翁長知事の革命外交 「オレは約束は守らないが、お前は守れ」
菅官房長官(沖縄担当)が、翁長知事と面談するようです。
「翁長知事は、去年の名護市長選挙と沖縄県知事選挙、それに先の総選挙でも辺野古沖への移設に反対する候補が勝ったと指摘した上でこのように語り、菅官房長官との初めての会談の際に移設反対を、直接伝える考えを示しました。
また、全国のアメリカ軍施設の74%が沖縄県に集中していることについて「日本の安全保障は日本国民全体で考えてもらいたい」と語りました。
一方、菅官房長官は「移設に反対する人もいれば、普天間の危険除去について一日も早く解決してほしいという多くの民意もある。普天間基地の危険除去が辺野古移設の原点だから、粛々としっかり対応するのが政府の役割だと思っている」と語りました。(TBS4月2日)
おそらく大多数の沖縄県民がそう思っているように、なんの進展もないでしょう。
というのは、国としては知事選の結果に関わらず、既に政府と沖縄県の間で解決済みの事案だからです。
翁長氏は、「移設に反対する候補が勝ったからひッくり返すのだ」と言っていますが、これではまるでどこぞの国の「革命外交」です。
前知事の約束は、「革命政権」ができれば、簡単にちゃぶ台返しできるとでも?
そもそも、県には安全保障事案について許認可権はありません。あるのはただの公水面埋め立ての承認作業だけです。
日本は原発や基地関連などについて過度に当該自治体の意見を聞いてきたために、あたかも、当該自治体が建設についての許認可権のすべてを有しているかのような錯覚が定着してしまいました。
もちろん勘違いです。国は意見を聞いているだけで、建設そのものの許認可権を与えたわけではないのです。
もし仮に、これが守屋元次官と小川和久氏が推したシュアブ陸上案だったのなら、埋め立てが伴わないために、県がクチバシを入れる余地など、まったくなかったでしょう。
しかし、それでも国は県の意向を聞いて、迷惑料をだしたかもしれません。左の人たちはそう思わないでしょうが、国はかくも下手なのですよ。
沖縄県は、仲井真知事との合意による公水面埋め立て作業の承認と引き換えにして、振興予算2兆4000億円を8年間分として受けとることに合意しています。
さすがにこの思い切った積み増しに、民主党野田政権時代にはニコリともしなかった仲井真氏も、「有史以来だ」と驚いたといいます。
しかも「一括交付」ですから、何にどう使おうと沖縄県の自由自在です。
これを地元2紙は「金で海を売ったユダ」というすさまじいバッシングを始めて、共産、社民、社大は百条委員会まで作って、老齢て退院したばかりの仲井真氏をリンチにかけました。
その非道な様を思い出すと、今でも私は苦いものが口に湧いてきます。そんなことは、わずか半年前の出来事だったのです。
翁長氏の要求は2点です。
ひとつ、移設は中止しろ。
ふたつ、振興予算は減額するな。
「半年前前にもらう約束をした『迷惑料』2兆4000億円は約束どおり寄こせ。しかし、お前ら政府との約束は白紙撤回だ」、というわけです。
はいはい。何を言っているのか分かって言っていますね、翁長さん。こういうのを世間では横車を押すと呼ぶんですよ。
どちらかです。振興予算か白紙撤回か、二者択一です。どちらもくれなんて、子供じゃあるまいに。白紙撤回したいのなら、振興予算はどんどん減額されていきます。
こう言うと、沖縄2紙は必ず「札束で頬を叩くのか」と書きます。
しかし減額すると今度は、「元に戻せ」と叫びます。どっちでも怒り狂うのは一緒ですから、放っておくしかありません。
他の膨大にある補助措置や補助金はもまた、どんどん減っていきます。そして翁長さんが知事にいる限り、それは元に戻ることはあり得ません。
政府はもうあなたとはまともな協議ができないと、完全に見切ったでしょうから、次の知事は4年後に元に戻す交渉をするしかない、ことになります。まぁその頃には、大分できてしまっていますがね。
おそらく「勝てる勝負しかしない」翁長氏は、もう少し先まで話を引っ張って、水面下で妥協点を引き出したかったはずです。
