福島はチェルノブイリか?
福島の危機を過剰に煽る人達は、福島を「フクシマ」と呼ぶことであたかもヒロシマ、チェルノブイリに並べてみせました。
そのあげくは、前回みたような武田邦彦氏のような煽動家が、「福島県には住んではいけない。疎開しろ!」と叫び、現実に千人以上がしなくてよかった自主避難をしてしまいました。
1周遅れのトップランナーになった雁屋哲氏などは、一時に500~1000ミリシーベルトという高線量を浴びねば発症しない「鼻血と耐えがたい疲労感」が出たと騒ぎまくり、双葉町から正式な抗議文を貰う始末です。(欄外参照)
この人は、福島第1の建屋に防護服なしで突撃でもしたのでしょうか。雁屋氏は「心地の良い嘘を求める」ことを拒否し、「福島の真実」を書くと言っていますが、今の時点で知り得る「真実」をおさらいしてみましょう。
まずは、佐藤順一氏の作成した、チェルノブイリと福島事故の放射性物質拡散図を同一縮尺で比較した図をみて下さい。まったく放射性物質の拡散規模が違うのが一目瞭然です。(下図参照)
また、セシウムと並んで注目されたストロンチウム90ですが文科省の発表があります。これをチェルノブイリ原発近辺と比較した図があります。(図 同)
この調査結果を見る限り、福島事故におけるストロンチウムの拡散は極めて限定的と評価できます。
最高濃度は双葉町付近の5700ベクレル/m2で、チェルノブイリの最低の数値である20000ベクレル/m2(20kBq/m2)の3分の1ていどです。
よくこの人たちは、「福島で白血病が沢山出ている」と吹聴していますが、その原因物質のストロンチウムの放出が微量な上に、このていどの拡散状況ではまったくありえません。
※ストロンチウム90の福島とチェルノブイリの拡散分布図比較
このテのデタラメな比較はよくやっていて、「事故後のチェルノブイリの強制移住地域より福島のほうが線量が酷い」などというデマも流していますが、これもチェルノブイリは5年後の数値です。
事故直後の福島の線量と、そうとうに減衰したチェルノブイリの5年後を較べること自体がナンセンスです。
揮発性のヨウ素 131は事故直後の1週間で消滅に向かいますし、セシウム134の半減期は2年なので、それらがほぼ影響しなくなった5年後と較べるのは意味がありません。
これでは福島の被曝を大きく見せたいトリックと言われてもしかたありません。
そして、そもそもベラルーシ政府は「強制移住区域」などは設けていません。
1991年にベラルーシ最高評議会が決めたのは、「まだ放射能が残っている地域の住民で移住を希望する人がいれば、政府がお手伝いしますよ」ていどの内容で、「強制移住」などではありません。
それを福島は、チェルノブイリの強制移住地域に該当するなどとトンデモを言い出すのですから困った人たちです。
また、チェルノブイリ事故を継続して調査しているベラルーシで事故後10年、25年経つ今でも小児ガンなどが発症していると唱え、震災瓦礫の搬入は低線量内部被爆の危険地域を更に拡大することになると主張した人達がいました。
ベラルーシで10年後に小児ガンが出た原因は既に解明されています。高濃度汚染地帯のキノコを季節的に大量に食べたからです。(下図参照)
(ベルラド放射能安全研究所作成)
上の図を見れば、10月12月など、キノコが大量に食卓に登る森林地帯の季節が飛び抜けて高いのが分かります。これによってキノコを大量に食べるベラルーシ森林地帯特有の食習慣が「10年、20年後の小児ガン」の原因だとわかります。
裏付けとして、一般のベラルーシの小児ガンの発生動態と比較します。このように対象地域を「汚染地域」、「一般地域」に分けて、その両者を較べれば、多発した原因がつかめるわけです。
このような手順を踏まずに、自分の主張に合う都合いい統計だけ持ってくるからこの人たちの言うことはプロパガンダだといわれるのです。
では一般地域を見ます。(上図)ベラルーシの小児甲状腺ガン(14歳以下)は、チェルノブイリ事故4年後の1990年頃から有意に急増しているのがわかります。(*中央山型の青線)
そして1995年にピークを迎えて、16年後の2002年に事故以前の平常数値に戻っています。
これからわかるのは、持続的、継続的な低線量被曝による被曝が原因ではなく、1986年の事故直後に大量の放射性ヨウ素131を被曝したことが原因であることを示しています。※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-efe0.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/j-rad.html
あるいは、ある専門家のなかには、「福島は広島原爆400発~500発分のセシウムを出した」と真顔で言う人がいます。
原爆は兵器ですから光線と高熱により人を殺傷するために、セシウム放出量は非常に少ないのです。
そもそも放出量が少ない原爆と比較すること自体意味がなく、このように主張することで「広島の400倍のガン患者がでるぞ」と脅かしているわけです。
では現実に疫学調査の結果、どうであったのでしょうか。
