福井地裁判決 司法のひとりよがり
反原発派の皆さんには「画期的」と大絶賛されている、福井地裁(樋口英明裁判長)の大飯原発3、4号機再稼働差し止め訴訟判決(5月21日)を読んでみました。
判決文は、こんなことを書いています。http://www.labornetjp.org/news/2014/1400765883365zad25714
「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。」 (判決文 太字引用者)
樋口さん、「差し止めの要請が強く働くのは理の当然」ってねぇ、憲法第13条、25条ってこれいわゆる基本的人権条項じゃないですか。
第13章は、いわゆる憲法第3章の人権カタログの総括的条項で、14条以下の宗教、思想、信条の自由などを保護の前文となっている条項です。
「第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
文明国としてこの条項持ち出したら、もうなんでも言えます。それぐらいイロハのイ、つまりは抽象度が高い民主主義の上澄みみたいな条項です。
一方第25条は生存権といわれる条項です。
「第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」
これまた、こんな条項引っ張り出しちゃったのというくらいの条項で、判例を調べても基本的人権である宗教、思想、結社などの自由が侵された場合にのみ適用されています。
そもそもこのようなナンでも入れられる伸縮自在の風呂敷みたいな憲法概念を、こんな具体的な科学技術的分析を要する科学技術を争点とする裁判に持ち出すこと自体がトンデモです。
憲法は一種の風呂敷だからなんでも包めてしまって便利ですが、百年後にしみじみと炬燵にでも入って、「あの時はこうだったね」と振り返るならともかく、事故後3年しかたたず諸問題がブワーッ噴出している「今」ではないでしょう。
こんなことが可能なら、裁判官は技術的検証を必要としないので、真逆の判決も簡単に出来てしまいます。ちょっとやってみますか。
「[原子力発電は現代社会において欠くことの出来ないエネルギー供給源であり、]従って生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、全ての法分野におい て、最高の価値をもつとされている国民の幸福を追及する憲法13条、25条によって保障されている。」
(判決パロディ カッコ部分が付け足し)
と、このように冒頭の部分さえ入れ換えてしまえば、まったく同じ根拠法で正反対の判決文がいとも簡単に書けてしまいます(苦笑)。
こんな馬鹿なことができてしまうのは、憲法第13条を恣意的に解釈しているからです。
憲法第13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸 福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法 その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
裁判官が国のエネルギーや経済を「公共の福祉」と考えるか、それとも「安全」をそう考えるか、どちらが正しいか、その裁判官の恣意にすぎません。
さて、判決文は、飯原発3号、4号再稼働に関する適否は、原子力規制庁 という行政権とは無関係に福井地裁の裁判権に属するとしています。
「人格権の我が国の法制における地位や条理等によって導かれるものであって、原子炉規制法をはじめとする行政法規の在り方、内容によって左右されるものではない。したがって、改正原子炉規制法に基づく新規制基準が原子力発電所の安全性に関わる問題のうちいくつかを電力会社の自主的判断に委ねていたとしても、その事項についても裁判所の判断が及ぼされるべきであるし、新規制基準の対象となっている事項に関しても新規制基準への適合性や原子力規制委員会による新規制基準への適合性の審査の適否という観点からではなく、(1)の理に基づく裁判所の判断が及ぼされるべきこととなる。」(判決文 太字引用者)
しかし言うまでもなく、現行法体系において原子炉の停止命令が出せる政府機関は、原子炉等規制法第43条の3の23(※欄外参照)により、原子力規制委員会(庁)だけなはずです。
その当該部分を改正原子力規制法から抜粋してみます。
「原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。」(原子炉等規制法第43条の3の23)
原子炉規制法が安全基準を定めており、「原子炉の停止、改造、修理、移転、運転方法、その他保安のための必要な措置」については、規制委員会が「必要な措置を命ずることができる」以上を命令権は、規制委員会に属することは中学生でも分かります。
しかし、これを判決文は憲法の「人格権」を楯に取って「左右されない」といとも簡単に否定してみせます。
原子炉規制法は、その目的を冒頭第1条でこう謳っています。
「目的 第1条 (略)もつて国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする。」(原子力規制法)
この改正規制法の「目的」は、地裁判決が根拠法として上げた憲法13条、25条とどこが矛盾しているのでしょうか。
看板に偽りありと言いたいようなので、しっかりと展開されたらよかった。
原子炉規制法は、福島事故の反省を踏まえて改正されており、原発自体の安全性論議とはまったく別次元です。
原発を否定するのはありえるとして、同時になぜ原子炉規制法まで否定できるのでしょうか。
