「基地反対」か「基地建設推進」ではわからない
翁長知事は、早くも打つ手なしといった状況です。こんな杜撰な戦いを挑めば、政府から一蹴されることは目に見えていました。
この人は知事に当選するためには、時間をかけた地盤固め、裏切り、仇敵へのすり寄りなど、「勝てる戦いしかしない」で有名な人でしたから、もっと手堅い戦いをしかけて来るかと思いました。
意外ですね。こんなていどの人だったんだぁ、というのが私の偽らざる実感です。
(写真 前々回知事選において仲井真選対本部長をしていた当時の翁長氏。当然、仲井真氏の次は翁長氏だったが、70をすぎてしまうために待ちきれずに、世紀の大裏切り大会をすることに)
一方政府は、仲井真前知事の側近を、振興予算に強い影響力がある沖縄振興開発金融公庫を理事に据えました。
「菅氏は1日の記者会見で又吉氏が米軍基地問題に長年かかわってきたことを挙げ、「豊富な経験、専門的な知識を有している。助言を受けるのに最適な人だ」と説明した。この日、政府系金融機関の沖縄振興開発金融公庫では、仲井真前県政で副知事を務めた川上好久氏(61)が理事に就任した」(毎日4月1日)
あきらかに対翁長シフトです。菅さんが翁長氏と4日会うようですか、これは沖縄県とも話し合いをしていますよ、というタテマエ作りです。
翁長氏もまた、タテマエどおりに「美しい海をなんじゃらかんじゃら」と棒読みするだけに終わるでしょうね。
政治と財政の両面から締めつけられて、これで翁長氏は投了寸前となりました。こんな調子だと、翁長氏にとって長~いレームダック時代が始まることになります。
さて私は、沖縄を「矛盾の島」だと思っています。沖縄は猥雑で明るく、しぶとく矛盾の海を泳いでいます
翁長氏は「オール沖縄」という、オール阪神・巨人みたいなネーミングを自分の陣営につけていますが、そんなものは選挙用キャッチフレーズにすぎません。
だいたいひとつの利害で括れる「沖縄県民」など、どこにもないのです。
基地は色々な意味でその地域の「資産」です。文字どおりの「資産」は、軍用地主階層です。
多くの軍用地は私有地で、年間約900億円もの地代が支払われています。
この軍用地が、有利な投資物件として売買の対象にすらなっているのは、最近は本土でも知られてきました。
普天間移設問題で、移設反対派には普天間の軍用地主会も加わっており、ある意味もっとも頑強な反対派だとすら言われています。
軍用地主以外にも、基地雇用者は約9千人もいて、基地関連まで拡げるとその倍に登るでしょう。
これらの人の多くは、「基地利権を辺野古に持っていかれてたまるもんか」と思っているはずです。
まぁブッチャケ、跡地がどれだけで売れるか、手堅い軍用地代とどっちが得か、天秤にかけている地主も多いかもしれません。
沖縄において、基地の移設というのはそれほどまでに大きな利害関係のシフトを伴うものなので、これを「海を守れ」「基地のない平和の島を」みたいなキレイな包装紙だけでは理解できなくなります。
知念ウシ氏だけで、沖縄を判断すると誤りますよ、朝日さん。
よくある沖縄文化人の言い草に、「基地をチビチビ返すから問題がでるのだ。まとめて返せば矛盾がなくなる」という主張があります。
これは一見、正論。しかし実はとんでもない暴論です。
基地を「まとめて一括返還」された場合、中部、北部の自治体は一気に困窮することになります。
(写真 普天間基地を囲む宜野湾風景。いかに基地が都市化を阻害しているのかわかる)
そういえば、普天間基地がある宜野湾前市長・伊波洋一氏は、琉大生の頃からのゴリゴリの左翼活動家だったためもありますが、都市化が進んだ自治体らしい、こういう認識を示していました。
「もはや沖縄経済は基地依存ではない。基地は沖縄の発展を妨げている。即時基地撤去すべきだ」
これもよくある沖縄の大学の先生などにある言説です。後から見ますが、中部、北部の自治体首長でここまではっきりと言い切れる人は少ないはずです。
反戦・反基地というイデオロギッシュな言い分はさておいて、この人は典型的な南部の人の感覚でものを言っています。
北部の首長なら、こんな歯切れのいい言い方はできません。