しかし、今の翁長県政の官僚にはヒラメは沢山いても、パイプ役を担えるだけの人材がいません。
むしろ本土政府のほうが,前知事公室長で、仲井真氏の腹心だった又吉進氏を、外務省参与にして、パイプをつけてやっている始末です。
管氏は硬軟の使い分けができる人なので、夏の本格着工前になんらかの落とし所を、翁長氏に与える可能性は残ります。
しかし、ここまでこじれてしまっては、これもかなり困難な道で、このあまりに拙劣な翁長氏の先制攻撃は、彼にとっても禍根の種となりました。
今や「同志」となってしまった左翼陣営は、いつまでも海での当たり屋と、ゲート前の飛び込みだけでは闘争がキープ出来ないので、新たな可燃性材料を欲していました。
(写真 辺野古ゲート前で警官に暴行を加えて逮捕された仲宗根容疑者。抗議運動のリーダーのひとりだzた。常時ゲート前にいるのは、官公労と沖教祖の退職組の暇な皆さん。現地住民はひとりもいないどころか、本土からの活動家までいるのは本土でもようやく知られるようになった)
そこで、翁長氏は左の「同志」達を慰撫するために、コンクリートブロックの杭打ち承認拒否などという攻撃をしかけたわけですが、これがとんでもない悪手でした。
本来は矢継ぎ早に、二の矢三の矢を撃ち込まねば効果がないのに、一の矢があまりにお粗末だったために、これにて知事の組織的抵抗は終了、となってしまいかねない事態になりました。
翁長氏にとって、もはや公約の「移設阻止」は不可能です。あとは本土政府が与えた細々としたパイプだけを残しつつ、一方で口先だけの抵抗路線で左翼陣営を宥めるだけしか道は残されていません。
こういう状況を、ひとことで言えば自壊、ないしは自滅といいます。
会談ではもう特に話すこともなさそうですから、いっそ密室にして、お互い同時期に在学していた法政大学の昔話にでも花を咲かせたらいかがでしょうか(笑)。
いずれにせよ、革命外交はもう通用しませんよ。
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さて、昨日の記事の続きに戻りましょう。私は、「基地」という存在が、いかに沖縄経済と社会に根を張った存在かということを見てきました。
実は基地公害を受けるのは、周辺住民だけにすぎません。本島南部の那覇、豊見城などには基地がないために、空高く飛んでいる米軍機を見るていどです。
面積的に大きな基地があることになっている北部も、ジャングル戦の訓練場があるだけなので、静かなものです。
しかし、本土政府の迷惑料である振興予算は、満遍なく県全体に行き渡ります。
また今回の移設場所を提供した名護市には、北部振興予算という別枠が用意されていました。稲嶺市長がなぜか吹き飛ばしただけです。
つまり、沖縄県民と<基地>は相利共生関係なのです。
では、もう少し<基地>と沖縄県民との関係を探っていきましょう。
沖縄県民は、地元2紙が主張するように、イデオロギーを巡って生きているわけではありません。
たとえば、2006年の仲井真氏と糸数氏との知事選は、今回の知事選よりもっと分かりやすい米軍基地そのものを争点とした選挙でした。
糸数慶子氏は、知念ウシ氏の先輩のような女性で、ゴリゴリの沖縄民族主義者です。
国連人権委員会に「先住民族の自治権要求」を掲げて、日本政府を提訴しに行ったという強者です。
なんと先住民族ですぜ。中国の露骨な海洋膨張の時代に、「民族の自決権要求」ですって。
あなた方オキナワン・ヤンパンの下心は、見えていますよ、糸数さん。また黄龍旗ならぬ、五星紅旗を振って「宗主国」の胸元に「祖国復帰」したいんでしょう。
私が好きな紅型をこのように使わないでほしい。
(写真 2014年、先住民族世界会議に参加した糸数慶子参院議員。札に書いてあるIndigenous peoplesとは、当該国の主要構成民族から みて原住民と呼ばれることの多かった者で、当該国に編入する以前から住んでいた者の ことを指す。果たして、沖縄県人がそのような存在だったのだろうか?)
