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2014年9月25日 (木)

「スコットランド゙の核」をどう考えるか

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スコットランドの独立投票は僅差で敗れたものの、「先進国における分離独立は可能か」というテーマを世界に発信しました。 

この機運はスペインにおいて、長年続いているカタルーニャ自治州とバスクの独立の動きを加速するでしょう。  

長年に渡って分離独立を追及してきたスペイン・カタルーニャ自治政府は、独立を問う住民投票を11月9日に実施すると発表しましたが、中央政府はこれを違憲として認めていません。  

カタルーニャは、スペイン屈指の富裕な地域なので予断を許しませんが、スコットランドにはカタルーニャにない巨大な存在がひとつあります。  

それは「スコットランドの核」です。  

スコットランド・ファスレーンにあるクライド海軍基地には、戦略核兵器が存在します。しかも投射手段であるミサイル原潜4隻とセットになっています。(※参照)

Photo

                       (英海軍クライド海軍基地 Google Earth )

※「トライデントとは、4隻の英国ヴァンガード級原子力潜水艦に搭載した58基の潜水艦発射核弾道ミサイルで構成される防衛システムで、少なくとも常時1 隻が任務についている。このシステムは、それぞれが核ミサイルを搭載した14隻からなる米海軍原子力潜水艦艦隊の縮小版ともいうべき存在である」(軍縮:英国核防衛システムの不透明な行方)  

この4隻の原潜(※)に登載された58基の潜水艦発射核弾道ミサイル(SLBM)を、どのように考えるべきなのでしょうか ヴァンガード級原子力潜水艦 

ひとつの考え方としては、当のスコットランド民族党が掲げる「非核化宣言」です。  

こんな物騒なものはさっさと撤去してくれ。俺たちは平和愛好者なんだ」というわけですが、まったくもってナイーブな発想です。 

ちなみに私は、ナイーブという言葉をこの場合、決して褒め言葉で使っていません。  

選挙用ならまだしも、「国」になりたいという「地域」が、簡単に今領土内にある交渉相手の核兵器を放棄してしまうような考え方では、独立スコットランドはそう長くは続かないでしょう。  

もうひとつの考え方は、おそらく多くの独立を希望する民族が選択するであろう手段です。それは核兵器を人質にすることです。 

フレデリック・フォーサイス流に言えば「悪魔の選択」です。 

ちなみに「悪魔の選択」(デビルズ オルタナティヴ)とは、「どのような選択をしても地獄」ていどの意味です。 

スコットランドの場合、核兵器は「存在しても危険」、「撤去移動することも出来ない」という二律背反的な条件ですから、いずれにしても外交的カードとして有益に使うしかありません。 

そもそも核兵器とは、極めて政治的な武器なのですから、核兵器は政治的に使うことが前提なのです。 

この手段を選んだ場合、スコットランドがまっ先にすべきは、とりあえずクライド海軍基地のトライデントミサイル原潜と核兵器を押えてしまうことです。 

今のスコットランドには、核兵器を操作できる要員はいないと言われていますが、それでもかまいません。  

とりあえず核兵器を「預かっている」ということは、中央政府に対して強烈なブラフ(威嚇)になり得ます。   

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(写真 クライド海軍基地におけるヴァンガード級戦略原潜。4隻体制で常に1隻は任務についている)

スコットランドにあるセント・アンドルース大学・ウィリアム・ウォーカー教授によれば、核兵器を押えるというような強硬な態度にスコットランドが出なくとも、核保有国の英国が非核国で核を運用するという奇妙なことになる上に、長く折れ曲がったスコットランド領海を通行せねばならなくなると予想しています。

英国は英国内にクライド基地を移転できないために、P5(国連常任理事国)の地位から滑り落ちたくなければ、いやでも交渉テーブルにつくしかありません。

そしてスコットランドは国際社会に向けて、「非核国家内にある核基地という点を強くアピールします。  

核兵器の解体、あるいは撤去を取引材料にして、中央政府からそうとうに大きな譲歩を勝ち取れるでしょう。

ただし、交渉するためには、交渉期間中にはぜひ核兵器にスコットランドに「居て」もらわねばなりませんが。

実は、これには前例があります。ウクライナが独立後の1994年12月に結んだブダベスト覚書です。  

ソ連崩壊後、棚ぼた的に独立を勝ち得たウクライナは、国内に大量の核兵器を所有することになりました。  

米国などはこれを危険視してNPT(核拡散防止条約)に入ることを求め、核兵器を手放す条件に、独立と領土を保障することを認めました。これを調印した地名をとって、「ブダベスト覚書」と呼びます。  

今回のウクライナ紛争でも、ウクライナ政府が再三に渡ってブダペスト覚書を履行するように、米国とEUに求めていますが、いまひとつ効果が薄いようです。  

このように独立を求める国の領土内にある「基地」や「核兵器」は、シビアな交渉テーマであると同時に、独立を国際社会(主に米国ですが)に要求できるテーマなのです。 

問題はむしろスコットランド民族党は、日本語訳として「民族党」という呼称は右翼的だから「国民党」にしてほしいとしているように、社会民主主義的傾向が強い政党だという点です。

左翼政党だろうと、右翼政党だろうと思想は自由ですが、社会民主主義政党には、絶対平和主義という思想的制約があるようです。

ですから、「非核化」も当然の発想で、 彼らには「スコットランドの核」を外交カードにする発想そのものが欠落していると思われます。 

このように見て来ると、経済、財政、EU対策、防衛、核兵器など、ほとんどすべての分野に渡って、スコットランド民族党は準備不足でした。 

長い民族の苦闘の歴史と、独立運動の蓄積を持ちながら、このていどの政治的成熟度では独立は無理です。仮に独立しても長くは持たず、混乱したあげく、再び英国に復帰することになったでしょう。 

そう考えると、この「準備不足」がその本質に根ざしている以上、ここまで行きながらも結局は負けるのは必然だったようにも思えます。

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コメント

管理人さんは凄いですね。「核」一つの話でも具体的で、勉強になります。

非核で平和が保たれるなら、人類の西暦1945年以前の歴史は何だったのだ、という話ですね。そして1945年以降は、核を持っている国は攻め込まれていないという。

独立運動の活動家なんて、混乱を起こして利益を得る人達から頼まれてやっていることで、実際の政治で有能だったら却って有害なのでしょう。


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