ウクライナの先に尖閣が見える
ポスト・ウクライナという情勢が既に生れつつあります。
冷戦後、米国一極盟主型になったように見えた世界構造が、大きく流動していくのではないかという予感がしています。この変化は思いの外急速に進むかもしれません。
その大きな衝撃的きっかけをつくったのはプーチンでした。プーチンは冷徹な眼でいまのEUと米国の弱点を見抜きました。
彼らは一見強い軍事力と経済力を持っていても、それを経済的相互依存関係が強い場合、制裁に使用できないのです。
オバマは、プーチンとの電話会談で、ロシアとの貿易・投資を凍結や、ロシアをG8(主要8カ国)メンバーからはずすなどといったようですが、せいぜいできるのはG8からの排除ていど。
貿易・投資制限などヨーロッパの反対でできるはずもありません。
もちろん、戦後世界の戦勝国の集まりにすぎない国連は、ロシアの拒否権で一切機能しません。
では独自にEU・NATOが制裁できるかといえば、ドイツのようにエネルギー源の3割までもが当事国のロシアに握られていては不可能です。
ロシアが制裁の報復に天然ガスのコックを締めたら、今の脱原発による薄いエネルギー供給体制では、ドイツ経済は1か月たたずに崩壊します。(欄外参照)
おそらくロシアが制裁報復を宣言しただけで、ユーロの為替は暴落することでしょう。
つまり、プーチンはいくつかの強い立場を持っていてこのウクライナ紛争に臨んだことがわかります。
①米国は軍事制裁できない。
②ヨーロッパのエネルギー源を握っていることで、強い経済の相互依存性を持っていることによって制裁を回避可能である。
③国連常任理事国はロシアの拒否権行使で無力化できる。
さらにもうひとつつけ加えるなら
④当事国のウクライナは経済が弱体化し、政治的にも分裂していたために、EU寄りの現政権の先行きは脆弱で、時間をかければ元のロシア寄りに引き戻せる。
ウクライナはリーマンショック以降、極度の経済破綻を起こしていました。
ウクライナは潜在的に大きな工業力と、農業も高い穀物生産を持つ国にもかかわらず、経済運営の失敗と、国論の二分化、エネルギーをロシアに握られることによって、いまや国土が分断される危機に立ち至っています。
このことはわが国も他山の石とすべきでしょう。
ところで、このプーチン・ロシアに近い立場の国が世界にもうひとつあるのを思い出されたでしょうか。
そうです、あの迷惑な隣国わが中国です。
かの国は、プーチン・ロシアの持つ②③を兼ね備えており、相手国が④のような場合、①の可能性さえなければ、国際世論など無視できることを発見したはずです。
では、プーチン・ロシアを中国の立場に置き換えてみましょう。
中国が尖閣や南シナ海でプーチン的膨張政策を取った場合、米国はどう出るでしょうか?
米国はプーチンにも言ったように、「確定された国境線の変更は許さない」とか「代償を受けることになる」「航海の自由に対する挑戦」といった口先の批判は国務省あたりがするでしょう。
そして経済制裁もちらつかせるでしょうが、もちろんできません。米国経済のサプライチェーンが既に中国に大きく依存してしまっているからです。
「たかだかアジア」のことで経済制裁することによって、「メイドイン・チャイナ」の米国製品が輸出不可能になることは、米国経済界が許さないはずです。
農業界も、聞いたこともない「岩礁」をめぐる紛争ごときで、穀物の最大の買い手の中国に制裁するなんてとんでもないと叫ぶでしょう。
米国ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストであるマイケル・オースリンは、こう述べています。
「米アップルのiPhoneが中国で組み立てられていること、中国政府と日本政府で2兆ドル近い米国債を保有していることは誰もが知っている。
それでも平均的な米国民は、アジアの安定と平和を維持するために米国人が血を流す価値はない、米国政府が継続的に防衛予算を割く価値すらないかもしれないと考えている。日本や韓国といった豊かな同盟国がどうしてもっと大きな役割を果たさないのかと疑問に感じている。
遠くの海にある岩礁をめぐって戦闘するという考えを受け入れることができないのである。」
http://military38.com/archives/30289016.html
オバマは、自身の選挙公約に「米国の青年の血を一滴も流さない」と言って当選した男ですが、まさにその公約どおり、オバマは国防費を大幅削減し、米軍は通常訓練すらままならぬ状態に陥っています。
自慢の空母打撃群も、このままの状況が推移すれば、「11隻のうち3隻を運用停止にせねばならない」とヘーゲル国防長官は発言しています。
オバマは「アジア・ピボット」(アジアへの戦略的回帰)を唱えましたが、実態はゼロです。
カトリーナ・マクファーランド国防総省次官補は、3月4日、米バージニア州アーリントンで開かれた国防関係の会議に出席し、こう述べています。
「いま、(米軍によるアジア重視路線は)見直しの対象になっている。率直にいって、もう実行できないからだ」 (日経新聞3月14日)
ウクライナが沖縄に見えてきます。
中国の尖閣進攻が開始されても、沖縄の第3海兵師団は待機のままでしょう。
