普天間移設 交渉には相手がある
藤代が負けました。がっくりきましたが、いい試合でした。気を取り直していきましょう。
普天間移設問題を考えると、日本国内でドメスティックにくたくたと煮詰まっています。
はて?この移転交渉は 国内問題なのかな?それとも国際問題なのかな?
答え。普天間移設問題は外国との交渉事です。あたりまえですが、「交渉」には相手国とがいます。忘れてはいませんか。
いいですか、普天間移設問題は、国内の政治問題でも、ましてや沖縄県内の政局でもないのです。
最大の交渉相手は沖縄県でもなければ、ましてや名護市でもなく米国です。どうしてこう前提常識を抜かして議論しているんだろうと思います。
したがって、この普天間問題は国内問題ではなく、国際交渉です。
この問題に関して交渉の相手国である米国はどう思っていたのか、聞いて見ても損はないでしょう。
結論からいえば、米国は日本側のドタバタをやや呆れて眺めているというところでしょうか。
基地を縮小して負担軽減をしたいと言い出すから協力してみればなんと14年も時間がかかり、今度は「国外、最低でも県外」と叫んでチャブ台返しまでする奴が現れ、挙げ句の果てに結局振り出しです。
もはや状況は絶望的に普天間固定化に向けて走り出していました。本土政府と仲井真知事が解決の時と決断するまでは。
このようなタイミングを、解決ための「時の時」と呼びます。今解決しないとダメたという天王山のことです。
まず前提として、そもそも米国は普天間を出て行きたくはないことを理解して下さい。
よく米軍のために移転計画があるように言う人がいますが、それはまったく誤りです。
米軍にとって移転するメリットはなにもありません。
普天間基地の性格を考えてみるとそれがわかります。普天間基地は陸軍のキャンプではありません。そうだったのならとっくの昔に移転が完了していたことでしょう。
普天間基地は、東アジア有事に備えた海兵隊の緊急展開用航空基地なのです。今、私は三つのことを同時に言いました。
以下分かりやすく整理するために、できるだけ感情を排して箇条書きにしてみます。
①東アジアを中心とする広域の有事に備えた基地である
②有事に際して最初に投入される海兵隊の拠点である
③オスプレイを運用する航空基地である
ですから、基地の移設は以下の5つの条件を満たしていなければなりません。
①紛争が予想される朝鮮半島、台湾、インド洋などに短時間で展開が可能な場所
②海兵隊のもうひとつの投入手段(パワープロジェクション)である強襲揚陸艦の港が近くにあること
③兵員が日常的に駐屯するキャンプがそばにあること
④MV22-オスプレイと給油機KC-130を運用できること
また、忘れられがちなことは、単に初動だけではなく
⑤やや遅れて米国本土から応援に駆けつける大量の航空機と兵員を受け入れ可能な基地である
17年間、県内、県外のいくつもの候補地が消えたのは、これらの諸条件を満たさなかったからです。
その中でギリギリなんとか条件を満たしそうな場所が辺野古だったのです。辺野古には他の候補地にない以下の利点がありました。
①キャンプ・ハンセンという駐屯地と隣接している
②海岸なので航空事故の危険が少ない
③地元の辺野古地区が受け入れを表明している
しかし一方、米国からみればデメリットもありました。
①辺野古は滑走路が1200m2本であり、普天間の2800mの半分の長さである
②そのために離発着の機種の制限を受ける。たとえば、普天間基地には離着陸出来たC-5やC-17などの大型戦略輸送機は、滑走路が短い辺野古では使えなくなる
これでは有事の際に米国本土から応援に来る大量の兵員や装備を運ぶ大型輸送機が使えません。
おそらく嘉手納基地を利用するという妥協を米国に呑んでもらったものと思います。 もう一項あります。
③実戦基地の機能を移動するということ自体が大変である
かつてのフィリピンのクラーク空軍基地のような完全撤収ならともかく、前線基地としての機能を維持しながら移動するということは、そうとうな技術的難しさを伴います。
特に今のような東アジア情勢が不安定な時期に、基地の引っ越しなどはしたくない、それが米軍の本音です。
このように見てくると、米国がよくこんな損なことを納得したなと感心するくらいです。
おそらく、民主党政権末期には、米国はもはや日本政府は解決能力を喪失したという見切りをつけ始めていたはずです。
いつまで待ってもまとまるどころか、グアム、テニヤンなどというあらぬ空想まででて来る上に、反米闘争の象徴のようになってきたのですから、米国からすればたまったものじゃありません。