その選挙の集計結果と、米軍基地収入の自治体財政に占める割合、そして基地面積の相関関係を見てみましょう。このデータはなんどか記事にしていますが、実に興味深い。
当時、普天間の辺野古移設容認を掲げていた仲井真氏の得票率が、50%を超える市町村は以下です。
・国頭村・・・仲井真得票率70% 基地占有率23%
・伊江村・・・ 68% 35%
・金部町・・・ 65% 59%
・東村 ・・・ 3% 42%
・嘉手納町・・・ 57% 83%
・名護市・・・ 56% 11%
・恩納村・・・ 55% 29%
・沖縄市・・・ 54% 36%
・宜野湾市・・・ 52% 33%
以上の得票率を見ると、基地現状維持派が5割を超えるのは、いずれも基地のある北部から中部にかけての自治体だと分かります。
逆に、基地撤去を掲げた糸数候補が勝利した基地依存度が高い自治体はふたつ、北谷町(ちゃたん)と読谷(よみたん)村に限られています。
そのうち読谷村は、糸数候補の地元であり、北谷のあるキャンプ瑞慶覧は縮小が決定していました。
一方、糸数候補が勝利した自治体は、南部の住宅地である西原町、豊見城(とみぐすく)市、南風原(はえばる)市などです。
いずれの自治体にも基地はありません。豊見城市に典型なように県外移住者も含めて人口が激増しており、企業進出も盛んで、経済成長が著しい地域です。
この選挙結果から見えるのは、北部から中部にかけて、「基地経済」に強く依存している地域ほど、基地の現状維持を願っていることです。
翁長氏は「基地が最大の阻害要因」などと言っていますが、この人のような古狸からいわれるとなんだかなぁ、です。
これは単なる沖縄の顕教にすぎず、実態はそんな単純なものではありません。
見てきたように、「基地経済」とは、自治体への地代や、見返りとしての振興策など有形無形の基地に依存した経済のことですが、これに寄り掛かれば寄り掛かるほど自治体経済が安定するという結果になっています。
その意味で、北部から中部にかけての地域において、「基地は資産」であり、「経済か基地か」ではなく、「基地で経済を」が実情なのです。
実際に2009年の県内所得ランキング゙で、上位を占める自治体は以下です。
・第1位・・・嘉手納町(基地占有率82.5%)
・第2位・・・北谷町(同53%)
また、1996年から2009年までの県内所得の伸び率ランキング
・第1位・・・東村(基地占有率41%)
・第2位・・・嘉手納町(上に同じ)
ここで2回も嘉手納町が上位にくるのは、いうまでもなく嘉手納飛行場、弾薬庫、油貯蔵施設などが集中しているためです。
(写真 嘉手納基地周辺の売地情報のあれこれ。これをみると、基地が住民を食い物にしているのではなく住民が基地を食い物にしているのが分かる。ぜひこの軍用地売買サイトをご覧ください。基地の実態がかいま見られます。http://www.kamiya-pro.jp/2010-buken/10gt028/10gt028.html)
その結果、とうぜんのことながら住民所得は、基地に大きく依存しています。
・嘉手納町の米軍軍用地代 ・・・124億9200万円(年間)
・同町の町民分配所得 ・・・387、5億円(町民所得の約32%)
・同町の建築業就労率 ・・・12.5%(全国平均7.5% 県平均9.2%)
このように中部から北部にかけての自治体経済から、基地をがなくなってしまった場合、即たちゆかなくなるのは自明です。
一方、地域に基地がなく、基地公害と無縁な中部地域の南側及び南部地域は、沖縄の建て前どおり「反戦・反基地」という左翼陣営のスローガンを受け入れやすい風土があります。
沖縄を本土の人が見る場合必ず誤るのは、イデオロギー対立で見てしまうことです。「保守対革新」、「基地経済か基地撤去」かと二項対立の枠内で判断しがちです。
同じく゛沖縄で米軍基地が全国の74%を引き受けているというおなじみの数字も、それだけでは無意味な数字にすぎず、自治体レベルまでその数字を落とし込まないと何も見えてきません。
よく、本土のマスコミが那覇の国際通などで通行人に、「移設に賛成ですか、反対ですか」などと聞いていますが、まったく無意味な質問だとお分かりになったでしょうか。
基地のない地域では、沖縄県民は、沖縄のタテマエどおり「反戦平和」を言うに決まっているのですよ。(まぁだから、聞くんだろうけどね)
いっそ金平キャスターのように、沖タイ社屋から中継していただければ、非常に分かりやすくてけっこうですが。
ですから、経済発展を続ける南部とその周辺にとって基地は邪魔なだけであり、貧困と過疎から抜け出せないでいる中部・北部地域にとって基地経済は失うことのできない重要な経済手段、つまり「資産」なのです。
その意味で、普天間問題は沖縄における南北問題でもあるといってもいいでしょう。
そして、もうひとつ「基地が資産」だと考えている階層がいます。それが左翼陣営です。
これについては月曜に。結局また、長くなってごめんなさい(涙)。
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