沖縄知事選その後を考えるその2 クーデターとしての沖縄政変
今回の沖縄知事選は、他県の人には大変に分かりにくいものだったと思います。
だから本土マスコミは、極度の単純化を図ってしまいます。
その上に、「沖縄」というーマは、元々ものすごいバイアスがかかる場所だと見えて、マスコミの報道が呆れるくらい陳腐なテンプレ化をしています。
沖縄の知識人やマスコミは、総じてバリバリの戦後左翼がいまだに健在ですから、こういう図式を発信したがります。
まずは「米国に追随し横暴な政府」を悪玉に据えます。そしてそれに「戦う沖縄民衆」という善玉の抵抗者を対置します。
そして「怒れる民衆は必ず勝利する」みたいな進歩史観ときていますから、まるで勧善懲悪の時代劇みたいですね。
今回なら、ダークサイドから果敢に正義の味方にヘーンシンしたオナガ・スカイウォーカー(って歳じゃないが)、ジジィ皇帝のナカイマをやっつけるというかんじですかな。
てな具合に、昔懐かしき「抑圧者vs被抑圧者」というマルクス主義史観が、ことこの沖縄ではまだ生きているのです。
もちろんこんな薄っペラな見方で、ほんとうの沖縄が分かるはずがありません。
さて、仲井真氏の敗因は色々あると思いますが、そのひとつはやはり仲井真氏の健康状態だったことは確かです
私は彼が余りに病み、老いていたために、衝撃を感じたほどです。県民の多くが、一体今後4年の長きに渡って任せられるのかという不安を持って当然だったでしょうね。
だから、仲井真氏は、もっと若くてしたたかな後継者を立てて戦うべきでした。しかし、できなかった。そこに仲井真陣営の難しさが集約されているのです。
では、仲井真氏にとって替わるべき後継者がいたとしたら誰だったのでしょうか?それは衆目の一致するところ翁長氏以外ありえませんでした。
彼こそが、2006年に稲嶺知事の下で始まった辺野古移設現行案の沖縄側の事実上の指揮官だったからです。
仲井真氏も関わりましたが、実際の細かい各所との妥協を取り付けたのは、そのテの調整に聡い翁長氏のほうでした。
そして第2期仲井真知事の選挙責任者も彼でしたし、県連幹事長として仲井真県政の右腕を務めていたのが他ならぬ翁長氏です。
仲井真知事は晴天の霹靂のようにしてハトさんのチャブ台返しに遭遇するわけですが、彼の本土政府を相手どってのタフネゴシエーターぶりを支えたのも翁長氏でした。
というのは、2期目の仲井真氏はここで徹底した「あいまい戦術」に出ます。 そうそう、今の翁長氏の「基地反対、移設反対」も、このバリエーションと思えばいいのです。
本音を出さずに建前だけしゃべって、どんどん政府にチップを積み上げさせるんですから一緒です。
あの沖縄人には珍しいリアリストの仲井真氏が、「私は県外が望ましいと言っている」という煙幕を張りながら、民主党政権に対して「この問題を収拾しろよな」と言っていたわけです。
この車輪の両輪のような両人の関係に亀裂が生じたのは、仲井真氏が本来の主張通りの移設容認を埋め立て承認によって明らかにした時から始まります。
この時に起きた沖縄マスコミや、本土の朝日、TBSなどのネチネチとしたバッシングは凄まじいものでした。
「裏切り者」「公約違反」といった常套句が、連日沖縄マスコミの紙面を埋め尽くします。承認会見の翌日の沖タイ紙面などお見せしたいくらいのものでした。
もうあれは新聞なんて可愛いものじゃありません。実に6面を潰して仲井真批判でした。もはや反基地闘争の機関紙です。沖縄では沖タイと琉新に逆らう政治家は消されるというのがもっぱらの噂です。
ちなみに、TBS金平キャスターが仲井真氏に対して記者会見で、「お前は日本語ができるのか」とまで差別的暴言を吐いて知事を激怒させたのもこの時でした。
仲井真氏の容認路線は、仲井真県政の既定路線であったわけで、鳩山氏によるねじれを元に修正したにすぎなかっただけです。
仲井真氏は、移設承認会見を前にして過度な重圧のためか病んでいきます。75歳という高齢と脳梗塞、急性胆嚢炎という病歴は、彼がなにを背負ってきたのか、なにに対して責任を取ろうとしたのかかがわかります。
