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朝日「吉田証言」の虚妄その3 「撤退」と「退避」を意識的に混同した捏造

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今回、この朝日新聞「吉田調書」キャペーンのほんとうの狙いを、かの「反骨の元外交官」こと天木直人氏がこう解説しています。 

「これが本当なら、もはや東電はその無責任さを問われ、国民の怒りの中でたちどころに潰れる。生き残りなどあり得ない。安倍政権が強行しようとする原発再稼働も吹っ飛ぶ。それほどの大スクープである。
だからこそ菅官房長官は激怒し、あの悪名高い特定秘密保護法案まで持ち出して、吉田調書を漏洩した犯人探しと厳罰を命じたのだ。近年まれにみる朝日の調査大スクープである。」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/amakinaoto/20140611-00036235/ 

天木氏があんまり朝日新聞を随喜の涙を流さんばかりに大絶賛するものですから、私からこれ以上付け加える必要がないほどです(笑)。 

まさにおっしゃるとおり、朝日新聞の目的は、東電を無責任な会社として潰すことで、さらに再稼働も同時に葬り、安倍政権に痛打を与えることです。 

その目的の評価は置くとして、前回まで見た通り朝日新聞は、「東電は現場まで9割撤退していた」と強引に結論づけたいために、当時の切迫した状況を無視した上で、吉田「証言」の真意を真逆に分析をしてみせました。

ではなぜ、このような白を黒ということができたのでしょうか。

それは朝日の1面大見出しにある「9割まで撤退」の「撤退」という言葉に隠されています。朝日は、ここで「撤退」という用語を用いていることに注意して下さい。

そして吉田「証言」には「退避」という言葉が使われていても、「撤退」という表現は使われていなかったことにご注意ください。

そう、「退避」と「撤退」という言葉は決定的に違うのです。

この「東電撤退」問題は、3年前から事故をウオッチしていた私のような人間にとっていわば定番メニューのようなもので、まだこんなことが蒸し返されるのかと逆に驚いたくらいです。  

事故対処において「撤退」という用語は、「事故現場から部隊を後方へ移動すること」です。

この福島事故の場合、福島第1から人員を「全員撤退させる」ということを意味します。  

一方「退避」は、「一時的にその場所から離れて危険を避けること」で、事故現場から緊急避難することです。

福島事故の場合、対処要員を残して、事故処理に関係ない職員は安全な場所に移るということを意味します。

実は、このことを巡って、「確かに退避を要請したが、撤退するなどと言っていない」と主張する東電サイドと、「いや政府側は皆撤退すると聞いた」という民主党政権側で大きな誤解があって、あの菅首相の有名な「総理東電演説事件」にまで発展します。  

菅直人氏などは、今も彼の本にまるで東電が「全面退却」することが歴史的事実であったような書き方をしています。 

菅氏はこう述べています。

「(朝日新聞に)報じられているように、事故発生から4日目の14日夜から15日未明にかけて、東電が事故現場から撤退するという話が持ち上がったが、それが意味するものは10基の原発と11の使用済み燃料プールを放棄することでしり、それによって日本が壊滅するかどうかという問題だった」
(「東電福島原発事故 総理として考えたこと」)
 

菅氏が言うには、東電は責任を放棄して逃げると言っていた、自分はそれは「日本の壊滅」だから断固身体を張って阻止したといいたいようです。

一方、東電本社(本店)はどう考えて、それを官邸に伝えていたのでしょうか。撤退、それとも退避、どちらでしょうか。  

朝日新聞は一貫して「東電撤退」説をとっています。というか、「プロメテウスの罠」の中で東電撤退説を発信したのは他ならぬ朝日だったのです。その部分です。

「清水(※当時社長)が求めた『撤退』について、東電は現在『作業に関係のない一部の社員を一時的に撤収させることがやがて必要となるるために検討したい』だったと主張する。しかし清水の要望を聞いた官邸の人間のうち、確認できた5名全員が清水はそう言わなかったと話す」
(記事版「プロメテウスの罠」)

この朝日新聞報道の影響は巨大で、当時の東電に対する国民的悪感情の発信源になっていきました。

つまりここで朝日が作ったのは、このような世論だったのです。

「東電撤退」⇒「卑劣な東電」⇒「こういう会社だから原発事故を起こしたのだ」⇒「東電潰せ」⇒「原発ゼロ」⇒「再稼働反対」  

しかし、この「プロメテウスの罠」が本になってやがてわかるのですが、別な箇所で、こんな矛盾したことを朝日新聞は書いています。

「一度目にやっと電話がつながったときの清水の言葉を海江田はこう記憶している。『第1原発の作業員を第2原発に退避させたい、なんとかなりませんか』。海江田は「残って頂きたい』と断った」
(書籍版「プロメテウスの罠」)

まさに、朝日の「吉田調書」キャンペーンの場面です。ここで、はっきりと清水東電社長は、現場指揮官の吉田氏の要請に従って政府に「退避」を要請していることがわかります。 

これは、後に公開される東電本社内のテレビ会議での記録を調査した政府事故調中間報告書からも確認できます。 

高橋フェローが福島第1から第2へ全員退避させることを発言した際に、清水社長はこう言っているのです。

現時点で最終避難を決定しているわけではないことをまず確認してください」(政府事故調中間報告書) 

