ラムズフェルド「了解」が否定された「政治的理由」とは
琉太さんのコメントにお答えしましょう。彼は、「ラムズフェルドがグアムに沖縄海兵隊を一部引き上げる了解をしたのに、日本政府が反対して潰した」という主旨を中心にコメントを入れています。(欄外参照)
彼のコメントに逐条反論してもつまらないので、もっと大枠の話をしたいと思います。
さて、グアム撤収というのは、沖縄の反基地運動家の皆さんがよほど好きな話題だと見えてなんどとなく登場します。
一回目は前にも取り上げた伊波前宜野湾市長の流した説で、これに当時閣僚だった(!)福島瑞穂大臣などが「閣議で取り上げます」とまで言った事件です。外務、防衛両大臣に否定されて自然消滅しました。
次が、今回の沖縄タイムス5月24日のラムズフェルド発言で、この発言は10年以上前の発言である上に、以下のソースの沖タイ記事あるように日米両政府に即座に否定されています。
「長官も了解したが、日米両政府が受け入れなかったと語り、「政治の問題だった」との見解を示した」
日本政府に否定されるならともかく、自国政府にも否定されてしまっているのですから、今さら大騒ぎするほうがヘンです。
琉太さんはご都合主義的に、「なぜ日本政府が拒否したのか」ということばかり言いますが、米国政府にも拒否されたわけなのはなぜなのでしょう?
今日はここをじっくり考えてみましょう。それが分ればラムズフェルド発言が、日米両政府にとってなぜ許容しがたい発言だったのかわかるはずです。
当時の米国はブッシュ-ラムズフェルド国防長官に指導されるた中東介入政策により、泥沼のようなイラク・アフガン戦争に首まで漬かって、財政出血が止まらない状態になりかかっていました。
単に財政の巨額を赤字だけではなく、イラクだけで4000名もの米国の青年の血を吸っています。
つまり「強い米国」という幻想に酔って対テロ戦争を開始したあげく、財政赤字で軍備は縮小せねばならず、あまりにも多くの無為な犠牲者が積み上がったために悲鳴を上げたということです。
沖タイはラムズフェルドが「世界でいちばん危険な飛行場だ」と言って以来、妙に彼を「平和政治家」みたいに持ち上げているようですが、見事米国では「脳味噌の足りない戦争政治屋」の殿堂入を果たしています。
そしてラムズフェルドはこのイラク戦争の泥沼化に懲りて、その反動で逆方向に走り始めました。それが琉太さんが言う米軍再編です。
前方展開しておく部隊は小規模であって充分、代わってグアム島を米国のアジア・太平洋地域における米国の軍事戦略として位置づけ、大部分の海外基地を閉鎖しようとしたのです。
ラムズフェルドには元々、中東重視、アジア軽視の傾向が濃厚で、中国の脅威を過小評価していました。
沖縄米軍の一部グアム引き揚げの兵力再編計画も、ラムズフェルドが訪日した際、沖縄県知事から「米軍は県民の負担だ」と陳情されて、「負担というならば出て行く」と言ったのが端緒です。
ラムズフェルドの考え方は、「常駐なき日米安保」に繋がりかねないもので、日米両政府全体の考えとは大きく異なっていました。
実はこの2004年の在外基地閉鎖、グアム集中・米本土回帰というラムズフェルド路線は米国内で強い反対の声があがっていました。
ペンタゴンの元政策担当国防次官のミシェル・フロノイはForeign Affairs(2012年7・8月号)でこのような要旨の論文を発表しています。
なおフロノイは民主党系の戦略研究家で、ヒラリー・クリントン国務長官に影響を与えているとみなされる人物です。
①ラムズフェルドの2004年の世界戦略の目的は海外基地閉鎖し、数十億ドルを節約すると主張するが、それは誤りであり、軍隊はどこに置いても経費のかかるものであり、むしろ独、日、韓などの政府は経費を分担してくれている。
②対照的的にオバマの戦略は前方展開の米軍をより効率的・効果的にすることであり、前方展開基地を重視していることは評価できる。
③米軍の前方展開は、米国の力を最も発揮させるとともに、同盟国に防衛負担の増大を削減するものである。
④前方展開の米軍は、同盟国に対して、その地域を見捨てないという米国のコミットメントを保証するものであり、パートナーと共同訓練、共同作戦をすることによって、バードン・シェアリング(平等の役割分担)を実行するものである。
⑤戦略的前方展開は重要で必要であり、大統領はラムズフェルドの安易な引き揚げ論に対抗して、米国の世界的指導力を維持しなければならない。
このこともあって、ラムズフェルドはシンセキ統合参謀本部議長の更迭による米軍内からの強い反発、パウエル国務長官との軋轢などをきっかけにして失脚します。
というわけで、 先に述べたようにラムズフェルドの評価は米国ではリベラルと保守の双方から最悪に近いものです。
これが沖タイ記事の時代背景で、記事にはその年代は書かれていませんが、ジョーンズ元海兵隊司令官の任期が2003年までだとすると、あるいはそのあたりでの了解事項があったのかもしれません。
いずれにしても、琉太さんがしたり顔で言う米軍再編もこの時期のもので、それはラムズフェルド在任中の10年ほど前の米国の考え方で、すでに転換しています。(コメント太字部分参照)
どうしてこう都合のいい部分だけ抜き出してくるのかしら。本気で沖縄の運動家たちがそう分析しているなら、その後のラムズフェルド失脚以降にいかなる転換をしたのかをまったく知らなことになります。
