ウクライナ紛争その9 オバマの屈辱的人質外交
わが国ではまったくといっていいほど報道されませんでしたが、大統領夫人・ミシェル・オバマは子供たちと共に3月19日から一週間、エアフォース・ワンを使っての中国旅行をしました。
国費で観光旅行するのかと、米国内でもさんざんですが、アメリカ人には東洋のポイントが分かっていないようです。
いや観光じゃない「外交」だというならば、今までの米国では考えられないとんでもなく屈辱的なもののはずです。
なぜって?
まずミシェル女史が訪中したこの期間中(3月23日~26日)、彼女の旦那は核セキュリティサミットで、習になんとかロシア批判に加わってくれと懇願していました。
ミシェルの訪中は表向き、習の訪米時にミシェルが欠席したことの埋め合わせということのようですが、わけはありません。
中国はピッタリと習夫人の彭麗媛を張り付けて下にも置かないおもてなしです。
下の写真で習の隣で出迎えているのが夫人の彭麗媛で、有名な歌手ですが人民解放軍少将という肩書を持っています。(写真gettyimages)
この中国の大歓迎ぶりには裏があります。大国のファーストレディが来たからなどと思っては、中国を分かったことになりません。
中国は歴史的伝統として、古来より人質文化がある国だからです。
わが国でも江戸時代まで大名の夫人や子息は江戸から出られませんでしたね。あれと一緒です。
秀吉などは自分の母親まで家康に差し出して、大阪に来るように求めた故事もあります。
秀吉は家康に大阪に来ることを懇願する、つまり自分の権力を承認してほしいという政治的要求の代価として母親の命を差し出したわけです。
中国にこのウクライナ紛争の時期に、オバマが女房子供を差し出せば、習はその政治的寓意をすぐさま理解したはずです。
中国という国は、古代から何も変わっていない「生きている古代国家」なのです。
事実、近藤大介氏によれば、中国外務当局者はこう言っていたそうです。
「パンダ外交というより、古代中国で頻発していた『人質外交』のように受けとめている。春秋戦国時代の中国においては、王や諸侯が隣国に自らの子供を預けることが行われた。『もしわが国が裏切ったら自分の子供を殺しても構わない』というわけだ。
今回、オバマ大統領は中国に対して、まさに『人質外交』のカードを切ってきた。これはオバマ大統領からの『中国との友好関係構築は本気だ』という強いメッセージと受けとめた。」
オバマは人質文化のある中国に対して、「大事な頼みごと」があるこの時期に夫人と子供を政府専用機で送りつけました。
それはこれが米国の公式的外交だと言っているわけです。このオバマの「外交」が含む意味を書簡調に翻訳してみましょう。
「拝啓 習総書記閣下
アメリカ合衆国は、中華人民共和国に対して、大統領夫人と子供たちを送った。わが国の誠意を汲んで頂きたい。
もしわが国が裏切ったと貴国が思われたのなら、人質は殺してもかまわない。ぜひわが国の衷心からの依頼であるウクライナ問題で、わが国が望むロシア非難に同調していただきたい。
合衆国大統領バラク オバマ拝」
ミシェルさん、分かって行ったならスゴイなぁ。悪いこと言わないがら、大統領辞めたら、こんな男とさっさと別れなさい(笑)。
一方、米国務省が白々しく言うところの、「世界で一番重要な同盟国」ニッポンは同時期、オバマが国賓で来るのこないの、短いからもう1日でも居てくれなんて健気に頼んでいたのですから、涙が出ます。
オバマがどちらを向いて外交をしているのか、これを見てよく分かったでしょう。
ミシェル夫人の訪中は、中国に媚を売ることですから、とうぜんのこととしてかの国の人権問題に一切ふれない対応をしました。
ひょっとしてりべラル弁護士のミシェルさんならと淡い期待をしていた中国人権派は、いたく失望したようです。
「中国の人権活動家たちは最近、米国のオバマ政権に対する不満を高めている。歴代米政権と比べて、中国の人権や民主化問題への言及が少ないだけではなく、ミシェル・オバマ大統領夫人(50)が今月、中国を訪問した際、四川省成都市のチベットレストランで食事をしたことについて「チベット問題で中国の演出に協力した」とショックを受けた人が多い。」(産経3月30日)
人権派には気の毒ですが、オバマ夫人は習という超大国の「皇帝」に叩頭しにきた敵国皇后なのです。