また、この原子炉規制法は立法府である国会によって承認された法律であるが故に、行政権を得て運営・適用されています。
それを司法が一方的に「左右されるものではない」とまで断言するなら、三権分立もクソもありません。
司法が三権の長であり、司法判断で立法府や行政府の権限をバッサリと切り捨てられるわけです。
樋口さん、これは民主主義とは言わないでしょう。単なる司法のひとりよがり、独善にすぎません。
こんな好き勝手が許されるなら、こんなことも出来ちゃいますよ。仮にある原発に対して厳しい意見を持つことで知られる規制委員会が安全審査の結果「不合格・再稼働認めず」としたとしましょうかね。
それに対して、電力会社が再稼働を認めろと訴訟した場合、まったく同一の論理で再稼働容認判決が出来てしまいます。まぁこんなかんじでしょうか。再びパロディです。
「原子力規制庁 という行政権とは無関係に地裁の裁判権に属するのであるから、規制庁の判断は無効である」(判決文パロディ)
この樋口裁判長のような反原発裁判官が、「人格権」を根拠に差し止め命令を乱発すれば、逆に原発容認裁判官は、同じ法解釈を使って再稼働容認を判決できてしまうことです。
裁判官が、自分の勝手な恣意で起訴の法体系を超越するからこうなるのです。こうなったら法律っていったいなんなんでしょうね。独善者の刃物でしかありません。
なんのことはない、樋口裁判官は、「オレが再稼働差し止め判決を出したいから、現行法規など関係ない」と言っているにすぎないじゃないですか。私たち国民は樋口氏の思想を聞きたいのではないのです。
これは樋口裁判官が、科学技術裁判に基本的人権条項などを持ち出したことがそもそもおかしい上に、更にそれを合理化するために現行法である原子炉規制法を否定したからこうなったのです。
反原発派の皆さん、こんな判決貰って狂喜乱舞するにはちょっと早いんじゃありませんか。
次回に続けます。
~~~~~~~~~~~~
原子力規制委員会は、発電用原子炉施設の位置、構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき、又は発電用原子炉施設の保全、発電用原子炉の運転若しくは核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物の運搬、貯蔵若しくは廃棄に関する措置が前条第1項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。
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コメント
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菅さんは「やった。やった。やったー!」とツイッターで無邪気に大ハシャギ。
小泉さんはもう少し落ち着いて「常識的判決が出た」
国の元トップが、このていどの理解なのがスゴいわ。
投稿: 山形 | 2014年6月10日 (火) 06時01分
コンバンワ。
今回の判決を聞いて、原子力ウンヌンは横へ置いて
おいて、あまりに大衆迎合主義なイナカ裁判官にガ
ッカリしました。
水戸黄門の人気取りをしたいが為に、人格権なんて
ものまで持ち出して、老後の為の事なかれ判決とは、
あまりにシャバく拍子抜けする結果でした。
原子力開発と住民の間で、法規的な専門分野からシ
ビアに妥協を探る判決が欲しいのに、ジンカクケン
でもってとは・・私でも出来ちゃう判決だわ。
高裁・最高裁では、おそらくこんなイナカ裁判官の
事なかれシロート判決は支持されないでしょうから、
法のプロフェッショナルによる判断がなされるでし
ょう。頼みますわ、ホンマ。
最近の司法界はダラケていますよね。税金で高い
給料払ってやってんのにw。
投稿: アホンダラ | 2014年6月10日 (火) 22時22分
おっしゃる通り、この判決は最高裁でつぶされて、都心の富裕層に都合のいい原発推進政策が進行すると、自分も思います。原発に近い農家にとっては不愉快な時代だと思います。
水俣病発症当時でもそうだったんですが、最新科学は常に論理的では無い仮説を積み重ねます。当時は海に水銀を流しても誰も病気にならないと科学者は、いっけん論理的に説明しましたが、そこにはまだ明らかになっていない問題が検討されずに放置されていました。まだ明らかで無い最新の事態を読み解くには、科学よりも論理学や哲学が重大になります。
農業をやっていられる方が原発を肯定するというのははじめて見ましたので、興味深く読みました。反原発を言うのは非常にむずかしいですね。このまえダッシュ村の明雄さんという方が避難先で白血病になって亡くなられて、原発さえ無ければもっと良い晩期を過ごされただろうと思いました。
「原発は必要不可欠なエネルギー」という仮定がありましたが、この一点だけはそうとう非論理的だと感じます。原発を肯定するには、まずそれが無い社会で一般人や富裕層になにが起きるかを正確に計測しなければならないと思います。沖縄は原発が無い。現在の日本でも原発は1基も動いていない。
農業をやられている方の声はつねに貴重だと思います。知らないことを知るのは楽しいです。
駄文失礼致しました。ご興味が無いことを記したと思うので、読後に記事を削除して戴ければ幸いです。
投稿: アマノジャク | 2014年6月15日 (日) 17時14分
呪われた判決
裁判官.樋口英明は、高浜原発に対して、 「合理性がない」・「人格権が侵害される危険性がある」 などとして3,4号機の仮処分決定を下した。
裁判官.樋口英明は、法と人権を重んじる立派な裁判官でありましょうか?
