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小泉翁の妄執「原発ゼロ」の嘘 その7 エネルギー問題に「正義」を持ち込むな

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川内原発の安全審査が終了しました。大騒ぎするようなことかと思います。

これによって再稼働が出来なければ、そもそも安全審査など無意味であって、規制委員会などは必要がなかったということになります。

規制委員会に原発に対して厳しい考えを持つ田中委員長を当て、安全基準を作って審査をしてきたわけですから、その審査プロセスを見ずに結果が気に食わないと言って否定するなら、逆に安全審査不合格でも再稼働が可能ということになりますね。

朝日新聞で落合恵子氏は「怒り直しませんか」などと言っていますが、もう少し気を落ち着けたらいかがでしょうか。

環境運動の草分けを担われた中西準子氏がこう言っています。

「政治運動の側面が強まると、対案を出すという考えが、希薄になる傾向があるように思えるのです。反対をするというのが、運動の主要な主張になる。対案を出すというのは、妥協や権力側に取り込まれる恐れが出てしまうのでしょう。反対、徹底抗戦、最後に全滅してもいいという、ちょっと危うい考えに陥ることがあるように思うのです」

さて昨日の続きを始めましょう。

プライドが高いドイツ人は認めようとしませんが、ドイツの脱原発政策の失敗の原因は、脱原発と再生可能エネルギーを理念で無理矢理にくっつけてしまったことです。

原子力と代替エネルギーの選択は本来は別次元なのですから、もっと冷徹な視点で考えればよかったのです。

もし、ドイツが再生可能エネルギーという癖のある電源にFIT(全量固定買い入れ制度)の補助金だけで累積23兆円もの税金を投入するなどという深入りをしなければ、とうに今以上の原発を削減できたはずです。

これだけ税金を湯水のように注ぎ込めば、再生可能エネルギーの比率が16%(07年)から22%(12年)にもなろうというもんですよ。

よく再エネ派の皆さんが、「22%にもなったぞ。原発の代替になっている」とドヤ顔で言うのを聞くと、「じゃあ、わが国も真似して23兆円投入しますか?」と聞き返したくなります。

ちなみにドイツの目標は2050年に60%にまで引き上げるそうです。まぁどうぞ、よそさんの国の事ですからご勝手に。ただ、わが国のバカな政治家がマネして欲しくないだけです。

余計なお世話ですが、ギリシヤ、スペイン、ポルトガル、アイルランド、そしてとうとう主要国イタリアなどのEU諸国が財政破綻するか、しつつあり、ドイツは彼らに緊縮財政を強いていて、今後も自国だけこんな大盤振る舞いができるのでしょうか。

実はドイツ自身も均衡財政主義に基づいて公共事業を削減しまくった挙げ句が、アウトバーンもベルリン市内の道路さえもガタガタになっています。

自国の道路という根幹的公共インフラのメンテナンスまで放り出して、こんな再生可能エネルギーなどという不要不急の「道楽」(失礼)じみたことに財布を叩いていていいんでしょうか。

代替エネルギーを常識的に天然ガスにしておけば、2013年には米国のシェールガスに危機感を抱いたロシアが天然ガス供給価格の引き下げに合意していますから、ドイツの天然ガス供給事情はぐっと楽になったのにね。残念。

さて、脱原発政策は、当初政府が予想もしなかったもうひとつの大問題を引き起こしました。

このFITの大出血だけにとどまらず、別の大出血か待ち構えていたのです。それは送電線不足です。それもハンパではなく、えんえん長大に。(欄外図参照)

ドイツは太陽光と共に風力を主力再エネに位置づけていました。

むしろスペインなどのようにカンカン照りの土地と違って、寒冷なドイツには風力が適していると思っていたはずです。

となると、風が強く、地価が安い風力発電適地は北海沿岸のドイツ北部なのですが、地元では電力消費があいにく少ししかありません。

使うのは圧倒的に南部BMWの本社などがあるバイエルンなどの工業地帯です。 (BMWのBはバイエルの頭文字です)

