、ロシア・ウクライナ国境の兵力を増強している。エストニアの国防相はこの日、ロシアがウクライナ東部に侵攻する準備を整えていると訴えた。
ケリー長官は、ロシアが方向を変えなければ相応の「結果」に直面すると繰り返し、ウクライナにおけるロシアの「合法的な権利」を守るより良い方法があると説いた。
ラブロフ外相は、ウクライナ東部で13日に起こり犠牲者を出した親ロシアと反ロシアのデモ隊の衝突に怒りを表明した。その上で、ロシアはウクライナ東部を「侵略する計画はない」と言明した。
ホワイトハウスのカーニー報道官はワシントンで、「ロシアが緊張緩和を選択するという状況にならなかった」ことは「遺憾だ」と述べ、米国はクリミアの住民投票が「実施された場合に対応する用意がある」と記者団に言明した。
ケリー長官は、クリミア半島および国境地帯へのロシア軍の配備を米国は深く憂慮しているとし、軍の行動を凍結すれば外交努力の時間が得られると強調。「言葉よりも行動を」と呼び掛けた。
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代金不払いを理由にロシアがウクライナへのガス分を減らしてガスを送った。ところがウクライナがガスを取り続けたために、EUでは受け取れるガスが減ってしまった、という記憶があります。間違ってるかもしれませんが。
プーチン大統領としてはべつにEUを痛めつけるつもりはなかったような。ウクライナは今もガス代金を払ってませんが、ガスはとり続けてるんでしょうね。代金は払ってないけどいいよね、というウクライナの甘えた態度は問題でしょう。特別の配慮とか言うならロシアの言うことも聞かないといけません。無責任だと思います。
投稿: koku | 2014年3月18日 (火) 05時40分