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2014年6月16日 (月)

朝日「吉田調書」の虚妄その1 「所長命令に違反して大部分が逃げた」の嘘

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朝日新聞は5月20日付けで、いわゆる「吉田調書」をスクープしています。 

内容的には新味に乏しいのですが、吉田昌郎氏が「撤退禁止を命令したのに、所員は逃げてしまった」ということを朝日は言いたいようです。

「東日本大震災4日後の11年3月15日朝、第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた。」(朝日新聞5月20日)

朝日記事から「吉田証言」の当該部分を引用します。分かりやすくするために3分割します。

・A「本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ。ここがまた伝言ゲームのあれのところで、行くとしたら2Fかという話をやっていて、退避をして、車を用意してという話をしたら、伝言した人間は、運転手に、福島第二に行けという指示をしたんです。」 

・B「いま、2号機爆発があって、2号機が一番危ないわけですね。放射能というか、放射線量。免震重要棟はその近くですから、これから外れて、南側でも北側でも、線量が落ち着いているところで一回退避してくれとうつもりで言ったんですが、確かに考えてみれば、みんな全面マスクしているわけです。」 

・C「それで何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって、よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです。いずれにしても2Fに行って、面を外してあれしたんだと思うんです。マスク外して」

口語をそのまま起こしているので読みづらいですが、吉田氏は3つのことを言っています。 

まずAの部分です。 

「2F(福島第2原発のこと)へ退避しろと言ったのではないが、伝言が混乱して運転手に福島第2に退避するように伝わってしまった 

次にBの部分です。 

B「2号炉が水素爆発寸前だったのでその近くの重要免震棟(※当時約700名近くが避難していた)が危険だと思い、構内の別な場所に移動するように言った。」 

そして結局、Cの部分で、吉田氏は対処要員69名を残して、2F(福島第2)へ退避するわけですが、これを「よく考えれば2Fへ行ったほうがはるかに正しかった」と言っています。 

さてさて、このどこが問題視されねばならないのでしょうか。 

吉田氏は次回でふれますが、自分の指示や、「証言」を絶対視していません。むしろ、記憶違いがあるだろうし、間違って出したのもあるだろうと考えています。 

だから、福島第1の現場という修羅場で、伝言ミスや誤判断もあって当然だと思っています。ここが彼の凄さです。 

もし彼が当時の総理のような性格ならば、外に敵を作って自己合理化をしたことでしょう。 

しかし朝日新聞はどうもこう言いたいらしいですね。

「高線量の場所から一時退避し、すぐに現場に戻れる第一原発構内で待機」
「その後異常でないことを確認できたら戻ってきてもらう」ことが吉田所長の「命令」であり、これに背いて福島第二に避難したのは重大な命令違反だと見なしている。」(同記事)
「構内の線量の低いエリアで退避すること。その後異常でないことを確認できたら戻ってきてもらう。」(同上)

「重大な命令違反と見なしている」ねぇ? 

「吉田証言」Cの部分で吉田氏はなんと言っているんでしょうか、吉田氏ははっきりこう言っていますよ。

よく考えれば2Fへ行ったほうがはるかに正しかった 

このどこが「重大な命令違反」ですかね、朝日さん。

吉田氏は福島第2への「退避」を「命令違反」として責めているどころか、自分が言った「(構内)北側か南側への退避」より正しい判断だったと胸をなでおろしているのです。 

この状況を理解するには、2011年3月15日朝の時刻の重要免震棟と福島第1の状況を知る必要かあります。 

整理してみましょう。

①3月12日、1号機水素爆発
②3月14日、3号機水素爆発
③所員は、海水注入や建屋に突入といった戦いを不眠不休で継続
④構内か高線量になってきたために、放射線遮断機能を持つ重要免震棟に700名全員が退避した
⑤700名のうち9割は、庶務、総務、経理などの事務系で、女性も多く含まれていた。東電職員以外の下請け労働者も多く存在した。

この状況で心配されたことは以下です。 

①重要免震棟近くの2号機の爆発の予兆があり(※実際数時間後に爆発する)、重要免震棟も決して安全とはいえなくなっていた。
②700名という大人数が既に震災後5日間も重要免震棟に避難していたために、備蓄の食糧、水、トイレなどのライフラインが限界に近づいていた。
 

