室井佑月さんの「福島に子供は行くな」差別について
私が苦手なタイプに、理屈抜きで自分の考えだけが正しいと信じて疑わない人がいます。
そういう人に限ってすこぶる感情的です。
今はなんといっても、そのテの代表的人物を上げるとすれば、室井佑月(ゆづき)さんでしょう。欄外に全文を乗せておきましたから、気力体力がおありの方はお読みください。
私は、このテの自分の絶対的「正義」を信じて疑わないタイプの文章を読むって、相当に疲れるんですよね。それだけでドドッと夏バテが増進して、ソーメンしか喰いたくなくなります。
だって、こういう人は右左を問わず、会話が成立しないのです。
あたしは正しい、あたしが間違っているというあんたがおかしい、世の中自分とその仲間以外は間違いだらけだ、はいはい、お願いだから暑いんで静かに話そうね。
室井さんはどうやら、「修学旅行に福島へ行くな」と言いたいらしいようです。
『美味しんぼ』問題を受け、政府は、修学旅行先として福島のモデルコースを設定し、全国の学校に提案することなどの(風評被害払拭にむけた)強化策をまとめた」
というニュースを観て、なんでわざわざ危ない事故を起こした原発のある福島へ、全国の子どもたちを連れていかなきゃならないの、ということを書いた。政府の意見が正しいことの証明に、子どもを使うのは野蛮すぎると
室井さんは、「あんたらの住む福島なんか子供を連れていく場所じゃないんだよ」と言っているに等しく、自分の母性と子供をダシにして、恐怖心の押し売りをすることで、福島で今暮らしている福島県民を侮辱しています。
いや室井さんのような偽善的な人には、はっきりと言ってあげないとわからないだろうから、こう言ってあげましょう。
室井さんは福島という土地に住む人達を差別しています。あなたのやっていることは人として大変に下劣な行いです。
今、3年目の夏休みを迎えて、ひとりでも多くの人達に遊びにきてもらって、ほんとうの福島を見せたい現地の人たちに冷水を浴びせる卑劣な行為です。
それに気がつかないというほうがよほどヘンです。親も同伴だから富裕層が行くのだろうとか、中間処理施設のバカ大臣の金目発言まで引き合いに出していますが、関係ありません。
これが多くの読者の怒りを買って炎上したようで、まぁ当然でしょうが、それを彼女は「あたしの意見は福島差別になるのだろうか」と逆ギレしているわけです。
たとえばこんなかんじ。
「福島はなにも起きていないといってしまえば、東電の起こした原発事故のその後のすべてが風評被害であるというすり替えが可能になってしまう。国も東電も、被害者に対して手厚い保護など考えなくていいことになっていく」
避難者への「手厚い保護」は過ぎるほどしていて、避難先では今や働かないで昼間から酒飲んでいるような富裕避難者が社会問題にすらなっているんですが、その部分を除いてもこの文章の意味分かります?
「福島で何も起きていない」と言うことが、なぜ「原発事故後がなにもなかった」ことに「すり替えられて」、しかもそれが「すべて風評被害になってしまう」んでしょう。
彼女の脳味噌の中では整合しているんでしょうが、データも証拠もなく感覚だけで言われても困るんだよなぁ。
だって、この論法を逆の立場でみてみましょうか、おかしいのがわかるから。
推進派はこう言うのでしょうか。
「福島でなにかが起きているといってしまえば、東電の原発事故のその後が風評被害ではなく実害になるというすり替えができてしまう」
ね、この両方ともおかしいでしょう。福島の健康被害のデータと証拠を抜きにして、「あるはずだ」、いや「ないはずだ」と言ってもなんの意味もないはずです。
もちろん単なる風評被害でもなく、現実に厖大な事象があったのは確かです。
しかし、あの3.11から3年たって客観的データが揃ってきて、国連科学委員会の健康被害の報告書も既に出ているわけです。
室井さんは、「福島で甲状腺ガンが増えている」などというデマを信じているようですが、国連科学委員会(UNSCEAR)福島事故最終報告書はこう述べています。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/unscear-0b78.html
「福島原発事故の結果として生じた放射線被ばくにより、今後がんや遺伝性疾患の発生率に識別できるような変化はなく、出生時異常の増加もないと予測している。
その一方、最も高い被ばく線量を受けた小児の集団においては、甲状腺がんのリスクが増加する可能性が理論的にあり得ると指摘し、今後、状況を綿密に追跡し、更に評価を行っていく必要があると結論付けている。甲状腺がんは低年齢の小児には稀な疾病であり、通常そのリスクは非常に低い」
