電力自由化にむらがる火事場泥棒たち
では、なぜこんなデタラメなFITなどという制度を作ったのでしょうか。
それははFITだけ見ていてはわかりません。あくまでもFITは大きな電力自由化の一部にすぎず、そのための起爆剤だからです。
「脱原発」を錦の御旗として再エネを爆発的に普及させることで、わが国のエネルギー源の中に再エネをドイツ並に無視し得ぬ規模で位置づけてしまいます。
そのことによって大きなひずみが出るはずです。とくに大きなしわ寄せを受ける送電網は不安定になっていきます。ここまでは、既に現実になりかかっています。
目論見と違ったのは、再エネの馬脚が現れるのが早すぎたために、FITが消滅か縮小の危機にあることでしょうか。もし民主党政権ならば、それでも邁進したことでしょうが。
そしてむしろこの再エネの不安定を理由として、ドイツが取った政策である次の一手を仕掛けて来たはずです。
それが電力の完全自由化と、再エネ支援を理由にした新たな送電網建設で、その送電網は全国をひとつにするスマートグリッドです。
現にドイツでは北海沿岸から南部まで、再エネだけのために厖大なコストをかけて長大な送電網建設をしています。
この構想の日本の代表的人物といえば、仕掛け人のひとりである某大手通信業の社長でしょうか。
彼は、東電を悪玉にして責任転嫁を図りたい憲政史上稀な愚人首相をたぶらかし、再エネこそが脱原発の切り札であるかのように持ちかけました。
そして作らせたのが再生エネ法(再生可能エネルギー特別措置法)というFIT制度です。
FITはご承知のように、20年間長期固定価格買い取りというトンデモ制度ですが、それは彼にとって単に取っかかりでしかありませんでした。
某社長の器は、そこらへんのメガソーラーの分譲屋どもとは次元が違って、グレートかつグローバルという横文字なのです。あ、ホントに米国籍だったっけ(笑)。
もちろん某社長は、一番金がかかるメガソーラーから基幹線への送電線などは、ハナから電力会社に敷かせるつもりでした。(特例条項を見逃したのは痛恨だったですが)
再エネにこだわったのは、火力、水力と較べるのも愚かなほどプラモデル並にお手軽で安上がりなのと、再エネ特有の晴れたり曇ったりによる発電量の不安定を解消するには、将来的に全国規模のスマートグリッド(※1)を導入するしか解決方法がないからです。
再エネを引き返し不能地点まで増やしてしまえば、電力の安定供給のために送電網を国が保証せねばならなくなります。
送電網は高い技術と維持管理コストがかかるわりに儲かりません。だから社長にはそんなシンドイことをやる気はさらさらなく、電力会社か国に作らせるつもりでした。
しかし、電力会社が原発停止のために青息吐息ならば、いっそ送電網を全国規模で国有化してしまいます。
電力自由化の理論家であり、FITの提唱者であった飯田哲也氏は、電力自由化の理想は送電部門の国有企業化だと既にいい始めています。
「理想型は、安定供給部門を一体とした一時国有化である。その上で送電事業は、東電から分離させることはもちろん、他電力会社の送電部門も統合して、全国で一体運営を目指すべきだ。すると、地域間の電力融通や自然エネルギーの拡大が可能となる」※http://diamond.jp/articles/-/12918
飯田氏はこの文の中で図々しく、「電力の安定化」を目的に挙げていますが、脱原発の旗を振って電力会社攻撃の最先鋒となり、再エネこそが救世主だくらいに叫んでFITを導入させ、電力供給を不安定にした張本人のひとりが他ならぬあなたじゃないですか。
自分で矛盾を作り出し、自分で解決方法を提示するとは、マッチポンプそのものですな。図々しいたらありゃしない。
米国では確かにスマートグリッドが普及してきましたが、その原因は電力自由化によって停電が頻発したために、電力融通をする必要があったからです。
一方日本は安定的に供給されてきましたから、そもそもこんなバカ高い買い物であるスマートグリッドを作る必然性などはなかったのです。
だからその「理由」を人為的に作ってやる必要がありました。それが再エネ法であり、そのブースターであるFITなのです。
それは送電部門が儲からない部門であり、電力自由化をしたとしても新たな企業参入が見込めず、新しい新規投資である再エネのための送電網やスマートグリッド建設をするわけがないからです。
だから税金でやらしてしまおうということです。
そして、スマートグリッドによって念願の送電網と通信網を一体化したら、もちろんこれにタダ乗りします。
え?送電網作りは全部他人のフンドシかって。当然でしょう。電力自由化の本質はフリーライド(ただ乗り)だからです。
自分でやるくらいなら参入しません。「電力の公共性」に目をつけて、既存の利益構造の一角に食い込み、そのパイを強奪するのが目的だからです。
某社長はそのために反原発を叫ぶ必要があっただけです。FITはこのような思惑の重要な一部で、電力自由化の一段目ロケット部分だったのです。
こんなハゲタカを「真の愛国者」なんて持ち上げたのが『あんぽん』を書いた佐野眞一氏ですが、その眼は節穴ですか。
今後さらに大きな「電力改革」という名の電力をめぐるショック・ドクトリン(※2)が行なわれることでしょう。
FITは電力自由化劇場のひとつの場面にすぎないと同時に、もっとも電力自由化の醜悪さが凝縮している部分でもあるのです。
反原発運動家の仮面を被ったハゲタカのような市場原理主義者たちのパイの取り合いの饗宴がFITであり、電力自由化の本質なのです。
※1スマートグリッド
電力インフラと通信インフラを融合させた次世代のエネルギー供給システムです。通信技術を利用した制御により、電力の需要と供給のバランスを取ることで、再生可能エネルギーの有効利用と、送電ロスの低減や電力の安定供給が図れることが期待されています。また、消費者と電源とのスマートな双方向連携(デマンドレスポンス)を実現し、省エネルギーに貢献します。 (東芝HP)
※2ショックドクトリン 米国のナオミクラインが書いた著書の名に由来して、国家的危機や大災害を背景にして、平時なら行なえないような極端な市場原理主義的改革を行なうこと。
※佐野眞一氏の名前をミスタイプしましたので、訂正いたしました。申し訳ありません。
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某社長は対馬海峡に海底ケーブルを敷設して韓国から電力を輸入するなんて話にも乗り気なようですが…
ようは原発でもなんでも結局構わない腹なんでしょ。だいたいねえ、日本以上に電力不足で安定性の無い(節電のためにバドミントン会場の空調をON・OFFしましたなんて言って赤っ恥かいたばかり)国から、わざわざ電線引っ張ってきてまで輸入しようという神経が分かりません。
まさか政府補助金で大赤字の韓国国内価格で融通してもらえるとでも?
