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スコットランド独立を阻んだ経済の落とし穴

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スコットランドの独立を見てくると、改めて現代世界が持つ経済の相互依存の強さに気がつきます。 

スコットランドは、英国にとっていわば小さな大阪圏のようなものかもしれません。日本において、単独で大阪圏が「独立」すれば、日本経済は沈没することはないものの、大打撃を受けます。

それと同じことが英国にも起きようとしていたのです。  

スコットランドは英国GDPで約8%ですが、北海油田を初めてとして有形、無形のあらゆる物件を、人口比に従って分割せねばなりません。

株式、債券、外貨、EUからの補助金などの金融資産、土地や住宅、軍、インフラなど有形固定資産、ソフトウエアのライセンスや知的財産権など無形固定資産といった共有資産が分割されるために、数字以上の大きな打撃を英国経済は受けることになります。

「英国の人口は530万人(8.3%)減少し、GDP(国内総生産)の約8%を喪失。また、株式、債券、外貨、EU(欧州連合)からの補助金など金融資産、土地や住宅、軍、インフラなど有形固定資産、ソフトウエアのライセンスや知的財産権など無形固定資産といった共有資産が分割される。一方で、共有負債も分割される。
 資産分割の注目は北海油田になる。SMBC日興証券は11日付リポートで、北海油田の税収を人口シェアで振り分けると11/12年度は9億ポンド(8.4%)、12/13年度は6億ポンド(8.3%)がスコットランド政府の分になった資産だと指摘。ただし、地理的に振り分けると(国連定義の中間線で北海油田を分割)、11/12年度は100億ポンド(88.2%)、12/13年度は56億ポンド(84.2%)と、持ち分は大幅に増加するとした」
(三菱UFJモルガン・スタンレー証券17日付リポート)

スコットランド経済ブロックを英国が失った場合起きる経済現象は、株式暴落、ポンド下落、国債金利上昇、財政破綻ですが、その余波はEU全体にも及び、不調のヨーロッパ経済をさらに下に押し下げたと思われます。

その意味でこんな破局が避けられたことは、スコッテイシュには気の毒でしたが、まことに慶祝であったと言えます。

それでもロイターなどは、世界第6位の経済大国の地位は揺らがないとみているようですが、いずれにせよ分離・独立の返り血は、火元のスコットランドにも及び、生まれたばかりの独立国を苦しめたはずです。

さて、前回スコットランドを最後に英国に引き止めた力が経済だったと書きましたが、それが顕著に現れたのは融機関の逃避が現実化したからです。  

経済紙のブルームバークはこう書いています。

「ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS  )とロイズ・バンキング・グループ  は、スコットランドが独立を選ぶならイングランドに拠点を移すなどの措置を取る計画だ。ロイズは10日遅くの発表文で、スコットランド人が住民投票で独立を選択した場合は法律上の新しい組織をイングランドに設立するための緊急計画を策定してあると説明。RBSは11日、そのような場合は本社を移すことが必要になるとの考えを明らかにした。 独立賛成の場合、RBSの信用格付けや「同行がさらされる財政、金融、法規制の環境」に影響を与える「多数の重大な不確実要素が生じる」と同行は説明。これに備える本社移転計画は「慎重かつ責任ある行為であり、顧客と従業員、株主はそれを望むだろう」としている」( ブルームバーク9月11日)

ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)とロイズは、スコットランドで1、2位を争う主要銀行で、ナショナル・オーストラリア銀行傘下のクライデスデール銀行、TSBバンキング・グループに加え、保険会社のスタンダード・ライフなども、スコットランドからイングランドに移動すると明言しました。

その理由は、英国政府がRBSの株式の81%、ロイズバンクの25%を保有しているからです。

RBSは公式に、「独立賛成の場合、RBSの信用格付けや、同行がさらされる財政、金融、法規制の環境に影響を与える、多数の重大な不確実要素が生じる」としています。

つまりは、独立スコットランドで安心して営業できないという縁切り状です。

そもそも、独立スコットランドの中央銀行になると予想されていた、スコットランド・ポンドの発行銀行である、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)でさえ、本店を移動させると発表したのですから、これで事実上独立スコットランドは経済界から手厳しく否認されたのです。  