その上、本来は仲井真氏の後継として補佐し、今後の県政を担うべき翁長氏が、気がつけば仲井真氏をリンチする者たちの輪に入って、「それ吊るせ、奴をもっと高く吊るせ!」と叫んでいるのです。
吐き気のする光景でした。正義の名の下に、病み上がりの知事を連日のように県議会に呼びつけて糾弾するのが続くのですから。まさにリンチ。
ほんらい知事をガードすべき与党まで当時は寝返りました。
というのは、当時自民沖縄県連や国会議員までが、心情的な「県外移設」という空気に耐えきれなかったからです。
新風会という翁長党の市会議員は当時を、「自民党というだけで悪玉扱いだった」と回顧しています。
これでは迫って来る名護市長選に勝てるはずがないということで、当時の自民党幹事長の石破氏が東京に彼らを呼びつけてネジを巻き直すほどでした。
これで、県連と国会議員団は仲井真与党の立場に戻ったのですが、背いた者たちがいました。それが翁長とその徒党である那覇市議会議員団の「新風会」です。
翁長氏は移設反対kために新風会の市議会議員を大量に名護現地に送っただけではなく、名護市長選には子飼いの新風会り込み、社民党、共産党と一緒に末松票の切り崩しを図ることまでしてのけました。
地方選挙はえてして泥臭いものですが、敵対陣営のトップがひそかに寝返って自陣を切り崩すなどというのは聞いたことがない醜聞です。
ここで石破幹事長は翁長氏を除名処分にして、県連の体制を刷新すべきでした。しかしそれができないというのが、あの顔だけ強面のご仁の脆さでした。
思い出して下さい。翁長氏はいわば仲井真内閣の官房長官なんですよ。いままで辺野古移設を誰よりも推進してきた当事者中の当事者、現場指揮官です。
その彼が、仲井真氏を移設承認で指弾するなら、その言葉の矢はそのまま翁長氏に突き刺さるはずではないですか。
もし本気で移設反対を唱えるなら、それもけっこうです。多くの沖縄の自民党議員も心情的にはそうなんですから。
ただ、いつまでもこの泥沼をやっていてはいけない、どこかで終わりにせねば、という仲井真氏と本土政府の呼吸が合った「時の時」(決断の時)を大事にしなければ、ということで折れたのです。
もし、翁長氏がここで革新と一緒になって移設反対を唱えるなら、いままで自分がしてきたことを全部否定することになるわけで、そのことに対しての反省の弁から始めるべきではないかと誰でも思います。
ところが翁長氏は、そのような反省の弁などただのひと言とも言わず、悪いのはひたすら仲井真にしてしまっているから卑劣なのです。
翁長氏の言行録を読むと、こんなことを言っています。(朝日新聞インタビュー12年11月24日)http://www.geocities.jp/oohira181/onaga_okinawa.htm
「振興策を利益誘導だというなら、お互い覚悟を決めましょうよ。沖縄に経済援助なんかいらない。税制の優遇措置もなくしてください。そのかわり、基地は返してください。国土の面積0.6%の沖縄で在日米軍基地の74%を引き受ける必要は、さらさらない。いったい沖縄が日本に甘えているんですか。それとも日本が沖縄に甘えているんですか」
これを読んで私は、いい気なもんだと思いました。「基地はいらない。振興予算もいらない」とですって。どの口がってなもんですよ。
翁長氏がしてきたことは、一貫して基地を交渉材料にして、いかに本土政府を自動現金支払機にするかという駆け引きではなかったのですか。
那覇市長としてやった実績で、那覇軍港移設に伴う港湾整備や、那覇空港拡張といった大規模工事は誰が予算を出したのでしょうか。
自慢にしている首里正殿の復旧すら全部本土政府がやったことじゃありませんか。
今度の翁長氏の公約にすら、振興予算がなければそもそもありえない項目が目白押しです。
もし翁長氏が本気で「基地はいらない。金もいらない」と言うなら、政府予算をアテにしたような選挙公約自体を全部白紙にして、自立した経済はなんなのかを真剣に議論すべきでした。
もちろん、翁長氏のバックについているのが建設業大手の金秀の呉屋氏な以上、そんなことはできるはずもないのはわかりきったことです。
