トリチウム放出は国際条約で認められた計画放出だ
昨日、BWRとPWRをの図を間違えるという我ながら信じがたいミスをしました。暑さで脳が煮えているようです。申し訳ない。
夏よ、早く終わってくれぇぇ!もう限界。
さて、別に彼個人を批判しているわけではなく、余りに典型的なことを書いてくるので取り上げています。 うちなーさんがトリチウムをこんなふうに書いていました。
「非常に危険性の高い、β・α核種ストロンチウム、プルトニウム、ウラン、トリチウム」
おお、トリチウムくん、いつからプルトニウム様と並ぶようなグレートな危険核種になったんだ(肩を叩く)。
残念ながらトリチウムなどは言ってみれば、「遅れてきた放射能小僧」にすぎません。
よくマスコミは「福島第1から放射性汚染水ウン百トン放出」などと書き立てていますが、この正体はトリチウムです。核種をきちんと解説すべきですね。
福島第1から出ているのはトリチウム、正確に言えば「トリチウム入り水」です。
トリチウムはこんな汚染水事件でもなければ誰もなんとも言われず、スポットライトなんか絶対に浴びない放射性物質にすぎませんでした。
放射線エネルギーは弱く、缶ビールの缶すら透過できないので外部被曝はないし、仮に飲んでも直ぐにオシッコで出てきてきちゃいますし、特定部位にたまる根性もないので内部被曝で悪さすることもない。
ウランやコバルト、ストロンチウムなどの強面の放射性同位体一族の中ではまことに温和,んで地味な奴なのです。
トリチウムは海洋放出がロンドン条約で認められています。わが国は2006年3月に批准しています。
ロンドン条約は、船舶からの海洋へ処分する行為等を禁じていますが、原発施設からの放射性排水の海洋への計画放出は対象に なっていません。
世界のトリチウム放出量は以下です。 (出典 海産生物と放射性物質(海洋生物環境研究所) )
英国が最大放出国で実に2500兆(2.5×1015)Bq/年程度、日本は6分の1の400兆(4×1014)Bq/年程度です。
なお、この放出量は個別の原発ごとに規定されていて、いくら安全度が高いといってもめったやたらに流していいわけではありません。
また、このグラフには再処理施設からの放出量は含まれていないために、英仏はさらに多くなります。
再処理施設としては、フランスのラ・アーグ再処理工場からの放出量の実績値(2003年)は実にトリチウム水
1.2京(1.2×1016)Bq/年、トリチウムガスは
67兆(1.9×1013Bq)Bq/年に達します。
(出典 六ヶ所再処理工場からの放射能放出に関する研究(2007年 古川路明) )
(図 再処理工場運転の際の主な放射能の年間放出量 単位:兆(1012)Bq/年)
なおこの六ヶ所村は規制値であって、現実には放出されていません。
それにしてもラ・アーグのトリチウム水122京という量はハンパではありません。
よくある勘違いに、福島第1で事故処理に失敗したから漏れだしているのだろうという誤解がありますが、違います。他の国内原発でも以下の放出がなされています。
(出典平成23年度 原子力施設における放射性廃棄物の管理状況(2012年8月))
(図 各原発からのトリチウム海洋放出の年平均値(2002年度~2011年度) )
沸騰水型の最大放出施設は、事故前の福島第一で1.5兆(1.5×1012)Bq/年です。全原発の合計では年間で380兆(3.8×1014)Bq/年で、世界では少ない方に属します。
そもそもトリチウムは自然界にあるものなので、人体内にもわずかですが存在します。人体内には50ベクレのトリチウムが存在しています。
(図 出典 自然放射線による日本人の平均被ばく量2.1mSv/年の内訳))
これは大気圏上層で、一次宇宙線という高エネルギーによって生成されて地上に降り注ぎ、その過程で二次放射線に含まれる中性子が窒素(空気)と反応してトリチウムが生成されるからです。
この量はバカバカしく多く、127.5京といわれており、海、湖、川など以外にも水蒸気にも含まれています。
まぁ要するに、人類の生存圏のありとあらゆる「水」に含まれるといっていいでしょう。
ただし、半減期は12.3年のために、地球総量での量は一定に保たれています。
さて、ALPS除去設備が除去できなかったのは、凶悪だったからではなく、要するに限りなくただの「水」だったからにすぎません。「水の中の水」は除去できませんから。
なんでこんなもんを怖がるのかのか。ストロンチウムならまだ分かりますが。
放射線の専門家の平均的認識はほぼ一般的に以下です。
●海洋生物環境研究所の御園生淳氏、富山大学水素同位体科学研究センター長松山政夫教授
①水として摂取しても10日くらいで半量が排泄されてしまうので内部被曝の可能性は低い。
②トリチウムの出す放射線量のエネルギーが低いので、外部被曝はありえない。
③毎日100ベクレル/㎏のトリチウムを含む食物を1年間食べた場合の摂取量は、0.0015ミリシーベルトで、,セシウム137の約千分の1ていどで比較にならない。
④トリチウムは何かに濃縮することがないために生物濃縮は考えられない。
このトリチウムに対する認識から汚染水の排出は、このようなルールを作って行われます。
トリチウム濃度としては、400万ベクレル/リットル含まれます。
これは原子力施設の濃度限界(告示濃度限界)とされる6万ベクレル/リットルを大幅に越えていますから,これを告示濃度限界の6万ベクレルまで希釈して70分の1ちかくにまで下げて、海に計画放出します。
これは先の述べたロンドン条約の国際ルールに完全に則っていますから、文句を言ってくる国は韓国以外にないでしょう。いや韓国もトリチウムを放出していましたっけ(笑)。
漁業関係者は風評被害に痛めつけられて来ましたから、粘り強い説明が必要でしょう。
外国の専門家は、このわが国の汚染水対策に同意しています。
訪日したスリーマイル島事故を経験したNRC元専門家も、「直ちに地下水を汲み上げを再開して、海へ放出すべきだ」と助言しています。
いずれにせよ、完全廃炉になり、使用済み燃料棒の処分が終了する時まで、冷却水は止められませんから汚染水は出続けます。それまでの数十年先までの長距離マラソンなのです。
何度も繰り返しますが、この汚染水問題は、原発推進も反対もまったく関係のないことです。そのような立場にとらわれて見ないことです。
原発反対だから、汚染水処理を止めろと言っているようにすら聞こえます。というか、実際そう言っています。
どうも、彼らの声を聞いていると、凍土壁が失敗しそうだと手を打って喜び 、タンクが漏れると万才を叫んでいるようにすら見えます。 破滅願望なのかしら(苦笑)。
反原発主義者にしても、このままタンクが溜まるだけ溜まって処理不能になり、炉の冷却水の循環もできなくなることが望みではないと思うのですが。
※参考文献
・ポストさんてん日記http://icchou20.blog94.fc2.com/blog-entry-440.htmlには特にご教示いただきました。深く感謝します。
・トリチウム流出の影響
福島第一の地下水(安井至教授の市民のための環境学ガイド2013/8/10)
・原子力資料室http://www.cnic.jp/knowledge/2116?cat_id=1
・医療での自然放射線安全にお答えしますhttp://trustrad.sixcore.jp/tritium-2.html
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勉強になります。
自分は、廃炉の技術が確立していないのに原発廃止などただの妄想と考えております。終わった産業を志す若者なんかいないというのに。
理屈の通らない反原発の目的は、ディスカウントジャパンですね。釈迦に説法ですが。同じ事をやっていても韓国なら許す、ヘイトスピーチもそうですね。
投稿: プー | 2014年8月21日 (木) 08時51分