ここで清水氏が言っている「最終避難」とは、現場からすべての要員を退避させることでです。

色々と齟齬があった東電本社と現場ですが、ここにおいては一部の退避であって、全面退避はありえないと言い切っています。そしてそれは吉田氏の強い意志でもありました。

この社内会議の後に、清水社長はこの結果を伝えに総理会談を要請しているのですから、東電が菅首相に「福島第1から全面撤退をしたい」などと言うはずがありません 

興味深いことに、「プロメテウスの罠」はこの電話を受けた後の海江田氏の対応をこう書き記しています。

「(しばらく後に)海江田の秘書官が入ってきて、『東電から電話です』と告げた。海江田は、「もうそれはいいよ。断った話だから』と答えた。『なんの話ですか』と寺田が訪ねると、海江田は、『東電が撤退したいと言っているんだ』と答えた」

普通なら読み飛ばしてしまう所ですが、撤退か退避かというキイワードで見ると、海江田氏(当時経済産業相)は、伝言ゲームのミスというには余りにも大きな伝達ミスをここでしてしまったことがわかります。 

原発事故のマネジメントなど何も知らなかったタレント政治家の海江田氏には、「撤退」と「退避」の概念の違いなどには頓着ありませんでした。 

「どっちだって同じだろう。東電はいずれにしても逃げたいと言ってるんだ」ていどの素人考えがあったのです。 

そして海江田氏が聞き違えて、政府内に東電が「撤退したいと言っている」という誤情報を発信し、受け手のこれまたその概念の差などわかるわけがない菅氏が「すわッ、東電が全面撤退するぞ」と勘違いし、東電本店での大演説につながっていくわけです。

ほとんど笑えない喜劇です。 

別に自民党を好きではありませんが、彼らなら官僚が「大臣違いますよ」とフォローを入れたことでしょう。 

しかし、官僚を敵視して排除した素人政権の悲しさで、彼らはこの聞き違いをそのまま事故対応に反映させてしまいます。  

もうひとつ証拠を挙げます。実はこの3月15日朝の東電清水社長-菅首相会談に呼び出されて立ち会った政権外の第三者がいます。 

それは斑目春樹氏(当時安全委員会委員長)で、彼はこう証言します。

「(菅総理)『東京電力は、福島第一原発から撤退するつもりなのか』
菅は、最初から、そう問い質した。だが、清水の答えは、その場にいた全員を絶句させた。『撤退など考えていません』
えっーー。撤退するのではないのか。撤退するというから、この夜中に全員が緊急に集まっているのではないのか。誰もが清水を見てそう思っただろう。
『清水さんが席に座って、撤退など考えていませんと言った時、かくっと来ました。そして、なんだ、やっぱりそうか、と思ったんです』」
(「死の淵を見た男」門田隆将)

そしてこの「退避か撤退か」論争に決着をつけるように、政府事故調はこう結論づけています。 

「当委員会の調査の結果、本店対策本部および発電対策本部において、一連の事故対処の過程で、福島第1原発にいる者全員を発電所から撤退させることを考えた者はいなかった」(政府事故調中間報告書)  

「菅総理が東電本社に来社し、覚悟を迫る演説を行なう前には、既に東電は緊急対策メンバーを残す退避計画を立てており、菅総理が『全面退避』を阻止した事実は認められない」(同)

福島事故において、当時政権の座にあった民主党は、事故対処に深刻な失敗をしました。 

おそらく後の原子力事故の教科書に「政府はこうやってはならない」例としてゴチック活字で記されるような惨憺たる有り様でした。  

しかし、彼ら当時民主党政権において事故対処に当たった政権中枢メンバーは、責任を東電にすべてなすり着けることで責任転嫁を図りました。 

菅直人氏に典型ですが、「原発推進政策をしてきたのは自民党。事故を起こしたのは東電。逃げようとした東電を止めたヒーローがオレ」という実に虫のいい総括をするようになったのです。 

朝日新聞は、事故調記録を丹念に当たれば、東電撤退説はハッキリと否定されているのですから、 無理矢理にでも「吉田調書」が言ってもいない「命令違反」を捏造するしかなかったのです。

最後に、吉田氏の「全面撤退」問題についてのインタビューの肉声を記しておきます。

もはやこの吉田氏の言葉だけで、朝日新聞の記事はすべて否定されています。

「基本的に私が考えていたのは第1原発をどうやって安定化させるかということに尽きる。そういう時に我々が現場を離れるということは絶対にあってはならない。
かといって人命は非常に尊いので、関係のない人といったらおかしいが、事故の収拾に直接関与していない人には避難していただく。ただやはり現場で原子炉を冷やしたり、そういう作業をしている人間は撤退できないと思っていたし、本店にも撤退ということは一言も言っていないし、私は思ってもいなかった
(毎日新聞 2012年08月11日 )

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コメント

こんばんは。

仰っしゃるとおりです。
究極のポピュリズムが、朝日を始めとする旧サヨク達。

もうサヨク的なものは、理論から実践まですべて機能
しない事が、大衆凡民にまで知れてしまいました。

現代において、旧サヨク達が高給をもらい生きていく
為には、社会で一番運のない人達とバカな人達を味方
につけて、彼等を煽りに煽る事しかなくなりました。

何でも重箱の隅をつつきますし。最近の「金目失言」
「女性都議セクハラ発言騒動」なども、ヌケヌケまあ
正義漢面して良く言うよなぁ~と呆れますわ。

私は自民党など早くなくなってコヤシになれ、と思っ
ています。まあ、たしかに言葉は過ぎましたけど、大
騒ぎするような事ではないのに、善人面をアピールす
るチャンスだとばかりに気色悪い主張をワアワアして
いるのを見ると、いかりや長介の〆言葉が口を出ます。

本格的日本政府は、私が死んだ後にも出来やしません。


投稿: アホンダラ | 2014年6月20日 (金) 00時10分

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