小泉翁の妄執「原発ゼロ」の嘘 その2 核廃棄物最終処分の勘違い
小泉純一郎翁が、核廃棄物の最終処分という原発政策の最大の弱点を突いている点は、さすが往年の勝負師の勘は冴えていると褒めるべきでしょう。
あの人は、筋道立てて考えるのは他人任せにしたがりますが、勘だけはいいんですよね。
しかしなにぶん勘頼りのために筋道がグチャグチャで、最終処分問題が解決しないから再稼働反対と短絡してしまいます。
ねぇ小泉さん、「再稼働反対」って意味わかって使っているのかな?
「再稼働反対」っていうのは、漸減的に危険な原発を止めていこうという立場まで切り捨てた極端なスローガンなんですよ。
段階的に縮小するためには、今、最低限の原発を再稼働することが前提です。おそらく国民の大多数の意見はこのあたりでしょう。
穏健、急進がうまく絡まって運動になるのでしょうが、「再稼働反対」以外の考えを認めない硬直的姿勢で、国民から浮き上がる一方です。
さて、小泉翁の言う通り原発を現時点で止めたとしても、ただ今現在原発の使用済み燃料プールなどにある2万8千トンに及ぶ核廃棄物は残ったままです。
止めた場合、確かにこれ以上増やさないことはできますが、抜本的解決にはつながりません。
原発ゼロを言う前に考えねばならないはずの、原発を回そうが回すまいが今でもある行き場のない使用済み核燃料の処分方法についてまるで考えていないことです。
使用済み核燃料の処理方法はふたとおりあります。
ひとつは、再処理することです。
これは青森六ヶ所村の再処理工場で、ウラン酸化物+ウラン・プルトニウム混合酸化物と、高レベル核廃棄物の二つに分離して、後者のプルトニウムを除去した核廃棄物を300メートル地下の地層処分します。
なにせプルトニウムは、ご承知のように半減期が2万4千年もありますから、これを抜かないと危なくて仕方がないわけでし、体積も3分の1に圧縮できます。
もうひとつの方法は、そのままプルトニウム+ウランごと埋却してしまう方法です。
これは再処理工程を省いてプルトニウム+ウラン入り核廃棄物を、まんまドラム缶に入れて埋めてしまうことと一緒です。
誰がどう考えても無責任の極みで、何万年、いや数百年の間に缶が壊れたら一体どうするのか、という方法です。
ですから埋却方法については、選択の余地はありません。再処理してプルトニウムを除去してやるしか方法しかとりようがないのです。
ただこれで問題は解決されたわけではありません。プルトニウムを抜いて高レベル核廃棄物を再処理すると、立派な核燃料に生まれ変わってしまうことです。これを「MOX燃料」(※1)と呼びます。
政府は3.11前にはプルサーマル(※2)かMOX原子炉で使うつもりでいました。これを「核燃料サイクル」と呼びます。
というのは、日本は「プルトニウムを核兵器に転用しない」というIAEA(国際原子力機関)の国際公約を持っているからです。
これは原発保有国が持つことを義務づけられている国際公約で、既に核保有国であることを宣言している国(常任理事国+印パ)を除いて、原発を持つ場合そこから出るプルトニウムを余分に備蓄することは許されていません。
それを許すと、核兵器に転用することがまかり通ってしまい、核兵器の拡散を招いてしまうからです。
ですから、脱原発派の皆さんが言うような再稼働反対、再処理反対、最終処分反対という立場は、国際社会から見れば徒にプルトニウムを持ち続けて核兵器を準備する暴挙だということになります。
だって日本はプルトニウムを貯めて核兵器を作る意志がある、と暗に宣言するようなものですからね。
ある専門家の計算では、約1000発の核弾頭が製造できるとのことです。
余談ですが、韓国はこのプルトニウム保管を米国に拒否されています。それはパク・チョンヒ(朴正煕)大統領時代に真剣に原爆製造を計画したことがあって、それがバレてしまった前歴があって信頼性がないからです。
日本ですら、東海村の実験施設にあったプルトニウムを、管理が悪いことを理由に米国に返還させられています。
実は、民主党政権が原発ゼロを閣議決定から参考事項にトーンダウンした背景には、米国に出向いてホワイトハウス要人にそれを伝えたところ、「では、日本は国際公約を破棄して核武装すると受け取っていいのだな」と激怒されたことがあると言われています。
そこまで深く考えないで原発ゼロを言ってしまった民主党政権は大いにびびって、直ちに「参考」に格下げしてしまいました。
原発ゼロは、国際的には我が国が数万トンも備蓄しているプルトニウムをそのまま備蓄し続けて、イランや北朝鮮のようによからぬことを企んでいるということになるのです。