国内に原発はいらない。だけど隣国から買う分には構わないさ!
って、隣国と陸続きの「再エネ先進国(笑)」のドイツが正にやってますね。
全くモラルを疑います。ただのカネの亡者。
投稿: 山形 | 2014年10月17日 (金) 06時49分
連投失礼します。
某自動車メーカーが、EVやPHEVを普及させ、格安な夜間電力で充電して蓄電池代わりに使い、スマートハウスと連携しつつ普及させようとの提言がありましたが…もちろん殆どと言っていいほど普及してませんね。
もし、半数を大きく越えるほどに実現すれば、スマートグリッドは必須となります(誰がカネ出すのか知らないけど)が…もしも実現しても何十年後でしょうか。100年後か。
家庭用蓄電池技術はもしかしたら10年ほどで飛躍的に進歩するかもしれませんが…
じゃ、その割安な夜間電力はどこで発電するのか?と。
常識的に考えて、最低限は原子力。変動分はLNG・・石油・石炭火力発電で調整することになりますね。
温暖化を訴える方々やメディアになら簡単に理解できそうな話なんですが、何故か反対ばかりしてる。
それこそいわゆる「ベースロード電源」としての原子力の立場は揺るぎません。
圧倒的な革新技術でもあれば別ですが。
ちなみに、ロッキードがついに夢のエネルギーと言われた核融合炉の実用化実験に入ったそうですが(もちろんまだ、うまく行くかわからないけどね)、当然トリチウムが出ますので…反原発でお騒ぎの方々は「反対!ハンターイ!」なんでしょうね。
先日の福島第一で大騒ぎされていましたから。
全く馬鹿馬鹿しい奴らです。
投稿: 山形 | 2014年10月17日 (金) 15時58分
誤変換と思いますが、「佐野眞一」さんです。
彼も昔はノンフィクションのいい作家さんだった
のですが、パクリパックンを指摘され始めてから
はダメになってしまいました。
他人を損させる事で有名な米国人ですが、アコギ
な事ばかりやってると、ついには自分が大損させ
られるハメになり、名は体を表すことになります。
投稿: アホンダラ | 2014年10月17日 (金) 21時02分
まさに火事場泥棒って表現がぴったりです。
飯田氏が真の自然エネルギーの専門家なのか分かりませんが…我田引水なので胡散臭いって勘ぐってしまいます。
アメリカのディマンドレスポンスは、脆弱な送配電網に加え、電力自由化後の弊害で発電会社が採算性の悪いピーク対応の発電設備を持ちたがらないので、需要側に強制(契約)・半強制(ピーク時の法外な料金)で節電させているだけなんですけどね…節電を呼び掛けたら協力してくれる日本とは、事情が違いますね。
あっ、でも北九州市八幡で似たようなことやってました。
大陸と海底ケーブルで送電する話も出ましたが、これはエネルギーセキュリティ上、かなり危険な気がします。
投稿: 水力人 | 2014年10月18日 (土) 20時59分
連投、失礼します。
脱原発に関しては、賛否両論ありますが、発送電分離に関しては賛成意見が大多数と思います。
しかし、発送電分離して恩恵を受けるのは、再エネ事業者だけ(あと、スマートグリッド産業にありつきたいメーカー)で、消費者は料金が上がるわ、電気の質は悪くなるわで良いとこなしです。
また、今の送配電網は地域独占・安定供給義務の条件下での最適コストで設計されているので、わざわざ再エネのために、何十兆円もかけて設備投資しなければなりません。
きっと、将来世代も恩恵を受けるとして、建設国債でやることになるのでしょう。
投稿: 水力人 | 2014年10月18日 (土) 21時30分
水力人さん。ありがとうございます。まったく同意見です。おっしゃるとおり米国の電力自由化など失敗例の典型です。
そのうちみっちり書いてみたいと思います。
日本の電力供給のほうが遥かに優秀だったにもかかわらず、なぜドイツのウルトラ失敗に終わった脱原発政策や、米国の特殊事情から開始されたいびつな自由化などをモデルにしなければならないのか、不思議な限りです。
そもそも、いままでの電力体制に対する批判が根拠あるものなのかどうかから検証せねばならないでしょう。私は水力人さんの仰せのように、最適コストで設計されている堅牢なシステムだったと思っています。
来週はいったんエボラを書きますが、この自由化、再エネなどの電力テーマは息長く追及していくつもりでおります。ぜひ、専門家のご意見を今後もよろしくお願いします。
投稿: 管理人 | 2014年10月19日 (日) 04時39分