習が用意したスケジュールは、まさに中国皇帝のプレステージ(威信)を見せつけるものでした。
初日の午後には黒い豪華な中国古来の衣装に身を包んだ彭麗媛「皇后」に案内されて、一般観光客をすべて締め出した皇帝の宮殿を堪能させました。(上写真参照)
政治的寓意は露骨なまでに明らかですね。
世界の中心、すなわち「中華」はどの国なのか、そしてその中華帝国の富と権力を独占しているのが誰なのか、を見せつけたのです。
この女房子供を人質に出してまでご機嫌を取ろうとするオバマは、ロシアをなんとか非軍事的方法で政治的に包囲しようと必死でした。
オバマは習にも核セキュリティ・サミットで、対露制裁に参加するように求めたようですが、人質のかいもなくもちろん習は拒否したようです。
中国は、当初米国からあったとされているプーチン説得の依頼を受けるそぶりを見せながら、結局国連のクリミアの住民投票無効議決には棄権しました。
それどころか、共産党外交機関紙の環球時報などは、まだミシェル女史が中国にいる時期に平気で、「クリミア併合は国際正義だ」と書いているのですかから、オバマも馬鹿にされたものです。
オバマではなくオバカですな。おそらく歴代でこれだけの外交オンチデ、米国をガタガタにしたのは同じ米国民主党のカーターくらいでしょう。
「中国政府の曖昧な態度に対し、共産党機関紙、人民日報傘下の環球時報は19日付の1面トップに「クリミア、家に帰ってきた」と題するロシア寄りの長文記事を掲載。元駐露武官、王海運少将の「ロシア支持は国際正義への支持だ」という趣旨の寄稿も載せた。」
(産経新聞3月20日)
中国にとって、今回のクリミア紛争は二立背反になりかねない問題でした。
クリミアの分離独立を認めるということは、ウィグルやチベットの分離独立にもつながりかねず、オバマ米国を取り込み、G2支配をめざす習としてはあっさり賛成することはできなかったはずです。
かといって、国連安保理でロシア一国だけが非難を浴びるという構図も、中露同盟にも含みを残したい中国としては避けたい。
だから棄権という中立を保つことで巧みに避けたわけです。
もう一点、習の個人的動機もありました。
というのは、近藤氏によれば、習が世界でもっとも尊敬している政治家がプーチンであり、ほとんど片思い状態だそうです。
習はプーチンを師としているのです。プーチンのように、15年間にわたって強権をもって大国を統治したいようです。
よりにもよってこんな人物にオバマはプーチン説得を依頼したわけですから、外交オンチにもほどがあります。
ホワイト・ハウスには中国専門家がひとりもいないか、逆に揃いも揃って中国の息がかかっている者たちなのでしょうか。私は後者のような気がしますが(笑)。
つまり、今の中国は米国とロシアの中立を保つ顔をして、どちらが高く自分を買うのかを計算高く見ているといたところでしょうか。
中国にしてみれば、今ロシアを露骨に支持することは、南沙諸島や尖閣問題で既に国際的非難を浴びている中で、「力による現状変更」を厭わない国として、ロシアと同列に並べられる構図は避けたかったと思われます。
棄権ということでロシアに対して貸しを作り、後に自ら膨張政策をした場合、ひとつよろしくといったところでしょうか。
「中国政府系シンクタンクのロシア専門家は「中露は外交交渉をしているはずだ。プーチン氏が釣魚島(尖閣諸島の中国名)で中国を支持すれば、中国もクリミア問題でロシアを支持すると表明するだろう」と話している。」(同)
こうして習は、オバマとプーチン双方に「貸し」を作ったとほくそ笑んでいると思われます。
それにしても、G7にはプーチンと互いにファーストネームで呼び合い、年に5回も首脳会談をしている政治家がいたのですが、オバマははなから視野になかったようです。
誰ですって、もちろんうちの国の首相ですよ(爆笑)。
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コメント
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はじめまして。
分かりやすく良質で偏りのない記事ありがとうございます。私の頭では複雑すぎる内外の出来事がスッーと理解できます。
更新楽しみにしております。
投稿: @manma4989 | 2014年5月 6日 (火) 23時28分