朗報です!
もっとも詳細なNHKによれば、フランス政府は21日富士フィルムグループの一般名ファビピラビル、商品名「アビガン錠200mg」を正式に現地で臨床試験することに決定したそうです。(写真NHKニュース・記事欄外参照)
ファビピラビル、商品名「アビガン」(以下ファビピラブル)は、エボラ用に作られた薬ではなく耐性型のインフルエンザに対応したものです。
簡単に原理から説明します。インフルエンザやエボラウイルスは、遺伝物質としてRNA(リボ核酸)をもつことから、RNAウイルスと呼ばれる種類です。大きさはわずか100nm(ナノメートル1nm=10億分の1m)と超微小です。
インフルエンザやエボラウイルスは、それ自体の身体を持ちませんから、宿主となった人の細胞をジャックします。
いままでのウイルス研究は、ヒトの細胞膜から感染して細胞内に侵入することを防ぐことを目的にしていました。たとえば有名なインフルエンザ治療薬のタミフルなどがそうです。
しかし、宿主細胞への侵入や脱出に関係するウイルス遺伝子には変異を起こしやすいものが多く、タミフル耐性のインフルエンザウイルスが既に出現しています。
これに対して発想を変えてウイルスの侵入を防ごうというのが、今回のファビピラブルの考え方です。
インフルエンザやエボラウイルスといったRNAウイルスは、DNAでなくRNAをゲノム(※1)とするウイルスです。専門用語でRNA依存性RNAポリメラーゼ(※2)というそうです。
ファビピラビルはこれを阻害することによりウイルスの増殖を抑えることができます。正式な学術名は、「RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤」というそうです。ああ長い。
元来はインフルエンザ耐性ウイルスに対して作られたものですが、原理的に同じ一本鎖マイナス鎖RNAウイルスの場合、同じ効果が得られると考えられています。
実際に、C型肝炎ウイルス、黄熱病ウイルス、ポリオウイルス、RSウイルス、ラッサウイルス、ノロウイルスには効果を示したという実験があるそうです。
となると同じ一本鎖RNAのエボラに効いてもなんの不思議もないわけです。
これが臨床実験で確認されれば、ウイルス変異という不確定要素はありながらも、まったく新しい地平のウイルス感染症薬剤が日本で誕生したことになります。しかも、その対応範囲はめちゃくちゃに広い!
また、ファビピラビル(え~ファビで切ってピラブルと続けてね)は大変に使い易い薬です。それは錠剤だからです。
これだと医療設備が整った病院でしか投与できなかったものが、奥地においても簡単に配布できて服用できます。
ファビピラブルを共同開発した白木公康富山大大学院医学薬学研究部教授は、感染早期の投与を強く勧めています。(欄外参照)
「白木教授によると、エボラウイルスに感染した場合、2~21日の潜伏期間を経て頭痛、嘔吐(おうと)、出血などの症状が現れる。感染から6日経過すると、体内のウイルス量が増加し、発熱や肝機能障害が起きるという。
エボラウイルスに感染させたマウスを使った実験では、感染から6日後にファビピラビルを投与した場合、8日経過しても5匹全てのマウスが生き残った。
一方、感染から8日後に投与したマウスは、症状に改善傾向がみられたものの、生存率は0%だった。白木教授はマウスと人間の病態は異なるとした上で「人間の場合は遅くとも、発熱が始まった日からの投与開始が望ましい」と推測する」(北日本新聞 10月16日)
白木教授によれば、感染から6日以上たつと体内ウイルスの増加によって、高熱や肝機能障害が起きてしまうために、それ以前の投与が必要だとしています。
このように感染初期でウイルスを叩くためにも、簡単に配布して服用できる錠剤タイプはまさにうってつけだったわけです。
ファビピラブルのもうひとつの有利な点は、現在日本が在庫ストックを持っていることです。
今まで現地で使われた薬剤は、本国でも未承認の試験的なものだったために在庫僅少で、あっという間に使い切ってしまいました。
しかしファピピラブルは違います。それはこの薬がそもそもインフルエンザに対して用意されて備蓄されていたためです。
現在の日本では、耐性型インフルエンザやヒト-ヒト感染が疑われる新型ウイルスのリスクは抑えられているために、ファビピラブルを使用しなくてもいいと、政府は判断しています。
したがって、薬剤として今年3月に承認されているものの、病院における投与は国が判断することになっています。
現在、富士フィルムによれば2万人分の錠剤と、30万人分の原薬を保有しているそうです。なんと頼もしい。
逆にいえは、在庫たっぷりあるわけです(笑)。しかも富士フィルムはこのエボラウイルスの凄惨な状況を考慮して、大増産をかけると宣言しています。(欄外参照)