逆に、この県知事選を前にしたこの時期に、「反対運動機関紙」の沖タイが、スクープめかしてこんな古証文を取り出してきたのか、そのほうがよっぽど「政治的理由」なんじゃないでしょうか(苦笑)。
いずれにせよ、この反対運動の都合いいように「見たいように見る」という度し難い恣意性が抜けない限り、彼らはいつまでも幻想に踊らされ続けることでしょう。
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琉太さんコメント
1「以下にあるように、辺野古移設を伴わない選択はありえましたが、森本元防衛大臣も退任時に語ったように「政治的な問題」で移設先を辺野古とすることへと回帰したわけです。
こういった事実を考慮せず、自身の願望に添った都合の良い解釈によって『そんな「県外」はどこにもありません。』と主張されるのはいかがなものかと思いますよ。
過去のエントリーも拝見させてもらいましたが、多くの誤解や、また偏見らしきものに支えられた見解が見受けられますね。沖縄滞在時に何があったかは分かりませんが、もう少し公正な観点で主張されたほうがよろしいのでは?」
添付 沖
2「2000年代初頭のことですし、そもそも安全保障・軍事政策は国際政治状況に応じて勘案されるので、中東重視なのは当然ですよね。ですが要点は中東重視だったか或いは東アジア重視ということではありません(それを言うなら中東重視だったのに、なぜ2000年代初頭に日本政府は拒否したかということをなぜあなた方は考えないのでしょうか)。
「このプランを実行すると、中台間の緊張が増す」と言っていますが、海兵隊ですよ?笑
海兵隊が対中戦争にどういった働きをするかご存じないのでは?
仮に対中戦争において海兵隊が機能するにしても沖縄駐留する合理性はありません。米軍再編によって沖縄には司令部とMEU規模の海兵隊が残ることが予定されていますよね。いざ、中国と本格的な戦争へ応じるときにはオーストラリアやグアムへと移転した海兵隊員が結集するで対処します。つまり、平時において災害救助支援等を責務とするMEUが常駐することで中国に対する抑止力は機能するというのは、欺瞞か或いは現実を理解していない人たちでしょうね。
あと、尖閣のことも触れていますが、沖縄に海兵隊が常駐する理由として朝鮮有事、台湾有事、今度は尖閣問題ですか?笑
(ローテンション移動があるので)たかだか平時3000人規模の海兵隊員と、そして現に有事に至ったとき日米安保によって共同防衛が発動されるかどうかといった点で多くの識者が疑念を呈している中、なぜ沖縄に常駐する理由があると思われますか?
そのことこそよく考えて欲しいですね。」
■普天間グアム案 長官了承も日米政府拒む
沖縄タイムス 14年5月24日
ワシントン22日=伊集竜太郎】1999~2003年まで米海兵隊総司令官を務め、米軍再編協議にも関わったジェームズ・ジョーンズ氏は22日、在任当時、普天間飛行場の名護市辺野古移設について異論を唱え、ラムズフェルド国防長官に、辺野古移設を伴わないグアムの空軍基地の活用を提言したと明らかにした。長官は「それは可能だ」と受け入れたという。ヘリ部隊の嘉手納統合も提案し、長官も了解したが、日米両政府が受け入れなかったと語り、「政治の問題だった」との見解を示した。 オーストラリアやグアムに分散するという点では受け入れられたとも述べた。 同日、ワシントン内のホテルであった稲嶺進市長との会談で明らかにした。
ジョーンズ氏は、オバマ政権の安全保障担当の大統領補佐官も務めた。1960年代後半や72年の本土復帰後に、沖縄に駐留経験がある。 稲嶺市長との会談の中で、ジョーンズ氏は「海兵隊は、陸上と航空部隊が一体となったチーム。その分散が米側でも論点になった」と説明。ヘリ部隊だけ他基地に移転することに対し反対する声もあったと述べた。 「普天間は長期駐留すべき基地ではない。基地周辺の人口を考えても無理な基地だ」とも指摘。沖縄住民への基地からの圧力を減らすべきだとして、空軍基地の活用などを訴えたという。政府に受け入れられなかったことを「非常に残念だった」と話した。
辺野古移設については「非常に高くつくし、環境破壊も大きい。もっと他のやり方があったと思う」と述べた。一方、グアムやハワイ、オーストラリアに部隊などを移転することで在沖駐留米兵は削減されるとし「移設地は長い時間をかけて決められたことだ」と述べ、現時点で計画変更は厳しいとの見方を示した。
稲嶺市長は移設反対を訴え、市長選で2度当選したことや多くの県民が移設反対だと強調。「米国では知事の埋め立て承認で、移設が前進と受け止められているが何も状況は変わっていない」と訴えた。
ジョーンズ氏は「市長の話は、海兵隊のトップに提言したい」と答えた。
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さすがは琉球新報様
私の如きは歯牙にも掛けないでしょうけれども。
全ておわかりでしょうけれども、あえて。
大事なのは、朝鮮有事、台湾有事、尖閣有事よりも、「沖縄有事」です。
中国が沖縄に侵攻する、或いは謎の組織が沖縄県庁(放送局、空港、警察)を占拠したとき、閉じ込められたアメリカ人を救いに行くのはアメリカ国の義務です。
日本国がそれを利用しているということも否定しませんがね。
そのためには、極論すれば沖縄にアメリカ人が1人でも居れば良いのです。
それとも、あなた方は、沖縄有事は万が一にも無い、と言うのでしょうか?
