一ファンさんにお答えして 屈辱を忘れるな、そして聡くあれ
一ファンさん。過分なお言葉とご批判を頂戴いたしました。
私はわが国のねじれてしまった歴史が復元されるまで、かなりの時間と努力が必要だと思っています。
ねじれと言ったのは、戦前と戦後があたかも「違った国」であるかのような私たち日本人の中にある錯覚です。
そうではありません。その栄光も悲惨も含めてわが国はひとつの歴史軸の中を生きています。
あのドイツのように都合よく、「ヒットラーの時代」と戦前を切り捨て、その代償に勝者に向けて「戦後の顔」を取り繕うほどわが国は器用ではありません。
しかし、わが国もドイツを笑うわけにはいきません。
私たちの国は、わが国の精神的中心である「天皇」を護持できた代償として、占領軍である米国によって徹底的な改造を受けました。
それは社会構造のみならず精神にも及び、無味無臭な国家になりかかっていたようにも見えた時期があります。
今、私たちの国は、戦後実に70年近くに及ぶ放心状態から徐々に醒めようとしています。
それは冷戦期というある意味、米国側陣営に属してさえいれば何も考えずに済んだ思考停止の時代が終りを告げ、米国の歴史的没落によって起きるであろうありとあらゆる地殻変動に自前の答えを用意せねばならなくなったからです。
今私たち日本人は、自分たちの国は何者であったのか、そして何者として今後生きていくのかという本質的な問いを自らに問いかける時期なのだと思います。
「米国の没落」とひとことで言っても、19世紀の覇権国家であった英国がそうであったように、あるいは20世紀の旧ソ連の崩壊のように数十年規模でゆっくりとなされるものです。
米国はバラク・オバマという男によって、不幸にも覇権国家の崩壊過程に決定的に踏み込んだと見るべきです。
それは、戦後70年の長きに渡って作られてきたわが国の社会構造、産業構造、外交姿勢、そして国民の精神のあり方まで含めて自分を取り戻す時代にいやがおうでも来つつあることを示しています。
歴史認識ということは、実は今の自分たちの国柄を語ることです。
私たちの国が、中韓が口汚く罵るような醜悪極まりないような国家であったのか、あるいは、戦前期という時代を多くの失敗を重ねながらも泥だらけで生き抜こうとした涙ぐましいひとつの国だったのか、私たち日本人がしっかりと検証せねばならないことです。
それは日本を愛するということを大前提にして、是々非々で見ようとすることです。
そうすれば、戦前が「軍国主義国家だった」というような単純で乱暴な裁断はできなくなるでしょうし、逆に「栄光の大日本帝国」という自画自賛にも立てなくなるはずです。
さて、一ファンさんがおっしゃる無数の名もなき先祖たちの声は、靖国の杜に行くと誰しもが感じるでしょう。
私も毎年、父母の墓参りを兼ねて参拝しています。そして、この霊に対して恥ずかしくない生き方を私がしているのかを問うことにしています。
この「日本」という瑞穂の国を守るために死んでいった無数の人々の霊は、私の心の中心にいつもいます。
わが国は、これから覇権国家なき混沌状況の国際社会を生きていかねばなりません。その状況は、戦前の昭和10年代を彷彿とさせるものがあります。
その時必要なものは冷徹な現実感覚と国の芯です。
変わらない芯を持ちながら、いや持たねば柔軟に状況に対応できない難しい時代が始まっています。
私の青年時代のような安直に米国に頼ったり、逆に反米を掲げればすべてが解決する魔法は既にありません。
米国は一国孤立主義で充分にやっていける希有な国家です。彼らは今後、中国と組んでわが国を陥れることすら厭わないでしょう。
その予兆は、中国の防空識別圏や、靖国参拝に対する「失望」表明に現れています。彼ら米国は、確かにあの時私たちを裏切りました。
私たち日本人は、あの屈辱を忘れてはなりません。
どこの国に、名も知れぬジャングルで、インパールの山中で、レイテ島で、硫黄島で、沖縄で、広島で、東京で葬られることもなく死んでいった人々の霊に、国家指導者が手を合わせてはならない国があるというのですか!
