辺野古現場の茶番劇
この普天間問題にも関わった小川和久さんが、こんな意味のことを書いていたことを思い出します。
「普天間移設は国策であって、そうではない。それは国が本気になっていないからだ」
彼のほうが私より7ツほど歳上ですが、共通するのは、70年安保闘争前後にあった成田闘争の流血を自分の目で見ていることです。
国が本気で国策遂行上必須な案件と覚悟した場合、「国家権力」の全体重を乗せて強権発動します。
成田の場合、頑として土地を売ることを拒む農民たちがいたわけですが、土地収用を空港空港公団に替わって県が行い、国が前面に警視庁機動隊を押し立てての代執行で、文字通り反対派を物理的に排除しました。
私はこのような暴力的方法を肯定する気はいささかもありませんが、それにつけても、なんと辺野古ののどかなことよ。もう17年もなんだかんだで足踏みしたままです。
これは解決の緊急性がないと政治家が思っていたために、泥をかぶる覚悟をもった政治家が現れなかったためです。
移転場所を調査する仕事を与えられた官僚たちは、問題を先送りするだけで責任を取ろうとしませんでした。
国策がらみの巨額の予算を握った本土政治家たちは(その多くが旧経世会系でしたが)現地に飛び、県の政治家たちを懐柔しつつ、利権を貪りました。
小沢一郎氏の別荘が、キャンプハンセンの隣にあるのは偶然ではありません。
たとえばその時出来た人脈が、野中広務元幹事長と翁長新知事のコネクションだったり、沖縄自民党政治家と額賀福志郎氏との関係だったりします。
それはさておき、ようやくこの17年間の泥沼に終止符を打つ覚悟をした仲井真知事が登場しましたが、沖縄マスコミから袋叩きに合うようにして退陣をよぎなくされ、再びまったくの不透明になっています。
そしてもうひとつの遅滞の理由は、たびたび書いてきていますが、辺野古がよしんばダメになっても、「現住所」の普天間がそのまま温存されるからです。
この「普天間固定化」という安全弁があるために、沖縄県民を反米に追いやることがないように、ガラス細工を組み立てるように進められました。
さて沖縄の新聞だけ読むと、再び「銃剣とブルドーザー」で押し進めているような錯覚を受けますが、政府がもっとも恐れているのは流血の事態です。
移設事業の中で、もし血が流されれるようなことがあれば、県民は激昂し、その怒りは県の頭越しに国と米軍に直接ぶつけられるでしょう。
それが政府と米国がもっとも重視する、「基地を取り巻く環境の安定」を揺るがすことが目に見えているからです。
ですから、政府は、この辺野古の移設作業において、ぜったいに流血の事態を避けたいと考えているのは当然のことです。
流血事件が起きれば、県警警備部長の首ひとつでは済まず、本部長すらどこか遥か彼方に左遷されてしまうことでしょう。
そのように考えると、現時点で政府と反対派が辺野古現地をはさんで、無言の阿吽の駆け引きをしている状態といっていいでしょう。いわば「相手の失点待ち」ということです。
基地反対派は、移設を阻止したという成果を得て、その上に普天間基地をこのまま反米闘争の対象として据え続けられることがベストだと考えています。
一方政府側は、これ以上の騒ぎを望まず、移設はもはや僥倖、翁長知事などの反対でダメな場合、「沖縄県民の了解を得られなかった」として、静かに辺野古移設をフェードさせて、普天間固定化にチャンネルを替えたいと考えています。
その政府が、「殺人鉄板」をキャンプ・シュアブの入り口に敷きつめて、その上に反対派の人達を引きずっているというので、琉球新報が「警官が殺人鉄板で暴行」と報じています。
現物の写真はこれです。
これは、普通の工事現場によく使われる工事用敷鉄板ですが、これが琉球新報にかかると、こんなグロテスクなものに変貌してしまいます。
「鉄板の設置は市民に危害を加える行為に他ならない。現場を訪れた弁護士は「鉄板の上で取り締まりがあれば必ずけが人が出る。殺人罪、少なくとも傷害罪の未必の故意になる」と明確に指摘している」
これが「殺人罪の未必の故意」に相当するなら、全国の工事現場責任者は打ち揃って殺人教唆ですな(苦笑)。もうバカバカしくて論評する気にもなりません。
そして、こんな警官の「暴行凌辱事件」も発生したそうです。
見出しからイっちゃってます。「抗議活動の女性、救急搬送される 県警の排除」、ときたもんだ。
ゲッ、恐れていた流血騒ぎがとうとう起きたのかと思ってよく読めば。こんな「事件」です。
「目撃したカメラマンの豊里友行さん(38)によると、島袋さんは基地内に入ろうとするダンプカーのミラーをつかんで阻止しようとしたが、機動隊員に手をはずされ、その拍子に転倒した。