完全に国際的に否定されています。
[国連科学委員会 (UNSCEAR)報告書要旨]
①日本国民の総被曝線量(集団線量)は、甲状腺がチェルノブイリ原発事故の約30分の1
②全身が10分の1
③チェルノブイリと比べて、放射性ヨウ素131の総放出量は3分の1未満
④セシウム137は4分の1未満
⑤ストロンチウムやプルトニウムは「非常に微量」
⑥(がんが増加しても非常に少ないために)見つけるのは難しい
⑦「福島はチェルノブイリではない」
なお、チェルノブイリで甲状腺がんが増えた原因はいまでは明らかになっていて、それは初期に被曝したミルクを子供に与えたためです。(欄外参照)
さて次に、煽動家たちが「東日本の農産物は食べてはいけない」と触れ回った食品の基準値をチェルノブイリと比較してみます。
最大の被爆地だったベラルーシでは、野菜などは3700ベクレル/㎏から40ベクレル/㎏まで実に13年かけて落としています。(下図参照)
■ベラルーシにおける食品規制値の推移(抜粋)
単位ベクレル/㎏
86年 88年 92年 96年 99年
・野菜 3700 740 185 100 40
・牛肉 3700 2960 600 600 500
・パン - 370 370 100 60
・豚肉・鶏肉 7400 1850 185 185 40
・幼児食品 - 1850 37
かつて日本が事故直後が故に300ベクレルだった時、彼らが持ち出して比較したのはベラルーシの事故から14年後の99年の数値40ベクレルでした。「ベラルーシの8倍だ」とやったのです。
比較するなら、同時期で比較すべきです。14年間も後の基準値と較べているのですから、もはや詭弁です。
上図から事故直後だけ抜き出して比較します。
・事故直後のベラルーシと日本の食品基準値比較
・野菜 ・・・3700ベクレル
・豚・鶏肉・・・7400
・日本 ・・・300 (※米は500)
わが国が一桁低いのがお分かりでしょう。
事故直後はIAEAなども緊急時基準の設定を許していますから、ベラルーシはこのように高い数値となったのです。
そこからいかに下げていくのかが問題なのです。ベラルーシはそれに13年、わが国はなんとたった1年で3分の1の100ベクレルにまで下げました。
いままで国家規模で被曝したのは旧ソ連(※主な被曝国はベラルーシ、ウクライナ)と日本ですから、わが国はむしろがんばって基準値を一気に引き下げたと評価されるべきでしょう。
下図は1913年の福島県産の全袋検査のものです。全量全袋検査は1000万検体以上に達していますが、その中で基準値(100Bq/kg)超えはわずか71袋、0.0007%でした。
(図 「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~ (概要)」 福島県試験より)
この結果を見れば、今でも絶えない「あなた方が汚染地域にとどまり生産活動を続ける限り、消費されるそれらは全国に送られて放射性物質は拡散し続けます」などという愚かな暴論は吐けないはずです。
その陰には、福島県とJA福島の全袋検査に挑戦するといった超人的努力があったのです。
「食べてはいけない」などと言い出すならこの福島県の公式データを見てからにしなさい。
※関連記事 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-d8ee.html
私は、「被曝」地の苦闘を横目に見て、ふたたび風評被害を拡げる主張する人たちには強い怒りを感じます。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post.html
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■2011年内閣府・低線量被ばくのリスク管理によるワーキンググループ報告
ロシア科学アカデミーバロノフ博士証言 抜粋
「1986 年以来25 年が過ぎました。私たちは、今、公衆衛生上のどのような損害がチェルノブイリ事故によって引き起こされたか知っています。損害のほとんどが、1986年5 月に、汚染された地域で生成された、放射性ヨウ素を含んだミルクを飲んだ子どもの高い甲状腺癌発生率に帰着しました。不運にも、当局と専門家は、この内部被曝の危険から、適時、十分に彼らを保護することに失敗しました。
福島では、子どもが2011 年3 月から4 月にかけて、放射性物質を含むミルクを飲まなかったことにより、この種の放射線被ばくは非常に小さかったといえます。このため、近い将来あるいは、遠い将来、どんな甲状腺疾患の増加も予想できません。
チェルノブイリ周辺の放射性セシウムに晒された地域の居住者の長期被ばくがどのような影響を与えたかについて、25 年間にわたる細心の医学的経過観察および科学研究は、ブリャンスク地域の人口における特別の疾患の増加を示しませんでした。
また、最近、最も権威のある国際的な専門家により行われた、ベラルーシ、ロシアおよびウクライナにおけるチェルノブイリ事故の健康影響の評価でも同様でした。」