つまりは今回起きた政変は、「反基地の民衆の勝利」ではなく、ただの利権の移動のためのクーデター劇にすぎなかったのです。
そしてこのような人物を革新統一候補としてしまった沖縄革新は死期を早めたと思うわけです。
さてさて、年末に迫る来年度予算は、かつて仲井真氏と安倍首相の約束で一括交付されることになっていましたが、「基地はいらない。カネもいらない」という主張どおり突き返してほしいものです。
まぁ政府のほうも、共産党まで入れた翁長「政権」に対して一括交付などという優遇策をする必要は、もはやいささかもないわけですからね。
また、市長自体から翁長氏が入れ込んできた那覇空港拡張計画に、軍民共用だからと反対している共産党とどう折り合いをつけるのか、お手並み拝見です。
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コメント
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まさにそこですよ。
明らかに身体の悪そうな仲井間さん、後継者を育てていなかったのが失敗かと思いましたが、
翁長新知事こそが、その黄金ルートだったのに。正に内部クーデター(そこでやるか?バックの団体に踊らされすぎでは…)。
さて、どうするんでしょうねえ。
のらりくらりと、口では「反対」だと言いながらも辺野古への移設を粛々と進めてカネをせびるのか?
はたまた自ら進めた那覇拡張をエスカレートさせて、滑走路4本と付帯施設受け入れにするなんて案を出して来たら面白いですが(ハナから共産党は無視して、すでに破壊しまくってる西海岸ならナンボ埋め立ててもOKなのか)。
もし、それならそれで尊敬しますが。
TBS報道特集の金平キャスター。日曜夕方の中継先が沖タイのバルコニーだったり、
昨夜のテレ朝の古舘の辺野古レポートとか…
笑っちまいました。
あいつら、何がしたいんだか。
投稿: 山形 | 2014年11月18日 (火) 14時21分
私も昨夜の報ステをたまたま観ておりました。
インタビューの中で翁長氏が「それはいつもの日本政府のやり方ですから・・・」
という旨の発言を聞き、あれっどこかで聞いたようなセリフだぞと思ったのです。
あれこれ思い巡らしてやっと答えが出ました。
民主党政権時代の名護市長稲嶺氏の発言とそっくりだと言うことをです。
質問の内容は失念しましたが、
その際、稲嶺市長は「日本政府の常套手段ですから」
と吐き捨てるように言ったのです。
正直、私は耳を疑いました。
とても一地方自治体の長の発言ではありません。
翁長、稲嶺お二人とも
沖縄が日本の一部だとは考えておられないとしか思えませんね。
以前ケヴィン・メア氏の発言が取り沙汰されたことがありましたが、
当たらずといえども遠からずの感が有ります。
投稿: 右翼も左翼も大嫌い | 2014年11月18日 (火) 19時59分
このブログを始めて拝見した者です。
いやはや、とても説得力があり
心に新しい風が吹いた、そんな気がします。
しかし、あなたの2013年12月26日の記事を見てみると、あなたの主張が分からなくなりました。私がこういう話題に疎いのもあるかもしれませんが。。
回答願います。
投稿: 沖縄県民 | 2014年11月20日 (木) 11時29分
沖縄県人様。コメントありがとうございます。
私もなにを書いたのか覚えていなくて、検索すると地球寒冷化についてですね。なにかと思った(笑)。
北極で海氷は拡大傾向にあったり、世界の海水のポンプといわれているグリーンランド沖の海水温の低下などが観測されています。
温暖化現象があるのはたしかです。しかし、それが長期に続くトレンドなのか、あるいは短期敵な現象に終わって、中長期的には寒冷化になるのか、完全な回答はないのです。
いずれにせよ取るべき対策はどちらに転んでも、エネルギー危機が想定されますから,省エネ社会の実現とエネルギー源の多極化が必要になります。
投稿: 管理人 | 2014年11月20日 (木) 13時47分