強制排除で自身も手を負傷したアルバイトの女性(31)は「おばあを守るべき警察は、島袋さんが倒れているのに写真を撮っていた。本当にひどい」と悔し涙を流した。
現場に駆け付けた三宅俊司弁護士は「被害者本人から話を聞き特別公務員暴行陵虐罪で告訴したい。この責任は取らせる」と話した」
「後頭部を強打した女性は、名護市の県立北部病院に運ばれた。女性は基地建設に関わるとみられる工事車両を止めようと、車両の一部にしがみついていた。警察官4、5人が囲み、引き剥がしたところ転倒したとみられる。
県警警備2課は、女性が転倒し救急車搬送された件について「警察官によって転倒したという事実はない」とした」(琉球新報11月21日)
※http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-234816-storytopic-1.html
反対派の三宅俊司弁護士を特別公務員暴行陵虐罪(←すごいネーミング)で告訴するそうです。この弁護士もそうとうにいっちゃってますね。
なんのことはないその事件とは、83歳の反対派の老女がこともあろうにダンプのミラーにしがみついたそうです。そのまま放置すれば、力尽きて落下し、ダンプの車輪に巻き込まれて死亡したかもしれません。
それを見ていた警官が慌ててそれを引き離したわけですが、その時に地面にぶつかって怪我をしました、フツーはよかったねぇ助かってチャンチャン、というだけの事件です。
なんのことはない、警官が人命救助しただけじゃないかぁぁ(棒読み)。
常識新報(仮名)ならばこう書くでしょう。まずは見出しから、「お手柄警官、老人を救助」。
「辺野古工事現場入り口で警備に当たっていた県警警察官A巡査(28)は、基地内に入ろうとするダンプカーのミラーステーに飛びついた反対派のSさん(83)を発見し、決死の救助をした。その際にSさんは軽い怪我を負ったが、無事な様子に周囲も胸をなでおろした。お手柄警官のAさんは『ただ任務を遂行しただけです』と少し照れくさそうだった。A巡査には県警本部長から表彰が贈られる予定」(常識新報11月21日)
もし走るダンプに飛びつくお年寄りを助けると特別公務員暴行なんじゃら罪になるなら、警官などやってられるかい、ってなもんでしょう。
こういう琉球新報のような記事を、為にする歪曲報道と呼びます。報道の客観性を初めから投げ捨てて、ことあれかしと考える反対派の立場に立って報じているのです。
新聞が主張を持つことは必要ですが、その立場からあらかじめ歪曲して報道してはならない、というのが朝日新聞歴史的大誤報事件の教訓だったはずですが、いまだ沖縄の地には届いていないようです。
新聞が事件を自分から作ってしまうという、朝日新聞の伝統芸が、この沖縄の地にも脈々と息づいていると思うと胸が熱くなります。
そもそもこの阻止行動の現場には責任者は何をしていたんですか。県警に逆キレする前に、どうして83歳の老人がダンプに飛び込むのを事前に止めなかったのでしょうか。
これでは体に爆薬を結びつけて目的を達成しようとする、イスラム過激派の自爆攻撃となんら変わりがありません。
目的さえ正しければ何をしてもかまわない。目の前で老人がダンプに飛び込もうと気にしない。むしろそれを英雄視し、奨励しさえする。
うまくすればこれで流血騒ぎになって一気に「国家権力」を追い詰められる、とほくそ笑んでいるのだったら、このような考え方を政治的利用主義と呼びます。
これで彼女が死亡したりすれば、おそらく彼女を英雄的犠牲者にでも祭り上げて、「虐殺抗議集会」でも全国動員で開いて、「安倍が殺した。工事を全面中止せよ!」と叫ぶ筋書きだったのでしょう。
平和や人権を唱えながら、やることは人の命を政治利用しているだけじゃないですか。恥を知りなさい。
確かにこの反対派老婆が死にでもしたら、ご希望どおりに沖縄の世論は沸騰し、移設工事は完全に座礁の乗り上ったことでしょう。
そして、普天間固定化の時計の針がまたひとつ進むというだけです。
普天間から出て行きたくない米軍の皮肉な笑いが聞こえてきそうです。
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コメント
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琉球新報…もう、すごすぎて(笑)。ネタの宝庫。
重量物搬送(ダンプ道)工事用敷き板が拷問・殺人用具なのか?まさか、「反対派限定で飛びかかるハイテク装備」だとでも?
鉄板が無くて砂利道やアスファルトやコンクリートだったら、この人権派弁護士さんも納得するんですかねぇ?