米国からすれば、「もう止めない、この話」というのが偽らざるところでしょう。
沖縄基地の重要性に象徴される日米同盟という背景がなければ、米軍はとっくにさっさとフィリピンのように立ち去ったはずです。
では、ここで米国かブチ切れて普天間移設がおじゃんになった場合を考えてみましょう。
移設反対派の皆さんは大喜びするでしょうが、米国はこれで代替案が完全に消滅したと理解します。
普天間基地は絶対に必要な基地な以上、宜野湾市のど真ん中だろうがなんだろうが、居続けるしかないことになります。
100%普天間基地の永久固定化が決定します。最終的かつ完全に、です。
もはや二度と普天間基地を撤去するということに対しての協力は、米国から得られないでしょう。
基地はいきなり全部なくなりません。漸進的に粘り強く、危険なものからひとつずつ気長に交渉して返還してもらうしかないのです。
次に、問題はそれに止まりません。あくまでも普天間基地の代替があってのSACO(※)縮小計画ですから、嘉手納以南の基地縮小計画はすべて凍結されます。
そして、よくここまで踏み込んだ約束をしたと思われた本土政府の日米地位協定改訂交渉もなくなります。
整理します。今この段階で移設計画が挫折した場合
①普天間基地は宜野湾市のど真ん中で半永久的に固定化される
②嘉手納基地以南の返還計画が凍結される
③日米地位協定の改定交渉が凍結される
さてこのように見てくると、普天間基地は出て行け、辺野古には作らせない、日米地位協定は改訂しろなどということは空論にすぎないことがお分かりになっていただけたでしょうか。
これらすべては包括的につながり合って出来ています。交渉というものは゛ひとつを得るためにはひとつを譲らねばならないものだからです。
全部寄こせでは交渉になりません。たたゴネているだけです。
ですから、こちらが得ることの軽重をつけねばなりません。なにが大事かのリスク評価をせねばならないのです。
仲井真知事は県議会でこのように述べています。
「一番大事なことは普天間基地というのが町の真ん中にあるのを街の外に出そうと危険性をぐっと避けようと、そういうことですから、辺野古であっても町から離れている。
ほとんど海で出たり入ったりするものというのは危険性がぐっと落ちるでしょう。そういうものはあるていど認めざるをえないんじゃないでしょうか」
仲井真知事がいいたかったことは、普天間という最大のリスクを除去するためには,より小さなリスクの辺野古を取らねばならず、それによって日米地位協定や嘉手納以南の移設への道も開けるのという展望です。
それは、今の沖縄の中では即時基地ゼロを唱えるより遥に勇気かいることなのです。
原発もそうですが、即時ゼロとか基地ゼロを叫ぶのは簡単です。
しかし、それでは現実は何も変わりません。 そんなことを受け入れるほどリアルポリティクスは甘くないからです。それは解決案ではなく、政治的スローガンにすぎないのです。
ひとつひとつ問題点を明らかにして解決していく努力をすること、ひとつひとつ基地を返還させていくこと、これが結局は近道なような気がします。
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※SACO Special Action Committee on Okinawa(沖縄に関する特別行動委員 会)の略であり、沖縄に所在する米軍施設・区域にかかわる諸課題に関し協議することを 目的として、平成7年、日米両国政府によって設置されました。(防衛省HP)http://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/okinawa/saco_final/
●[普天間基地と辺野古新規増設の面積比較]
・普天間基地面積 ・・・480h
・辺野古新規建設部分 ・・・160h
辺野古だけで320h基地面積は減少することになります。
また米軍基地は、既に1996年12月に日米合意した沖縄に関する特別行動委員会(SACO)でこのような縮小計画が決まっています。
(沖縄県 「SACO最終報告による米軍施設・区域の返還案」)http://www.pref.okinawa.lg.jp/site/chijiko/kichitai/documents/2sho.pdf
●[在沖米軍基地縮小計画]
・那覇港湾施設 ・・・60h
・牧港補給地域・・・270h