「当社は、現時点で2万人分の錠剤を有し、原薬としてさらに30万人分程度の在庫を保有しています。今後、さらなる臨床使用が進む場合に備え、エボラ出血熱向けとしての「アビガン錠」の生産を11月中旬より行います。感染規模がさらに拡大した場合においても十分な量を継続的に供給可能とするため、追加生産により備えておくべきと判断いたしました」(富士フィルム10月20日)
いままでいくつかの薬剤が試験的に投与されましたが、いずれも効果を上げていないことから、ファビピラブルの西アフリカ現地での効果に期待が集まっています。
このようなことで日本が世界に貢献できるとすれば、これほど嬉しいことはありません。
※1ゲノム 単相の細胞に含まれる全染色体をいう。 通常の生物の体細胞は、2組のゲノムをもつ。
※2 単量体を結合させて重合体を合成する酵素。DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、でんぷん合成酵素。
■写真 霞ヶ浦右岸の日の出です。あまりの荘厳さに私もびっくりしました。一切の画像処理はしていません。ぜひクリックして大きくしてご覧ください。
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■日本企業のエボラ薬 仏が臨床試験へ
NHK10月21日
エボラ出血熱の患者が増え続けている西アフリカのギニアで、医療支援を続けているフランス政府は、日本の企業が開発した薬の効果と安全性を確かめる臨床試験を現地で始めると発表しました。
フランス政府は21日、エボラ出血熱の治療に効果が期待されている富士フイルムのグループ会社が開発した薬「ファビピラビル」について、来月中旬からギニアで臨床試験を行うと発表しました。
臨床試験をするのは、フランスの国立保健医学研究機構の研究チームで、パリで記者会見したチームのメンバーは、この薬を選んだ理由について、すでにまとまった量の薬が製造されており手に入れやすいことや、経口薬であるために投与しやすいことなどを挙げています。
試験は、ギニア南部の治療施設で、最初はおよそ50人の患者への投与から始めるということで、来年1月ごろには臨床試験の結果が出る見通しだとしています。
そして、薬に効果がある可能性が高いと判断されれば、2月以降さらに大規模な臨床試験を行って、効果や安全性を確かめたいとしています。
研究チームでは、「西アフリカで本格的に臨床試験が行われるのは初めてで、よい結果を期待している」と述べ、エボラ出血熱に有効な治療薬がない中で行われる臨床試験の結果に期待を示しました。
ファビピラビルとは
ファビピラビルは富士フイルムのグループ会社がインフルエンザの治療薬として開発した薬です。
エボラ出血熱の治療薬としては承認されていませんが、これまでに、西アフリカでエボラウイルスに感染したあとフランスに帰国して治療を受けた看護師や、スペインで二次感染した看護助手などに緊急の対応として投与されました。
フランスの看護師は退院し、スペインの看護助手も回復しつつあるということですが、治療にあたってはほかの未承認薬などと併用して投与されることも多く、この薬がエボラ出血熱に効果があるのかはまだはっきりとはしていません。
富士フイルムは現在、この薬を2万人分保有していますが、今回の臨床試験でエボラ出血熱に対する効果や安全性が認められた場合、ほかの国からも薬の提供を求められる可能性があるとして、来月中旬から追加生産することを明らかにしています。
有効な治療薬がない状況に変わりはない
エボラ出血熱の患者は西アフリカを中心に増え続けており、感染やその疑いがある人はすでに9200人を超え、早ければ今週中にも、1万人を超える可能性があるとみられています。
ギニア政府がWHO=世界保健機関にエボラ出血熱の感染拡大を報告してから7か月がたちましたが、有効な治療薬がない状況に変わりはありません。
アメリカの企業が開発を進めている未承認薬で、一部の患者が投与後、回復したとされている「ZMapp」については、在庫がなくなったとされ、次にいつ、生産されるのか明らかになっていません。一方で、「ファビピラビル」は、富士フイルムが現時点で2万人分を保有しており、すでにまとまった量があるという利点があります。
エボラ出血熱への効果が期待される薬の臨床試験が西アフリカで行われるのは初めてで結果が注目されています。
治療薬の開発に向けては、WHOも、イギリスのオックスフォード大学やNGOの国境なき医師団などとともに、早ければ来月にも西アフリカで臨床試験を始めたい考えで、現在、臨床試験を行う薬について検討を進めています。
■エボラ患者に早期投与を ファビピラビル、白木富山大大学院教授が強調
北日本新聞 10月16日
