ウクライナ紛争その6 ウクライナの不完全燃焼的精神とIMF指令
ウクライナ紛争を眺めていると、当事者のウクライナの国としてのひ弱さを感じてしまいます。
ウクライナさん、一体なにをどうしたいのだ、どういう国を作りたいのだという感じです。
そもそもウクライナの独立は、ウクライナ・ナショナリストの独立闘争によるものではなく、ソ連崩壊に伴ういわば棚ぼた式独立にすぎませんでした。
ラトビアなどのほうがはるかに激しい独立運動をしていて、それがソ連崩壊の口火になっています。
それに対して、ウクライナは気がついてみたら独立していていました、という感じで、旧ソ連の遺産である航空宇宙産業や艦船建造技術、そして艦船建造施設までごっそりと東ウクライナに残ってます。
よく勘違いされるのですが、旧ソ連は傘下の共和国を案外平等に扱っています。
欧米の植民地のような収奪はせずに、むしろ産業を拓殖していたわけです(ただしやり方は間違っていましたが)。
その恩恵をいちばん被ったのがウクライナでした。どこに植民地に最先端の航空宇宙産業を植えつける「宗主国」があるものですか。
「ソ連」という徹底して設計主義で作られた国には、宗主国と植民地という欧米的関係をあてはめられないのです。
ウクライナの先進工業技術や施設は、ロシアのそれと一体でこそ初めて意味があるもので、ウクライナの独力では発展させることはおろか、維持すらままならないものでした。
現に、それを支えてきたロシア人技術者は、独立後ロシアに多くが帰還してしまっています。
えてして棚ぼたの遺産をもらった者にありがちですが、どう相続したものを大きくしたいいのか分からないのです。
困ったウクライナは、投げ売りのようにしてスホーイ設計局(現在は株式会社)の傑作戦闘機を中国に叩き売って先進技術を流出させてしまい、ロシアを怒らせています。
中国に空母「遼寧」を売ったのもウクライナです。わが国にとっても大変迷惑なことをしてくれました。
鉄鋼業はウクライナ唯一の輸出産業ですが、哀しいかなソ連時代の旧式炉で生産効率が悪い上に、安い製品しかできません。
2000年前後の新興諸国の需要で景気がよかった時代が終わり、今やロシアへの輸出で細々と食っていような状態です。
あるいは、天然ガスパイプラインが自国を通っていることをいいことに、料金は踏み倒すわ、止められれば勝手にコックを開けて盗むわと、おおよそ一国がやることとは思えないことをしてきました。
そして前回ふれた旧共産党幹部による国有企業のハゲタカによる簒奪と独占です。こんなていたらくの結果、国家財政は傾いてデフォールト(債務不履行)寸前です。
必然的な結果だったと言っていいでしょう。ウクライナの外貨準備高は150億ドルで、対外債務の10分の1でしかありません。
最大の輸出国にして支援国のロシアが支えていなければ、とうにデフォールトしていたでしょう。
ウクライナの対外債務1500億ドルの1割にあたる150億ドルがロシアからのものです。
「今年中に返済期限が来る債務は100~120億ドルあるようで、6月末に大口の償還がある」(ニューズウィーク3月18日)といわれています。
それに対してEUからは110~130億ドルの支援約束、米国に至ってはしわいことに10億ドル約束ていどの援助しかありません。もちろんただの口約束にすぎません。
その上にウクライナには、18億5000万ドル分の天然ガスの不払いもありますので、ここでデフォールトされてしまうと、経済的に一番被害を被るのは他ならぬロシアということになります。
ロシアに言わせれば、「今までウクライナの苦しいところを支えていたのはオレたちだ。それを今さらEU加盟する、ふざけるな、後ろ足で泥をかけて欧米につくつもりか」というところでしょう。
そんなデフォールト前夜になって、今頃1周遅れの「独立闘争」を開始した勢力がありました。それがウクライナ・ネオナチの連中です。
彼らは、ロシアと戦って独立を勝ち取った経験を持たなかったために不完全燃焼でした。
親露派相手に「独立運動」をしてもしかたがないじゃないかと思うのですが、戦後まともな独立運動ができなかった屈折なのでしょう。
このへんの心理は、日本に対して独立運動をしたわけではなく敗戦による棚ぼたで独立したお隣の国の事情にやや似ています。
きちんと独力で闘い取った独立をしたインドやベトナムなどは、旧宗主国に対してあのようなおかしな心理にはなりません。
ついでに大国に挟まれた事大主義なところも似ています。地政学的にふたつの勢力がぶつかる地域は似たようになるものだとみえます。
そのコンプレックスを晴らすべく今になって暴力的クーデターを起こして、親露派のヤヌコビッチを追い出して政権にもぐり込みました。
しかし、このような無定見なクーデターをしでかす連中に、一国の運営などできるはずがありません。彼らは甘い見通しで欧米にすがりついただけだったにすぎません。
口悪く言えば、かつての宗主国のロシアから遺産相続を貰ったが食い潰しちまった。さぁこれからはしゃぶる相手は欧米様だ、というどころです。
彼らの中には、ウクライナという西欧とスラブがせめぎ合う地域を高く売りたいという意識があったことでしょう。
このように見てくると、私たち日本人は、ロシアから歴史的に圧迫を受けてきただけにウクライナに感情移入しやすいのですが、今回に関してはむしろロシアのほうが気の毒なくらいです。
さて、暫定政権のこんな甘い思惑とは別にIMFはいたって冷厳でした。IMFはウクライナ向けとして緊急支援枠として140億ドル~180億ドルを了承しました。
もちろんタダではありません。しっかり改革要求がついてきます。
財政の建て直しを名目とした緊縮財政です。
今まで2回のIMF支援策案は拒否されましたが、今回はウクライナも飲まざるをえなくなったようです。(欄外参照)