また環境省も福島の甲状腺ガンについてこんな報告書を出しています。
「環境省は28日、東京電力福島第1原発事故による福島県の子どもの健康影響を調べるため、比較対象として青森、山梨、長崎の3県の子どもの甲状腺がんの頻度を調べた結果を発表した。対象者数が違うので単純比較はできないが、福島と発生頻度が同程度だった」としている」(共同2014年3月28日
このように落ち着いてデータと資料に即して整理して議論できる時代状況は既にあるのです。
それは「なかったことにする」こととは本質的に別なことです。どうしてこんな簡単なことがなぜ分からないんでしょう。
この人の内的時間は、2011年3月11日から一歩もでていないのです。
ところでこの室井さんの週刊朝日(また朝日新聞ですか)のコラム記事は、美味しんぼ事件の応援で書かれたものの続きのようです。
室井さんは、雁屋氏が言っているような、「美味しんぼ」が「福島は住めない所になった。脱出するのが勇気だ」、という発言を肯定しています。(下 スピリッツより)
このような極端な考えから見る限り、福島は今でも放射能の「穢れ」で満ちた地域、つまり室井さん流に言えば「子供を修学旅行に連れていくな」という土地に見えるのでしょうね。
少しでも「放射能」が残っている限りダメ、1ベクレルでもダメ、だって子供が大変なことになっちゃうから全員避難しろ、そう反原発派の人たちは叫んだわけです。
だから、福島や茨城の野菜や米を食べるなと呼びかけることは、風評被害の拡散ではなく、実害の阻止だと主張しました。
そう言えば、室井さんはかつて、福島の食材を給食に出すなとNHKで発言して物議を醸しましたね。
あの時もひどいことを言う人がいるもんだ、しかし時間がたてば理解してもらえるだろうと思っていたもんですが、ぜんぜん治癒しなかったとみえます。
いやそれどころか、室井さんは、食べるな、逃げろから、ついに「子供は行くな」にまでグロテスクに定向進化してしまったようです。 やれやれ。
室井さんは、差別が金がらみのことばかりだと思っています。浅いな、あなた作家でしょう。
差別という感情の根源は、そんな目に見える銭カネばかりではありません。
それは自分が住む澄んだ水が汚されたと感じる時に起きる反作用の感情なのです。
民族学者の石川 公彌子氏は「穢れ」をこう説明しています。
「穢れ」とは神道や仏教における観念であり、清浄ではなく汚れて悪しき状態を指す。とくに死、疫病、出産、月経や犯罪によって身体に付着するものであり、個人のみならず共同体の秩序を乱し災いをもたらすと考えられたため、穢れた状態の人は祭事などに関われずに共同体から除外された」
これを今の3.11以降の状況に置き換えてみましょう。放射能という「清浄ではなく汚れて悪しき状態」にまつわるすべてが「穢れ」なのです。
農産物も、車も、雪も、瓦礫も、そして人すらもね。
放射能とは疫病や死のシンボルであり、それを持ち込もうとする者は、清浄な共同体の秩序を保つために排除されたのです。
しかし、前近代的な「穢れ」に対する恐怖であるが故に、いくら福島県が「放射能や健康被害はまったく出ていない」と言おうが言うまいが、一切耳を貸さない根深く理屈抜きな部分からの恐怖なのでしょう。
このようなある意味、前近代的な「闇」の心理を引きずっているためにいつまでたっても「穢れ」を排除し、差別する事件が後を断たないのです。
一見、科学によって装われていますが、室井さんや雁屋氏がかき立てたのは、穢れを嫌う村八部という恐ろしく古い日本人の暗部です。
かつて広島において「ピカがうつる」と被爆者を差別した時代に、ネットやツイッターがなくてよかったとしみじみ思います。
あの時代にそれがあったら、福島どころの騒ぎでは収まらず、広島の復興は10年以上遅れていたことでしょう。
今、室井さんは「フクシマの放射能毒がうつるから、子供を修学旅行なんかに行かせるな」と主張しているわけです。まったく同じ差別の構図だとわかります。
そして私がイヤになるのは、室井さんたちの正義ぶったエリート意識です。
自分たち以外はすべて放射能の恐怖を理解しない馬鹿な人たちであり、自分と見解を異にする人たちはものが見えない馬鹿だと見下すような態度です。
室井さんたちにとって、3.11以後の日本社会は、「邪悪な原子力ムラ」とそれに洗脳されている人たち、それに対して「正義の闘いを挑む脱原発派」に二分されてしまっています。
室井さんは、「仲がいい大学教授」や芸能人仲間の中にいれば、脱原発を唱えることで選民意識を持てるのでしょう。
