特定秘密保護法が正式に施行されました。朝日新聞は、赤旗翻る集会の写真と共に、こんなお約束の記事を出しています。
「政府諮問会議のメンバーとして秘密法の運用基準づくりに関わった清水勉弁護士(61)は四谷で集会を開催。秘密法で特定秘密に指定できる4分野のうち、警察が扱うスパイ活動の防止とテロ防止の2分野には、定義が拡大解釈される危険性があるとして反対する立場から、「市民生活が警察の監視対象になりかねない」との懸念を表明した」(朝日新聞2014年12月7日)
この記事のタイトルは、「抗議の継続が抑止に」だそうです。
しかしあいにく、私は、この特定秘密法で、もっともしゃーない役割を果たしたのが朝日新聞だと考えています。
朝日は当時の紙面ではこんなことを書いています。もはや世界記憶遺産に登録申請したいようなシロモノですな。
「防衛産業で働くB男がA子と大学の同窓会で再会した。酔ったB男は『あまり知られていない話だけど』といって、数年前に北朝鮮が発射したミサイルが途中で失速して海に落ちたが、『もし失速していなかったらこの辺に落ちていたかも』という情報を暴露。
A子がブログで書き込み、ある防衛マニアかミサイルの飛ぶコースを推測してネットで拡散した。翌月、捜査機関が二人を訪ねて来た。B男は業務で知った秘密を漏らした疑い、A子は漏洩をそそのかした疑いだった」 (2013年12月6日)
この記事のキモはむしろイラストにあって、そこには思わせぶりに「有罪!」という字がデカデカと踊っているのですから、さぁお立ち会い!
もちろん、本文には「逮捕される」も、ましてや「有罪」もありません。これが味噌です。ただ「捜査機関が訪れた」と記してあって寸止めです。
こういう書き方は朝日の十八番で、『プロメテウスの罠』でよく使われました。たとえば、有名な町田の主婦の子供が鼻血を出した件などはこういう書き方をしています。
「有馬理恵(39)のケース。6歳になる男の子が原発事故後、様子がおかしい。4カ月の間に鼻血が10回以上出た。30分近くも止まらず、シーツが真っ赤になった。(中略)
原発事故後、子どもたちの体調に明らかな変化はありませんか」。すると5時間後、有馬のもとに43の事例が届いた。いずれも、鼻血や下痢、口内炎などを訴えていた。(中略)
こうした症状が原発事故と関係があるかどうかは不明だ。首都圏で内部被曝というのは心配しすぎではないかという声もある。しかし、母親たちの不安感は相当に深刻だ。たとえば埼玉県東松山市のある母親グループのメンバーは、各自がそれぞれ線量計を持ち歩いている」(朝日新聞2011年12月2日)
まず、衝撃的な子供が放射能の影響で鼻血という事例をぶつけて読者をひれ伏させます。
ちなみに、この有森氏という女性はただの主婦ではなく、共産党系の女優で、集団的自衛権反対演劇などをしている人です。
それはさておき、記事はショックで思考停止にした後に、放射能の恐怖でお母さんたちがパニックになっている、東京都下まで放射能被害が及んでいる、子供がバタバタ倒れているという「印象」を植えつけます。全部ただの「印象」です。
具体的病名も提示されなければ、医師の所見も「心理的なもんでしょうね」ていどのあいまいなものです。
あのね、朝日さん、子供は年中鼻血くらい出すの。首都圏で募れば43件くらい簡単に集まるの。これはこのブログで徹底的に書いたことだけど、仮に放射能と鼻血が関連があるなら一時に高線量を浴びた急性被曝だけなの。
しかし、これでいいのです。この記事の目的は恐怖を植えつけることだからです。
もちろん、朝日の記者自身もそれがありえないことを医師から取材しているはずで、ちゃんとエクスキューズを紛れ込ましています。
記事中には巧みに、「関係があるかどうかは不明だ」、あるいは「心配しすぎではないか」と批判を受けた場合の逃げ道を作って、後から「あれはそのような人が出たという客観報道にすぎません」と逃げられるように作ってあります。
悪い意味での「プロの仕事」なのです。実に悪質です。どうしてこんな飛ばし記事が新聞協会賞なんかに選ばれるのでしょか。(←協会会長は朝日新聞社長でしたけど)
もちろん事故から9か月しかたたない当時の状況で、大新聞にこのような書き方をされたら、そのまま読者は「放射能の影響で子供を中心に健康被害がとんどん拡がっている。大変だ!子供を守れ!」という反応につながっていったわけです。