おそらくこのような金融業界の否認が独立阻止の決め手になりました。  

このように、近代国家内の「独立」阻止には軍隊を必要としません

むしろ中央政府が軍隊などを派遣したら、大きな組織的抵抗が拡がって流血の事態となり、かえって独立運動の火に油を注ぐことになります。

ちょうどウクライナ暫定政権が、ミロシェビッチを倒したのが流血の事態をきっかけにしたのと一緒です。 

そうでなくても、勇猛なスコティシュにはイングランドに歴史的に戦で敗れ、苦渋を飲まされたたという屈辱の記憶があるのです。  

ですから、中央政府の最大の武器は、通貨や金融で独立派を締め上げることです。そうすれば今回のように、確実にスコットランドの銀行や企業は音を上げて、逃げていきます。 

独立における最大の問題は通貨体制をどうするかです。通貨がしっかりしない独立国などありえません。

今回もかねてから英国政府はポンドの使用を認めないと警告してきました。これは非常に効いたはずです。

スコットランドは中央政府と通貨同盟を結びたいと提案したのですが、英国のすべての党に拒否されました。

この点に関し、欧米日の銀行の観測では、スコットランドが一方的に自国通貨をポンドにペッグ(※)するシナリオが現実的とみています。
※ペッグ制は、固定相場制の一つで、米ドルなど特定の通貨と自国の通貨の為替レートを一定に保つ制度

またスコットランドはその場合でも英国国債を引き受けないき方針であると見られていたために゛その場合は英国国債の金利は上昇し、財政悪化に繋がります。、

スコットランドが一定の英国国債を自国国債として受け入れた場合でも、スコットランド国債とされた部分は金利が割高になり、結果としては変わらないことになります。

このように、独立派はポンドに変わる独自通貨を提案できませんでした。これでは、英国の財政・金融政策下に居続けるわけですから、「独立」は単に政治的なショーになりかねません。

ユーロという声も一部であったようですが、後述しますが、EUは加盟を拒否するでしょう。 

このような状況を横目でにらんで、スコットランドにある地場産業も一斉に独立反対に回りました。 

今回、スコットランドの象徴的産業とでもいうべき地場産業の雄であるスコッチ・ウィスキー業界が揃って反対に回ったのは象徴的でした。  

CNNはこう報じています。

「メーカー各社はこれまで、世界第6位の規模を誇る英国経済の安定性や信頼性に支えられてきたが、独立すれば税金や関税関連の法律も変わる。
たとえば、現在は英国が欧州連合(EU)の単一市場に参加しているため欧州27カ国へ無関税で輸出することができるが、これが不可能になる恐れがある。
スコッチは英国が輸出する食品・飲料全体の4分の1を占める。1秒間当たり40本が出荷されている計算だ。英国は欧州以外にも世界各国と貿易協定を結んでいることから、スコッチの市場は現在約200カ国に及んでいる。ところが、スコットランドが単独で配置を計画している在外公館の数は70~90にすぎない」(2014.09.15 )
  

スコッチ業界は英国2位の輸出産業ですから、世界的輸出が命です。にもかかわらず、独立した場合、スコットランドが独自に持つ外国との貿易協定はわずかで、あったとしても独立後に新たに締結し直さねばなりません。  

その場合、不安定な独立スコットランドには信頼性が乏しく、不利な取引条件を押しつけられる可能性があります。  

このようなことは輸出が主なグラスゴーの機械産業や造船業にも言えることで、それが大規模に波及した場合、最悪のケースは恐るべきキャピタル・フライト(資本逃避)が生じます。  

これは国内の資本が海外に逃亡することですが、雪崩に似ていったん始まると行くところまで行きます。 雪崩が去ったあとには、失業と財政破綻を抱えたデフォールト寸前の貧乏国が残るだけです。 

救命ボートとしてEU加盟もありえますかだ、このような「独立国」に対して他のヨーロッパ諸国がどう考えるはわかりきった話です。まず100%加入は認められないでしょう。  

これは英国政府の横車ではなく、EU諸国は多かれ少なかれ、スコットランドに似た地域問題を抱えているらです。ロイターはこう述べています。

「他の欧州の分離主義に関しては、答えは一目瞭然。もしもスコットランド住民の独立賛成が多数と占めれば、スペイン政府がカタルーニャやバスクの地域住民に同じような民主的権利を認めない姿勢を続けるのは極めて難しくなる。それだけでなく、ベルギーではオランダ語圏の分離主義者からの圧力が強まり、イタリアの北部同盟は再び勢いづく可能性がある」(2014年9月16日)  

というわけで、スコットランドの独立を阻んだ最大の「敵」はキャメロン政権ではなく、経済・金融だったのです。

                                              (続く)

 

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コメント

ロンドン人である叩き上げの元祖経済学者リカードが、
大昔から大きい自由な経済圏のほうが、弱きも強気も
お互いにメリットがあって、双方が豊かになれると言
ってきたのに、200年程経った今もまだあまり理解さ
れていません。

市井のサヨクは「弱肉強食だぁ」とアホを丸出したま
まで、双方が不幸になれる社会主義にゾッコンのよう
です。美しい理想の物語をまだ信じてる。

独立分離などメリットはあまりないと思います。分離
して、その中で新しい甘い汁を吸おうという輩に騙さ
れてはいけません。

とにかく、おめでとうございます、スコティッシュ!

投稿: アホンダラ | 2014年9月24日 (水) 12時17分

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