中国におもねった無残な結果
2010年9月、民主党菅政権は、ある意味自民党時代からの伝統芸である、中国におもねることで、尖閣漁船衝突事件を収拾しようとしました。
なんと、海保の衝突映像記録という決定的証拠を、国が命じて隠匿させてしまったのです。
主権国家、あるいは法治国家としてあってはならないことですが、ではこれで中国の怒りは治まり、侵犯行為を控えるようになったでしょうか。
笑えることには、日中関係はまったく逆の道を辿ります。
(図 中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵犯数 月別)
上図は、外務省HPの中国公船の尖閣水域及び接続海域への侵入数ですが、2010年9月の漁船衝突事件直後と、2012年9月を境にして侵犯が激増しています。これは野田政権の突然の尖閣国有化があったためです。
これについて外務省はこう述べています。
「2010年9月7日の尖閣諸島周辺の我が国領海内での中国漁船衝突事件以降は、中国公船が従 来以上の頻度で尖閣諸島周辺海域を航行するようになり、2011年8月に2隻、2012年3月に1 隻、同年7月に4隻による尖閣諸島周辺の我が国領海への侵入事案が発生した」
「2012年9月11日に我が国が尖閣諸島のうち3島(魚釣島・北小島・南小島)の民法上の所有権を、民間人から国に移したことを口実として、同月14日以降、中国公船が荒天の日を除きほぼ毎日接続水域に入域するようになり、さらに、毎月おおむね5回程度の頻度で領海侵入を繰 り返すようになっている」
同じ民主党政権でありながら、菅内閣の宥和政策と野田政権の国有化政策がジグザクで展開された結果、日中関係はみるも無残な破局状態になったわけです。
国有化政策は、それ自体はひとつの政策的選択肢であったのはたしかでしょうが、野田政権は、石原都知事が都の所有するということを聞いてうろたえ、「尖閣諸島で何もやらせない」ためだけに国有化したのでした。
戦略性ゼロで、中国と波風を立てたくないの一心ですから、菅政権と根本的には同じ発想です。
ですから政府の対応は泥縄そのもので、中国の反応すら予測していないお粗末さでした。
結果、この直後に起きた中国全土を覆う反日運動に口実を提供しただけに終わりました。
ちなみに先の衆院選で、民主党は日中関係の悪化の原因を安倍政権の右傾化路線にあるなどと言っていましたが、自らの政権が原因を作ったことは都合よく忘れてしまったようです。
同じく中国は公船、漁船だけではなく、空軍機の侵犯も激増させています。(外務省HP)
(図 中国機に対する緊急発進回数)
この中国機の侵犯は、尖閣領域だけではなく、挑発的にも爆撃機を沖縄本島と宮古島の中間を通過させるといった危機的事態にまで発展しています。 (図 2013年9月 H-6爆撃機の航跡)
(写真 侵犯したH-6爆撃機 航空自衛隊撮影)
さらに、2013年11月23日には、防空識別圏(ADIZ)を、尖閣諸島上空に被せるようにして設定しました。
この防空識別圏(ADIZ)を作っても、現実には中国のレーダー監視は尖閣諸島まで及ばないことは知られており、政治的パーフォーマンスにすぎません。
ではこの国際ルールを屁とも思わない、中国のパーフォーマンスの目的はなんなのでしょうか。
まず第1に、直接的にはこれによって、「中国とは領土紛争はない」とする日本の見解に対して、領土紛争があることを国際的にアピールしたかったと思われます。
これはこの防空識別圏に韓国が実効支配する離於島を含んでいることからも分かります。
第2に、中国が設定した防空識別圏は非常ににぎやかな空域です。旅客機の航空路が通り、日米の軍用機の訓練空域も重なっています。
また訓練だけではなく、米軍や自衛隊による情報収集のための飛行も頻繁に行なわれている空域です。
これら日米の軍用機の接近を牽制し、やがては実力で阻止してやるゾという意志を現しています。
少し説明しておきましょう。
中国は根本的に「領空」と「防空識別圏」をゴッチャにしています。
中国は、他国の航空機が防空識別圏に侵入すれば、フライトプランが提出されない限り「実力で排除する」としていますが、何を勘違いしているのやら。それが出来るのは「領空」の方です。
防空識別圏は、「領空」に接近する航空機が敵対意思があるかないかを、文字どおり「識別」するためだけの空域にすぎません。