ここで大きな矛盾に突き当たりました。原発ゼロ政策を取っても、国際公約上は再処理を続けていかねばならず、それをするとMOX燃料がどんどん積み上がってしまうのです。
青森県六ケ所村の再処理工場は、近く実用稼働に入るのですが、その処理能力は年間800トン程度です。
となると、現在2万8千トンという核廃棄物は、原発をすべて止めてこれ以上増えないようにしたとしても再処理してプルトニウムを分離するまで35年かかる計算です。
となると、原発ゼロにすると国内原発すべてが稼働停止しているわけですから、年間800トンも積み上がっていくばかりのMOX燃料をどうするつもりでしょうか。
ベトナムにでも、原子炉とMOX燃料をパッケージで売るのでしょうか。
では、再処理せずにプルトニウムをそのまま埋めてしまうなどと言うのは、先ほど述べましたようにまさに後の世代に対しての無責任の極みです。
青森県は原発ゼロで再処理による核燃料サイクルが撤回されるのなら、英仏から返還される高レベル核廃棄物の受け入れを拒否し、既に国内の原発から搬入されている使用済み核燃料も返還することを検討すると言っています。
それはそうです。青森県は再処理したら県外に持ち出すという約束で高レベル核廃棄物を受け入れたのであって、そのまま積み上がっていったら六ヶ所村は事実上の最終処分場になってしまうわけですから、冗談じゃない、と怒ったのです。
となると、現実的にはわずかでも原発を稼働させて、再処理にかかる35年間(+その原発から出る使用済核燃料の再処理期間)の年数は原発は止められないことになります。
つまり原発をミニマムにしようとするだけで、40年以上の時間がかかってしまうのです。
原発ゼロを叫ぶのは簡単です。30年でも10年でも即時でも、ただ言うだけですから。
もっとも、ただ言うだけでも民主党政権時の原発担当者は、30年以下にはどうにもならないと嘆いていたそうです。そりゃそうだ。
問題は、現に膨大に積み上がった使用済み核燃料をどうするのか、これに答えない脱原発政策はすべて口先の空論です。
たしかに、反原発活動家の皆さんが言うように、原子力の最終処分という出口(バックエンド)を考えずに原発を始めた国が悪いのです。しかし、それはわかりきったこと。
「自民党が悪い」と百回言ってもなんの解決にもなりません。脱原発を真剣に考えるなら、そこから考えていかねばなりません。
だから、今の時点で、このバックエンド問題がなにひとつ解決していない時点で、原発ゼロや再稼働反対を言う小泉翁って成せば成るの精神論者に思えます。
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※1 MOX燃料(モックス)
混合酸化物燃料の略称であり、原子炉の使用済み核燃料中に1%程度含まれるプルトニウムを再処理により取り出し、二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)とを混ぜてプルトニウム濃度を4~9%に高めたものである。
主として高速増殖炉の燃料に用いられるが、既存の軽水炉用燃料ペレットと同一の形状に加工し、核設計を行ったうえで適正な位置に配置することにより、軽水炉のウラン燃料の代替として用いることができる。これをプルサーマル利用と呼ぶ。(Wikipedia)
※2 プルサーマル
プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を、通常の原子力発電所(軽水炉=サーマルリアクター)で利用することを「プルサーマル」といいます。これはプルトニウムとサーマルリアクターを組み合わせた造語です。(日本原燃)
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コメント
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管理人さまに、お尋ねしたいのですが、日本は、現状、非常に大量のプルトニウムを、保管しています。
MOX燃料も、良いのですが、40年前、GEが、設計した原子炉は、ウラン燃料を使った発電所としての、設計だと、思えるのですが、そんな40年以上前の設計思想で、MOX燃料を、大量に使えるものなんでしょうか?
また、デブリになったMOX燃料は、ウラン燃料より、硬いはずなので、果たして、メルトダウンした場合の廃炉作業は、可能なんでしょうか?