となると、北部から工業地帯のある南部まで実に延々900キロ超、延べ1800キロ超の送電網を敷く必要が出てしまいました。

わが国に置き換えると、本州は縦断すると約2000キロですから、青森から山口まで送電線を敷くハメになったということです。

今までのドイツの送電網は、こんな遠距離で送電する必要はありませんでした。それはヨーロッパが電力広域連携を持っているからです。 

下図で色分けされているのがヨーロッパ広域電力連携ブロックです。レモンイエローがドイツが加わっている広域連携UCTE1です。
(下図参照)

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           (図 山口作太郎氏・石原範之氏論文による)

ドイツはこのヨーロッパ広域連携UCTE1の中で電力の売り買いをしていました。

ですから、風力発電などの新規建設をしなければ、いままでは自国内部の縦断する大規模送電網を敷く必要などなかったのです。

ちなみに、脱原発で大変な電源不足に陥ったドイツですが、フランスなどからの電力輸入で凌いでいます。日本にはこの方法はできませんので、念のため。

ドイツは自分の国だけで「勝手に」脱原発してしまったために、再生可能エネルギーは自分の国でまず消費する義務が出ました。

そこで再生可能エネルギーのバックエンド問題が浮上したのです。

再生可能エネルギーのバックエンドは、発電そのもののコスト以外の、火力発電所によるバックアップ電源コスト発電所建設コスト、そして送電網インフラなどにかかるコストのことです。

2009年にドイツ政府は、「送電網拡充法」を立てて、再生可能エネルギーに必要な送電網をリストアップして、それを最優先で建設する計画をたてました。

計画では実に1807キロにも及び、かかる費用は570億ユーロ(1ユーロ=118円換算で6兆7260億円)という莫大なものです。

いままでFITで累積23兆円使っていますから、これと合わせて実に約30兆円です。

ですから、これだけの財政支出をしてなお「22%しか」達成されていないのです。

「2050年に60%」という目標が、立案者たちのメンツだけの空論かお分かりいただけるかと思います。

このように再生可能エネルギーを一国単位の基幹エネルギーとするには厖大なカネがかかるのです。

こういうことをいっさい無視して、「原発の替わりに再エネだ」と言える人は幸いなるかなです。

メルケルの脱原発政策で感じるのは、全体を俯瞰するマクロ的視点の欠落です。

政治家が、社会のエネルギー・インフラを保障していくという視点を忘れて、「脱原発」というひとつの煎じ詰めた倫理的テーマに没入してしまっています。  

ですから大きな見取り図の中で政策決定をしていないので、後から後から当初考えもしなかった問題が芋ヅル式に出てくるはめになります。  

太陽光に期待して税金を投入したらダメで、ならばと風力にシフトしたら今度は送電網が長大に必要となり、作り始めたら反対運動に出くわし、隣国からできるまで風力は止めてくれと言われる、という具合にです。  

脱原発をするにあたって、彼女が組織した諮問委員会の名称が「倫理委員会」だったというのも象徴的です。

そこには宗教家や消費者、教育者は多数いても、肝心の原子力やエネルギーの専門家、電力事業者はひとりもいませんでした。

メルケルにもまたグスタフソン・フィンランド駐日大使のこの言葉を贈らねばなりません。

「(原発問題は)論理的に導き出された選択であって、情熱やイデオロギーの問題ではない

 

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コメント

はじめまして。大変勉強させていただきました。
ドイツは酷いことになっているのですね。
自分も川内原発には早く動いて欲しいと思っています。

しかし、タイトルが「正義」だから、てっきり彼のことだと思ったので、拍子抜けでした。
あと、太陽光発電を推進する某国ですね。

宜しかったら、拙ブログにもお運び戴けたら有り難いです。

投稿: プー | 2014年7月23日 (水) 17時47分

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