米国をG2論に走らせてはならない
前回オバマが「G2」(米中二大国)政策をとった場合の憂鬱な想像をしました。
その場合、日本が置かれた条件を思いつくままに上げればこのようなものです。
①人口1億2千万人、世界屈指の技術力をもつGDP世界3位規模の工業国である
②日米同盟崩壊によって、集団的防衛体制(日米安保、NATOなど)を持たない孤立した国家となる
③エネルギー自給率、食糧自給率共に低く、シーレーンによって輸入されている
④防衛力は中規模であり優秀であるが、専守防衛のみに偏っている
⑤MD(ミサイル防衛)はすでに持ち、潜在的核兵器開発能力を持つ
⑥憲法問題など多くの防衛関係の法整備が不十分である
以上のような国が、史上かつてない軍拡膨張し続ける中国との最前線に孤立して立たされるとした場合、かつてのフランスのような核武装と軍拡の選択をとらざるをえないと想像しました。
ただフランス型といっても、フランスのように海外植民地を持たないので、もっとコンパクトなものになるでしょう。
いずれにしても、この道は修羅の道です。できる限り回避せねばなりません。
ところで、現時点でオバマは外交に自信を失い、やることなすことすべて裏目裏目、内向的な政権運営になっています。
これにつけ込むように中国は、中華帝国再興の野望をもってオバマに取り入ろうとしています。
このようなG2へ転がり落ちる危険な時期にあたっていることを、日本は自覚しておかねばなりません。
今、日本が注意せねばならないのは、このようなオバマと習につけ入る隙を与えないことです。
いくつか外交的シグナルが出ています。
ひとつがこの間かまびすしい靖国問題に対する米国の「失望」発言です。米国は反日活動を執拗に続ける韓国や中国に対してではなく、わが国に対して「失望した」と声明しました。
この発端となった靖国参拝の価値観としての是非はここでは問いません。朝日新聞の世論調査でも63%が支持していますが、これは国内政治です。
外交的には今やることではないと思います。
靖国や歴史問題に触れるなということではなく、触れるなら周到に米政府内部に根回しし、かつ戦略的にしろと言っているのです。
それが出来ないままでなされている現状だと、中国を喜ばせるだけです。
この両者はまったく別次元のテーマであるにもかかわらず、米国に対して「安倍はナショナリスト政治家だ」という信号を送ってしまいました。
このような日本対するジャパン・ディスカウント(日本の地位低下)の情報は、既にワシントンの中韓ロビイストによって文字通り山ほど拡散しており、それを安倍自身が追認した格好になりました。
ことに安倍がバイデン副大統領との直接の電話会談の中で靖国参拝の制止を振り切った形になってしまったことは、明らかな外交上の失敗です。
安倍はバイデンの制止を聞くという「貸し」を作っておき、その機が熟するまで気長に待つべきでした。
なぜ安倍は生き急ぐのでしょうか。靖国神社は逃げません。ここまで現実主義外交を積み重ねておきながら、なぜこのような失敗をしてしまうのか。
ついでに言うなら、安倍の側近たちにくだらない感情論を黙らせなさい。「米国に失望した」なんて言ってなんの益になりますか。そんなことは思っていても黙っていなさい。
発言の重みを知らない首相近辺の連中の舌禍にはうんざりです。
衛藤首相補佐官は、自分のカウンターパートが、G2路線のライス大統領安全保障補佐官だと自覚して発言しなさい。首相補佐官はただの代議士ではないのですよ。
歴史認識問題を政治家が発言する場合、必ずわが国メディアによって歪曲報道されて米国に伝わることを肝に命じたほうがいいと思います。
やるならやるで、徹底した米国内部の根回しと戦略性、理論武装が不可欠です。それらすべてがないままに放言しているのか、安倍周辺です。
これら一連の靖国騒動が、オバマを中心とする米国政府と米メディアに、「安倍は極右政治家だ」という誤解を与え、アジア外交のもう一方の極である中国の側にオバマを押しやってしまったことは否めません。
これは日米同盟を引き裂くことを最重要課題としている中国を大きく利しました。
中国はオバマの足元を見透かすように防空識別圏という露骨な版図拡大のジャブを繰り出しましたが、副大統領が訪中するという好機がありながら対応は口先だけに止まり、民間機には中国に従うように命じてしまいました。(欄外資料2参照)
これで中国は米国の本音を見破ったことでしょう。米国は南シナ海、東シナ海を地理的名称どおり「中国の海」とすることを容認したのだ、と。
言葉を変えれば、今でこそ同盟関係にある日本に配慮しているが、尖閣において米国は介入せず、もう一押しで更なるG2関係に持ち込めるという感触を得たはずです。
更に、同時期中国は韓国と共に安倍の靖国参拝を、「戦後世界秩序への挑戦」として煽りました。
これは言うまでもなく、中国自身の膨張政策を歴史認識にすり替えようとする詭弁ですが、この中国発の反日キャンペーンに、ものの見事に米国大手紙のワシントン・ポストニューヨーク・タイムズは乗りました。
続いて習は、既に13年10月のAPECバリ会合で、ロシア大統領のプーチンに2015年開催の「反ファシスト戦勝70周年記念会議」を呼びかけて合意しています。
これに、オバマを引きずり込み米、英、中、ロなど大戦の戦勝国首脳が一堂に会して戦後の秩序を再確認し、ファシズムの台頭を共同で防ぐ声明を打ち出す予定です。