投稿: プー | 2014年8月25日 (月) 23時59分
プーさん。いつもありがとう。まったく同感です。石垣市長の中山氏などは尖閣の行政地域の首長だけにしっかりとした安保意識の持ち主で、中国の台湾侵攻などがあった場合、石垣市や宮古が中国の占領を受ける可能性をよく認識しています。
一方、同じ石垣市長でも先代の長濱市長は、大の親中反米派で、中国の脅威は認めないだけではなく、米海軍掃海艇の寄港要請に反対しました。
また沖縄の反米・反基地勢力は自分たちがいかにアジア・太平洋の状況と離れた「運動」をしているのかわかっていません。というか、むしろ中国にはどんどん領土進出してほしいのが本心のようです。
彼らと話すと、平然と「中国は兄弟。日本は親戚」と言う人がいて仰天したことがあります。ならば兄弟の国に入れてもらえばと思わず言いそうになりました(苦笑)。
そんなトンデモの状況認識の人たちが反戦反基地運動と沖縄マスコミのヘゲモニーを握っています。
おおよそ国境の島とは思えない風景です。
ただし、沖縄県民の大多数は彼らとは違い、世論調査では中国を脅威と思う人が過半数に登りました。
ちなみに、岩上安身氏などの反原発主義者の皆さんの今のテーマは辺野古反対一色で、やはり同じ人達が旗振っているのがわかって微笑ましい限りです。
竹野内真理氏などはもう沖縄県民として現地新聞に登場しているほどで、さすがに電波はどこにいても電波です。
投稿: 管理人 | 2014年8月26日 (火) 03時41分
国防政策は、
『相手の意図ではなく、能力に備えよ』
が、絶対的な常識なんですけどねえ。
例えば友好的だと思っていた周辺国が急な政策転換をしたり、政変が起きたりすることも十分に有り得るわけで…。
こんな初歩的なことも分からない輩があまりにも多くてウンザリします。
もちろん、外交や民間交流で、予め危険な状態を極力作らないようにするのが大前提ですが、イザとなったら何も出来ないようでは話になりません。
実際に「あの島は我が国の確信的領土だ」とか、太平洋の西半分は頂くなんて野望を隠しもしなくなったり、
未来志向の経済通で友好的だった国のトップが、支持率が下がって選挙が厳しいと感じた途端に国内配慮で変節して某島に上陸したり…
そんなのが一杯なのが現実です。
軍備には莫大なカネもかかりますし、基地負担もあります。
今後も実力行使せずに済むことを願ってやみませんが、そのためにこそ装備や予算や訓練が必要です。
国境の石垣市長は、その危機感をよく解っているなあ、と毎度感心させられます。
投稿: 山形 | 2014年8月26日 (火) 07時20分
ラムさんて名前はかっこいいのに駄目な人だったんだねえ
投稿: | 2014年8月26日 (火) 11時27分
誠に恐縮です。
貴サイトは、左巻きの上司やネットに触れて自分が危うくなった時に充電させて貰える貴重なサイトです。
本当に感謝しております。
「あの」馬政権すら中国に一方的に傾かずに済んでいるのは、管理人さんのような方の情報発信のお陰です。
今後とも危うい天秤の上にある国際情勢と思われますが、日本国の存続繁栄のために管理人さんを見習って尽力したいと思います。
投稿: プー | 2014年8月26日 (火) 23時24分