・普天間基地 ・・・480h
・キャンプ瑞慶覧・・・157h
・キャンプ桑江 ・・・70h
・北部訓練場・・・4000h
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・縮小面積計 ・・・5037h
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コメント
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大変勉強になります。
アメリカにとっては、普天間固定でOKだったとは。
そう言えば、左がかった上司が、民主党政権が辺野古案を潰した時に喜んでいました。
自分が「これで普天間固定になりますね」と言ったら、
「いや、普天間はもういらない」と返されました。
「『いらない』、と『消滅』、は違うんですが」
とは、こちらも言えなかったです。小市民ですから。
投稿: プー | 2014年8月13日 (水) 08時59分
無知無能な上司、大変でしたね。
無視しとくのがベストかなあ。
投稿: 山形 | 2014年8月13日 (水) 09時57分
山形様ありがとうございます。
彼は益々赤く染まっていますが、こちらは相づちを打つに止めています。
投稿: プー | 2014年8月13日 (水) 16時18分
米国は、普天間固定で構わないみたいに
書かれていますが、米軍は1960年代から、
辺野古に新基地を計画しています。
下記の理由で辺野古に新基地を作りたいのです。
1.辺野古は弾薬庫が近くに有る。
2.基地内に港湾施設が欲しい。
3.辺野古は市街地から離れている。
4.普天間基地の施設が老朽化している。
5.普天間基地は家族が住める宿舎がなく、
当然、高層アパートも建てられない。
投稿: okinawazin | 2014年8月13日 (水) 20時27分
okinawazinさん。
そりゃ、米軍の計画だけならいくらでもあるでしょう。
時の世界情勢や国力を勘案してどうするのか選ぶだけの話です。
条件3なんか、大いに結構な話ではありませんか。
条件4、60年代から施設が老朽化していたわけではないでしょうに。
条件5、60年代なら今みたいに市街地に囲まれてはおらず、そもそも米軍施政下ですね。
これらを同列に並べるのは間違いです。
ちなみに滑走路は最近、強化改修されてますね。
投稿: 山形 | 2014年8月13日 (水) 21時16分
もし規模縮小の上で移転し、その後も段階的に縮小していくようなシナリオが
あるのなら、なぜそれを公言して理解を求めないのか疑問に思います。
仲井真氏にしても、先の県知事選の際には県外移設を掲げて当選したことは
周知の事実ですし、そこを突かれると「県外は目的でなく手段」と何やら
はっきりしない言い方をします。
一方で工事は粛々と進められています。このまま県民意識が賛成・反対に
真っ向から対立した状態で基地建設の規制事実化が進めば、いずれはかつての
成田闘争のような代執行が行われた上に、それぞれの胸の奥底には後々までも
根強いしこりを残すと思われます。
投稿: ニムロ | 2014年8月14日 (木) 22時51分
ニムロさん。それは簡単です。仲井真さんは元々移転賛成でした。それを隠したことはありません。
しかし鳩山さんがさんざんいいことばかり言って結局ちゃぶ台返しをして、最後には「県内移設しかないことが分かった」で逃げちゃいました。
それでそれまで静まっていた沖縄県内の反対の意見が再炎上することになって、残された仲井真さんは移転賛成を封印するしかなかったわけです。
まったく本土に振り回される沖縄の現実そのものですが、それで仲井真さんはたぬきになったのです。本土政府に対してのタフネゴシエーターになることに徹しました。
それ以来、移設イエスとは言わず、本土交渉でいかに沖縄にとって有利な条件を獲得するかに邁進しました。
しかし去年の末は、あくまでも行政官として環境アセスなどに問題がない申請だったので承認しました。
もちろん日米地位協定の改定努力や振興予算の増額などの収穫があったから承認したのです。
ほんとうは仲井真さんは移転賛成なのだろうと反対派は公約の整合性ばかり言うが、そんなことよりもっと考えるべきことは沢山あるんじゃないでしょうか。
じゃあ、ここで移設を潰すとしましょう。ならばどうなるんでしょう?行き場はありませんから振り出しの普天間に居すわるだけです。違いますか?