これを中国は、「ファシスト日本の復活を阻止するための国際包囲網」として世界に大きく宣伝することとでしょう。
この戦勝国会議を3月の米中首脳会談で提案され、残念ながらオバマが乗る可能性は極めて高いと思われます。
既に習はベルリン訪問時にホロコースト博物館に行き、ホロコーストと南京事件を重ね合わせたプロパガンダをしようとして、ドイツ政府に拒否されています。
戦後一発の弾も撃たなかった国が、建国以来戦争漬けの中国に軍国主義呼ばわりされたくはないと思いますが、中国が周到な情報戦を世界規模で仕掛けていることにわが国も自覚的に立ち向かわねばなりません。
このように中国は、日本を国際的に孤立させ、TPPを不発に終わらせた上で、新たに中国も含めた太平洋政治-経済圏構想を米-中二軸構想で押し出すかもしれません。
このようにオバマは中国をアバーサリー(敵)とする立場から軸足を動かし、ポテンシャル・パートナーとしての関係に変化させる兆しが見える場所に、今私たちは立っています。
わが国は、このようなオバマに対して、民主主義と日米同盟の強化の原則を幾度となくオバマに熱く語りつつ、米国の変心に備えるべきです。
TPPに於いても、米国の対中包囲網に参加するなどという甘えた戯れ言から醒めて、中国に傾斜する米国が自国の利害をむき出しでわが国に向ってきていることに強い危機感を持たねばなりません。
尖閣問題はほぼ確実に米国は介入しないでしょう。したがって、わが国は独力で対処する準備が必要です。
これが出来ないようなら、わが国はG2の奴隷となるか、「フランス」になる覚悟をせねばなりません。
現時点では、オバマは、米国の世論が中国に批判的なことを反映してダライラマと会談するなどして危ういバランスをとっています。
まだオバマは「向こう側」に行く決意をしたわけではなくふたつの価値観の間でグラグラしているようです。
このような微妙な時期にわが国が舵を取り間違えてはなりません。
オバマはこの下の写真どおり夫人にもソッポを向かれる薄型最軽量の人物ですが、まだ3年も任期があるのです。
(写真 マンデラ氏の葬儀会場で、夫人の横でデンマーク美人首相シュミット氏とたわむれるオバマ大統領。この後、夫人から離婚を宣告されたという噂が流れ、支持率はいっそう急落した)
私は政治、特に外交において左右の理想主義は信じません。有害であるとさえ思っています。
それは鳩山が行った左翼的「友愛外交」の無残な結果をみれば分かるでしょう。彼の友愛とは調和ではなく、破壊と混乱の代名詞でした。
逆にもし、安倍が復古的外交路線を考えているなら100%失敗します。外交とはそのような自己陶酔的観念の入る隙間のないパワーポリティクスだからです。
日本は、兎のように聡くなければ生き残れません。
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管理主様の、「私は政治、特に外交において左右の理想主義は信じません。有害であるとさえ思っています。」という発言、耳が痛いです(汗)。
自分は政治、特に外交では政治家についつい理想を求めてしまいます。しかし、理想を実現する為には現実を見なければならないという、まさしく冷徹な“現実”があるのを忘れてしまうんです。
理想を求めつつ、現実を見るのが大事なんですね。
投稿: 播磨真悟 | 2014年3月 3日 (月) 21時01分
いつも大した人だなと感心しながら拝見しています。
その辺の似非ジャーナリストよりも数段上を行っていると思います。
でも今回は云わせてください。
宗教的な視点からの意見がまったくありません。
あなたは元左翼の唯物論者ですか。
自分はスピリチュアルなシャーマニズム信仰に納得しています。
靖国の英霊は、数百万の念なのです。
その人智を超えた力を畏れて、挨拶に行くのを、そんな低レベルの国際的駆け引きで論じられては困ります。
そもそも他国の信仰に干渉する事自体がおかしいのですから。
自分は今後、安倍首相には英霊の加護が加わって、かなりの追い風が吹くと予想しています。
まあ、それが信仰ですが、外れたら笑ってください。
しかし、禍福は糾える縄の如し、です。
投稿: 一ファン(貴殿の) | 2014年3月 5日 (水) 22時51分
一ファンさん。
ブログ主の過去がどうであろうと関係ありません。
レッテル貼りをしてもしょうがないでしょう。
あなたの仰るスピリチュアルな気持ちも、よくわかります。
しかし、低俗な国際関係と言われましても、現実はどうにもなりません。
それが、現在進行中のリアルポリティクスです。
無名の一個人と一国の首相では違うと判断されます。
それは、「中韓の陰謀だ!」「日本を貶めるロビー活動だ!」「米国リベラル派が…」
と、いくら叫んでも仕方ないことです。
今と将来に向けて、現実を見据え国の舵取りを誤るなと言ってるだけですよ。
感情論や宗教感では、いくら正論であってもどうにもならないのが現実です。
投稿: 山形 | 2014年3月 6日 (木) 08時25分
一ファンさん。過分なお言葉とご批判を頂戴いたしました。
本質的な問いです。長くなりそうなので明日の記事でお答えします。
投稿: 管理人 | 2014年3月 6日 (木) 14時53分