英有力紙にも失敗を宣告されたメルケルの脱原発政策
日経新聞が、最新のフィナンシャルタイムズ(2014年10月7日)のドイツの脱原発政策論評を転載していましたので、ご紹介します。
いまだにベタベタに甘い脱原発讃歌から脱しきれていない日本マスコミを尻目に、欧米の論評のベースは、脱原発政策に対して容赦ない突き放したトーンが主流となっています。
タイトルは、「FIT・ドイツの脱原発政策は矛盾だらけ」です。
「メルケル首相の内政における判断がすべて正しかったわけではない。ドイツ経済に影が差すなか、メルケル氏の8年間の首相任期中で最悪の決断に注目が集まるのも当然だろう。それは、ドイツのエネルギー政策から原子力という選択肢を消し去るという政策判断である」
ドイツはEUの基軸国として、今や「メルケルの第四帝国」と皮肉られるようにまでの地位についていますが、メルケルの最大の弱点はその過激な脱原発政策と見られています。
この記事にもあるように、欧米では「いつ脱原発政策から撤退するのか」に関心が移っているようです。
いまや、再エネが前エネルギーの中に占める割合は23%で、常識的に考えればこれですら行き過ぎた数字と考えるべきなのに、メルケルはアクセルから足を離そうとしていません。
未だ意気軒昂に、2035年までに65%に拡大させることを政策化しています。
このしわ寄せは、国民と企業に向けられていて、沸点にちかづきつつあると欧米マスメディアは見ています。
「一方、再生可能エネルギーを重視する政策が家計や企業の負担を大きくしている。ドイツ政府が再生可能エネルギーを発電に利用する電力会社に支払う補助金は、消費者に転嫁される。このため、ドイツ国内の電気料金は欧州平均を48%上回る」
国民はEU平均の48%、つまりは約5割にも達する高額電気料金の虜になっています。下図はドイツの電力料金の1998年から2012年までの推移を見た表です。
これには少し説明が必要でしょう。
上図をみると、青色の発電・送電・配電コストという実費はこの10年来大きな変化はありません。
問題は、オリーブ色とグレイの再エネ法賦課金(※ドイツの場合は税金と同じ)と熱源供給型発電所促進税とアズキ色の電力税(環境税)の部分が年々重くのしかかって、電気料金を押し上げていることです。
なんとドイツでは、36.3%が各種再エネがらみの税金なのです。これで不満がでないわけがありません。
その原因は、ドイツが原発に替わる代替エネルギーとして再エネを見込んでしまい、それに累積23兆円もの過剰な補助金を投入してしまったからです。
しかも初め20年間は固定価格で全量買い上げるという再エネ法(EEG)では、再エネが通常の電気買い取り価格よりケタ違いに高く買われてきました。
特に、太陽光発電は群を抜いて高い買い上げ価格が設定されました。
これは単に高い固定価格だけではなく、いったん設定された価格を20年間の長期にわたって固定して全量買い上げるというプレミアムまでついています。
ということは、20年間電気料金は下がらないわけです。 日本はまだ始まって月日が浅いので、このFITの固定価格の累積が軽い状況です。
日本ではほとんどの人が理解していませんが、小学校算数でわかるように、FITは20年間固定買い取りなために、賦課金が毎年その分が積み重なっていきます。
仮に初年度は各家庭に賦課金(※日本の場合、電気料金に上乗せ)40円とすれば、まぁこの程度で安全・安心が替えればいいやていどですが、翌年は80円、その翌年は120円という具合に増え続けると、気がついたらとんでもない金額が上乗せされます。
(※正確には毎年買い取り価格は下落しますから、必ずしもこうはなりませんが)
ですから10年もすると大変なことになります。これがFITという制度の逆スライド制の底無しの怖さです。
日本においては止めるなら、まだ傷の浅い今しかないと私が思うのはそのためです。
しかしドイツではFITが長期間に渡ったために、もはや引き返し不能地点に達しています。
ドイツの平均的な所帯の電気代は年間225ユーロ(2万6550円)増加し、300ユーロ(3万5400円)を越えることが予想されています。
特に低所得者層への影響は大きく80万所帯が電気代の滞納をし、電気を止められそうになっています。
ドイツ連邦環境庁のフラスバート長官はコメントでこう述べています。
「エネルギー政策の転換によって生じるコストは、公正に分担されなければならない」
「過剰な電力料金が貧困者を生み出すような事態になってはならない。支払い能力のない消費者に対しては国が補助金を出すべきだ」
一方企業向けはといえば、こちらも目を覆いたくなる高さで、中小企業のコストは米国の2倍に達します。これでは企業の海外転出が止まりません。