この状況を見て吉田氏は、事故の緊急対応に不要な、事務系、女性、下請けを退避させるべきだと考えました。 

というか、この時を逃すと福島第1自体がどのような状況になるか予断を許さないまで状況が切迫しており、吉田氏は必要な対処人員だけを残して、退避させるべきだと考えたのです。 

そして、吉田氏はこの残留するメンバーは「オレと一緒に死んでくれ」と考えていました。 

その時彼が選んだひとりひとりの顔を思い浮かべて懊悩する姿は、いくつかのドキュメントに記されているとおりです。 

ちなみにこの残留する決死隊69名はすべて東電職員であり、一部で流されたような下請けに危険な仕事をさせて正社員は逃げたというのは悪意ある誤報です。

また、彼らの大部分は、東電本店のエリートとは異なり現地採用された福島県出身者であって、自らのプロ意識の命じるままに、そして自分のふるさとと家族を守るために志願したのです。

彼らは原子力事故という地獄に差した一点の灯火のような存在だったのです。

それはさておき、朝日新聞はなにを根拠に、「その後異常でないことを確認できたら戻ってきてもらうことが吉田所長の命令」だと書くのでしょうか。 

いいですか、既に1、3号機が爆発しており、2号機は爆発の予兆があったわけです。 

吉田氏は「失敗すればチェリノブイリの10倍の惨事になる」ことすら予想していました。 

というのは、どうにか5.6号機は運転員の的確な対処で爆発を免れたものの、2号機、4号機の爆発は間近だと感じていたからです。 

「異常がないことが確認できたら」と朝日は地の文で書き加えていますが、なにを寝ぼけたとを。こんなことを吉田氏が発想するはずがありません。 

「異常がない」どころか、まさに異常な極限状況の真っ只中で、吉田氏は700名の人命を預かっていたのです。 

冷厳に言っても非常時指揮官だった吉田氏に、630人もの事故対処に役に立たない人たちに「戻ってきてもらう」理由はなにひとつありません 

まして、吉田昌郎という人物は、残留した職員が「この人のためだったら命を捨てられる」と思ったという男気と優しさに溢れる人物だったのです。 

ただ退避先の指示において、構内か、福島第2かということで「伝言ゲーム」(吉田氏証言)があっただけです。 

そして吉田氏ははっきりと自分の指示が間違っていた福島第2へ退避したほうが正しかったと述べています。 

このどこが「所長命令に反して大部分が逃亡」ということになるのでしょうか。 

次回に続けます。

 

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原子力事故」カテゴリの記事

コメント

マスメデアの好きな読み手に誤解を生ませる表現ってやつですかね?読者をミスリードしたい時の常套手段ってヤツ。事実を事実として何のバイアスもかけずに報道するっていうのはやっぱり無理なんでしょうね。

天下の大新聞朝日とメディアグループが、いつまでもこんな姑息な手段で誘導しているわけです。
特に今回のような内容は明らかな「捏造報道」であり、かつ大部分の「引用」の中に「作文」を織り混ぜて全く別の結論にミスリードさせるという悪質さですね。

おそらく狙ってやっているのでしょうが、ネットやケータイニュースで短いヘッドラインだけパラパラ見ていたら、完全に騙されます。

全く、日本のマスメディアにも、いい加減に成長してほしいものです。

こんばんは。

『吉田昌郎という人物は、残留した職員が「この人のためだったら命を捨てられる」と思ったという男気と優しさに溢れる人物』

事故当時ではありませんが、私の知人に福島第一原発勤務経験者がおります。
むろん、吉田所長とも面識があります。
同じことを申しておりました。

だから、この新聞記事は丸めて捨てたくなりました。
美談として強調しすぎるのも考え物ですが、事実は少なくともそう語られるに値するものだったはずです。

重大事故であることを強調するあまり、実は必死で真摯な対応や行動があったのに顧みられないのは、天に召されたご本人に気の毒ですね。

やっと取り消し記事が出ました

・ 朝日新聞社の木村伊量社長は11日、記者会見を開き、東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成した、吉田昌郎所長に対する「聴取結果書」(吉田調書)について、今年5月20日付朝刊で報じた記
http://www.asahi.com/articles/ASG9C63FTG9CUTIL04Q.html?iref=comtop_6_01
吉田調書「命令違反で撤退」の記事取り消し 朝日新聞:朝日新聞デジタル

記事の中で小さく謝罪していますが、謝罪する相手が違うとは思います。

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