反原発派の自然知らず その3 農地「除染」のコロンブスの卵
「美味しんぼ」に荒木田岳氏の除染の経験がでていましたね。屋根にコンプレッサーで水を高圧噴射して洗い流して、庭は表土を剥いで客土したのだと思います。
この方法は、大がかりでコストがかかる上に、荒木田氏も述べているように作業員が放射性物質の含まれた表土や汚染水を浴びて2次汚染してしまうケースもあって、問題も残るのも確かです。
また、除染残土の行方も決まらないでいます。しかし住宅地では代替案がないため、住宅地、学校や公共施設では、この方法が取られているようです。
では、最大の被曝面積の農地はどうしたらいいのでしょうか。ともかく面積の単位がハンパなく違います。
ある反原発派の人から、こんな質問を受けたことがあります。
近所の農家がトラクターをかけていましたが、あんなことをすれば、せっかく地表下5㎝から10㎝に止まっているセシウムがもっと下にまでバラ撒いてしまうのではありませんか?
いい質問です。セシウム除去を考える上で大事なポイントなのでよく聞いて下さいね。
下は農水省飯館村除染実験の結果ですが、セシウムは表土下2.5㎝に95%ちかくで層になっています。http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110914-09.pdf
1) 「放射性セシウム(134Cs、137Cs の合計)は、耕起していない農地土壌の表面から2.5㎝の深さに95%が存在する。」(同報告書)
ですから、この表土だけをペラっと削ぐのがいわゆる「除染」です。
ところが農地はあまりにも広大なためにその方法をとると、厖大な除染残土が出てしまうので実行不可能です。
※削土についての実験については以下をご覧ください。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-1f22.html
チェリノブイリで使われたひまわりやアマランサスによる除染も試みられましたが、飯館村の農水省の実証実験では移行係数0.00674という期待に反する結果しか生みませんでした。これはレタスの移行係数とほぼ同格です。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-d2d4.html
「1)飯舘村現地圃場のヒマワリについて、開花時(8 月5 日)の放射性セシウム濃度は硫安+無カリ区において茎葉で52 Bq/kg、根で148 Bq/kg であった(表参照)。この場合の、土壌(7,715 Bq/kg)から茎葉への移行率は0.00674 であった。」 (飯館村農水省実験より)
おまけにひまわりは大きく育つので、持ち出して焼却処分するのが大変でした。
テレビのダッシュ村でも同じような実験をしていましたが、やはりダメだったようです。
そこで、トラクターをかけてみると、5㎝の表土の下の層までセシウムが分散していってしまうのは確かです。問題はここからです。
おそらくは、私の地域の実測では、2011年夏頃のトラクターをかけない前と後の平均実測線量は以下でした。
・トラクター耕起する前・・・平均900~1000ベクレル/㎏
・トラクター耕起した後・・・平均100~200
※第三者計測機関による分析による
おおよそ10分の1にまで放射線量が激減したのが分かります。一見完璧な除染に思えた公共施設で、表土を剥いで客土した後の数値と比較してみます。
・客土前・・・3.5マイクロシーベルト
・客土後・・・0.6
※福島県郡山市小学校校庭の測定による
計測単位は違いますが、客土による除染も6分の1ていどだと分かります。もちろん計測場所によってバラつきはあるでしょうが、客土は一見徹底的に取り除けるようでいて、やはり残るのが分かります。
10分の1か、6分の1かは測定実測値が少ない現時点では、誤差の範囲だと思いますので、この両方の方法に大きな差がないことは頭に入れて下さい。
そこでまた突っ込みを頂きました。
持ち出さなくては解決にならないのではないのでしょうか?
はい、それこそが放射線防護の専門家の盲点でもあったのです。
多くの放射線の専門家は、放射線の実験を放射性物質の特殊性から、完全に外部から遮断された閉鎖実験棟でやるしかありませんでした。
だから実験で使用する放射性物質は、金庫から出して金庫に返すというのが習慣になっていたわけです。
だから現実の放射性物質による野外汚染などという自体は想定外も外だったわけです。
放射線の専門家といっても、今回の福島の事例が初めての野外体験だったと思います。
さて、福島県などの東日本の自治体は福島事故後の初期には、「トラクターをかけるな」という指導をしました。
ちょうどこの3月から4月頃は、春の種巻きの時期に当たっていました。とうとうがまんしきれなくなって、農家の一部はトラクターをかけ始めました。
ロータリーのブレード幅で、地表から約50㎝前後が反転し、さらに上層と下層がきれいに混ざってしまったことになります。
県の役人は初め青くなったと思います。しかし、慌てて放射線量を測ってみると仰天の事実が分かりました。
なんと、その後の線量が大きく減っているのです!もちろんこれは拡散した、あるいは「薄まった」ためであって、なくなったわけではありません。
潔癖なゼロベクレル主義者は、コストをかけて大土木工事をして表土を剥ぎ、客土しないと許せないのでしょうが、先ほどの校庭の除染と比較してもほとんど結果はロータリー反転耕起と変わらないのです。
なんといいかげんな!それでは私たちは放射性物質と共存しろと言うことじゃないですか。
まぁまぁ(笑)。でもよく考えて下さいよ。客土しても、トラクターをかけても、結果的に放射線量が下がって人に影響を与えないようにすればいいんじゃないですか。私ってリアリストにすぎますかねぇ。
もちろんこの方法は、大面積の農地向けであって、小面籍の自宅庭などにはトラクターが入りませんから無理です。