むしろ鉄板敷きのほうが頭打っても少しは安全だと思いますが…。
弁護士(こういった手合いは、私は便所虫と呼んでますが)さん。
「特別公務員暴行陵虐罪」や「未必の故意」の意味も知らないとは…。インテリバカの極みですな。
で、集まった反対派は何をやってたの?と。
多数いた警官が現場写真を撮影なんて当たり前のことだし、おばあを助けた警官こそよほど人権的でしょうに。
まさに、とんだ茶番劇ですな。
投稿: 山形 | 2014年11月28日 (金) 08時25分
まるで関連がないけど読んでる内に、蘆溝橋事件~日中~大東亜戦争の流れを思い出しました
あの事件は劉少奇が中国共産党の仕掛けで自分が実行したと暴露して明らかになってますが(お陰で当時戦犯として巣鴨プリズンに拘置中の河辺大将{当時師団長}、牟田口中将{当時北京市に本部のあった歩兵第一連隊長}は、理由も告げられずに釈放されました)沖縄問題でも中国共産党の影が感じられ、ため息つく思いです
外交安全保障、イデオロギー、利権、歴史やらなんやら色々からみすぎてまさにカオス
投稿: Q州 | 2014年11月30日 (日) 08時17分
Q州さん。面白い比較ですね。私も似たものをかんじています。
このキャンプシュワブゲート前はおっしゃるような意味で「蘆溝橋」のようなものがあります。
ここで流血の事態になった場合、琉球新報や反基地勢力は、「最初の一発は権力が撃った」と主張するでしょう。そして、「安倍が殺した!移設即時中止!」を叫びます。
政府は普天間にシフトせざるを得ませんが、今度は普天間ゲート前でも同様の流血の時短が繰り広げられたとします。
それに翁長「政権」が便乗し、沖縄住民投票で、「全米軍基地の撤去」「高度の自治権を寄越せ」と呼びかけるかもしれません。
そうなった場合、見事に中華帝国の描いた絵図どおりになるわけです。
ですから、この「最初の一発」を撃たせたくて仕方がない勢力がいるということです。
投稿: 管理人 | 2014年11月30日 (日) 09時07分
随分前の記事に対してコメントですが、辺野古出身の者になります。
私が子供の頃は名護市になったばかりでその他名護市民(特に中心地の西海岸側)は誰もが辺野古のある久辺地区を名護市と言う認識さえ持たず1度も足を運んだことの無い僻地とバカにしていたものです。それが、今や皆が揃って we love Henoko.なんてステッカーまで作る始末。辺野古や久辺地区の住民の声の様に抗議運動や座り込みにバスを貸し切りやってきています。本当の住民は名護市民に対し人工割合が少なく市長選にさえ反映されません。市民投票も同様です。
辺野古の海に対して環境汚染を訴える記事が多々見られますが、私が小さな頃に下水道が僻地のために行き渡らず確か昭和50年頃には生活排水を直接海に流したために泳げた海が遊泳禁止となり現在に至ります。その様な事実は一切記事にもせずに海外からさえ専門家が調査をし都合の良い内容だけ媒体が伝える。そもそも辺野古には長い間広大な基地が存在し住民は互いに助け合い共存して来たのにも拘わらず他人の敷地に土足で入り込み暴れまくって 新基地を作るな!と訴えています。辺野古に来たことも無い人間からすると新たな基地が又作られるような風に聞こえるマジック用語にも感じます。マスメディアが作り上げた世界が今の変貌した辺野古 その迷惑極まりない状況を作り上げているマスコミ、政治家、名ばかりの市民運動家の皆さんに責任を問える日は来るのでしょうか?辺野古住民の声を本当に聞いて下さる人は今何処にもいないのが辺野古の現実皆さんは自分の故郷が同じようになった時どう感じるのでしょうか?
投稿: 地元の声 | 2015年3月16日 (月) 22時59分
地元の声様。まったく同意します。私もかつての名護市民として、マスコミが描くような「県民総ぐるみで基地と戦う」という記事には疑問をもってきました。
本土までほんとうの地元の声はまったく遮断されています。聞こえるのは、南部の「平和センター」(なにが平和だか)の山城某たちや、さらにひといのはは県外から暇潰しに来た引退した日教組や官公労の老害の声ばかりです。
これが堂々と「地元市民の声」で紹介される始末です。
あなたのの声は大変に貴重なので、折を見て記事にさせていただきます。ほんとうにありがとうございました。
投稿: 管理人 | 2015年3月17日 (火) 01時49分
管理人さんへ
突然の私のコメントに対し返信まで頂き感謝いたします。偶然出逢えたこちらの記事に地元2社の偏った記事しか載せない新聞より遥かに真実を感じ読んでいた昨晩でした。これから過去記事を含め拝見させて頂きたいのでどうぞ宜しくお願い致します。私が辺野古の出身であるが故に基地問題について話す機会が度々あった付き合いをしていたイデオロギーの全く無い政治家さん達のここ数年間豹変振り(特に那覇市議さん達)欲だけで知事になった方を後追いする議員は更に欲深く底知らず海水をガブガブ飲む人間を感じています。 沖縄県民であることを恥ずかしく感じてしまう程です。スミマセン又長々と書いてしまいました。これからも投稿記事を楽しみに拝見させて頂きます。
投稿: 地元の声 | 2015年3月17日 (火) 09時31分