デマッターたちの言葉を絶対真理として帰依しているので、多くの人が脱原発に無関心なのは、邪悪な政府がなにか大事なことを隠しているに違いないと考えています。
彼らのサイトにいけば、毎日のように「ロシア軍の秘密情報」や「米国の専門家」が、「福島県はもう人が住めない土地になっている。全員避難しなければならない。大量の子供たちが甲状腺ガンや小児ガンに罹っているが、政府・東電が隠ぺいしている」と説いているのが見られます。
しかし、その情報源は「知り合いの東電社員から聞いた」、「知人の知り合いの政府官僚から聞いた」という伝聞ばかりです。
なにせ彼らによれば、去年の12月30日には福島第1でまた核爆発が起きたそうで、北極のシロクマが大量死したなんて「ロシア軍秘密情報」があるくらいです。言うまでもなくデタラメです。
一種の疑似カルト宗教ですが、ここからハルマゲドン願望が発生します。
心秘かに、いや時には岩上安身氏や上杉隆氏のように公然と、「お待たせしました。奇形が生れました」と「フクシマの破滅」を願望するようにすらなります。
ここに至るともはや荒廃した精神と言われても仕方ありません。
室井さんのような人達は、国連科学委員会がなんと言おうと、福島で検診活動に尽力している坪倉医師のような人が何を言おうと、いや福島で何かある、何か隠されている、それはアベ・シンゾーが悪企みしているんだぁ~と今後も思い続けるのでしょう。
まぁ、ご勝手に。ただ、公共の場で騒がないでね。それからハスッパに口とんがらして、斜めから他人を見るのはやめようね。すっごく気色悪いし、 暑いから(笑)。
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■週刊朝日 2014年8月1日号
「抗議を受けた室井佑月「あたしの意見は福島差別になるのだろうか」(太字引用者)
「『美味しんぼ』問題を受け、政府は、修学旅行先として福島のモデルコースを設定し、全国の学校に提案することなどの(風評被害払拭にむけた)強化策をまとめた」
というニュースを観て、なんでわざわざ危ない事故を起こした原発のある福島へ、全国の子どもたちを連れていかなきゃならないの、ということを書いた。政府の意見が正しいことの証明に、子どもを使うのは野蛮すぎると。
そしたら、「福島を差別するな!」と、ものすごい数の抗議を受けた。
あたしの意見は福島差別になるのだろうか。
今、現在、福島に住んでいる人たちがいるのもわかる。福島では、線量の高いところも低いところもあるのも知っている。
だが、福島ではなにも起きていないといってしまえば、東電の起こした原発事故のその後のすべてが風評被害であるというすり替えが可能になってしまう。国も東電も、被害者に対して手厚い保護など考えなくていいことになってゆく。
現に、この国の環境を守るのが仕事の環境省の大臣が、汚染土の中間貯蔵施設建設をめぐり、「最後は金目でしょ」という発言をした。
「もっと丁寧に安全だということを説明しないと」ではない、「金でなんとかなるでしょ」ということだ。
正直にいえば、もうこうなった以上、最後は金で解決しかないのかもしれない。が、それは事故の責任者が被害者に謝り倒し、どうかこれで勘弁してくださいというお金であるべきだ。劣悪な環境も「金を払えばいいんでしょ」という金ではない。金は金じゃんという人もいるだろうが、そういう心根の在り方が差別なんだとあたしは思う。
政府が全国の学校の修学旅行先に福島を推奨する件だって、本当に差別されるのは、普通の家の子や貧しい家の子たち、公立の学校に通う子どもたちではないか。希望者を募っていくボランティアならともかく、全員が行く修学旅行で、裕福な家に生まれた私立の子たちが行くのかな?
福島と隣接する県にある私立の全寮制の学校が、震災後、子どもたちを避難させた。そして、今いる生徒たちの卒業をもって、学校を閉じるらしい。
もっと大変な環境で頑張ってる子どもたちはいるのに! そう怒る人はいるかも。でも、そういったところで、大変な環境の中で生活を強いられる子のためにはならない。それどころか、なにもなかったことにされ、逆に足を引っ張ることになる。
あたしは自分の学校の生徒をなにがなんでも守るという選択をした、この私立校の英断を偉いと思う。
そうそう、仲が良い大学教授の先生が、原発事故・放射能問題を、 「戦争責任問題と似ていますよね。結局、1億総懺悔で、戦争責任は追及せず、です」といっていた。その通りだとあたしも思う。
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