何度も書いて来ているように米軍はそのほうが都合いいのです。
だって辺野古は滑走路が1200m2本であり、普天間の2800mの半分の長さでしかありません。そのために離発着の機種の制限を受けます。これは航空基地としてすごいハンディです。
普天間にいれば、C-5やC-17ーのよう大型輸送機はいままで通りに利用できるし、なにより実戦部隊の移設という難事をしないで済みますしね。
たまには自分らのことばかりじゃなくて、交渉相手の米国側の事情も考えてみたらいいと思います。
反対派はもう一回鳩山氏の迷走劇を再演したいようですが、ほんとうにイデオロギーじゃなくてそう思うのか、逆に私のほうが聞きたいくらいです。
投稿: 管理人 | 2014年8月15日 (金) 03時06分
>>じゃあ、ここで移設を潰すとしよう。ならばどうなる。行き場がないから普天間に
>>居すわるだけだ。何度も書いて来ているように米軍はそのほうが都合いいのだ。
ですので段階的返還/段階的縮小以外の道はなく、行政側もそれをシナリオとして
描いているのであれば、その旨を公表して反対派にも冷静な対応を求めるべきでは
ないかと思う訳です。あるいは現状を憂うる県民の方が県議会や県庁にそれを
求めるのも一つの方法かもしれません。
「電気を使うだけの大都市の人間が原発反対ばっかり言うな」と主張する
立地自治体の方もいますが、この場合も「だいたい遠く離れた地域の人間が」と
言われるのであれば、当事者である県民有志の方がその行動を起こされる
べきではないかと思います。
しかし「何も考えずに反対ばっかりしている者のことなんか知らんよ」と
言われるのであれば、もう余計なことは書きません。
投稿: ニムロ | 2014年8月15日 (金) 09時33分
ニムロさん。
管理人さんのコメント理解してます?
沖縄から基地米軍など無くなりませんよ!
それは複雑な国際情勢であり、土地は動けませんから。地勢学的な沖縄の存在がいかに重要なのか考えれば自明ですが。
段階的縮小ですか、20年近く前に普天間廃止と辺野古移転を素早く進めていたのらならあり得たかも?な話ですね。今でも那覇や牧港の返還や日米地位協定交渉とセットの話ですよ。
しかし、あなたはたぶんそんな楽観者じゃないとおもいますが、もう少し広い目で絡まった毛糸玉をどうするのか…
ちゃんと考えましょうよ。
あと、原発問題に関して、比較的まだ供給余裕のある東北電力ですら、現在唯一の女川再稼働を申請しています。もちろん首都圏に送るためと、老朽火力がいつまでも持たないのは分かり切っていますから。
それこそ、沖電の供給で生活しているあなたが、どうこう言うのはいかがなものかと。
それこそ、絶賛原発大増設中の隣国に言ってやって下さいな。
万一の場合に、それこそ住めなくなったり、避難しても『差別』をされるのは、あなたたちですよ。
投稿: 山形 | 2014年8月15日 (金) 10時48分