安保条約第5条を読む その3 オバマ「尖閣は安保適用範囲内」発言を過信するな
日米安保条約ができて半世紀、状況は大きく変化しました。
ひとつは、かつては磐石な冷戦下という拮抗した米ソの軍事力バランス下で、事実上日本に対する侵略は考えられない状況でした。
それが現在一変します。当時なかった中国の海洋膨張政策に伴う尖閣問題という緊急の課題が生じたからです。
一方、米国側にも条約成立時にはない手続き上の制約が出来ています。
米国は先日紹介した米上院議決もそうですが、政府とは別途に出されています。
これは、議会には大統領戦争権限を議会が掣肘するという機能があるからです。
「戦争権限法」(War Powers Resolution)は、1973年に成立した両院合同決議として大統領の戦争指揮権に制約を課すものでした。
この法律が生まれた背景には、泥沼となってしまい5まんの米国の若者の生命を奪ったベトナム戦争への反省があり、当時のニクソン大統領の拒否権を覆しての再可決でした。
これにより、米国大統領はこのような戦争権限の制約を受けます。
事前の議会への説明の努力、事後48時間以内の議会への報告の義務、60日以内の議会からの承認の必要などを定めている。
(Wikipedia)
これが第5条が作られた当時になかった米国側の「手続き」・制約です。
たとえば、去年、オバマはイラクの化学兵器使用を理由に突然イラク武装攻撃を言い出して国際社会を困惑させましたが、その時も、彼自身はやる気でも議会にこぞって反対されて挫折しました。
米国は日米安保条約の上位に戦争権限法を置いており、米国の結んだ条約のうちNATO以外の自動介入条項を認めていません。議会の特別授権が無い限り、大統領は戦争権限法の適用を受ます。
さらに大統領が介入を決意したとしても、オバマはイラクの時のようにまず議会に諮ることになるでしょう。
議会に諮っているだけで数週間が経過しますから、既に状況は終了してしまっています。
このように尖閣での米軍介入に至るまでには、何重の壁が存在しているのです。このように考えると、オバマがなぜ言葉を濁すのか理解できるでしょう。
オバマは記者会見で、「大統領の発言は中国が尖閣諸島に軍事侵攻した場合にアメリカが武力行使に出ると聞こえるが、その前になぜ中国が越えてはならないレッドラインを明示しないのか」と質問されたのに対して、はっきりとこう述べています。
There's no "red line" that's been drawn.
越えてはならないレッドラインなど存在しない。
つまり、よく誤解されているように日米安保は、NATOのように一国の攻撃はNATO諸国全体への攻撃と見なすという自動介入条約ではなく、その都度大統領が判断し、議会が承認していく性格のものなのです。
ですから米国の立場はブルームバーク紙が言うように、今までの立場から本質的には一歩も出てません。
尖閣問題は日中両国が対話を通じて解決するよう促した。中国が尖閣諸島に軍事侵攻した場合に米国が軍事力を行使する可能性について聞かれたが、明言しなかった。 (ブルームバーク4月24日)
オバマの真意は、「尖閣での武力行使」ウンヌンではなく、むしろ「総理に直接こう言った」と述べた次の言葉に集約されています。
At the same time, as I've said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China.
尖閣問題に関して対話で中国の信頼を達成できずに事態がエスカレートするなら大きな過ちとなる。And we're going to do everything we can to encourage that diplomatically.
事態をエスカレートさせるのではなく過激な発言を控え、挑発的な行動をとらずにどうすれば日中双方が協力していけるかを模索すべきだ。
説明の必要はないでしょう。
オバマは領土問題を歴史認識にすり替えて膨張政策を取り続け、挑発を繰り返す中国に、挑発的発言で対応して突発的軍事衝突をするな、と諫めているのです。
このように書いてきたからといって、私はこのオバマ-安倍の共同声明がなんの意味がないとはいいません。
おそらく中国に対しての日米の強いメッセージとなったことが予想されるだけで意味があります。
ただし、過信できるような内容ではないことを忘れてはなりません。
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全く過信できない状況ですね。
また安倍総理は欧州歴訪で、ロシア産ガスへの依存度低下や、ウクライナへのIMF出資にもカネを出すようですが、
一方でせっかく親密な関係になってきたロシアとの関係はどうするのやら…。
これもまた難しい国の舵取りですね。
ちょっとボタンを掛け違うと、元の木阿弥になります。
もちろん、水面下では地道に交渉を続けているようですが。
投稿: 山形 | 2014年5月 2日 (金) 08時54分