米海軍も尖閣に五星紅旗が翻ろうが、南シナ海が中国の海になろうが、「沈黙の艦隊」を貫くと思われます。
ただし、いちおう米軍が「いる」ということは魔除けのイワシの頭ていどにはなりますから、今は日米安保を焦って解消に走らないほうがいいと思います。
ただし、あくまでも魔よけ程度の御利益しかないことは心に留めておいたほうがいいのかもしれません。
そう考えてくると米国がなぜあれほどまでに、安倍に対して靖国参拝や歴史問題などに「失望」し、強く自制を求めたのか理由がわかってきます。
単なる歴史観の米中韓の共有だけでは説明がつきません。
米国がわが国領土に対して、中国の軍事侵攻を傍観し、その結果わが国の領土が失われる、あるいは防衛できても大きな損害を出した場合、もはや日米同盟の価値はかぎりなく意味を失います。
結果、日米同盟解消というシナリオが現実味を帯びます。
その場合米国にとっての最悪シナリオは、太平洋に核武装能力を持ち、世界第3位の経済力と技術力を備え、そしてなによりかつて米海軍と死闘を演じた世界唯一の国、すなわち日本が再び「潜在的敵」として登場することです。
言うまでもなく、そうなることは米国の国益に大きく反します。米国はこのような事態はなんとしても避けねばならないわけです。
そのためには「米国が日本のために戦えない」ということを日本に分からせてはならないのです。
したがって、米国の国益は、日中の緊張緩和にあるとオバマは考えています。
このプーチンが引き起こしたウクライナ紛争によって新たな時代が生れようとしています。
それは米国の経済力と軍事力によって担保された一極平和の時代が終りに向かい、替わってむき出しの国家利害と国家利害のぶつかり合う「ネオ帝国主義の時代」にです。
時針の針は、不幸にも100年前の第1次大戦前に巻き戻ったのかもしれません。
核軍縮を唱え、ノーベル平和賞を得たオバマが作り出した世界が、「ネオ帝国主義の時代」だったとは、なんとも皮肉が効きすぎている話ではないですか。
わが国は、当分の間は日米同盟強化を堅持するとしても、いつプーチン化するかわからない中国を前にして、それに対応する知恵が必要とされる時代を迎えたようです。
ウクライナが尖閣にならないようにせねばなりません。
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■クリミア、ロシア編入賛成93% 出口調査
時事3月17日
【シンフェロポリ(ウクライナ)時事】ロシアが掌握したウクライナ南部クリミア半島で実施されたロシアへの編入の是非を問う住民投票は16日夜(日本時間17日未明)、投票が締め切られ、出口調査によると、ロシア編入賛成が93%に上り、承認される見込みとなった。
■露政府、最強の武器は年間16兆円のエネルギー輸出-制裁対抗
ブルームバーグ 3月17日
クリミア自治共和国がウクライナからロシアへの帰属替えを選んだ16日の住民投票結果を受け、米国と欧州はロシアに対しクリミアを編入しないよう警告した。欧州連合(EU)は17日、ロシアとクリミア、元ウクライナ当局者ら21人を対象に資産凍結と査証発給禁止の措置を決め、オバマ米大統領はロシア政府関係者7人に対する制裁を発動した。
世界最大の石油生産国であるロシアの原油、燃料、ガスをベースとする工業用原材料の欧州と米国への輸出額は2012年に約1600億ドル相当に上った。カナダのカールトン大学の欧州・ロシア・ユーラシア研究所のディレクター、ジェフ・サハデオ氏は、ロシアのエネルギー輸出を止めれば同国政府が必要とする外貨の流入が落ち込むが、欧州の消費者が払う代償も極めて高い上にプーチン大統領の方針転換にはつながらないかもしれないと指摘する。
サハデオ氏はオタワからの電話インタビューで「短期的にはこの方法を取るのは非常に困難であり、ロシアの行動に影響を及ぼすかどうかさえも不明だ」と指摘。欧米諸国が「エネルギー関連の制裁を選択すれば、どの国が最初にそれを無視するかという問題になる」と述べた。
原題:Russia’s $160 Billion Energy Stick Hinders CrimeanSanctions (2)(抜粋)
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「核兵器廃絶を」と演説しただけで、ノーベル平和賞を受賞したバラク・オバマが、
今や、全面戦争を防ぐには「核兵器しかない」という、トルーマンばりの自国の核信奉者になってるような気がしてなりません。
北朝鮮のミサイルがアメリカ全土に脅威を与える事態(たぶん、そう遠い未来ではないでしょう)に、なった場合、確証破壊戦術でもやる気ですかね。
その対策としてのBMDなんですが、間に合うのか?
そして背後には中共がいて、さらに本来の仇敵だったロシアとNPT非加盟のインドやパキスタンがいるんですが、どうするんでしょうね。
米国やEUも、ロシア高官の資産凍結程度しか有効な制裁は出来てませんし、
地中海にようやく展開した空母の無人偵察機なんか、見事にスプーフィングされて、去年のイラン同様に滷穫されたようですし。
いったいどうすんのよ!と。
日本の守りもどうすんだよ!と。
投稿: 山形 | 2014年3月18日 (火) 14時27分