EUやIMF側は、ここでウクライナをデフォールトさせてしまうと、貸し込んでいるオーストリアやドイツの銀行まで連鎖させることになりますから、強力な圧力をかけたと思われます。
このためにロイター(3月27日)によれば、ウクライナ議会はIMF支援の受け皿として「危機対策法」を可決し、5割の補助を出していたガス料金補助を打ち切ることとなりました。国民からすれば、これは5割ものガス代値上げになります。
ウクライナは伝統的にガスによる集中暖房方式に頼っているために、このガス代値上げは国民の生活を直撃するはずです。
今年もヨーロッパ全域の寒波のために、ガス菅が破裂して事故が多発したそうですが、今年から寒波だけでなくガス代の大幅値上げまで心配せねばならなくなりました。
このガス代補助以外にも、ウクライナは元社会主義国家だけにいくつもの生活補助を持っていて(それがあるから平均月収3万円で暮らせるわけですが)、これに対してもバサバサ切られることになるはずです。
この低賃金と補助金カットに加えて、10%を越えるインフレが始まっており、ますます国民の生活は苦しくなる一方です。
5月の大統領選挙という天王山に向けて、「改革」を押しつけたい欧米と、受け入れたら国民からソッポを向かれて選挙に負けることがわかってきた暫定政権との綱引きとなります。
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■ウクライナ、ガス料金50%値上げへ
ウォールストリート・ジャーナル3月27日
ウクライナは家庭用ガス料金を5月1日から平均50%値上げする。インタファクス通信が26日、国営ナフトガス幹部の話として伝えた。必要な国際通貨基金(IMF)からの融資を確保したいウクライナ政府の思惑が背景にある。
報道によると、この高官は値上げについて、2018年までに「経済的に適切な」水準に料金を引き上げる計画の一環だと説明した。
また暖房料金も7月1日から40%値上げされる見通しだという。
ウクライナは消費者向け天然ガスに巨額の補助金を出しており、予算が大きく圧迫されている。IMFによるこれまでの2つのウクライナ支援策は、政府がガス料金の値上げを拒否したため、白紙に戻った。』
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強国(やその連合)に板挟みになるウクライナに同情したくなる気持ちも分からんではないのですが、今回はねえ。
いったい何処に向かいたいのよ!と。
独立はしたものの、これじゃなあ。20年も何をやってたの?
絶対に避けたい事態ですが、本気で東西で分けたほうが良いのではないかと思ったりしてしまいます。
お隣の半島ときたら…何言ってんでしょうね。「伊藤博文が植民地化の根源なのは常識であり、安重根こそ抵抗の英雄」なんて政府が言い出す始末です。
ちなみに半島は併合であって植民地になどしていませんし。
投稿: 山形 | 2014年3月31日 (月) 07時10分
教えていただきたいのですが、ウクライナという国の中に、クリミア自治共和国が、存在し、さらに、セバストポリ特別市とキエフ特別市が、存在していて、他のエリアは、各州に、分かれているようですが、社会主義国家、共産主義国家における、直括地と、内包国がある政治、経済国とは、どういう社会構造なのかが、自分では、理解できていません。
クリミア問題は、旧ソ連時代から、ずっと、政治的、軍事的、地勢学的に問題を、はらんでましたが、
実態が、つかめないばかりか、それぞれの自主権が、どうなっているのかが、自分には、理解できていません。
管理人さま、初め、みなさんの、やさしい解説があれば、理解しやすいのですが。。
ちなみに、中国は、4つの中央直轄地域(北京、重慶、天津、上海と、多様な民族、宗教による自治区が、非常に、たくさんありますよね。
例えば、モンゴル自治区だけでも、モンゴルと中国の万里の長城までの北部地域以外に、中国南部にも、モンゴル自治区が、いくつか点在していますよね。
また、深センのような、開発特区など、あって、実際、言葉、民族、習慣、言語など、全く違うのに、国連は、大陸全部を、1国と認めているようですよね。
台湾、香港、マカオなど、政治的にも、かなり遊離した地域が多いのに、1国なんですよね。
不思議な構造の国は、ヨーロッパ、ロシア、中国では、当たり前みたいですよね。
米国も、南部の州は、ほとんど、メキシコみたいな雰囲気なんですよね。
中国は、いつも、2重通訳で、なかなかコミュニケーションがとれませんよね。
北京語が、全く通じない地域が、多すぎます。
そういう地域(中国)では、お店の看板すら、北京語が、ありません。
4カ国語くらいで、店の屋号が書いてあるのですが、チベット語、アラビア語、など、北京語以外の言葉で、お店の屋号が、書いてあるところが、多いですね。
なかなか、理解不能な地域が、僻地には、多いですね。どなたか、やさしく解説していただけたら、ありがたいのですが。。。
投稿: りぼん。 | 2014年3月31日 (月) 19時43分
りぼんさん。私もよく分かりませんが、「特別市」は各国で位置づけが違うようです。
わが国の政令指定都市のような、県と同格のものもあれば、首都特別区もあります。
ロシアの場合ですが、おそらくですが、キエフはかつての共和国首都ということの特別市でしょう。
セバストポリに関してはわかりませんが、ソ連崩壊後ウクライナ領の飛び地で、しかも枢要な地域ですのでその扱になったのではないでしょうか。
できましたら、次回はテーマに則したご質問をお願いします。
投稿: 管理人 | 2014年4月 1日 (火) 10時57分