■甲状腺がん、福島は他県並み 環境省の比較調査
共同3月28日
環境省は28日、東京電力福島第1原発事故による福島県の子どもの健康影響を調べるため、比較対象として青森、山梨、長崎の3県の子どもの甲状腺がんの頻度を調べた結果を発表した。「対象者数が違うので単純比較はできないが、福島と発生頻度が同程度だった」としている。
環境省は2012年11月~13年3月、青森県弘前市、甲府市、長崎市の3~18歳の計4365人を対象に、甲状腺の結節(しこり)などの有無を調査。福島と同様の56・5%に当たる2468人に5ミリ以下のしこりなどが見つかったほか、44人に5・1ミリ以上のしこりなどが見つかり、2次検査が必要と診断されていた。
■福島県双葉町小学館に対する抗議文
平成 26 年 4 月 28 日に貴社発行「スピリッツ」の「美味しんぼ」第 604 話において、前双葉町長の発言を引用する形で、福島県において原因不明の鼻血等の症状がある人が大勢いると受け取られる表現がありました。
双葉町は、福島第一原子力発電所の所在町であり、事故直後から全町避難を強いられておりますが、現在、原因不明の鼻血等の症状を町役場に訴える町民が大勢いるという事実はありません。第 604 話の発行により、町役場に対して、県外の方から、福島県産の農産物は買えない、福島県には住めない、福島方面への旅行は中止したいなどの電話が寄せられており、復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害を生じさせているほか、双葉町民のみならず福島県民への差別を助長させることになると強く危惧しております。
双葉町に事前の取材が全くなく、一方的な見解のみを掲載した、今般の小学館の対応について、町として厳重に抗議します。
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コメント
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自分は、雁屋氏がやっているようなことを“風評被害ビジネス”と定義してます。このような方は、いくら科学的データを見せても、「福島は放射能汚染されている」と言い張るでしょう。
風評被害ビジネスを終わらせる方法を自分は考えました。ただ、あまりに突飛なので(自分は突飛とは思ってませんが…)誰に言っても本気にしてくれません。だから今から言う方法は管理主様や他の方から「ふざけるな!」と怒られるかもしれませんが、自分は真剣です。
国会の機能を、東京と福島に分散させる。
衆議院を東京で開いた時は、参議院は福島で開く。その次は、東京で参議院を、福島で衆議院を開く。首都を丸ごと福島に移転するのは不可能ですが、議会の機能の半分と、それに付随する行政機構を福島に持って行くという案は、馬鹿馬鹿しい腹立ちまぎれの案なのでしょうか?自分は不可能ではないと思うのですが…。
同じように使用済み核燃料を地層処分出来る場所が見つかったら(地層処分が適切かどうかは別にして)、その真上に行政・立法機構を建てる。
そこまでしないと、“風評被害ビジネス”はなくならないのでは。
「そんなこと、誰も言い出さないよ」と誰もが言うと思いますが、もし10人の政治家がそういう法案を提出し、それをメディアが取り上げたらどうでしょう。
イヤ物を過疎地に押し付け、かわりに迷惑料を払う時代は終わったと思うのです。「危ないから俺達が直接管理するんだ」という、矜持と誇りのある人こそ政治家や官僚になってもらいたいんです。
自分のこの考えは馬鹿馬鹿しい思いつきなのか、それとも考慮に値するのか、原発事故、そして風評被害と対峙されてきた管理主様の御意見を是非お聞かせ下さい。
投稿: 播磨真悟 | 2014年5月 8日 (木) 15時37分
播磨慎悟さん、横から失礼しますね。
「風評被害ビジネス」には大いに共感しますが、
その後はいただけません。
確かにかつて省庁再編論議で「首都機能移転」が有り、福島県も手を上げていましたが、国会の衆参交互開催などはただの国費の無駄遣いですし、被害の甚大だった相双地域には何のメリットもありません。
実際、稼働率が極めて低いにもかかわらず拡張を続けて批判をされていた福島空港との絡みがあります。
地層処分が決まったら、そこに官庁を移すに至っては、まるで「お前のかーちゃんデベソー」的なものだと思います。全く無意味だと考えます。
建設的な考えだとは思えません。
投稿: 山形 | 2014年5月 9日 (金) 08時43分
播磨さん。月曜日の記事でお答えします。ちょっと待ててね。
投稿: 管理人 | 2014年5月11日 (日) 02時57分
基準値の比較は難しいです。
本文中では省略されていますが、暫定基準値について書きます。
■放射性ヨウ素
飲料水・牛乳・乳製品: 300 Bq/kg
野菜類・魚介類: 2000 Bq/kg
■放射性セシウム
飲料水・牛乳・乳製品: 200 Bq/kg
一般食品: 500 Bq/kg
なので、1年で5分の1(セシウム一般食品)です。
投稿: SW83A | 2014年5月14日 (水) 15時12分