そうではないはずです。
裁判官.樋口英明は、別訴で、「訴訟の場には虚偽は到底許される」 との判決を被害者に言い渡したのです。(※1)
言うまでもなく、万が一にも虚偽事由などが許されることなどありません。(再審事由)
今回、原子力規制委員会の田中俊一委員長からは、当仮処分内容には 「事実誤認がいっぱいある」 と指摘されているようですが、裁判官の「虚偽は正当」 との基準からすれば、その様な指摘が出てくることは当然のことでもありましょう。
裁判官.樋口英明は、嘘の主張で対立させて争わせて、何を判断するというのでしょうか。
法廷で嘘をつかないように「宣誓」 までさせておきながら、何故、「訴訟の場には虚偽は到底許される」 と言えるのでしょうか。
裁判官.樋口英明は、法と国民を愚ろうし社会秩序を乱す国賊ではないのでしょうか。
(※1) 福井弁護士会所属の弁護士(2名)は、「虚偽を依頼者に教唆し事由としたことを滑らせて自白した」、 しかし、その後、 「虚偽.侮辱することは正当な弁護士業務だ」 と主張し続けて罪を重ねた。(弁護士3名、他多数)
裁判官は、自白を裁判の基礎とせずに(基本原則違反)、「訴訟の場には虚偽は到底許される」 と判決したのである。
結果、福井弁護士会の弁護士3名(多数)は、今もこの主張を撤回しょうとせず、被害者に恐怖の日々を与えている。
裁判官.樋口英明は、被害者の苦しみを知りながら、恣(し)意的に侮辱する行為(人権侵害:国際法違反)を良しとし、訴訟詐欺を認めているのである。
投稿: | 2015年4月19日 (日) 10時55分
弁護士は虚偽事由で提訴する!
実態は以下のとおり酷い。
虚偽事由で提訴(訴訟詐欺)することは正当な弁護士業務だと主張する黛千恵子(坪田)・坪田康男・八木宏らは、詐欺罪で告発受理(2014~2015)されていたようですが福井弁護士会は、反省も謝罪もせずに知らぬ振りして何らかの処置もしていないようです。
それどころか、福井弁護士会は、「虚偽事由で提訴することは正当な弁護士業務だ」と議決して擁護(教唆・幇助)し続けているらしいです。
被害者は、更なる侮辱や訴訟詐欺にあう事を恐れ恐怖の日々を過ごしているみたいです。
権力を有した組織的な犯罪が放置される中で正義など通用するはずもなく、おそらくは一人ひとりと食い物にされることになるのでしょう。
人権擁護や正義などは眼中に無いようです。
危うし! 日本
投稿: | 2016年3月 5日 (土) 09時23分
>原発訴訟団の弁護士島田宏は、「国民の常識が司法に生かされ国民の安全と基本的人権が守られる時代の到来を期待しています」と述べた。 とありますが、そんな発言を本当にしたのですか?
弁護士島田宏は、「虚偽事由で提訴したり侮辱したりすることは正当な弁護士業務」 と福井弁護士会長のときに胸を張って主張していた人物です。
せっかくの活動にも興ざめします。仲間を選んでください。
疑うのであれば以下の件、本人に確認下さい。
国弁護士は虚偽事由で提訴する!
実態は以下のとおり酷い。
虚偽事由で提訴(訴訟詐欺)することは正当な弁護士業務だと主張する黛千恵子(坪田)・坪田康男・八木宏らは、詐欺罪で告発受理(2014~2015)されていたようですが福井弁護士会は、反省も謝罪もせずに知らぬ振りして何らかの処置もしていないようです。
それどころか、福井弁護士会は、「虚偽事由で提訴することは正当な弁護士業務だ」と議決して擁護(教唆・幇助)し続けているらしいです。
被害者は、更なる侮辱や訴訟詐欺にあう事を恐れ恐怖の日々を過ごしているみたいです。
権力を有した組織的な犯罪が放置される中で正義など通用するはずもなく、おそらくは一人ひとりと食い物にされることになるのでしょう。
人権擁護や正義などは眼中に無いようです。
投稿: | 2016年5月 4日 (水) 10時51分