福島事故 原子力安全・保安院の崩壊
私は反原発運動混迷の原因の一端は、菅直人という人物にあると感じています。
それは、何も菅氏が運動の旗手だからというわけではなく(おそらくその逆でしょう)、彼が流した「偽造された歴史」が、未だにまことしやかに彼らの世界では生きているようだからです。
それは事故原因は、すべて東電にあるとする、「東電悪玉説」です。これを流している発信源が、他ならぬ事故対処を誤った菅元首相その人だというのが、苦笑を誘います。
管氏は事故後になって、自らの保身のために反原発に乗り移ることで、責任転嫁を図ろうとしました。
その時に色々言い散らしますが、それが反原発運動の論拠になってしまったために、菅氏の事故対応までも擁護してしまう空気が発生してしまいました。
たとえば、去年起きた朝日新聞のスクープ、「所長命令に反して所員は逃げた」という歪曲報道がそうです。
管氏の弁明の核である、「オレが東電の撤退を止めた」という「偽造された歴史」は、訂正されるどころか、逆に強まって定説化しているのではないかとさえ思われます。
ところで、当時の海水注入停止命令事件を振り返っています。当時の状況はこのようなものでした。
①現地オフサイトセンターが壊滅したことで、原災法が想定していた現地対策本部が事実上消滅してしまった。
②現地対策本部に集中されるべき、原発災害情報が、中央にとどかない状況となった。
政府事故調の作成した下図を見れば、当時の情報伝達状況の崩壊ぶりか分かります。
「最高司令部」であった官邸には、東電本店経由の情報しか届いていなかったのです。(下図参照)
このような情報遮断された中で、あろうことか、最も冷静沈着でいるべき専門家集団が崩壊しました。
政府事故調報告書は、原子力・安全・保安院が災害対応の中心になるどころか、早々と機能停止してしまったことを強く批判しています。
要約すれば
①情報収集機能を適切に発揮できなかった。
②官邸に対して、原子力災害の実態の進展と必要な対策を与えられなかった。
③SPEEDI情報を得ながら、活用できなかった。
さて、2013年3月12日当日に何か起きたのか、見ていきましょう。
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(写真 斑目委員長を見る管氏のスゴイ眼に注目)
※以下、船橋洋一『メルトダウン カウントダウン』上巻・第4章「1号機水素爆発」によって再構成した。
海江田(経済産業相)東電本社に対して原子炉等規制法64条3項を根拠に海水注入を命じて、官邸に報告。(現場はすでに2時間前に開始していたが、伝わっていない)。
●[首相官邸]
午後6時。首相官邸執務室。海水注入をめぐる会議。出席者・菅、海江田、細野、斑目、平岡保安院次長、武黒フェロー(フェロー・副社長格・東電の連絡担当者)
海江田氏から、海水注入を聞いた管氏は激昂します。
菅「塩水だぞ。影響は考えたのか!」
管氏は、塩水を入れると再臨界すると思って、怒鳴っているのが分かります。これが彼が海水注入を停止させようとした唯一の理由です。
どこで仕入れたのか分からない耳学問が、(おそらくは彼がかつて関わっていた反原発運動で聞きかじったものでしょうが)、場所もあろうにこんな国家非常時に炸裂したわけです。
デタラメな知識にびっくりした東電の連絡官である平岡と武黒氏は、慌ててそれを諫めようとします。
平岡「(海水の注水によって)臨界の危険性が高まることはありません」
・武黒「臨界を作ることは芸術的に難しい芸当です。不純物だらけの海水を入れて、そんなの(再臨界のこと)できるはずがありません」
これに保安院次長も同意したために、孤立した格好になった菅氏は、斑目原子力安全委員会委員長に水を向けます。
斑目「(菅に促されて)保安院がそういうなら」
呆れたことに斑目氏は、自分の意見を明確にせずに日和見を決め込もうとします。
菅「自分の判断で言ってくれ。絶対にないんだな」
斑目「あるかもしれません」
菅「どっちなんだ」
斑目「ないと思いますが、ゼロではありません」
もう呆れてものが言えません。斑目氏はこの切羽詰まった状況で、まだ責任回避をしようとしているわけです。もはや科学者の名に値しない怯懦です。
それを聞いて、管氏は彼特有の猜疑心の強さで、自分の再臨界論が正しい、なんらかの理由で、こいつらはオレにリスクを教えないんだ、と勘違いしたようです。
そしてここにいた専門家グループで、最も御しやすい斑目氏に、必殺のパンチを浴びせかけます。
菅「お前、水素爆発もないといったじゃないか」
斑目「(泣きそうな声で)とにかく今水を入れなきゃいけないんです。海水で炉を水没させましょう」
泣きたいのはこっちです。これが、日本の原子力安全行政のトップにいる人間の台詞ですか。
これを聞いた管氏は、こう宣言します。
菅「もっと検討しろ!」「もっと詰めろ!」
このような台詞が、最高権力者の口から、この状況で出れば、それがどのような意味として周囲に理解されるのか、もはや説明の必要はないでしょう。
それを聞いた武黒氏がなにをしたのか、次回に続けます。
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