ある意味、国内に現在あるウランやプルトニウムは、
リサイクルしない限りは、増え続けるはずなんですが、福島第1、5号機、6号機を、改良して、安全性を高める研究プラントにしたいと言う政府案もあるようですが、やはり実際に、実物大の研究プラントで、
データーを集めない限り、コンピューターシュミレーションだけで、実用プラントの安全性の評価は、難しいと思えるのですが。。
現在、休炉状態の各原発約50基ですが、圧力容器も、使用済み燃料プールも、地上にある燃料棒保管プールも、絶えず水を、交換していないと、放射線に強い、植物性プランクトンや、腐った水から出てくるプランクトンなど、除去していかないと、発電していかなくても、メンテナンス費用は、かさばるばかりですよね。
個人的には、廃炉すべき原発は、廃炉して、まだ、使える原発は、今回、実感した、原子炉建屋以外での放射線漏れについて、対応できる周辺施設の充実は、必要ですよね。
投稿: りぼん。 | 2014年7月11日 (金) 12時36分
りぼんさま。MOX燃料はおそらくGMのマーク1でも使用できます。マーク1の場合、むしろ問題は40年を超えた老朽化です。
もともとMOX燃料は大量に使用するものでは無く添加していますていどのものです。バイオ燃料のように使うので、大量に投入する性質ではありません。
というのは、役割は「エコ燃料」にポイントがあるのではなく、使用済み核燃料の数万年間にわたる管理期間が必要な使用済み核燃料を、再処理してプルトニウムを含む超長半減期核種を分別抽出し、MOXで核分裂させてしまって半減期30年の核分裂生成物に変換して短縮化するのが目的だからです。
その意味で、原子炉と共に葬ってしまうには惜しい技術だと思っています。
さて、デブリの取り出しはその形状にあると聞きましたか硬さが関係あるかどうかはわかりません。
停止原発一基のメンテコストは約5000億/年という試算があるそうです。
投稿: 管理人 | 2014年7月12日 (土) 05時04分
りぼん。さん
MOX燃料によるプルサーマルですが、管理人さんの仰るように添加量が少ないので従来のウラン用原子炉で問題ありません。そもそもウラン燃料でも、使用中や使用済みの物はプルトニウム入ってますから。
反対派が「専用設計されていないところで使うのだから危険極まりない!けしからん!」というのは間違い。そんなにヤバかったらさすがにやりません。
ただし電力会社側の広報にも詭弁があって、その程度のMOX使用ではプルトニウム削減には「焼け石に水」で、夢のようなものでも何でもなく、少しでも減らすために仕方なくやってるだけです。
元々は核燃料サイクルによる燃料自給と、そのための実証炉が「もんじゅ」だったわけですが、あっちがいつまでもグダグダなので時間稼ぎしてるにすぎません。
最近バイエタを3%添加したガソリンをC3バイオガスだ!エコだ!みたいなものがありますが、別に大してエコでもなく、また多少古いエンジンに入れても全く問題無いのと似たようなもんです。(だいたいカーショップで売ってる燃料添加剤や水抜き剤なんてほとんどメタノールやエーテルですし。)
炭化水素の燃焼と核分裂万能を一緒にするなと言われそうですが、喩えとしてよく似ています。
そんなことより70年代のポンコツエンジンを、趣味でもないのに毎日全力運転させてるような、古い原子炉から廃炉すべきということです。
デブリの問題は…硬さよりも放射線が強すぎて近付けないし、場所や形状すら解らないことがまず問題で、これからロボット等の技術を地道に開発するしかありません。
「廃炉できません」では済まない問題ですから。
時間がかかるでしょうね。
投稿: 山形 | 2014年7月12日 (土) 08時40分
永年、過剰な放射線をあびた、圧力容器、格納容器の鉄を主成分とした容器の劣化は、どう認識すれば、良いのでしょうか?
また、毎年、点検で、停止する原子炉ですが、果たして、毎年、過度な温度差を与える必要が、あるのでしょうか?
