低線量被曝 確率論ゲームをしてみよう
ご承知のように、低線量被曝というのは、100ミリシーベルト以下の被曝量を指します。これについて「判明していない」とよくマスコミは言いますが、「判明していない」というのは正確ではありません。
放射線被曝と健康被害との関係は、はっきり解明されています。それは広島、長崎の厖大な疫学データである寿命調査(LSS・Life Span Study)があるからです。
下図は、広島・長崎LSSかから得られた被爆量とガンの関係をみたものです。縦軸は被曝していない集団に対してガンが何倍になったのかを現しています。横軸は被曝線量(単位シーベルト)です。
(図 田崎春明「「やっかいな放射線と向き合って生きていくための基礎知識」より)
一番左隅の1.0倍は普通の集団と変わりはないという意味で、線量も0シーベルトです。このグラフから分かるのは、ガンが増加する「上乗せ」が線量に比例することです。
たとえば、このLSSグラフから横軸2目盛り目の1シーベルト、つまりよく私たちが見慣れた単位に換算すれば1000ミリシーベルトで、ガンになる人は1.5倍に増えるのがわかります。
これを基にしてLNT(※)しきい値なしモデル仮説が生れました。(欄外図参照)
問題となっているのは、グラフ左隅100ミリシーベルト以下の低線量域です。ばらつきもあり、法則性が見えません。
LNT仮説では赤字で「低線量域」と書かれている部分で、LNT仮説図では点線で「仮定」と記してあります。
増えていないのかもしれないし、増えていてもその数があまりにも少ないので分からないのです。
これは、広島・長崎のような強いガンマ線や中性子線を一時に浴びた場合と、長期に渡って低線量被曝した場合の、DNAの修復メカニズムが異なるためです。
例えてみれば、高線量を一時に浴びた急性被曝は、時速200キロの猛スピードで壁にぶつかったようなものです。
一方、 低線量は人が歩くていどのゆっくりとした時速4、5キロていどのようなものです。
よく騒がれる5ベクレル以下の検出限界値以下など、ほとんど動いていないも同然ですので、同じ「被曝」といってもまったく次元が違うことがわかるでしょう。
DNAは高線量を一時に浴びると、2本の線路のようになっているDNAの鎖の両方が切断されます。 (下図参照)同時に2カ所が切断されると遺伝子情報が誤って修復されたり、遺伝子の突然変異が生じる可能性があります。これがガンです。普通はこのできたガン細胞も、リンパ球によって消滅させられます。
高線量が怖いのは、このリンパ球や白血球までもが、放射線によって同時に損傷してしまうからです。
高線量だとDNAの切断箇所が多数の上に、修復機能もやられてしまっているために恐ろしい急性被曝になってしまいます。
ただしよくできたもので、人体は切断箇所が少ない場合、細胞全体を死滅させて、新しい細胞を再生させます。
低線量ではそこまでの破壊力はなくて、DNAの鎖の片方が切れるていどで済みます。
DNAはどちらか一方の鎖さえ残っていれば、ほぼ100%修復する機能を備えています。
この100ミリシーベルトを、LSSでは「わからなくなる」境目の数値ということで「しきい値」(閾値)という言い方をしています。
たとえば発癌率は、100ミリシーベルトというしきい値で被曝した場合でも、ガンの発症率は0.5%増えると言われています。
この程度だと他の原因の中に紛れ込んでしまうので゛まるでくじ引きのようですね。
面白い実験があるのでご紹介しましょう。これは学習院大学の田崎春明教授が紹介している実験です。(上図 田崎教授による)
これはガンが0.5%発症した場合の模式図です。くじ引きのガラガラ抽選機には200個の球が入っていて、赤い球、つまりガンが出る確率をみてみましょう。
左のガラガラの中には赤球50個、白玉150個が入っています。25%の確率ですね。これは一般のガンリスク25%を現しています。
そして1個赤球を増したのが右側です。リスクは25.5%になったわけです。 ただ1人でくじ引きをすればこの確率どおりになります。
では、これが200人くらいの小学校くらいの単位で抽選したらどうなるでしょう。
運命の赤玉を出すのは51人でしょうか?ところが、違うんです。
ガンのくじ引きは、出た球をもう一回ガラガラに戻してよくシャッフルしてまたガラガポンせねばなりません。
こうしないとどの人も他人の結果とは無関係で同じ条件にならないからです。こうすると、いくらやっても結果が同じになりません。
入っている赤球が50個でも51個でも、赤球が出た人は58人だったり、40人だったりします。これは実際にやってみれば分かります。
ただし、この抽選人数を増やせば増やすほど、赤玉率は平均化されていきます。数万人規模でやっと0.5%というガン増加率がおぼろにわかってくるくらいです。
すると今度は、この数万人規模の環境は千差万別だという事情が生まれて、別の意味でややっこしくなります。
つまり赤球が増えた原因が喫煙や心理的ストレスなのか、男女の性別なのか、職業上なのか、運動をよくするのかしないのか、家庭や職場、学校の環境はどうか、あるいは放射線なのか、もうリスク原因が沢山ありすぎてわからなくなってしまうのです。
これが低線量被曝により障害が発症するかしないか「わからない」というほんとうの理由です。
そのために誠実な医師や科学者は、「100ミリシーベルト以下の低線量では発症リスクはわからない」というのです。つまり、「(リスクが少なすぎて)わからない」のです。゛
逆に、これを「低線量被曝で必ず障害が出るはずだ」などというほうが無茶でしょう。
これが「低線量被曝の影響はわからない」という放射線医学界の公式見解のほんとうの意味です。
ところが、この「わからない」という表現を逆手にとって、「ほら見ろ、わからないんだから危険なんだ」と鬼の首をとったように叫ぶ人たちが絶えません。困ったことです。
この火のない所に火を着けるが如き人達こそ、福島県の人々にいらぬ精神的ストレスを与えてかえって発癌リスクを増大させているのです。
迷惑ですから、もういいかげんやめて欲しいものです。
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※LNT仮説(しきい値なし仮説)
図 原子力技術研究所による
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コメント
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私の父方の伯父、伯母で生存しているのは一番上の伯母だけで事故で他界した父を除いた全てが、ガンにより他界しています。
そして伯母も、齢90にしてガンを患いました。早期の発見のおかげで命に関わるものにはなりませんでしたが、私にとってガンはある意味身近な病と言えるかもしれません。
私はガンの遺伝子をまず間違いなくもってます。
私がガンの赤玉を引き当てるとしたらまず遺伝の赤玉でしょうか、酒や煙草と言う赤玉も少なからずあるでしょう。
ガンを畏れる気持は当然あります。が、患ってもいないガンを気に病んでどうするんでしょう。
ボケもせず一世紀を生き抜いた祖母の遺伝子も私は引き継いでいるはずです。
物事に絶対はない。
原発に絶対の安全はないでしょう。
でも、絶対の危険もない。
低線量の被曝に関しても絶対の安全はないかもしれないけど、気に病んでストレス溜める方がよっぽどガンのリスクを高める様な気がします。
投稿: 種子 | 2014年6月10日 (火) 18時54分