ただし、この怒りは呑み込まねばなりません。なぜなら、日本人はナイーブであることは罪悪だと考えねばならない時代に突入しているからです。
あまりこのような大時代的な表現は使いたくないのですが、あえて言うなら、今この時期は「国難の時代」だからです。
慎重に米国のエゴの量を測定し、彼らのエゴを物柔らかに指摘し、わが国の国益が損なわれるようなことがあるなら倍返しで外交的「貸し」とすることです。
外交は端的に貸し借りです。
バイデンに制止された時、安倍さんの脳裏には中韓と国内しかなかったように見えます。
あの時、安倍さんは参拝を見合わせる代償として、米国が中韓と日本の間で姑息に中間的立場で乗り切ろうとすることに釘を刺し、同盟国としての責務を果たせと要求すべきでした。
参拝は日本人の心の問題ですが、同時に外交カードでもあるのです。
中韓は真の「敵」ではありません。彼ら、なかんずく中国に対しては最大限の警戒心を持たねばなりませんが、真に恐れるべきは彼らではありません。
わが国を世界で唯一単独で軍事占領できる国、あるいはグローバル資本の盟主は米国です。それを思い知ったのがかつての大戦であり、直近ではTPPだったはずです。
だからわが国は戦後、米国と軍事同盟を結び、あえてTPP交渉に加盟するリスクを取ったのではなかったのでしょうか。(ただし私はTPP参加自体に反対ですが)
潜在的に最大の「敵」は米国であることを忘れてはなりません。
バラク・オバマ風に言うなら、「同盟国。そして最大の潜在的敵」が米国なのです。
しかし、いやむしろそれが故にというべきでょうか、将来は別にして(不幸にもその時期が来る予感がしますが)、今は米国との同盟を維持し、むしろ強固にしていくことがこの時期の日本の国益です。
初めに私は「ねじれてしまった歴史が復元されるまで、かなりの時間と努力が必要」と書きました。
それは「この屈辱を忘れるな、そして聡くあれ」という意味です。
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コメント
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経済的に没落して小国の悲哀を感じるようになるまで自虐的な歴史観をに決別し、これからの日本人としてのあり方を各人が真剣に考えるに至らないのかも知れません。
それよりもなによりも、シードビジネス、遺伝子組み換え作物、ニコチノイド系農薬などで、日本の農業が近い将来行き詰まらないかどうかが心配です。
ピントがはずれたコメントですみませんが、原発・基地・領土・靖国問題と同等か同等以上に、深く静かに潜行している農の問題提起をお願いします。
投稿: ブログファン | 2014年3月 7日 (金) 14時13分
先日より拝見させて頂いています。takameと申します。管理人様の農業を愛する心と冷静な国内・国際政治への考察に心惹かれました。
こちらを訪れるまで、増長する中国、環太平洋安全保障を担う同盟国日本を冷遇する米国民主党政権にただ憤りを覚えるだけでした。その背景を考えもせず恥ずかしいばかりです。
私も、靖国神社へ日本の国家指導者が参拝する事を非難する国々に対し強い怒りをいまだ持っています。しかし、戦後国内における過去の清算やコンセンサス形成、海外での理解の獲得を長年怠っていたのも私たち日本人です。第二次大戦前のように国際的に孤立し国益を損なえば、それこそ戦没者の方々や戦後復興に尽力された先人達に申し訳ないと思うようになりました。今こそ「耐えがたきを耐え、忍び難きを忍ぶ」時なのでしょうか
投稿: takame | 2014年3月 7日 (金) 18時33分
いつも高い視野からの冷静で深いお話をありがとうございます。
毎日楽しみに拝読しております。私も茨城在住ですが、原発問題やTPPなど、反対一辺倒&賛成一辺倒ではない、現実的な視野からの情報に飢えています。
沖縄の友人に、こちらのブログを紹介しましたら、すごく分かりやすいと喜んでいました。
今日のエントリも、大変深いところで共感する内容でした。ありがとうございました。
今後とも、ますますのご活躍をお祈りいたします。
投稿: QIP | 2014年3月 8日 (土) 12時22分
世界では、宗教の違いと言う、言い訳を使い、内戦に、明け暮れる国が、とても多いのですが、「日本仏教」においては、歎異抄にもあるように、故人になってしまった者を、いくら極悪人であろうと、供養に差別をつけないと言う文化を持った国です。
インド仏教や中国仏教、そして、朝鮮半島での百済仏教とも異なり、独自の宗教感を、持っています。
一方的に、A級とかC級とか、つけられた、GHQによる軍事東京裁判の判決などは、それを、受け入れない限り、無条件降伏には、なりませんから、うけいれざるを得なかったのだと、思います。
中国が、言い張る、南京大虐殺については、1937年から1945年まで、南京攻撃にたずさわった日本陸軍は、会津若松65聯隊、奈良38連隊、津33連隊、京都9連隊、福知山20連隊、富山35連隊、金沢7連隊、鯖江36連隊、敦賀19連隊、岐阜68連隊、前橋128連隊、宇都宮127旅団、熊本13連隊、大分47連隊、都城23連隊、鹿児島45連隊、福山41連隊が、中国軍と戦ったように思います。
大虐殺が、あったのかどうかは、戦後生まれの私には、わかりませんが、今これらの部隊から無事帰国できた人に、本当のことを聞きだすことが、できれば、その断片的情報を、分析すれば、ある程度の真相は、解るかもしれません。
おやじも、多分、そこに、参加していたと思いますが、大大砲部隊でしたので、城壁内までは、入っていないと思えますので、城壁内で、起きたことは、正直、解りません。
ただ、戦争後半は、すべて日本軍の打電は、解読されていたので、少なくとも、満州から、南下した部隊は、ソビエト、モンゴル合同軍に、だまされて、南進したようです。
それらも、イギリス、チャーチルと米国大統領の情報戦に、だまされた部分も、あるとは、思ってますが、今となっては、故人が多いので、わからないことだらけでは、あります。
戦争の真実については、平成生まれの日本人に、説明するのは、なかなか難しいものを感じます。
今の状態は、あまり良い状態、外交関係では、ないように、思いますね。
本文と関係ない話かもしれませんが、やはり米国との同盟関係を続けるなら、日本人が、納得でき、理解できる歴史感であっても、独立国であるなら、やむを得ないと個人的には、思います。
投稿: りぼん。 | 2014年3月11日 (火) 18時40分