実際、朝日の思惑通りにこの『プロメテウスの罠』を中心にした主婦のサークルが多数誕生し、反原発運動に加わっていくことになります。
どうもこれが、朝日の成功イメージになってしまったようです。この特定秘密法の記事においても、それが繰り返されました。
この記事は、よほどインパクトがあったとみえて、共産党系市民団体などのチラシにも内容を少し替えて使い回されました。
それどころかこの朝日の記事をネタにして、共産党系市民団体などは尾ひれ、背ビレ、腹ビレまでをどんどんと着けるありさまでした。
「原発事故の情報をツイッターしたら、特定秘密法違反で逮捕」「米軍機を撮影したらタイホ」なんていう電波バージョンまで登場しました。
まぁ共産党は、れっきとした左翼運動団体でプロパガンダがお仕事ですから、とりあえずいいとしましょう。
しかし、こんな思わせぶりな煽り記事がメディアに許されるのなら、もうなんでも書けちゃいます。たとえばこんなのはいかがでしょうか。
「朝日新聞に勤めるB男がA子と大学の同窓会で再会した。酔ったB男は『あまり知られていない話だけど』といって、半世紀前から続いている朝日新聞の南京大虐殺報道は、『社長の特命を帯びて中国に渡ったホンダ記者が、中国共産党の用意した偽装証人の言うのを鵜呑みして書いただけなんだ。その証拠に人民日報の日本支社はウチの本社の中にあるんだよ」という情報を暴露。
A子がブログでそれを内部告発としてネットで拡散した。翌月捜査機関が、二人を訪ねてきた。B男は業務で知った秘密を漏らした疑い、A子は漏洩をそそのかした疑いだった」(朝目新聞12月6日)
そしてこの記事のイラストには、デカデカと「朝日新聞はやっぱり中国のスパイ!」と書いてありましたとサ、チャンチャン。 (←ホンダ記者うんぬんはホントですが、スパイは飛躍です)
ああ、アホくそーて。やってられませんわいな(←なぜか大阪弁)。
そして、とうとう文化人団体や映画監督までもが、「言論統制を許さない」と声明を出す始末です。新劇のベテラン女優はこう朝日の記事で涙ながらに訴えました。
「私の10代のほとんどは軍国主義の中で育てられました。爆撃を受けて多くの友人を亡くしました。治安維持法で特高に身柄を持っていかれ、死んだ親類がいます。病院で亡くなる直前に会った姿が忘れられません。
特定秘密法で最初に頭をよぎったのは特高警察でした。いま、文化人の端くれにいますが、劇場でしゃべったせりふで警官が「中止」と言うようになったら、やりたい芝居もできないじゃないですか」(朝日新聞2013年12月23日)
諸君、拍手を!こりゃ喜劇だ。ただしちっとも可笑しくないけど。
奈良岡さん、大丈夫でしょうか。あなた、それは100%妄想ですよ。ちゃんと法律の条文を読んでしゃべっていますか。
もちろん朝日新聞は、ニューズウィークが指摘するように、この法案が「スパイ目的や不正目的ではなく、さらに脅しなどの違法行為を行わず特定秘密を知った一般市民が罪に問われることがない」(2013年12月24日号)ことを知っています。
知らなかったら、あの記事で「有罪」という結論部分まで書いているはずですし、知っていたからこそ本文では書かず、イラストに「語らせる」という姑息な逃げを打ったのです。
このようなマスコミの手口を印象報道といいます。
この特定秘密法の法対象は、官僚と取り扱い業者がです。一般人は法の対象外なことは自明で、もし一般人も取り締まり対象になるのなら、朝日はそのように書いているはずです。
書きたくても書けなかったのです。だって、そもそもそんな条文なんか一行もないんだもーん。(棒読みで)
特定秘密保護法は、機密保持取り扱者が対象で、報道機関や一般人が含まれないことは第22条に明記されています。
もし、当時議論を深めようとするなら、条文の「教唆」がの範囲を定義すべきでした。
情報の漏洩の「教唆」を拡大解釈すれば、一般人まで引っかけることが可能なのかということについて、議論すべきでした。
これまで官庁や自衛隊法には既に機密指定条項がありましたが、この特定秘密法は当該の公務員や業者以外に「秘密を知り得る政治家や出入り業者」まで法の対象になることです。
ですから、この法案が提出された時に議論すべきだったのは、「憲兵が演劇を弾圧する時代が来る」などといったヨタ話で議論を拡散させることではなく、問題を絞り込んで拡大解釈の歯止めを作ることでした。