スペースシャトルですら、経年劣化には、耐えられないために、廃棄されました。
経年劣化、金属疲労については、今の政府は、きちんとした評価基準を示して、国民に発表していませんが、
その辺は、個人的には、心配ではあります。
投稿: りぼん。 | 2014年7月12日 (土) 11時15分
ちょっとテーマから外れますが、補足しておきます。
スペースシャトルの退役ですが、機体年齢だけではなく、ミッション終了後の点検整備費用だけで約60億円(だったかな?)前後となり当初予想されたよりもコストパフォーマンスが低下したため、NASAの予算縮小にともない退役が決定されました。(最終的には使い捨てロケットの方が安上がりと判断)
興味ない方には知られていませんが、シャトル事故の以後は帰還後の機体は徹底した点検分解整備が行われていました。
機体構造の点検や剥がれたたり劣化した耐熱タイル、シールドの交換がおこなわれましたが、主エンジン3基も徹底した分解整備と燃焼試験がおこなわれていました。
最終的には、1回のミッションにかかる費用が機体製造費と変わらないぐらいになったため(機体約18億$に対してミッション1回あたり約15億$と算定)、政治的に退役が決まりました。(予算を無視すればミッションは続行可能との事。) 因みに、シャトル事故以前の打ち上げ費用は1回あたり約4億5千万$とか。
シャトル整備に関しては、ディスカバリーチャンネルの舞台裏のスーバーテクノロジーの宇宙スペシャルで見ることができます。
投稿: 好実 | 2014年7月12日 (土) 13時54分
機体構造の点検や剥がれたたり劣化した耐熱タイル、シールドの交換がおこなわれましたが、主エンジン3基も徹底した分解整備と燃焼試験がおこなわれていました。
>>>>発電原子炉において、放射線の高い場所でのメンテナンスが、不可能な現状ですから、東電のおっしゃる、各部品ごとに、耐用年数を決めて、部品交換しているので、40年経っても、部品強度は、保たれていると、広報されていますが、圧力容器、格納容器が、40年ごとに、新品に交換されるとか、原子炉に近い部分の痛んだ部分を、改修しているなどと言う、アナウンスは、聞いたことがありません。
車で、言えば、オイル交換とか、バッテリー交換などは定期的にしてますが、エンジンを分解修理することは、しないように、思えるのです。
シャトルが、経済的に、再使用で、安価に飛ばせるはずで、始まった事業ですが、実際は、まったく赤字で、期待はずれであり、しかも、原発の設計思想である、多重安全システムすら、かなわなかったので、2機も、失っていますよね。(そのために、宇宙飛行士も、命を奪われてしまいました)
日本の原発も、廃炉費用まで、考えれば、大赤字は、まぬがれないと、思ってます。
よって、やはり、もっとも肝心な、原子炉の中心部が、どの程度の安全評価なのか、知らされないまま、再稼動するかもしれませんね。
地震、津波が、無くても、放射能漏れが、起きてしまうかも、しれないと、心配なのは、個人的には、実感してます。
小泉元総理のオンカロ以前に、正直、今の原発構造で、十分、経年劣化や金属疲労など、クリアーしているのか、心配では、ありますね。
とにかく、スリーマイル島とことなり、中央制御室の計測データ自体、誤作動かどうかすら、わからなかったのですから、、、
プラント制御するのに、プラント各所のセンサーデータと、バルブ等の開閉が、まったく出来ない事態では、安全、安心とは、言えないと、思えます。
津波対策も、必要でしょうが、水素爆発しても、大量の放射性物質が、飛散しないことや、コントロールできるだけの正しい計測器データーが、キャッチできる前提がない限り、再稼動は、止めたいですね。
自分が、所長職であれば、計測データがないまま、部下に作業命令を出すことが、出来るかと言えば、正直、出来ないと思うのですよね。
投稿: りぼん。 | 2014年7月12日 (土) 19時56分
りぼんさん。記事テーマから離れていきつつあります。前回のこともあるので、このくらいで。
投稿: 管理人 | 2014年7月12日 (土) 20時19分
原子力空母ならともかく、原発の圧力容器や格納容器の交換なんて構造上無理です。廃炉確定です。
ですが圧力容器周辺などの修理なんかはあります。
制御棒アクチュエーターのハウジングの溶接部腐食による水漏れでは、燃料棒を抜いて検査、原因究明したのちに部品交換、溶接をおこなっていますよ。(圧力容器内部を含む)
また、マークⅠタイプだと再循環ポンプのメカニカルシール交換などもやってます。
定期検査では原子炉本体の圧力容器を含む構造物の非破壊検査や漏洩検査、燃料体の外観検査や炉心での配置確認などあったはず。
テーマから大分脱線しましたから、これでお終いにしましょうや。>りぼんさん。
強引にテーマに戻すならば、現在の原子力(発電)に関してみなさん勘違いしていますが、技術サイクルという視点からすれば、車にたとえるならば良くてフォードT、飛行機にたとえるならば初期の複葉機段階だと考えるべきです。周辺技術が高いため気づきにくいですが。
これにて終了します。>管理人さん
PS.
関東平野の真中は人間家畜共に灼熱地獄です。(T-T)
従兄弟の養鶏場でも昨年は熱に一部やれらた上に産卵低下。
東部とは言え、人畜共にお気をつけ下さい。
投稿: 好実 | 2014年7月12日 (土) 22時15分