「中小企業を巡る環境はさらに厳しい。中小企業のコストはドイツが米国の2倍である。米国の中小企業の多くは低価格のシェールガスの恩恵を享受している。景気が減速する現状では、こうした負担がドイツ経済に重くのしかかる」
これもグラフで確認してみます。 ドイツがFIT(固定価格・全量買い取り制度)を開始した以前と以後を、産業用電力で比較してみます。
・1999年・・・8.51ユーロセント/kWh
・2012年・・・8.52
こちらも発電コストはほぼ変化はありません。一番違っているのは、賦課金と税金の類です。
・1999年賦課金・税金の計・・・0..35ユーロセント/kWh(3%)
・2012年同上 ・・・5..35(39%)
産業界は、ドイツでの国内生産をあきらめて、別の国に逃避する企業が増えました。ドイツの化学薬品会社として世界的企業であるバイエルのマライン・デッカーズCEOはこう言っています。
「エネルギー・コストの上昇が止まらないなら生産拠点を外国に移転する。」(「ニューズウィーク2011年10月31日)
これはバイエルに限らず多くの企業も考えていることです。自動車産業も米国に拠点を移す計画です。
ドイツの紡績会社では、電気料金の上昇か従業員一人あたりに換算すると年間5000ユーロ(50万円)の負担増になっている会社もあり、このままでは従業員の人件費をカットするしかないところまで追い詰められる会社が増えていきました。
繊維衣料品産業連盟のバウマン代表は、「エネルギー転換によって生じるコストは雪だるま式に膨れ上がる恐れがあり、計り知れない」として、再生可能エネルギーの助成金のために生じるEEG(FITのドイツ名)の分担金は違憲であるとの見解を表明し、提訴に踏み切りました。
ドイツ商工会議所がドイツ産業界の1520社を対象に行なったアンケートによれば、エネルギー・コストと供給不安を理由にして、5分の1の約300社が国外に出て行ったか、出て行くことを考えているという衝撃的数字が出ました。
●ドイツ産業界へのエネルギーコストによる影響のアンケート結果
・「生産が減少または大きく減少する」 ・・・72.8%
・「国内における設備投資が減少または大きく減少する」・・・55.3%
・「海外における設備投資が増加または大きく増加する」・・・38.9%
・「収益が減少または大きく減少する」 ・・・96.5%
産業界は、ドイツでの国内生産をあきらめて、別の国に逃避する企業が増えました。ドイツの化学薬品会社として世界的企業であるバイエルのマライン・デッカーズCEOはこう言っています。
「エネルギー・コストの上昇が止まらないなら生産拠点を外国に移転する。」(「ニューズウィーク2011年10月31日)
これはバイエルに限らず多くの企業も考えていることです。自動車産業も中国や米国に拠点を移す計画です。
このように再エネの大量導入による産業基盤の弱体化により、ドイツ経済はリーマンショック以来の深刻な状況が続いています。
「最近のドイツの経済指標は異例なほどさえない。今週発表された8月の製造業受注と鉱工業生産は、世界金融危機が最も深刻だった2009年以降で最大の落ち込みだった。
IFO経済研究所の業況指数も5カ月連続で低下しており、9月のドイツ製造業購買担当者景気指数(PMI)はこの1年3カ月で初めて活動縮小を示す水準になった。
7日にはIMFがドイツの今年の成長率見通しを1.9%から1.4%に、来年も1.7%から1.5%にそれぞれ引き下げた」(この部分のみロイター2014年10月9日)
ドイツの場合、一国だけに影響が止まらず、EU域内全体に暗い影を投げかけているために、域内国は「メルケルさん、早く脱原発道楽をやめてくれ」というのが本心です。
このようなドイツの脱原発政策の現状を、日本のマスコミはまったく伝えず、いまだに「再エネを妨害し、再稼働に走る電力業界はけしからん」と言っているのですから、周回遅れもいいところです。
(続く)
お詫び 同じ統計を重複しましたので、一方を削除しました。
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「ドイツ産業界へのエネルギーコストによる影響のアンケート結果」と「日本経団連へのエネルギーコストによる影響のアンケート」の各調査項目ごとのパーセンテージが同一です。
転記時のミスでしょうか?
投稿: sk | 2014年10月10日 (金) 18時00分
sk様。申し訳ありません。うっかり同じ統計を重複しましたので、日本の統計と書いたものを削除しました
投稿: 管理人 | 2014年10月11日 (土) 02時59分