ニューズウィークは、日本のマスメディアが「特定」という用語的意味をまったく報道されていないと評しています。
たとえば、東京新聞が社説で、「7項目の例外が設けられていて、『政令で定める重要な情報』という曖昧な言葉が挿入されている。これでは半永久的に国民から重要情報が遮断されてしまう」と述べたことに対してこう述べています。
「これだけ読むと確かに法律が悪用されかねない抜け穴があるように思える。しかしこの社説は条文の肝心な部分をなぜか伝えていない。」(同号)
特定秘密法には対象が同法4条に定めてあります。
・武器、弾薬、航空機その他防衛の用に供するもの
・外国政府、国際機関との交渉
・情報収集活動の手法・能力
・人的情報源
・暗号
・外国政府・国際機関から、60年を越えて提供された情報
これらはニュースウィーク誌がいうように、「いずれもまともな安全保障感覚を持つ国であれば決して公にしない情報だろう」。
そのとおりで、特定秘密保護法に類似する法律は欧米主要国はすべてもっています。今まで持っていなかった主要国は、世界で日本ただ一国だけだっただけです。
これらは法の別表にあるように細かく定義されています。
現在、指定案件は約40万件にのぼるそうです。
「政府は10日、特定秘密保護法施行に伴い、運用状況を指揮・監督する事務次官級の「内閣保全監視委員会」など監視機関の体制を整えた。監視委は運用開始直後の状況を把握するため、12月末までに指定した特定秘密の件数を集約。最終的には40万件を超えるとみられている。各行政機関は特定秘密を扱う公務員らの漏えい防止が目的の「適性評価」と呼ばれる身辺調査を開始するなど、特定秘密の指定に向けた作業を本格化させる。監視機関では、審議官級の「独立公文書管理監」ポストも新設。就任した検事の佐藤隆文氏の下には、補佐組織の「情報保全監察室」を10日付で内閣府に設置した」((共同12月10日)
これを見て議論するならともかく、朝日新聞がまき散らしたプロパガンダによって、真に議論されるべき論点がスルーされてしまいました。
たとえば、米国であったような9.11同時多発テロ以降の人権侵害や、盗聴などが行なわれることがないか、その歯止めは何なのかといった議論の深化もありませんでした。
つまり、特定秘密法の議論の始まりから焦点を大きくずらすことで議論の深まりを妨害したのは、他ならぬ「軍国主義者・アベ」でもなんでもなく、この朝日新聞です。
朝日新聞さん、あなた方はどうしていつもこうなのでしょうか。この数年ズッとこの調子です。
物事を歪めて大げさに喚けば国民は仰天して、朝日の論調に従って踊る、そういうアナログな盲信が、骨の髄までしみ込んでいるのです。
それはネットがなかった時代までのこと。今は、自由に多くの情報をネットから得られ、意見を上げて、議論が可能です。朝日が全盛期だった頃の一方通行の情報の注入は不可能なのです。
原発事故があれば放射能で鼻血が出たと『プロメテウスの罠』で書き立て、特定秘密法が出れば言論統制であるかのように叫び、集団的自衛権では徴兵制が復活だとまで煽りました。
ものの見事にピンポケです。自民党からすれば、こんなに焦点ハズしまくった批判など痛くも痒くもないでしょう。むしろありがたいくらいです。
「日本最高のクォリティペーパー」が判断能力を失って、駅頭で配られる共産党のアジビラ以下に成り下がったのですから。
そして、今回の総選挙は「争点ない」無駄遣いだと嘆いてみせることで、消費増税の問題を隠蔽しようとしました。
すると皮肉にも、昨日の朝日にはこんな記事が乗っていました。
「衆院選に関連するとみられるツイッター上の投稿約350万件のうち、安倍晋三首相が争点に掲げる「経済政策・アベノミクス」「消費増税」に関する投稿が3割を超えることが朝日新聞社の分析でわかった」(朝日新聞12月10日)
多くの有権者は、これが消費増税が焦点であることにとっくに気がついています。朝日さん、もうあなたの新聞の「魔法」は無効にされているのです。もういかげん、まともな議論をする気になりませんか。
朝日の傲慢さに、多くの国民が、なかでも若い世代はうんざりしているのですよ。
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