エボラ出血熱の治療薬として、各国で活用が広がる富士フイルムグループの富山化学工業が開発したインフルエンザ治療薬「ファビピラビル」。富山化学工業とファビピラビルの共同研究に取り組んだ白木公康富山大大学院医学薬学研究部教授は、エボラ出血熱の患者の治療について「早期投与が大切だ。生存率に大きく影響する」と強調した。
白木教授によると、エボラウイルスに感染した場合、2~21日の潜伏期間を経て頭痛、嘔吐(おうと)、出血などの症状が現れる。感染から6日経過すると、体内のウイルス量が増加し、発熱や肝機能障害が起きるという。
エボラウイルスに感染させたマウスを使った実験では、感染から6日後にファビピラビルを投与した場合、8日経過しても5匹全てのマウスが生き残った。
一方、感染から8日後に投与したマウスは、症状に改善傾向がみられたものの、生存率は0%だった。白木教授はマウスと人間の病態は異なるとした上で「人間の場合は遅くとも、発熱が始まった日からの投与開始が望ましい」と推測する。
ファビピラビルは錠剤のため、へき地でも服用しやすいことや、耐性ウイルスができにくいというメリットも指摘。エボラ出血熱に感染し、ファビピラビルを含め複数の薬を投与されたフランス人女性看護師が回復しており「一例一例の積み重ねで有効性が評価され、世界の医療に貢献できれば喜ばしい」と話した。
■富士フイルム、エボラ熱向け薬を追加生産へ
朝日新聞2014年10月20日
富士フイルムは20日、エボラ出血熱に感染した患者に緊急的に使われているインフルエンザ治療薬「アビガン(一般名:ファビピラビル)」を追加生産する、と発表した。感染がさらに広がった場合に備えて、約30万人分を錠剤にするという。
アビガン(ファビピラビル)は富士フイルム傘下の富山化学工業が開発した。日本では3月にインフルエンザの薬として承認され、ほかの治療薬では効果が十分でない場合などに政府の要請で生産することになっている。
エボラ熱では未承認の薬だが、今回の感染の広がりを受けて世界保健機関(WHO)がエボラ熱にも効く可能性があるとして患者への投与を容認した。9月以降にフランスやドイツなど欧州4カ国で患者に投与され、このうちフランス人の女性1人が退院した。
生産は11月半ばから富山市内の工場で始める。アフリカ西部のギニアで、同じ11月半ばにエボラ熱患者に対するアビガンの臨床試験が始まる予定で、富士フイルムは錠剤を現地の患者に無償で提供する方針だ。
■「アビガン®錠200mg」のエボラ出血熱向け生産について
富士フイルム株式会社
2014年10月20日
富士フイルム株式会社(社長: 中嶋 成博)は、エボラ出血熱患者への投与拡大に備え、抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠200mg」(*1)(一般名:ファビピラビル、以下「アビガン錠」)をエボラ出血熱対策として海外での使用を目的とした追加生産を決定しましたのでお知らせいたします。
「アビガン錠」は、富士フイルムグループの富山化学工業株式会社が開発した抗インフルエンザウイルス薬であり、エボラウイルスに対して抗ウイルス効果を有するとのマウス実験の結果が公表されています。これまでに、西アフリカから欧州に緊急搬送されたエボラ出血熱患者複数人に対し、緊急対応として投与されました。これらは、緊急搬送先の政府機関および医療機関から「アビガン錠」提供の要請があり、日本政府と協議の上、応えたものです。
11月中旬よりフランス政府とギニア政府が、ギニアでエボラ出血熱に対する「アビガン錠」の臨床試験を始める予定です。この臨床試験に対して、当社は「アビガン錠」と薬剤情報提供の要請を受け、フランス、ギニア、日本の関連当局と連携し協力していきます。
本臨床試験で「アビガン錠」のエボラ出血熱に対する効果並びに安全性が認められた場合は、より大規模な臨床使用のための薬剤の提供要請が見込まれます。当社は、現時点で2万人分の錠剤を有し、原薬としてさらに30万人分程度の在庫を保有しています。今後、さらなる臨床使用が進む場合に備え、エボラ出血熱向けとしての「アビガン錠」の生産を11月中旬より行います。感染規模がさらに拡大した場合においても十分な量を継続的に供給可能とするため、追加生産により備えておくべきと判断いたしました。
日本政府は、感染が広がるエボラ出血熱に対して、日本の企業が開発した治療に効果の見込める薬を提供する準備があることを表明しています。富士フイルムは、日本政府と協議しながら、感染者のいる各国からの要請に応えていきます。
*1 : 「アビガン®錠200mg」:
富山化学工業株式会社が開発した薬剤で、日本で抗インフルエンザウイルス薬として平成26年3月に薬事承認を取得している。
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