(写真 海保に自制を求めるトンデモ要請をする稲嶺名護市長。自制を求める方向がちがうだろう)
いや、稲嶺名護市長がいるだろうって。
稲嶺市長は確かに当選しましたが、反対派が「これこそが人民の民意であるぞよ」と言えるほど磐石な勝利ではありませんでした。
名護市の沖縄統一市町村選挙の結果を見てみましょう。
・稲嶺市長支持派(移設反対派)・・・14票
・稲嶺市長反対派(移設容認派)・・・11票
・公明党 ・・・2票
ご覧のように、公明党が与党を裏切って稲嶺陣営につかなければ、1票差にまで迫ります。
さらに当時那覇市長だった翁長氏が自民党陣営を切り崩さなければ、まったくどちらにころんだかわからない結果でした。
反対派が黄門様の印籠のように叫ぶ、「現地の民意」などというのは、まぁこの程度のものなのですよ。
翁長氏と知事を争った民主党政権で閣僚だった下地幹郎氏は、地元で有名な大米建設の副社長でした。
大米建設は、下地氏の父親が創設したもので、沖縄の多くの建設業と同じく、基地建設で成長しました。下地氏の兄は沖縄県建設業協会会長をしています。
下地氏は普天間移設問題では、一貫して嘉手納統合案を主張しており、この案には当時民主党県連会長の喜納昌吉氏も賛成しています。
喜納氏は、昌吉といったほうが通りがいいほど有名なミュージシャンですが、もうひとつの顔は、嘉手納基地の城下町・旧コザ市(現沖縄市)出身だということです。
県知事の仲井真氏は、沖縄電力会長出身で、沖縄経済団体会議の会長と防衛協会会長を兼任していました。
この沖縄県経済団体会議の会長は、防衛協会会長も兼任することが多く、先代の国場幸一氏は県内最大手の建設会社国場組の社長でした。
(写真 翁長知事誕生の瞬間の呉屋選対本部長・金秀会長。「沖縄県民の尊厳を回復した」。基地で太った土建業屋の親父がよく言うよと思う)
そして、翁長陣営の選対部長にしてパトロンについたのは、金秀という反国場勢力筆頭の土建業とスーパーチェーンの呉屋氏でした。
金秀は、辺野古の立体駐車場の建築にも参加していましたが、身内の反対派の阻止行動で工事ができずに撤退。しかし、しっかりと違約金は税金からもらっています。
脱線しますが、反対派の皆さんの阻止行動は、結局、税金で穴埋めしているんですからね、そこのところを分かってからやってね。ま、ムリか(苦笑)。
このように見ると、沖縄現地での普天間問題のキイパーソンである、与党幹事長の下地氏、県知事の仲井真氏、そして当時与党の県連会長の喜納氏という3名が惑星直列よろしく揃って米軍基地に強い利害関係を持っている人たちだと分かります。
さて、よく本土のマスコミが勘違いしている「保守対革新」か、あるいは、「基地撤去か経済発展か」、という構図がだんだん怪しくなってきましたね。
あまり長いので、ここで一回切ることにしました。携帯で読む方は大変ですもんね。
続きは明日に増補して掲載します。
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コメント
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ラジオを聴いていたら、不動産会社のCMで
「祖先から受け継いだ大切な軍用地を手放す前に、私達にご相談ください。」って。笑
投稿: 名護市民 | 2015年4月 3日 (金) 16時28分
沖縄基地問題について知りたいと思いこのブログにたどり着きました。とても解りやすい解説だと思います。
私は北海道に住んでいます。沖縄同様防人の地であり、基地負担は地勢上当然であると考えておりますが、ロシアによる脅威より覇権主義中国の脅威が増している今、なぜこの様な政府に対する揺さぶりをかけなければならないのか本当の意図対立の形態を知りたいのです。
「重い基地負担」と言うが何が負担なのか誰が負担なのか具体的に見えません。利害関係のぶつかり合いを前々回の知事選のように沖縄南北問題と捉え教えていただけとても勉強になりました。
投稿: 禿野旋毛 | 2015年4月10日 (金) 05時34分