電気はジャブジャブ余っているのか?その2 産業現場の声を聞け!
電力はジャブジャブ余っている、政府の節電要請は原発再稼働のための謀略だ、一基たりとも動かしてはならない、これが脱原発派の皆さんの夏前の定番のご意見のようです。
ある大学教授などは、「電力不足による値上げなんてたいしたことはない。たかだかコストの数%だ。一般市民はコーヒー代ていどの値上げを我慢すればいいだけ」と放言しています。
しかし、これほど産業現場、特に中小零細加工業の現場を知らない言説は少ないのではないでしょうか。
過剰な節電、電力供給不安、恒常的な電気料金の値上げは、産業活動を阻害し、ひるがえっては雇用に悪影響を与えています。
いまや一世帯当たりの電力料金の増加負担は年10万円以上となっていて、産業部門では中小製造業やサービス業に深刻な悪影響を与えています。
電気料金値上げによって経営が圧迫されている産業現場の声を、日本鋳造協会・角田悦啓専務理事にお聞きしたいと思います。
(「月刊エネルギーフォーラム7月号」及びGEPRから抜粋しました。ありがとうございます)
鋳造業という業種は、鋳物部品を自動車、機械産業に出荷している製造業の基盤的分野で、産業規模も2兆円規模に登ります。
そして鋳物業は製品出荷額の1割が電気代です。
「鋳造業は金属を溶かし、鋳型に流し込んで製品をつくります。以前はコークスを燃やすキューポラ(溶解炉)が使われましたが、環境への配慮から電炉が大半を占めるようになりました。
そのために製品出荷額の1割強が電気購入費になります。売上高数兆円の自動車メーカーと、数百億円の鋳造業の会社の電気代が同じ例が数多くあるような、電力多消費産業なのです」
中部、関西と関東地方は、機械・自動車部品が立地するために、鋳物業もそこに多く集中しています。
電力料金の上昇は、電気を多く使う鋳造業に深刻な影響を与えていて、不況から脱出できていません。
廃業は震災以降増加の一途をたどっています。
●協会加盟約1000社中の廃業・倒産
・2011年・・・1社
・ 12年・・・12社
・ 13年・・・14社
電気料金はこの2年で、原発停止の影響で約2割上昇しています。
(図 東電HP)
昨年9月1日に北海道電力と東北電力の電力料金値上げが実施され、これで、福島事故翌年の12年からの全国の電力値上げは一巡したことになります。
(図 関西経済連合会意見書より)
●申請許可された電気料金値上げ幅
・家庭用(規制部門) ・・・6・23%~9・75%
・産業用(工場・オフィスビル)・・・11・0%~17・26%
このために鋳物業では形状利益が18%に圧縮され、利益がでない、先行きが見えないような状況に陥っています。
「協会員会社の経常利益率は1.8%と他産業に比べて、かなり低い状況です。この電気料金値上げで利益がなくなります。さらに関東・東北地区では、震災直後は計画停電、電力の制限で生産が混乱しました。停電が懸念される今の電力供給の状況を、事業の継続性の観点から不安に思う経営者が多いのです」
電力自由化がされていますが、鋳物業は特殊な電気の使い方をするために新規参入の電力会社とは契約できない状況です。
角田氏はこのような悲痛な声を挙げています。
「電力の安定供給がなければ、鋳造業は経営ができません。工場の設備投資額が企業規模に比べ大きいため、簡単に海外への移転などできません。省エネの努力も行っていますが、効果は限られます」
鋳造業電力料金高騰の影響をまとめてみます。
・経常利益率・・・1・8%に低下
・売り上げに占める電気代・・・1割強
・2割超の電気代で、日本の製造業の屋台骨の産業が揺らぎ倒産が増加
鋳物業界は原子力について率直にこのような意見をしています。これは鋳物業界に限らず、電気炉、プラスチック加工を中心として関西・九州産業界全体の意見です。
先日の記事でも見ましたが、関西・九州の経済連合会合同の企業アンケートの結果、このような電力不足の実態が分かりました。
※「原子力発電所の一刻も早い再稼働を求める-地域 ... - 関西経済連合会
・今夏の電力使用量が昨夏より増加する企業・・・全体の22.5% 製造業では33.3%
・昨夏同様の節電率の達成は困難」な企業・・・全体の24.8% 製造業では34.6%(中小規模の製造業では39.4%)
そして同調査では、電力の供給不安およびコスト上昇につながった結果、企業の国内への設備投資マインドを減退させることも明らかになっています。
・電気料金値上げにより「国内への設備投資の縮小・見送り」の可能性を持つ企業
・昨春の値上げの場合 ・・・7.6%
・今後再値上げした場合・・・15.4%
経営上の懸念は消費税増税を上回って電気料金値上げだったそうです。
●関西・九州経済連合会アンケートによる経営上の懸念事項
・電力コストの上昇 ・・・59.6%
・原油・原材料価格の高騰・・・57.8%
・消費税率引き上げ ・・・49.8%
(※アンケートは「電力供給および電気料金に関する関西・九州企業への影響調査」。今年3月、関経連が会員企業1064事業所、九経連が934事業所を対象に実施した。回答率は全体で21.8%)
アンケートを見ると、電気料金値上げは消費税引き上げよりも経営悪化をもたらしていることに驚かされます。
関西経済連合会は、規制委員会による余りに遅滞している安全審査に対して危惧し、このままこのような電力不足が続けば、「取り返しのつかないダメージ」を受ける可能性になると警告しています。
「現政権においては、安全が確認された原子力発電所を再稼働する方針を表明されていることは高く評価し、産業界としても強く支持する。しかしながら、原子力規制委員会による安全審査は長引き、当初「半年程度」とされていた審査期間が既に半年を超過しているにも関わらず、未だ原子力発電所の再稼働の見通しが立っていない。
もしこのまま原子力発電所の再稼働が遅れれば、中小企業や製造業を中心に、地域経済を支えてきた産業は景気回復どころか、取り返しのつかないダメージを受けることになる“失われた20 年”の再来ともなりかねない」
そして角田氏も、このような悲痛な声で訴えを締めくくっています。
「日本に必要な鋳造業が成り立たなくなってしまうかもしれません」
■写真 中央に見えるツインピークスが筑波山です。実に姿の美しい峰です。
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