こういう初歩的国際ルールに対する無知があるのが、かの国なのだということを肝に命じておきましょう。まるで大きいなりをしたガキです(ため息)。
防空識別圏まで中国が軍事的に管理することを、「選択的アクセス拒否」と呼びますが、これは地域の海や空の通行を統制することです。
これは単に「航行の自由の権利」への挑戦だけではなく、海洋というコモン(common共有地)の自由への挑戦なのです。
米国がそれまでのG2(2大国)路線から、中国を包囲する外交路線にシフトしたのは、この自由社会の根本である「航海の自由」「コモンの自由」を中国が犯そうとしていると判断したからです。
これをいったん許せば、わが国は東シナ海上空の「航行自由の権利」を奪われ、尖閣諸島もやがて失う結果につながっていきます。
尖閣を失うことは、単に岩礁のような離れ小島を失うことではありません。その海域における中国の制海権を認めることと同義なのです。
その場合、海外からの日本へ向う海上物流ルートは、中国軍の意のままになり、いつでも中国がわが国の喉くびを締め上げて日干しにすることが可能になるかもしれません。
(図 中東からの海上交通路)
(図 尖閣諸島 Google Earth)
第3に、同時期に中国は尖閣海域・空域のみならず、南シナ海、西沙諸島の海域全体で、露骨な侵犯と基地建設、漁業管理の強化を行なって国際社会からの鼻つまみ者になっていました。
これは、排他的経済水域とその上空に関する国際ルールを、自国に有利なように一方的に変更しようとしている極めて危険な膨張政策で、今どきこんな露骨な19世紀的帝国主義のようなマネをする国は世界広しといえど、中国とロシアくらいなものです。
このように「その後」を見ると、この中国の海への膨張の最初の兆しが、この2010年9月の尖閣漁船衝突事件だったようにみえます。
中国が国際ルールに従う常識的な国家ならば、友好も宥和も結構です。大いに友好したらよろしい。
しかし、相手はアジアの覇権国を目指すと公言している中華帝国なのです。
南シナ海はオレ様のもの、東シナ海もオレ様のもの、尖閣はあたりまえ、沖縄もオレ様のものと堂々と言ってのける国なのです。
こんな相手に媚びてどうしますか。まさに相手を見てからやれ、です。
頂戴したコメントにかつてのヒトラーを増長させた1938年のズデーデン地方の侵攻に対するネビル・チェンバレンの宥和策を上げられていましたが、まさにそのとおりです。
あれがヒトラーに、西欧列強がドイツの侵略を認めたという合図になってしまい、後のポーランド侵攻から大戦へとつながっていきます。
大戦後、このチェンバレンの融和策は徹底的に批判を受けて、「膨張する軍事国家に対しては絶対に宥和してはならない。原則的に対応する」という国際ルールを作り出しました。
力による一方的な国境線の変更は、戦争を引き起こす最も直接的な脅威と認識され、したがって最も基本的な国際法上の禁止事項とされてきています。
ただし、チェンバレンの名誉のために付け加えれば、これで稼いだ時間を彼は軍備増強に当てていて、この猶予がなければバトル・オブ・ブリテンも敗北していたとさえ言われています。
あ、菅さんはただ中国というジャイアンを前にしたのび太くん状態になっただけでしたっけね、ゼンゼン違うや(爆)。
ところで、この尖閣漁船衝突事件にはもうひとつの事件の流れがありました。それについては次回に。
« 国際関係における「責任」と「説明」の関係とは | トップページ | 中国艦艇射撃照準レーダー照射事件は戦争一歩手前だった »
コメント
« 国際関係における「責任」と「説明」の関係とは | トップページ | 中国艦艇射撃照準レーダー照射事件は戦争一歩手前だった »
ナチスの手口には、領土拡張とその準備として各国に工作員を送り込むことも含まれますね。
チェンバレンの宥和策は、イギリスにとってはギリギリOKですが、超絶往復ビンタを喰らったフランスその他の国々には恨まれたでしょうね。
イギリスはイギリスの国益だけ考えれば良いのかも知れませんが、第二次世界大戦の勝者は米ソですからね。
次回は民主党代表選と「野戦司令官」小沢先生でしょうか? それとも中国側の権力闘争? 外れてもまた貴重な勉強をさせて戴きたいと思います。
投稿: プー | 2015年1月 6日 (火) 10時20分
ほっぺたをたたかれても反対のほっぺたを出す。
日本人は平和主義です。争いはしません。たとえ殺されても。
投稿: 日本人 | 2018年12月22日 (土) 03時52分