この方法は、私は「深耕ロータリー方式」と呼んでいます。おそらくはもっとも簡単で、大面積を除染できる方法です。なんかコロンブスの卵みたいな話でしょう。
整理してみましょう。除染の方法は基本的に3種類です。
①表土を剥いで客土・・・・・・手間とコストがかかりすぎる上に、大面積では不可能。
②封じ込め方式・・・ゼオライトなどの粘土質でセシウムを補足し結着させる。コストがかからず大面積ができる。
③拡散方式・・・・・深耕ロータリーで薄める。もっとも現実的。線量も低下し、大面積の除染が可能。
というわけで、②と③の併用がもっとも現実的な「除染」なのです。
青い鳥は私たちの足元にいたわけです。
私たち東日本の住民は、泣いても笑っても、いったん降った放射性物質と「つきあう」必要があります。
私たちには、「美味しんぼ」の言うように「福島から逃げるのが勇気だ」なんて無責任なことはできません。
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コメント
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現実に目を向けず、
ただひたすら「汚染されたから東電と政府に賠償請求しろ」とか、果ては「フクシマから逃げる勇気を持て」
などという、自分は安全圏だと信じながら無知を晒すバカ者達が、未だに騒ぎたてていること自体が信じられないですよ。
以前にも、東日本は終わった!だからみんな逃げていらっしゃいなどという、一見親切を装った関西の某過激組織の残滓のような方がおりましたが、全くもってオツムを疑いますな。
私達は元気に生きています。
事実から目を反らすのは、いい加減にお止めなさい!と、強く言いたいです。
もしも、ご否定なさる科学的データをお持ちなら、ちゃんと出して、かつ現地のものも出してから言いなさい。ただそれだけです。
そんな発言こそが、どれだけの人間を激しく傷つけているかすら分からないのでしょうから。
投稿: 山形 | 2014年6月 4日 (水) 10時57分
東北は死んだ、東日本の農業は終わった!
さらに、東日本の皆は逃げてこい、とか、全くの出鱈目を流してしたね。
いやいや、どっこい、東北も東日本も、福島第1原発至近地域以外は元気に生きてますが…
何故そんなに騒ぎたてるのか、貴方の政治的背景が疑われるだけですよ、分かる?。
私達は貴方のような安全圏(だと安易に思ってる)方々を許す気は全くありません。
いい加減にしなさい!
イデオロギーの問題ではなく、食文化のことです。
国内の分裂は避けたいところですが(たぶん無いでしょうけど)、もし北海道の昆布が無かったたら、お高い京料理なんか全滅しますよね。
(※管理人 地名がついた実名部分は削除してあります)
投稿: 山形 | 2014年6月 4日 (水) 12時09分
一部の偏った意見だけで、京都全体を否定することは止めていただきたい。福島と同じじゃないですか。
投稿: こちふかば | 2014年6月 4日 (水) 12時56分
山形さん。記事内容と関係なく地名がつく実名の名指しはよくないと思います。投稿の当該地名部分を削除しておきます。
投稿: 管理人 | 2014年6月 4日 (水) 17時00分
こちふかばさん。
大変不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。
つい、以前にとある方からの激しい中傷があったことを思い出してしまい、感情的に一気に書き込んでしまいました。
重ねてお詫び申し上げます!
投稿: 山形 | 2014年6月 5日 (木) 06時30分
こういうことですよね。(下記、リンク先(社団法人ふくしま会議HPふくしまの声)より抜粋)
http://fukushimanokoe.jp/archives/7772
>『原発事故は確かに凄まじいインパクトだった。これからどうなってしまうのか、誰にも判らない恐怖が当時日本中を包んでいた。
そんな中で当然のように脱原発運動も盛んになったものの、県外のそれは震災当初から一貫して福島そのものへの関心は薄く、フクシマという事故の衝撃、つまり未知のものへの恐怖を煽ることに頼り切ってしまったかの様に見える。
それはとても危険なことだ。その手法で脱原発の主張を強めようとすれば、放射能は「人類が克服出来ない絶対的な恐怖」であり続けなければならなくなり、多くの人から放射線を科学的に理解し克服しようとする機会を奪う。加えて福島の被害が大きいほど主張が説得力を増すということをも意味し、いつしか脱原発の主張の為には福島が永遠に非日常「フクシマ」であり続けることが望まれてしまうのだから。そうなれば福島の被害は誇大化されやすくなり、風評被害も助長される。客観的なデータを公開しても一顧だにされない事が多い理由も、不信だけでなく、ここにも原因の1つがあると私は感じている。』
投稿: | 2014年6月15日 (日) 21時26分
あなたの言う「生きられない土地ではないのだから『汚染されたから賠償請求する』というのはバカ者達だとする意見はどうなんでしょう?
少なくとも資産としての価値は大幅に失われました。そんな一面に気づくことはないのでしょうか?
投稿: 地主 | 2014年11月19日 (水) 23時02分
地主さん。私も程度の差こそあれ「被曝」した農業者ですので、そのお気持ちは理解できます。
私は、「賠償請求する馬鹿者」などということは言っておりませんし、考えたこともありません。
むしろ「福島は被曝して住めなくなった。脱出しろ」という妄言について批判しております。
民主党の1年間1ミリシーベルトというポピュリズム政策のために、いつまで立っても除染が終わらない⇒除染が終わらないので土地が流動化しない⇒住む人が減っていくチイキか増えるという悪循環に陥っています。
私にできることは、このようなことに、ひとつずつ批判して世論を作っていくことだと考えています。
ご苦労が忍ばれます。お体にご自愛ください。
投稿: 管理人 | 2014年11月20日 (木) 03時08分