ウクライナ紛争その1 米国の弱腰とロシアの強気
玄人の方も大分読み間違ったようですが、プーチンがクリミア編入まで一気に走ってしまいました。
時間を置くことの膠着状況を嫌ったのでしょうが、徹底的にプーチンにオバマがなめられたということです。ここまでくると政治家としての格が違うというかんじまで受けてしまいます。
オバマとケリーは、「世界の警察官を止める」という宣言どおり、ウクライナ紛争においても早々と軍事的手段による抑止を捨ててしまいました。(欄外参照)
オバマが断固たる経済制裁と言っていたので、ガスプロム((GAZPMM・露大手石油会社)の資産凍結くらいするのかと思っていましたが、なんと30人くらいの政府高官の在米資産凍結程度ですから、もう何もしないほうがマシというものです。
欧州のメディアからも、「子供の風呂桶に浮かぶプラスチック製のワニ」とか、「海外に口座など保有しない2級政治家の資産をどのようにして凍結できるんだ」と嘲笑されている始末です。
逆にロシアが報復制裁として、かねてからガスプロムが警告していたとおりに、ウクライナへの料金未払い(溜めも溜めたり、18億5000万ドル!)に対して供給停止するほうが、よほど衝撃的効果を生むでしょう。
(図 ヨーロッパとロシアを結ぶ天然ガスパイプライン網 ロイター3月4日より)
それはさておき、EUの消費する天然ガスの25%はロシア・ガスプロムから供給を受けており、その8割がウクライナを通過します。
ちなみに、ウクライナは確信犯的代金不払いと、違法な抜き取りなどの常習犯で、かつて供給停止を受けています。
まぁ、止められても素知らぬ顔でまた抜き取っていたんですが(笑)。
よく大国ロシアが、小国ウクライナをいじめてガスを止めたという言い方をされますが、この場合、それではロシアが可哀相です。
メルケルは制裁を口にしていますが、ここまでエネルギー源を握られては無理です。
天然ガスは、LPG(液化天然ガス)と違って安価である代わりに代替が効かず、LPGなら、「わかった、別の国から運ぼう」で済むのですが、パイプライン供給のためにどうしようもないわけです。
そのヨーロッパ向け供給の3分の1がウクライナを経由ですから、ロシア軍がクリミア半島を制圧しただけで、先行き不安から欧州の天然ガス相場が10%急騰したそうです。
「欧州の各国政府や発電会社は、アゼルバイジャンと結ぶ天然ガスパイプライン、中東やアフリカ、北米などからの液化天然ガス(LNG)輸入などのプロジェクトに数十億ドルを投じてきた。
米国からの輸出開始は2015年以降、東地中海や東アフリカからの輸出は20年ごろ以降となりそうで、ロシア産に代わる供給元の確保は遅々として進まないだろう。また量的に見ても、ロシア産の輸入を大幅に減らすには不十分だろう。」(ロイター3月4日)
その意味で、EUとロシアは強い経済的相互関係に結ばれていて、双方共に簡単に制裁・報復などできないのです。
もちろん力関係的に有利なのは言うまでもなくロシアで、ガスの圧力を下げるなどの方法でも譲歩を引き出せます。
今回の事態が続く限り国際天然ガス市場は高値に貼りつくでしょうから、その意味でもロシアのにんまりする顔が目に浮かびます。
米国ですら、シェールガスが実際にベース・エネルギー源になるまであと3年間はかかるとみられていて、ロシアが天然ガスの供給を止めた場合、原油価格の高騰を被ることは一緒です。
いうまでもなくわが国も被害を被ります。安倍首相は中韓を除いて国際協調の人ですからロシアへの制裁を口にしていますが(たぶん内容は事前通告済み)、せいぜいが査証( ビザ)発給要件緩和に関する協議を停止ていどです。
また、ロシアはイラン問題でも揺さぶり揺さぶりをかけています。
「ロシア・リャブコフ外務次官対米制裁を、米英ロなど6カ国とイランとの核協議に絡める可能性も示唆。核協議が失敗に終われば、対イラン政策で弱腰と批判されているオバマ政権が打撃を受ける可能性がある。」(ロイター3月19日)
オバマが、「軍事的手段はとらない」と早々に宣言したことが、ロシアのクリミア併合につながった最大の原因でした。
ロシアや中国のような「力による現状変更」を望む国にとって、オバマとケリーによって最良の国際環境を得たことになります。
以後、国際社会は超大国・米国の軍事的抑止という重しがはずれ、各国が好き勝手にエゴをぶつけ合って、その場その場で折り合っていく帝国主義の時代になったことになります。
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■米国、ウクライナで軍事行動に関与せず=オバマ大統領 サンディエゴのKNSDテレビとのインタビュー
ロイター2014年 03月 20日
[ワシントン 19日 ロイター] -オバマ米大統領は、米国がウクライナで軍事行動に関わることはないと発言、外交を通じてロシアとの対立を解消する意向を強調した。
大統領は「ウクライナで軍事行動に関わるつもりはない」と発言。「もっと良い道がある。ウクライナの人々でさえ、米国がロシアに軍事的に関与することは不適切で、ウクライナにとっても良いことではないと認めるのではないか」と述べた。
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いつも感心しながら拝見させてもらっています。
昨年、年末からオバマ大統領の外交方針に疑問を感じ、ネットでオバマの事を検索した際に、貴コメント「安部の外交リアリズムとオバマの敗北」を読み、その情報量と卓見に魅せられて、時々ホームページを覗かせてもらっています。
哲学の無い行き当たりばったりのオバマの外交政策は、口先だけで、しかも、味方に厳しく敵に優しい宥和主義ですから、サウジを始めとした同盟国が頭を抱え不信感を募らせるのもむべなるかなと思います。
今の中国は、はるか昔の秦の行った遠交近攻策と同じ事を現在やっていると思っていますから、日本としてもオバマの姿勢を見ている限り米国の傘を信用し切れない。
いずれ米国も今のオバマの撒き散らしたツケを支払わなければならない時が来るのだろうに、「早く目覚めて欲しいものだ」との思いを募らせております。
貴君の記事に敬意をこめて
愛読者より
投稿: たっつぁん | 2014年3月25日 (火) 00時41分